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王の飼い猫【別館】

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甘くて苦い恋の味*その後

甘くて苦い恋の味*その後


『ちょっとどういうことよぉぉぉ?!』

携帯の向こう側から、唯一無二の親友から怒号が飛んできて、キョーコは驚いた。

「え?モー子さん何かあったの?」

『何かあったの?…じゃないわよ!!結婚ってなに?!ってか相手の男誰よ!!ショーちゃんはどうしたのよ!!』

「お、落ち着いて!モー子さん。」

『これで落ち着いてられるかっての!この招待状はなんなのよ!!アンタこの一週間で一体何があったのよ!!つい一週間前のバレンタインまでショーちゃんショーちゃん言ってたくせにっ!』

「私も何が何だか…急展開すぎて色々あって頭がついていけなくて…」

キョーコがワタワタと答えてる間に玄関のチャイムがなった。

「あ、ごめん!モー子さん誰か来たみたい!!また後で詳しい話は連絡するね!」

『は?!ちょ、待ちなさいよキョ…ーーーー」

「はーーーい!!」

キョーコは奏江からの電話を切ると、インターフォンをとった。

怒涛のバレンタインから一週間。
キョーコの周りはその怒涛のような日々が未だに続いていた。
忙しすぎて目が回り、オチオチ考え事をする間も見つけられない。
そうなった原因はそのバレンタイン当日の夜に遡る。


**

ーーバレンタインの夜。

いつの間にか籍を入れられ、事実上の夫婦になったその日に、初夜とばかりに寝室に連れ込まれ、アレヨアレヨと言う間にベッドの上に押し倒されて、肌蹴られ、キョーコは怯えて涙を溜めつつも意思の強い目でハッキリと宣言したのだ。

「わ、私!バージンロードはバージンのまま歩くって決めてるの!!」

その言葉に、蓮は雷に打たれたようなショックを受けた。

「ーーーッ!!?!!バージンロードを………バージンで…?!」

信じられないと有り有りと顔に書いている蓮の前で、キョーコは恥ずかしそうにプイッと顔を背けた。

「だ、だから…その…」

可愛らしいキョーコのもじもじとしたその反応に益々どうにかしてやりたいという欲が湧き上がるが、キョーコが大好きで大好きで堪らない蓮は、そんなことを言うキョーコを無理やり押し切って嫌われる未来だけは避けたかった。
つまり、キョーコの希望を叶えることが唯一の道なのだ。
己の欲をグッとこらえて、蓮は答えを導き出した。

「…わかりました。結婚式まで、バージンは守るって約束します。」

キョーコがホッとしたような笑顔を浮かべた次の瞬間、目の前の可愛かったはずの後輩は夜の帝王の雰囲気を身に纏った。
初めて見る妖しい微笑みにキョーコが目を見開いて、何かに取り憑かれたようにカチンコチンに固まる。

「結婚式までバージンは守るから…それ以外は、いいですよね?」

「へ?!な、何を…え?!ちょ、やん…つ、敦賀君?!何処触って…」

蓮の大きな手が肌蹴られた服の隙間から滑り込み、胸の膨らみを優しく包み込んだ。
キョーコがカァァッと真っ赤になって身を捩る。

「やだ…あ、んん…」

「最後まではしませんから。先輩を下さい。」

そう言いながらチュウと肌に吸い付く蓮に甘い吐息を零しながら翻弄されてる間に、キョーコはショーツ以外の身包みを全て取り除かれ、その体を撫で回され吸い付かれて堪能されてしまったのだった。


そして次の日の朝、蓮は言った。

「式の日取り、来月の14日に決まりましたから。」

天気の話をするかのようにあまりにもサラッと言われた言葉をキョーコは一瞬聞き逃しそうになった。

「…え?」

「だから俺たちの式ですよ。打ち合わせとか色々休みの日や仕事終わりの時間を使って大忙しだとはおもいますけど…」

「ちょ、ちょっと待って!何の話?!」

「え?だから俺と先輩の結婚式の話ですよ。日取りは来月の3月14日のホワイトデー。」

「?!」

「会場もディヅニーランドのブライダル抑えましたのでご安心ください。」

「えぇぇ?!ディヅニーランド?!」

「はい。あそこのシンデレラ城で結婚式です。」

「シンデレラ城で結婚式?!嘘でしょう?!」

「嘘じゃないですよ。ちゃんと手配済みです。」

「やだっ!!ウソ!夢の国で結婚式挙げられるの?!ええぇ?!夢見たい!!」

「やっぱり。先輩なら絶対喜んでくれると思ってました。」

ディヅニーランドで結婚式のインパクトがあまりにも強く、キョーコがメルヘンの世界に旅立って結婚式が来月ということに考えが戻らぬうちに、結婚式の日取りが確定してしまったのだった。

