身代わりだとわかっていても

身代わりだとわかっていても


「俺は敦賀君みたいに強くないから。」

ーーーそう言う人もいるけれど、私は本当のこの人を知ってる。
本当のこの人は、とても弱くて、繊細で、臆病な人だ。
縋り付くように求められる身体、なにもかも奪うような口付け。
逃げたりしないように、自分の存在をいもしない男に示すような真っ赤な独占欲のシルシ。

この人には私がいないとダメなんだとそう思わせる何かがあり、放って置けなくなる。

ーーーそう、たとえ私が誰かの身代わりなのだとしても…。


初めて関係を持った日、あの日は彼が珍しく酷く酔っていた。
大御所と何故か飲み比べをすることになってしまったらしい酔った彼を介抱し、肩に腕を担ぎながらマンションに入った。
グッタリと重い足を引きづりながら、体重を預けてくる彼に密かにドギマギしつつ、彼の部屋に向かうエレベーターに乗る。
この時は、彼のマネージャーの社さんも一緒だったが、彼は夢見心地でぼんやりと私を見つめると、二ヘラと笑い「凄く可愛い…キョーコちゃんがいっーーーぱい…」と言って、体重を全て預けられたかと思えば突然口付けられた。
真っ赤になった私と、驚いた社さん。社さんが慌てて私から彼を引き離そうとするが、構わずにものすごい力で抱き締められて、離してくれなくなった。
顔中にキスの雨を降らさせて、そのままいつの間にかエレベーターから玄関に運ばれ、玄関をくぐったところで冷たい廊下の床に押し倒さていた。
首に顎に無我夢中でキスをされ、悪戯な手が服の中に忍び込んで来て、社さんが大慌てで止めに入る。

「ぁ…や…」

「お、おい、蓮…落ち着け!!キョーコちゃん困ってるだろ!!」

社さんの声も耳に入らなくなっている彼に服をはだけられ、アルコールで熱くなった舌が、無我夢中で口の中を這い回る。

「ん…つ、がさ…きゃあ!」

あっという間に外されたブラのホック。
そのブラの形を辿るように彼の掌が胸を鷲掴んだ。

真っ赤になった私は、彼に触られてることよりも社さんに見られていることの方が気になった。

「キョーコちゃん、本当にごめん…こいつ酔ってて…おい!!コラ!!蓮!!」

だけど、社さんから頭を叩かれ顔を上げた敦賀さんは今にも泣き出しそうな捨てられた子犬のような目をして、私を見つめた。
その瞬間、私の心臓は甘く切なくキューンと締め付けられ、ドキドキと騒ぎ始めた。
これを逃したらもう二度とこんな機会は訪れないのではないかとズルイ考えが頭をよぎり、私は気がつけば、敦賀さんの頭を胸にしっかり抱きしめていた。

「え…キョーコちゃん?!」

「や、社さん…もう大丈夫です。敦賀さんには今夜は私が責任持ってついてますので…」

敦賀さんが私の素肌に手を這わせてギュウギュウに抱きついてきて息苦しいが、驚く社さんに早く帰って頂くため、何とか言葉を絞り出す。
これ以上は他人に見られたくなかった。

「いや、でも…」

「お願いします。敦賀さんとこのまま、ふ、二人に…していただけませんか?」

社さんは驚いて目を見開いた後、悲しそうな顔をして静かに首を振った。

「悪いけど、キョーコちゃんがそれで良くても、蓮のマネージメントをしている立場で言わせてもらうとそれは出来ない。酔って女の子に襲いかかるなんてスキャンダルを蓮に起こさせるわけには…」

「イヤ!!お願いします!私、誰にも言いません!!言いませんから…秘密にしますから、お願いです、社さん…!」

「…キョーコちゃん。流石にそれは…」

「お願いします。見ないで…今日のことは見なかったことにしてください。私は敦賀さんが相手なら…構いません。ちゃんとこの夜のこと忘れられますから。誰にも言いません。だから…今は敦賀さんと、二人きりに…」

