月夜の契り*1*

月夜の契り*プロローグ*のつづきです。
お待ちの方いらっしゃるか不明ですが、自己満を満たすためアップ!

お楽しみいただけたら幸いです。

*****


月夜の契り*1*


「こら!廊下を走るな!!」

「「はぁーい」」

「きゃー!注意されちゃった。」

「ふふ。今日はいいことあるかもね?」

「ったく…」

嬉しそうに早足で歩き去る女生徒を見送って注意した教師が深いため息を吐く。

「ははは。注意して喜ばれるなんてお前くらいだよ。羨ましいね〜蓮。」

「社さん…」

「で?昨夜はちゃんと飯食えたのか?」

「えぇ。お陰様で。もう授業中に倒れたりしませんから安心してください。」

二人は仲良く並び歩いて互いに軽口を交わす。
蓮と呼ばれたこの男、敦賀蓮はこの学校の教師で3年2組の担任で受け持ち教科は化学。
同時に学年主任も任されている。
社と呼ばれた教師も充分美形なのだが、それ以上に蓮は芸能人でも太刀打ち出来ないほどの美形で、校内にファンクラブが存在するくらいだ。
卒業した生徒達も蓮会いたさに何度も学校まで顔を出しに来るほどだった。

そしてこの二人が親しげなのは高校時代から付き合いがあり、大学も同じだったので先輩後輩の仲だからだ。
社は蓮の3学年上の先輩だったから、よく飲みにも連れていってもらっていた。

「あ、最上!」

廊下ですれ違おうとした生徒に蓮は慌てて声をかけた。

一人ボンヤリと窓の外を眺めていた最上と呼ばれた少女が振り返る。

彼女の名前は最上キョーコ。
春から蓮の受け持つクラスの生徒となったこの進学校で学校一の才女だ。
綺麗な黒髪は肩で揃っていて、旅館育ちということもあって、他の少女達と比べて所作も美しく、姿勢良く背筋もピンと伸びていて、他にはない独特の空気を背負っている。

大きな目をキョトンとさせて振り返ったキョーコに、蓮の心臓がトクンと密かに跳ねる。

「先生…どうかされましたか?」

「あぁ、今日お前が提出した進路希望について話がある。放課後、生徒指導室な。」

「…はい。わかりました。」

キョーコは蓮に返事を返すと、窓から離れ、教室へ向かって歩き出した。
その背中を蓮は暫し魅入っていた。
そしていつまでも見つめていそうな己に気付いて慌ててその視線を引き剥がした。
すぐ隣ではニヤニヤと遊びモードの顔をした社が立っていて、蓮は無表情を瞬時に作り出すと、足早に歩き出した。

「むふふ。れ〜ん〜、いい子だよな〜。最上さん。」

「えぇ、皆のお手本になるような良い生徒です。」

「後で進路指導室、ねぇ〜…?」

ニヤニヤと面白そうにからかう社は、ここのところキョーコが絡むとしつこいくらいにいじくって来る。

「社さん、相手は生徒ですよ?何でそんなにニヤニヤしてるんですか!」

「いやいや、生徒と先生なんて…禁断っぽいだろ?学校一の色男のお前と才女の恋。くーっ!堪らないね!」

「ちょっと…やめて下さいよ。そんなつもり有りませんからっ!」

「いーや、お前は絶対気がある!あんな風にぼうっと見惚れるお前を見るのは最上さんが目の前にいる時だけだ。」

「馬鹿なこと言ってないで行きますよ。」

蓮は昼休み明けの最初の授業を受け持つ為、準備室で白衣に袖を通し化学室の扉を開けた。
ざわざわとしていた生徒達は蓮が入ってきたことでピタッと静まり、慌てて席に着く。蓮は挨拶をしていつも通り出欠を取り授業を始めたのだった。


放課後、流行る気持ちを抑えて進路指導室へと向かう。
キョーコはすでに来ていて、椅子に座って待っていた。
蓮が来たことで慌てて立ち上がる。

「悪い。遅くなった。」

「いえ…。」

先ほど社に言われた教師と生徒なんて禁断っぽいという言葉を思い出して、蓮は何故か2人っきりの室内にドギマギしてしまう。

扉を閉めるか迷ったが、進路指導室というデリケートな内容を話すのに、中途半端に開いて他人に聞かれてしまうのも良くないと結論付てしっかりと閉める。
キョーコに椅子に掛けるように促して、自分も腰を下ろした。
小さな椅子は蓮の長い足にはかなり窮屈ではあるが、そんなことで文句も言ってられない。