**

それからずっと怒涛のような日々が続いてるのだ。
昼は仕事、終わってからは式の打ち合わせ、夜はベッドに連れ込まれ身体を撫で回される日々に、キョーコはクタクタだった。

「こんにちはー!出張サロンのテンちゃんで〜す!」

休日の今日も打ち合わせに大忙しの中、蓮が用意してくれた出張サロン。
小柄で明るくて可愛らしいテンと名乗った女性は、これから式まで週に二回、式の直前の一週間は毎日出張に来てくれるという。
服を全て脱がされベッドに横にさせられ、マッサージエステを受けると、キョーコは今までの疲れに飲み込まれるように眠りについていた。

「そうよ!お上手だわ!」

「…ん…?」

キョーコが微睡みから醒めると、弾むような女性の声と低い男の声がした。

「こう…ですか?」

「えぇ!!もうプロ級よぉ!!あぁん!私もダーリンにやって欲しいー!!」

両足の太ももを撫でられてる感覚に、恐る恐る低い声がした方を振り返ると、蓮が嬉しそうに右の太ももをマッサージをしているところだった。

「ひぃっ!」

「あ、キョーコさん起きたんですね?」

「な、何で…蓮君が…」

「ん。キョーコさんにいつでもマッサージ出来るようにこの機会に勉強しとこうと思いまして…」

「だ、だけど…ちょ…や、やだ…」

「じゃあお次はお尻のマッサージ方法を…」

「はい!是非!」

「だ、駄目だってばぁぁぁ!!」

キョーコの絶叫を物ともせず、蓮はテンに丁寧に教えを乞うのだった。


枕を涙で濡らしてうつ伏せで啜り泣いてるキョーコに寄り添って、蓮はそのすべすべさを増した背中を大きな手で宥めるように撫でた。

「ごめんね?キョーコさん、そんなに嫌だった?」

「もう、知らないっ!!」

「キョーコさん、機嫌直して?ね?」

ちゅっちゅっと甘やかすようなキスがこめかみに落とされて、キョーコは真っ赤な顔でチラッと蓮に視線を移してすぐにプイッとそらした。

「パンツ履いてなかったのに…。」

「ん…ごめんね?」

ちゅっちゅっと蓮の甘やかなキスが続く。

「電気もついてた…」

「ん…ごめん。」

「あんなに堂々と人の前で…」

途中から蓮がうっかりキョーコの柔肌にキスしてしまい、それで歯止めが効かなくなって沢山の所有印を刻んで、後からテンにコッテリ絞られてしまったのだ。

「ん…だってキョーコさんが裸でベッドの上にいたら我慢できるはずないじゃないですか。」

「もうっ…バカ!」

「可愛いキョーコさんが悪いんですよ?」

そう言って、蓮はキョーコの唇を捕まえた。

「ん…」

怒っていたはずのキョーコも、蓮のキスに段々と飲み込まれ、寝室に濃密な空気が漂い始めた。

そんなこんなで結婚式までの日々は飛ぶように過ぎていったのだった。



ーーそして迎えたホワイトデー。

結婚式当日はどこまでも澄み切った青空に恵まれた。

招待された人たちはキョーコと蓮が付き合っていたとは知らない人々ばかり。
それもそうだろう交際僅か0日で入籍、それから1ヶ月で結婚式という超々スピード結婚なのだ。
仕事場以外は全てこの結婚式の準備に追われていた為、職場以外の知り合いには寝耳に水だったに違いない。
そして職場の人間にも蓮はまだ正体を明かしていない為、今日は会社の社長の御子息久遠ヒズリと平社員のキョーコが結婚というように思ってる招待客が殆どだった。