たくし上げられた服は乱れに乱れていた。暴かれた胸に吸い付いた愛しい人の頭を大切に抱きしめて目を閉じて懇願する。

「このまま二人に…」

その後、社さんがどうやって居なくなったのかはわからないが、いつの間にか姿はなくなっていた。

「敦賀さん…こんなところじゃ恥ずかしいです…」

私の願いを聞き入れるかのように、吸い付いていた胸から顔を上げた敦賀さんに抱えられて、寝室のキングサイズのベッドの上に運ばれ押し倒された。

ベッドの上で服を脱いだ敦賀さんが私の体からも服を抜き取る。
互いに生まれたままの姿になって抱き合い、心臓が壊れそうなくらい暴れ出した時、敦賀さんは事切れたようにわたしの体の上に崩れ落ちて眠りについた。

翌朝、目が覚めて裸で抱き合ってベッドの中にいた私に心底驚いて動揺した敦賀さんは、記憶がなかったようでひたすらに謝られた。
起きる前に抜け出そうと何度もトライしたが、ガッチリと抱き締められた腕は解けず結局朝になって裸をしっかり敦賀さんから見られてしまったのだ。

只管謝られている途中でマネージャーである社さんからの電話が鳴った。
戸惑う彼に出てもらい、その間に黙って身支度を整え、彼の目を盗んで忍び足で部屋を出た。


その後の彼からの夥しい着信やメールの嵐。
だけどメールは開かず、留守電も聞かなかった。
夜のことを一切覚えていないらしい彼は私と関係を持ってしまったと勘違いしている。
恐らく、社さんもそう思っているだろう。
だけど実際には裸で抱き合って眠っただけでそれ以上でもそれ以下でもない。
彼にあの夜のことを訂正するのも説明するのも憚られた。

「したのはキスぐらいで、何もなかったんですよ。」その一言を口にするのは簡単なのだろうが、どうしても悔しくて出来なかった。
やはり彼にとって、酔っていても思いとどまってしまうほど地味で色気のない女だと思われたのかもしれないと思うと、心が悲鳴をあげてしまいそうなほど悲しかった。

彼を避けるようになって10日ほど経った日に、久しぶりに酷く落ち込んでる彼を見つけた。
ちょうど気まぐれの収録を終えたばかりで、坊の着ぐるみを抱えていたので、久しぶりの彼に声をかけた。

「よぉ。また酷い顔してるな。今日はどうしたんだい?」

そうしてここ最近、好きな子に避けられて落ち込んでいるのだと知った。
顔も知らないその子に嫉妬さえ覚える。
詳しくは教えてもらえなかったが、彼に好きな人がいたことを思い出して、酷く切なくなった。

久しぶりに事務所で社さんと会った。
酷く気まずくて、交わした言葉は二言三言。
でもその中で、敦賀さんが最近仕事が終わると家で深酒をしていることを知った。

私は松島さんから敦賀さんのスケジュールを聞き出していたので、今日の上がりが早くなることを知っていて、23時過ぎに自宅を訪ねた。
すでに出来上がっている敦賀さんは私を誰か別の“キョーコちゃん”と勘違いしたらしい。
驚いた顔の後に、にへらと嬉しそうに笑って「キョーコちゃん。」と言いながら、アルコール臭漂う体で抱きついて来た。
きっとその好きな子と自分を重ねてるんだろうと思った。
だけど、それでも良かった。

前回敦賀さんから相手にされなかった私は、リベンジのつもりで来たのだ。
勘違いされてるなら好都合。

私は彼の首に手を回して、じっと目をみつめ精一杯キスをねだった。
想いが叶って重なった唇はアルコールの味がした。
再びベッドで縺れ合うように絡まって素肌を合わせる。
身体中にキスをされて恥ずかしいところにも舌を使って慰められた。
キスをしながら入り込もうとする彼の一部は酔っているためか中々上手く入らず、受け入れることが出来なかったが、またもや彼に抱き締められたまま眠る羽目になってしまった。

そうして迎えた翌朝に、彼は豹変した。
目が覚めた時に再び腕の中に戻って来ていた私に驚きながらも、爽やかな朝に相応しくない夜の帝王が降臨したのだ。
逃がさないとばかりに抱き締められキスをされ、記憶のない夜を埋めるかのようにとうとう全てを捧げることになった。
それはもう酔っ払っている時とは違い、想像以上に熱く激しく、もうやめてと暴れても、意地悪な彼は、連絡を返さなかった罰だと称して何度も何度もしつこいくらいに行為を繰り返した。