「それで、これはどういうつもりなんだ?」

蓮はキョーコの提出した進路希望表を出してトントンと指で示した。

「高校生にもなって、進路希望が『お嫁さん』だなんて…。何を考えてる?」

「…正直な気持ちを書いただけです。」

「最上の頭なら有名な大学だって推薦で行ける。日本だけじゃない。海外の大学でだって通用するだろう。何でも好きな勉強が出来る。何かあるだろう?なりたいものとか…。」

「特に行きたい大学もないですし、勉強して極めたいと思うこともありません。唯一のなりたいものがお嫁さんなんです!」

「はぁ…最上、お前…。大体お嫁さんって一体誰の…」

キョーコは俯いてしまった。
もしかして、もしかしてだが、自分の気を引きたくてこんな希望表を出したなんてことはないだろうか…?なんてふとありもしないであろうことが頭に浮かんだ。

しかし、蓮の頭はもしそうだったら?と勝手に思考を始め、蓮はゴクリと生唾を飲んだ。

ーーーそしたら、、どうする…?いや、俺は教師で、最上は生徒で…最上ほど真面目な生徒がそんなこと…。

グルグルと頭の中で考えを巡らせていると、キョーコは何かをぽつりと呟いた。
だけど完全に音にならなかったその声は蓮にも聞き取れなかった。

「最上…?」

キョーコはハッとして唇を噛み締めると小さい声で答えた。

「私は、、、ショーちゃん…のお嫁さんになるんだもん。」

どこか自分へ言い聞かせるようにキョーコが言葉にする。
蓮は呆然と目を見開いた。

「ショー…ちゃん?」

寝耳に水だ。いや、そう言えば昔キョーコと出会った頃にそんな話をしていたような気がする。
蓮はキョーコには黙っていたが、キョーコが6歳くらいの時に何度か一緒に遊んだことがあるのだ。

今はショーちゃんの影はキョーコの側に見えなくてその存在すら忘れてしまっていた。

「お世話になってる旅館の跡取り息子です。高校卒業したらショーちゃんと結婚して女将になる約束なんです。」

ーーーショーちゃん…のお嫁さんになるのが…夢…?

蓮はショックだった。
ショックのあまり、思考が固まる。

「…い、先生?先生!!」

ハッとして顔を上げると、キョーコが心配そうに覗き込んでいて、その顔の近さにどくりと心臓が跳ねる。

「え…あ…。そう…か…」

「はい。」

「そのショーちゃんっていうのは、どこの高校に…?」

キョーコは諦めたように小さくため息を吐いた。

「ショーちゃんは…中学卒業と同時にミュージシャンになるって言って家を飛び出して…今東京に行ってます。」

「そう…なんだ。」

「私にはショーちゃんのお嫁さんになるって道しか残されてないのに…ショーちゃんは自由奔放で…まぁ私がショーちゃんと籍だけ入れて女将を継げば女将さんは満足みたいですけど…」

蓮はそれを聞いてふと気付いたことがあった。

「それならお嫁さんじゃなくて松乃園の女将って書けば良かったんじゃないか…?」

蓮の言葉に、キョーコは辛そうにギュッとスカートの裾を握り締めた。
唇を噛むその姿に蓮は何かキョーコが隠していることを悟った。

「最上…?」

キョーコは迷ったような素振りを見せたのち、深呼吸して言葉を探すようにポツリと声を零した。

「自分の…」

「うん…。」

蓮はキョーコが話しやすいように相槌を打つ。
迷っていることや悩んでることがあるなら溜め込まず吐き出して欲しい。
そして何か力になれることがなるなら全力を尽くす。そう心に誓って辛抱強く耳を傾ける。