新郎の蓮は本来の姿の金髪碧目で、白いタキシードに豪華な装飾が施されたまさしく王子様というような格好をして会場の祭壇前で花嫁を待っていた。

やがて、バンドの演奏が近づいてきて花嫁の到着を告げた。


蓮は常にないほど緊張しながらジッと花嫁が入場するためのカーテンが開くのを待った。
ドクドクと脈を刻む心臓の音が耳に直接届き、1秒が5分にも10分にも感じていた。

やがて左右にフサァと開いたカーテンから、天使や女神にも見間違うほどの女性がブーケを持ち純白のドレスに包まれて立っていて、蓮はその姿に見惚れ固まった。
客席からもほうっというため息が溢れ、誰もがキョーコに釘付けだった。

そんなキョーコが恐る恐る一歩を踏み出し、そしてまた一歩、また一歩を丁寧に進んで近付いて来て、蓮は漸く自分の思考回路が全て止まっていたことに気付いて慌てて背筋を伸ばして花嫁の到着を高揚する気持ちを隠しきれずに待った。

やがて手を伸ばせば触れられる位置に来たキョーコを間近で見た時、蓮は確かに自分の胸が震えているのを感じ取った。
気付かれないよう小さく深呼吸をして、手を差し出す。
キョーコがその手に己の手を掛けた瞬間、蓮は絶対にどんなことがあってもキョーコを自分の手で幸せにしてみせると固く己自身に誓った。

式は滞りなく執り行われ、誓いの言葉を交わし、ガラスの靴に乗せられたリングを受け取り、キョーコの左手を取った。

「キョーコさん…。」

「え…?」

式の途中に話しかけられるとは思ってなかったキョーコは驚いて目を見開いた。

「バレンタインチョコのお返しに…俺自身を、そして俺の人生を受け取ってください。」

そう言って、蓮はキョーコの左手の薬指にキラキラと輝くリングを嵌めた。
キョーコの頰がぽうっと赤らみ、ふにゃっと笑うと、蓮は今すぐ抱き締めたい衝動になりながらも、何とか宥めてヴェールを上げると、情熱的なキスをした。

途端に湧き上がる拍手の音に、キョーコが驚いて蓮の腕をギュッと強く握ったので、蓮は渋々キョーコの唇から己の唇を引き剥がした。

その後も式は滞りなく進められ、ブーケトスもモー子さんこと奏江の手に渡った。
記念撮影などを終えた後はシンデレラ城の前をヴィークル(車)に乗って華やかなパレードに加わる。
車に乗り込もうとした蓮はふと視線を感じてそちらを向いた。
建物の陰からこちらをみてキョーコの姿に見とれているキョーコの幼馴染ショーの姿を見つけて、蓮は勝ち誇ったように口角を上げると、キョーコを振り向かせ、見せつけるようにキスをした。
再び湧き上がった拍手に答えるときにショーの姿はなかったが、あの様子では隠れて地団駄を踏んでるに違いない。

キョーコに手を出したことはなかったとはいえ、キョーコを傷付けた罪は重いのだ。
存分に悔しがればいいと心の中で思いながら、披露宴が始まる前から既に笑顔の下で今日の初夜に思いを馳せる蓮がいたのだった。

披露宴で新郎の正体が敦賀蓮だと明かされたときには、会場中がどよめいた。
蓮を狙っていた女性社員はショックに打ちひしがれ、キョーコを狙っていた男性社員は、蓮なら仕方がないと何となく思ったという。

夢のような結婚式と披露宴でお姫様気分を存分に味わうことができたキョーコは、ディヅニーランドのスィートのホテルのベッドへ最愛の王子様押し倒された。

「久遠…あの…」

「ん?何、キョーコさん…悪いけど、やっぱりダメとか…」

ーー言わせないよ?