そうして持ってしまった捻れた秘密の関係。
事務所やテレビ局では前と変わらない先輩後輩。
だけど夜は、ただの男と女。
アルコールに溺れた彼とお約束のようにベッドに縺れ込む。

何度かそんな夜を繰り返して、覗いてしまった彼の心の闇。
焦がれる想いに蓋をして切ない恋心をぶつけてくるような激しい夜。
片想いをしてる彼女への想いを私の体にぶつけているのだろう。
囁かれる愛の言葉も、手のひらの温もりも、本当はその彼女へ向けられるべきものだとわかっていながらも、溢れ出す彼への想いが気付かないふりをする。
ずるい女だと自分で自分を罵りながら、それでも拒絶されないのを理由にして何度も足繁く通ってしまうのだ。

だけど、自然と出来た暗黙のルールもあった。
彼がシラフの時には絶対に行かない。飲んだ夜だけの関係なのだ。

助けを求め、縋り付いてくるような潤んだ目で見つめられるたび、心が痛む。

「お願い。俺を置いていかないで…」

そんな風にいいながら私に縋り付くのは酔ってるせい。

「愛してる。他の誰よりもずっとずっと…他のやつの所になんて行くのは許さない。」

こんな風に駄々を捏ねるのも酔ってるせい。

「ねぇ、どうやったら君の心がちゃんと手に入るの?どうしたら俺とずっと一緒にいてくれる?」

こんな捨てられた子犬みたいな顔をするのも全部全部酔ってるせい。

「ねぇ、キョーコちゃんの中を俺でいっぱいにしたいよ。」

「はぅ…ん…」

「心がダメなら、体だけでも全部、俺でいっぱいに…くッ…」

彼から滴る汗の一滴にさえも敏感になった身体は彼をキツく締め付ける。

「く…ぁ、あぁぁぁぁぁ…」

「やぁぁぁぁぁんッ」

初めて熱いものが一気に内側に直接注ぎ込まれて、彼の身体が崩れ落ちて来た。

「ごめ…」

「ん…はぁ、はぁ…」

胸が熱くなった。彼に注がれた熱が愛おしい。なにも謝る必要はないのだと、黙って彼の頭を抱きしめた。




「御懐妊です。」

「…ッ!!」

「10周目くらいですね。どうしました?心当たりがないとか?」

「いえ、そんな事は…」

「まぁまだ実感わかないかもしれませんが、ちゃんとしっかりどうするか考えてくださいね。あなたとそのお腹の子のために。お相手の方ともよく話し合ってください。」

「…はい。ありがとうございました。」

そう答えたが、このことを彼に打ち明けるつもりはなかった。
迷惑を掛けたくない。彼の輝かしい経歴に傷をつけたくはなかった。

だけど、お腹の子を堕ろすなんて選択肢もなかった。
彼と関係を持ったという何にも代え難い証。この想いと関係を墓場まで持って行くと誓いながらも、この二人を結びつけた証と言える存在を奪われたくはなかった。