「自分の、気持ちが…わからなくて…」

「気持ち…?」

コクリとキョーコは頷き、また言葉を噤んでしまった。

「話して。どんな気持ち…?」

「ショー…ちゃんが、好きだったはずなのに…。」

「……うん…。」

「とても気になる人が…いるんです。」

頬を染めて恥ずかしそうに言うキョーコのその恋する乙女の姿に、蓮は驚いて目を見開いた。

「え…」

心が冷えて行く。夜が近づいているからか喉がカラカラに渇いて来た。
心の中に黒い渦が湧き上がる。
キョーコにこんな表情をさせる誰かに嫉妬で狂いそうになる。

「誰…?」

自分でも驚くほど低い声で問いかけていた。

「…わかりません。」

キョーコは少し間をおいて寂しそうに首を振った。

「でも、私の相手はショーちゃんって決まっているから…」

キョーコの言葉に蓮はハッとした。
辛そうなでもどこか諦めたようなキョーコの顔。
胸が張り裂けそうなこの想いを、もしかしたらキョーコも内に秘めているのかもしれないと思うとそれが苦しくてたまらない。

「女将さんからも期待されちゃって…帰ったら毎日のように女将修行です。」

平気な振りして笑っている彼女が痛々しい。
そう言えば最近、ぼうっと外を見ている姿を良く見かけた気がする。
それはその人を想っていたのかもしれない。だとするとーーー。

「最上、もしかしてその…この“お嫁さん”って言うのは…」

キョーコはふっと顔を陰らせて寂しそうに笑った。

「…内緒ですよ?」

それがキョーコの答えだった。
キョーコは話は終わりとばかりに明るい声を出して立ち上がった。

「さぁ!先生、そろそろ私、帰らないと。今日はお茶の稽古の日なの…。」

鞄を掴み、肩にかけた。

「先生、さようなら。お時間割いてくださってありがとうございました!」

「最上っ!」

立ち去りかけたキョーコの腕を蓮は慌てて取った。
キョーコは驚いて蓮を見た。

「先生…?」

不思議そうに見上げてくるキョーコに気付けば蓮は唇を重ねていた。

「っ!?!?」

驚いたキョーコは机にぶつかりガタガタと音を立てた。
ギュッと目を瞑ったキョーコが渾身の力で蓮を突き飛ばした。

キョーコは唇を手で覆って震えながら涙を溜めた潤んだ目で蓮を見つめた。
恥ずかしさと驚きからか頬は真っ赤に染まり、つい蓮はそれに見惚れてしまった。

ふるふると震えるその姿にハッとして謝罪の言葉を蓮が口にしようとした瞬間、キョーコはその場を逃げるように走り去った。

残された蓮はその場で己のやらかしてしまった失態に気付いて、暫く頭を抱えていたのだった。



「蓮?!何してんだ!こんなところで…!もうすぐ月の光が強まるぞ!」

「社…さん…?もう、そんな時間ですか?」

「そんな時間だよ!早く帰れ!まだ女子高生達が外の蓮の車の前にうようよいるぞ!お前の荷物は後で持って帰ってやるから!」

「すみません。社さん、お願いします。」

蓮は慌てて進路指導室を後にした。
腕に嵌めている時計を確認する。

「マズイな…」

表向きは普通の時計だが、能力を使えば月の力が強まり本来の姿に戻る時間までの残り時間が確認できる特殊な時計なのだ。

「あと8分…」

ーーーマズイ。八重歯が少し伸びて来てる!

車の前に沢山の女生徒達。

「あー!蓮先生!!」

「先生ー!」

姿を見せれば一斉に取り囲まれた。

「ねえねえこれからカラオケ行かない?」

「カラオケ?ダメだろう。寄り道せずに真っ直ぐお家に帰りなさい。」

「えー!先生いっつもそれ!」

「当たり前だろう?制服姿で夜ウロウロするんじゃない。」

「じゃあ送って!!先生の車に乗せてー!」

「ダメだ。そして悪い。ちょっとこのあと急ぎの用があるんだ。」

「えー!!先生彼女とデート?!」

「ええー!先生やっぱり彼女がいるの?!」

ーーーマズイ本当に力が満ち溢れてくる。

「違うよ。大学の仲間と飲みに行くんだ。」

「先生ー!飲みに行くのに運転したらダメだよー!」

ーーーうん。最もだな。確かにそれはそうだ。ってそうじゃなくて本当にマズイ…なんで今日に限ってこんなにしつこいんだ!

「じゃ、そう言うことだから…」

強引に車に乗り込み慌ててエンジンをかけ、アクセルを踏み込む。

ーーー血ガ…血ガ欲シイ…

蓮の中でザワザワと暗い闇を抱えた渇望が頭をもたげた。
校門を出て車を真っ直ぐ自分の住む家に向けて走らせる。

ーーー足リナイ…。足リナイ…欲シイ…アノ娘ノ…アノ娘ノ、血ガ…!