「私の全てをもらって下さい。」

「……え?」

「久遠に…貴方に…もらって欲しいの…」

紅潮した頬で、不安と期待が入り混じり、縋るように見つめてくるその潤んだ瞳で言われた言葉に、蓮は目を見開いた。
歓喜に震える手を伸ばして、キョーコの頬を撫でる。

「…うん。うん…。全部、貰うね…キョーコさん…」

「ん…」

擽ったそうに、恥ずかしそうに身をよじるキョーコに唇を重ねて、蓮は漸く愛しい彼女の全てを手に入れることが出来たのだった。

「愛してる…これからも、ずっと…ずっと…」

マシュマロに包まれるような幸せを感じながら二人はホワイトデーの夜を過ごしたのだった。


END

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*****


…ということで、ハッピーホワイトデー♪
蓮様も早く幸せなホワイトデーが過ごせればいいですね♪

続きが読みたい〜の声にお応えして、続きはホワイトデーにしようと考えてたのはいいのですが、うーむ。どうだったでしょうか??
楽しめたらいいのですが…何だか結婚式のところとか説明書きっぽいのが多すぎたかもー?!って思いながらアップしてます。
中々スムーズに書けなくて苦戦しました。
芸能人の蓮だとちょっと違和感あるけど、大手の会社の社長御曹司だったら某夢の国での挙式が有な気がする…と思って、普段書けない方向から攻めてみました。
名前も一字変換しました。決して間違いではないですよ。

書き終えて…
何だか、せっかく続きの要望頂いたのに、こんな仕上がりですみません。
期待に添えてないような気がしないでもないですが、これで精一杯でした。
お粗末様でした(>_<)

皆様も素敵なホワイトデーをお過ごし下さい。

甘くて苦い恋の味*後編

注意事項※必ずお読みください。
①完全パラレルです。キョーコちゃんも蓮様も職業も違えば、年齢も逆転してます。
②前半、まだピュアなキョーコちゃんなので若干キョ→尚が強いです。
③最後蓮様がぶっ壊れ怒涛の展開が待ってます。
④若干ギャグに走ってしまった感があります。(特に後半)

それでもいいよ!って方はお楽しみください☆
でもこれだけは言えます!超楽しんで書けました!!

それでは、どうぞ!


*****


甘くて苦い恋の味*後編


ーーバレンタイン当日

「キョーコお前、今日は昼間出かけんだろ?」

ソファに横になったショーが雑誌を見ながら何やらパタパタと駆け回ってるキョーコに問いかけた。

「うん!ふふ。モー子さんとね、ショッピングいく約束してるんだ〜!ショーちゃんも予定入ってるって言ってたけど、夜には帰ってくるよね?」

「ん?あぁ、その予定…」

「良かった!今日はディナー腕によりかけるから楽しみにしててね!」

「あ?折角滅多に会えねぇお前の数少ない友人に会いに行くんだろ?ゆっくりしてこいよ。ってか、晩飯とか適当でいいし。なんなら、二人で食べてくれば?」

「やだ!ショーちゃんってば気を遣ってくれてるの?やっさしぃ〜!でも今日はバレンタインだもん。だからやっぱりーー」

「あ、電話…」

ショーちゃんと過ごしたいんだぁ〜とホワホワした笑顔で言うキョーコの言葉を右から左に聞き流しながら、ショーはスマートフォンを通話モードにして耳に当てた。

「俺。あぁ、うん、どうせそんなこったろうと思った。じゃあ一時間後な。わーってるって。じゃあな。」

「…友達?」

「あぁ、一時間後に来るって。」

「え?出掛けるんじゃないの?」

「あ?」

ギンっと睨みつけられて、キョーコはビクッと身を潜めた。

「え、あ、ごめん…」

「なんで俺がお前に俺の行動を逐一報告しなきゃなんねーんだよ。詮索してんじゃねーよ。」

「ご、ごめんなさい。」

「それよりいいのかよ。時間。」

「え?!あ!いっけない!!もうこんな時間!!じゃあショーちゃん行ってくるね!!」

「へいへい。いってらー。」

慌てて靴を履いて出て行くキョーコを横目で見送って、ショーはやれやれと胸をなでおろした。

*

「ショーちゃんが喜んでくれますよぅ〜に。」

「相変わらずあんたの頭の中ってショーちゃんショーちゃんね。」

親友のモー子こと奏江とショッピングというのは、口実で、実は奏江の家で一緒にバレンタイのチョコ作りが今日会うメインの目的だった。
勿論チョコ作りが順調に終わればショッピングにも行く予定なので嘘ではないのだが…。

奏江からチョコの作り方を教えて!というメールが一週間前に来て急遽奏江と一緒に作ることになったのだ。
大学時代に出来た唯一の親友。
大学生の時、スカウトされ現在モデルとして活動している奏江は自慢の親友だが、忙しくらしく最近中々会えなかった。
チョコ作りが当日になったのも、他に奏江の時間が取れなかったからだ。