そうして私はある決断をしてあの男に電話を掛けた。
カラオケで待ち合わせて、部屋で待っていると、派手な身なりをした幼馴染のショーが入って来た。

「久しぶり。座って。」

「んだよ。忙しい俺様をわざわざこんなところに呼びつけやがって。」

憎まれ口を叩くヤツを気にせず、とりあえず伝えるべき要件を述べる。

「あのね、私妊娠したの。」

「…………は?!」

唐突な私の言葉に、たっぷりと間をとって眉間に深いシワを刻んで怪訝な顔をした。

「わり。なんか幻聴が聴こえたみてぇだ。で?誰が…?何だって?」

「だから、私のお腹に赤ちゃんができたの。」

「はぁぁぁぁぁぁぁ?!」

「ちょっと!!そんな大声出さないでよ!」

「だっ、おま、んなわけねぇだろ。驚かすなよ!あのな〜妊娠って、そんなキスや手繋ぐくらいじゃ出来な…」

「………。」

「…………マジかよ…。」

私は静かに頷いた。顔を染めつつも神妙な顔をしている私の顔を見て、ショーは気色ばんだ。

「だ、それなら、相手は?!相手がいるはずだろ?!一体どこの…まさか、アイツか!?敦賀か?!!」

「ッ!あ、相手は…言えない!」

「その顔、絶対、敦賀だろ!言わなくてもお前は昔っから顔見りゃわかるんだよ!バッカじゃねぇの?結局遊ばれて捨てられたのかよ!」

「な?!失礼な!そんな言い方しないで!!敦賀さんはそんな人じゃないわよ!」

「じゃあなんだよ?なんでお前は俺の前にいるんだよ!どうせ迷惑がられたんだろ?!」

「違うわよ!敦賀さんには…話してないもの。」

「………はぁ?!意味わかんねぇ〜なんで身篭らせた張本人に真っ先に言わねぇんだよ!」

「それは…だって…言えないわよ!!敦賀さんの足かせになりたくない!…そんなことより、ショー、アンタには匿って欲しいのよ!」

「あ?匿う?何言ってんだよ!それより仕事はどうすんだよ!お前もまぁまぁ顔知られてんだぞ。誰の子だっていうつもりだよ!」

「だから、あんたの子ってことにして欲しいって言ってるの!」

「はぁ?!はぁぁぁぁぁ?!嫌に決まってんだろ!なんで、俺が…!!」

「アンタ結構遊んでるでしょ。隠し子の一人や二人いたって不思議じゃないじゃない!」

「バカ言ってんじゃねぇよ。なんで俺がお前を抱いたことにしなきゃいけねぇんだよ!」

「ちょ!やだ!バカショー、そんな言い方しないでよ!」

「そういう目で見られんだよ!ったく、なにやってんだよ。馬鹿はお前だ!」

「アンタが口裏合わせてくれるなら、社長にもそれで話をするつもり。産んでから子供を育てて、また役者にも復帰するつもりよ。」

「そんな甘い考えが通用するかよ。それにそんな責任も取れねぇような男の子供なんか産むんじゃねぇよ!!人生棒に振る気かよ!」

「………アンタに頼もうとした私がバカだったわ。」

ギャーギャー騒いで、蓮を非難する言葉しか言わないショーに苛立ち、キョーコは諦めて立ち去ろうとしたが、その腕をむんずと掴まれた。

「待てよ。どうするつもりだ。」

「アンタの他に頼めそうな人がいないか探すのよ!」

私の答えを聞いて、アイツは深々とため息をついたのち、手を離さずに言った。

「…条件がある。」

「…え?」

「その条件が飲めるんだったら、考えてやってもいいぜ。」

その日から、私は再び敦賀さんを避けるようになった。
だけど、前回のようにただ無視をするのではなく、理由をつけて誘いを断り続けた。
ショーから出された条件は、二度と蓮に会わないこと、そして子供が生まれる前にショーと正式に籍を入れるということだった。

そして社長にも尚と交際していること、身ごもったことなどの事情を話した。
アイツに告げてから一週間後、テレビや新聞を賑わすスクープが取り上げられていた。

『不破尚、熱愛!』

『実は幼馴染!不破尚の相手はタレントの京子』

『デキ婚の可能性か!?産婦人科で目撃された尚と京子』

記者に取り囲まれ、社長が用意してくれた臨時のマネージャーとSPに護られて、事務所に着くと、そこには眉間にシワを寄せた奏江と、腕組みをした千織が待ち構えていた。

二人には洗いざらい話しているアイツとの憎っくき関係。
何故付き合うことになったのかと根掘り葉掘り聞かれて、心に罪悪感を持ちながらも尚と作り上げたでっち上げ話をして納得させた。

騒がしい日々が数日経った頃、目の前に突然彼が現れた。

「最上さん。」

「あ、つ、敦賀さんッ。」

「…ちょっといいかな?」

ニッコリとした有無を言わさぬ似非紳士笑顔。

「あ、えっと…」

逃げ場を探そうと目を彷徨わせてるうちに腕を強い力で握り締められた。

「こっち。」

「ちょ、敦賀さ…待って…!どこに?!」

彼は事務所の裏口から外へ出た。
そこには待ち構えていた記者やカメラマンが数名いて、裏口から出てきた彼に向かって一斉にマイクとカメラを向けた。

「敦賀さん!!敦賀さんは、タレントの京子さんとは仲がいいと伺いました!敦賀さんは、不破さんと京子さんとの関係をどう思われますか?」

私は彼の身体に隠れていた為、記者は誰も私に気付かず、カメラは彼だけを捕らえていた。
質問ぜめになっている彼の背後で私の身体は震え始めた。

「京子さんの妊娠の有無はご本人から聞いてますか??噂が本当かご存知ですか?」

「敦賀さん、京子さんの妊娠についてどう思っているか聞かせてください!!」

いずれ蓮の耳に入ることはわかっていたが、目の前で彼に降りかかる質問で私の心が冷えていき、顔が青くなって行くのがわかった。
そんな私の腕を掴む彼の手にグッと力が入る。