蓮の喉がカラカラに乾く。
ガクガクと身体が震え始め、蓮は堪らず脇道に寄せて車を止めた。

目の前がグルグルと回り始める。
蓮は車のハンドルに両手でもたれかかった。
閉じた視界の中、次々と目まぐるしく勝手に変わる景色は、アノ娘…つまり最上キョーコが居る場所を探すように高速で動く。
景色が次々と飛ぶように過ぎていく。

そして、蓮がハッとして顔を上げた時、その姿は今までの黒髪黒目の蓮とは全く容姿が変わっていた。
八重歯が伸び、流れるような輝く金髪、見開かれた目は、深い碧色の中に様々な色をのせた不思議な煌きを発していた。
ハッ…ハッ…ハッ…と短い息をして酷い胸騒ぎを落ち着かせる。

「キョーコ…!」

蓮の額には汗が浮き上がり、その顔色は真っ青だった。
最後に流れ込んできた映像。
それが今起こってるとしたら…!
慌てて方角を確認する。

クンと鼻を鳴らして、キョーコのいる方角に身体の向きを定めると、蓮…否、ヴァンパイア一族のクオンは、能力を完全に開放し、迷いなく地面を踏み込みジャンプした。


満月が照らすあかりの元、こうしてクオンは車をこの場に残して月を求めるように飛び去ったのだった。

(続く)


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*****

お久しぶりです。風月です。

おやおや、キョーコちゃんの身に一体何が?!なんて思いながら、思いつくままに書いております。
10月になったから、ずっと描きたかったヴァンパイアの続きに手をつけてみました♪
楽しみにして下さってた方も多いのに、ずっと放置しててごめんなさい!

この続きは、どうなるかはまだ未定で風月にもわかりませぬ。

どこまで続けられるかはわかりませんがぼちぼち楽しみながら書いていく予定です。
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蓮先生ドキドキしてたのに。

告白してもらえなくて残念でしたね。しかし、絶賛ラブラブ恋愛中が故のお嫁さん希望でなくてよかったです。
そして、思わずのキスに、ガッツポーズな魔人です。(( ̄ー+( ̄ー+( ̄ー+( ̄ー+ ̄)ー+ ̄)ー+ ̄)ー+ ̄)ニヤニヤニヤニヤリ
ショーちゃんのことを「好きなはず」なキョコさんの相手が誰なのか、聞けると良いですね。

しかし、松乃園との関係は、本当に複雑ですよね。原作でもキョコさんが東京に行っていなければ、こうなってたのかも?
松乃園のご夫婦からすれば、自分たちで育てた親戚より近い、娘のような存在であり、自分たちが指導した出来の良い愛弟子で、ある意味理想の娘、嫁なんですよね。
もしも、ショータローがキョーコを認め、罵倒せずなどもせずにそこそこ仲良しの兄弟のような関係で、彼のことをキョコさんが好きであれば、手放したくない存在でしょう。だって、ミュージシャンとして派手に暮らす息子が付き合うであろう派手な娘の誰かに大事な大事な松乃園の中心ともいえる女将業を任せるなんてとんでもないですものね。

地元に残った恩と情でがんじがらめのキョコさんを蓮先生は救えるのか。続きも楽しみにしてます。

Re: 蓮先生ドキドキしてたのに。

まじーん様

本当、蓮様残念だったでしょうね。しかも、ショーちゃんのみならず、キョーコの心を奪う男の存在があるとは気が気ではないでしょう。
焦りのあまり、テンパってキスしてしまった蓮様♪
キョーコちゃんからは突き飛ばされちゃいましたが、まぁ当然ですね!

地元に残ってたらきっとこんな感じですよね!
しかももっと悪いことにあのまま残っていたら健気に帰りを待っていそうでそれはそれで可哀想…。
ショーちゃんがキョーコちゃんを素直に大切に思っていたら、きっとキョーコちゃんは蓮様と会うことなく幸せになっていたのかもしれませんが、やっぱりそこは蓮キョスキーとしては許せず、譲れぬところ。
淡い恋心が生まれていても、恩と情があるためきっと思い切った行動が取れないであろうキョーコちゃんは、もう攫うしかないのかもしれませんね(不穏な発言)。
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