「どうもこうもありませんよ。寝耳に水です。大ボラもいいところです!それに彼女のお腹の中に、もし本当に誰かの子供がいるとしたら、それは他の誰の子でもないどう考えても俺の子です。」

彼の爆弾発言に、私はピキンとその場で思考が凍りついた。

そしてそれは記者の皆さんも一緒だったようで、「は?」や、「え?」という短い驚きの声を発した後、一瞬場が妙に静まり返った。

「そ、それは!!どういうことですか?!」

「もしや、敦賀さんも、京子さんと関係が?!」

先ほどよりも熱のこもった質問が怒涛のように次々に上がる。

「俺も…じゃありません。不破君と京子はただの幼馴染。それは俺も彼女から聞いていたので承知の上です。俺と出会う前から今に至るまで、彼と彼女の間で男女の関係は皆無です。京子と実際に身体の関係がある男は世界中を探したとしても俺だけです。」

「ええええぇ?!ちょ、ええぇ!!大スクープ!!」

彼から明かされる真実に、狼狽える記者の皆さん。

「ねぇ、そうだよね?京子。」

そう言いながら背中に隠していた私の手を引いて、記者の前に私を引きずり出した彼は、茫然として未だ事態を飲み込めないでいる真っ青な私の唇に口付けた。

「ん…ちょ、何を…!」

キスをされて、真っ赤になって狼狽えていると、その大きな体に抱きしめられ、その体が小刻みに震えていることを知った。

「ねぇ、お願いだから、逃げないで正直に本当のことを話して。本当に妊娠したの?それなら俺の子なんだろう?」

そうだった。この人はとても弱くて、繊細で傷付きやすい人だった。
でも何で?なんで身代わりの私のためにここまでしてくれるの?
こんなに優しい声で問いかけてくれるの?

「う、ご…ごめ、なさ…私、妊娠したなんてばれたら、敦賀さんにご迷惑をかけてしまうと思って…アイツに頼んで、アイツの子供ってことに…」

「なんで真っ先に俺に話してくれないの?俺に体は開いても心は開いてくれないのはどうして?」

「だ、だって…敦賀さんには好きな人がいるからっ!」

「え?好きな人…?」

彼は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で見つめてきた。

「しらばっくれないでください!知ってるんですから!ダークンムーンの撮影の時から、ずっと敦賀さんには4歳年下の好きな人がいるってこと!」

「えぇえ?!な?え?なんで?」

信じられないことに、敦賀さんが真っ赤になって狼狽えた。

「そんな時から?!なんで…?俺がずっと君を好きなこと知ってたの?」

「ほへぇ?!」

今度はこっちが豆鉄砲を食った顔になった。

「え?えぇ?!私…?いえ、ちちち違います!だって、敦賀さんが好きなのは4歳年下の女子高生で…事務所の子で…」

「…俺のそばにいる4歳年下の女子高生で事務所の子と言ったら、君しかいないよね?」

「へ…ええぇ?!ウソ、でも…、そんなはず!」

「俺が好きでもない子を家に上げて料理を作らせる男だと?好きでもない子を毎夜呼びつけて抱く男だと?好きでもない子にあんなに愛してるって軽い気持ちで言える男で、好きでもない子に他の男は絶対見れない場所にあんなに強く独占欲の印を刻み込む男だと?君が他の男と噂になるのをなんとも思わずただ黙って見てるだけの男だと?本当にそう思う?」

「え…あの…えっと…」

記者の皆さんも私と同様敦賀さんの問題発言に激しく狼狽えていた。
ざわざわとしたざわめきが大きくなる。

「俺はキョーコのことが好きだから、少しでも一緒に長い時間過ごしたいから家にあげるし、キョーコの作る料理だから喜んで残さず食べるし、キョーコが好きだから毎日でもキョーコに触れたいし、愛しく思ってるから愛してるって言葉にして伝えるし、君を俺に繋ぎ止めるために独占欲の印だって刻む!君の中に俺の熱を直接放ったのも、君が俺から離れられない既成事実を作るためだ!他の男と君が噂になるだけで真実は違うとわかってても気が狂いそうだ!!」

私は真っ赤になって何か言い返したくても何も言葉を発せられなくなった。

「俺以外とは、たとえ噂になるだけでも許せないよ。キョーコ…結婚するなら相手は俺だろう?君の旦那様になるのも君の子供の父親になるのも俺だけだ。それ以外は認めない。俺以外を選ぶなんて許さない。」

キョーコは身を震わせた。
こんなにも熱く深い想いで愛してくれていたなんて、思ってもみなかった。
記者の方も連絡を受けて駆けつけたのか、最初にいた時の3倍に増えているように思える。
シャッターを夢中で切るカメラマンと固唾を呑んで見守る記者たちに囲まれて、彼は真剣な目で私の目を覗き込んだ。

「君の気持ちを聞かせて。俺に何度も体を許してくれたのはどうして?俺の子を身篭ったのに、俺の子じゃないってことにして産もうとしたのは何で?俺にずっと心を開いてくれなかったのはなんで?」

私はもう、逃げ場を失ったことを悟った。
この人が本当に失うことを恐れていたのは、まぎれもない私のことだったのだとようやく気付いたのだ。

「…貴方のことを本気で好きになっていたからです。全部全部、貴方が敦賀さんが好きだから、大好きだから!抱かれたのも赤ちゃんができたことを隠したかったのも、心を開けなかったのも、貴方に迷惑かけるのが怖かったから。拒絶されるのが怖かったから。背を向けて置いていかれるのが怖かったから…だからショーちゃんにお願いしたの。どうしても敦賀さんとの間にできた赤ちゃんが産みたいけど、敦賀さんに迷惑はかけたくなかった。敦賀さんの足を引っ張りたくなかったの。」

「キョーコ…。これからは隠し事はしないで。全部話して。俺が全部受け止めるから。愛されること愛することを怖がらないで。俺は絶対に君を一人にしないって約束する。だから、一生俺のそばにいてほしい。」

「ッ!!敦賀さ…」

ベッドの中でされるような濃厚なキスの嵐。
集まった記者の皆さんは真っ赤な顔で固まり、カメラマンは無我夢中でシャッターを切っていた。

そして久しぶりのキスでくたりと体から力が抜けた私をお姫様抱っこで抱き上げた敦賀さんは、カメラに向かって今までの爽やかさに更なる磨きをかけて、ニコリと微笑むと堂々と声高らかに宣言した。

「今、ご覧頂いた通りです。タレントの京子は、誰がなんと言おうと俺のなんで。京子もお腹の中にいる子も、絶対に他の誰にも渡しません。」

彼の言葉に私は頬を染めた。

「敦賀さん…。」

名前を呼ぶ私に、極上の笑顔を向けた彼は優しい声で言ってくれた。

「結婚式も早めに挙げようね。今日から新居が決まるまでは今の俺の家で一緒に暮らそう。あぁ子供の名前も決めないと…今日から忙しくなりそうだね?」

「本当に私で良いんですか?後悔しませんか?」

「後悔なんてするはずないだろう?君ほど魅力的で俺を夢中にさせる人は他にいないよ。寧ろ、君を手放す方が後悔して生きていけない。君は俺にとっての光そのものなんだ。」

「…ごめんなさい。貴方の愛を信じきれなくて逃げてしまって…。」

「君が俺を愛するが故の行動だったんだろう?君の不安に気付かず取り除いてあげられなかった俺の所為でもある。君だけが悪いわけじゃない。」

そう言われて、私の目からポロリと涙が流れた。

「敦賀さん…ごめ、なさ…」

「いいんだよ。これから先、泣くのは俺の胸でだけにしてね。愛してるよ。キョーコ。」

そんな私を彼が抱きしめてくれたところで、突然賑やかなパレードが近づいてくる音がした。

鼓笛隊の音に乗って、賑やかな集団が記者諸共包み込む。
呆気にとられた記者たちの前で、私と彼は華やかな衣装を纏った女性たちに促されるまま、裏口前の階段から降ろされた。
すると丁度自分たちが立っていたすぐ後ろのドアがバーンと開くと、そこからお約束の事務所の社長であるローリィが華々しく花吹雪の中登場した。

「ブゥゥゥゥーーーラボォォォーーーーー!!」

「「社長…」」

「蓮と京子の記者会見は、今日の16時から行う!!会場はーーーー」

そんなこんなで当日の記者会見を捻じ込まれた蓮とキョーコは晴れて交際、そして記者会見の場で早急に準備した指輪で公開プロポーズをすることになった。

それから半年も経たない間に、蓮は己の出生を明らかにし、キョーコと蓮…もとい久遠は盛大な結婚式を挙げた。

尚との熱愛報道はそれから間も無く笑い話になりそうなところだったが、あからさまに不機嫌になる蓮によってその話は禁句となり話題にも出なくなり人々の記憶からも忘れ去られたそうだ。

報道陣の前でそのラブラブっぷりを存分に見せつけた私達は、何かと夫婦の話題になれば取り上げられることも多く、出産後はバラエティ番組でも夫婦で呼ばれる機会が増え、プライベートでも仕事でも濃厚な時間を過ごすことになるのだった。


END

スキビ☆ランキグ
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切ない萌え!!

キョコさんの勘違いも、片思いだと思って身を捧げる決意も切なすぎてハラハラしました。
でも、さらに吃驚したのは、蓮さんの想いです。何って大胆!何ってストレート!素敵ーーーー!!!!
これには超☆萌え萌えキュンキュンしました。うはうは♪と一気に読み進めましたよ。

そして、絶妙な桃加減

ときめきますね~
萌えますね~
胸が高鳴りますね~~
ドキドキときゅうんが半端無いです。

大変、美味しく楽しく頂戴しました。
ありがとうございました。




キョコさんの誤解

ギリギリで解けてよかったです。

それにしても蓮さん、酔ってない時には不安で会えなかったんでしょうかね。

ほぼ外人の蓮さんと、キョコさんの子供じゃ、ショータローの子じゃないとバレそうですが、色素が薄いぐらいなら、案外違和感がないかも〜ですが、実の父が「名乗り出て」くれてよかったです。(笑)

今回も楽しゅうございました!

Re: 切ない萌え!!

かばぷー様

そんなに喜んでいただけるとは思ってなかったのでとても嬉しいです〜( *´艸`)♡
キョーコちゃん勘違いして全力で逃げてるので、もう蓮様も全力で捕まえるしかないかな。と思いまして(笑)
記者たちの前で思いが決壊してしまった蓮様。
キョーコちゃんのことは一生かけて愛し抜くと思います♪

Re: キョコさんの誤解

まじーん様

蓮様が、酔っている時じゃないと不安で会えなかったのではなく、キョーコちゃんが酔ってない時はいかなかったんじゃないかなーと思います。
多分、回数を重ねた最後の方はアルコールの量もかなり減っていていっぱい飲んだふりをしてキョーコちゃんに来てもらってたんじゃないかな〜なんて裏設定で妄想してました(笑)

あのまま尚との子ということにして産んでも、きっと久遠君色強い子供が生まれてきそうなので、どゆこと?となってたでしょうね((*´∀`*))
実の父親は強しですね!

楽しんでいただけて嬉しいです。

すごい!!!

すごいですっ!!風月さんっ(≧▽≦)

もう・・・長編を読み切った気分・・・

ドキドキあり、切なさあり、ハラハラあり、きゅんきゅんあり、最後は笑いまで・・・(笑)
お腹いっぱいではち切れそう~(*´艸`*)

私も・・・
もしこのまま子どもが生まれちゃってたら、その容姿にビックリしただろうなーって(笑)
ちっちゃいコーンを生んじゃった!!?妖精生まれちゃった!!?って(*´艸`*)

はぁぁぁぁ(*´Д`)
萌えため息♡←
素敵なお話ありがとうございました♪

Re: すごい!!!

popipi様

お粗末様でございました♪
本当にあのまま逃げ切って産んでたらびっくりですよね!絶対久遠さんの遺伝子は濃そうなので、誰がどうみても父親違うんじゃ…ってなりそう!笑

妖精産まれちゃった!って良いですね〜((*´∀`*))
萌えため息まで嬉しいです〜♡
こちらこそ、コメントありがとうございます〜( *´艸`)
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こんにちは。風月のスキビだよりへようこそ。
初めての方は、まずはブログ内の、「はじめまして。」からご覧ください(*^^*)

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