「モー子さんは誰にあげるの?」

「だ、誰でも良いでしょ?!」

「えー!教えてくれたって良いじゃなーい!私たち親友でしょう〜!!」

「もー!鬱陶しい!!今真剣に作ってるんだから纏わり付かないで!!」

ねーねーとしつこく付きまとうキョーコに折れて、奏江はキョーコを睨みつけながらも顔を赤らめて話した。

「お世話になってる先輩よ!食事に誘われたから、今晩会うのよ!礼儀として一応用意してなきゃダメでしょ!一応よ!」

「先輩〜?…って、もしかしてあの飛鷹さん?!」

「な?!」

カァッと真っ赤になった奏江に、キョーコはニマニマ顏だ。

「やぁーぱりぃ!絶対お似合いだと思ってたのよぉ!モー子さんとトップモデルの飛鷹さん!」

「ちょ、やめてよ!何よ!お似合いって!」

「食事に誘われて満更でもないくせにぃ〜!!」

「うるさいわねぇ!馬鹿なこと言ってないであんたもさっさと作りなさいよ!」

そんなやり取りをしてチョコ作りもなんとか終わり、ランチをとっていると、奏江に仕事の呼び出しが入った。

「もー!今日はオフのはずだったのに!ごめんね。キョーコ。」

「ううん。いいのよ!いいの。ショッピングはまた今度にしましょう!」

バタバタと準備をする奏江の代わりに自分の分と奏江の分のラッピングを済ませて、奏江に忘れないように持たせて二人で家を出た。

*

「うーん。予定より早く帰ることになっちゃったな〜。ま、その分今夜の食事の準備も万端に出来るからいっか!」

ウキウキと心を弾ませて、キョーコはスーパーに入った。

*

「ただーいま…あら?」

玄関にはショーの男物の靴の他に女性もののパンプスがあった。

「今日会う予定のショーちゃんのお友達って女の子だったんだ。」

キョーコは特に気にもとめずに、靴を脱いで室内に入った。

ショーの部屋の前を通り過ぎる時、女性の苦し気な悩ましい声が聞こえてきて、キョーコは驚いて、慌ててその扉を開いてしまった。

「大丈夫ですか?!」

「キャァァ!」

「ハァ…キョー…コ?!おまっ!なんで…」

そこにはショーのベッドの上で汗を滴らせ裸で絡み合う男女の姿があった。

「ご、ごめんなさっ…!」

慌ててドアを閉めて、キョーコはドッドッドッドッと暴れだした心臓を抑えてその場にしゃがみ込んだ。

ーーーえ?!え?!どういうこと?!なんでショーちゃんがあんなこと…

ショーのあんな姿は今まで見たことない。
色気の滴る美人の彼女とショーの絡み合う先ほどの光景がクッキリと目に焼き付けられてしまった。

何が起こっているのか、何を見てしまったのか、思考が追いつくまでにかなりの時間を要したが、頭ではわかっていなくても心が痛んだのか涙がじわりと溢れ始めていた。

「ちょっと!今の子誰よ?!」

キョーコは中の女性の声が聞こえてハッと意識を引き戻された。

「あー。アイツはただの家政婦だよ。」

キョーコは目を見開いた。キョーコの代わりに中の女性がキョーコの口に出しそうになった言葉を発した。

「家政婦?」

「あぁ、つっまんねぇ家政婦。」

「あんなに若い子雇ってるの?」

「ばーか。雇ってんじゃねぇよ。飼ってやってんの。」

「は?!」

「あいつは幼馴染なんだよ。だけど、昔っからあいつって俺の言いなりだし、便利だからそばに置いてやってんの。」

「なにそれ!置いてやってるってこの家に?!それって同棲?!あの子のこと好きなの?!」

「ちげーよ!好きなわけねーじゃん!あんなまな板みたいな身体の地味で色気のない女。俺に似合うかよ?!俺はお前みたいな奴がタイプなんだよ。フェロモン系〜!」

「きゃ!もう、ちょっとショー…やん。」

キョーコはスーパーで買ったものを片付けもせずに放り出して、チョコが入った鞄だけを胸に抱えてその場から逃げ出した。

じわりと目に涙が次々と浮かび流れていく…。
滲んだ視界の先がボヤけて、それ以上歩けなくなったキョーコは、そのまま道の真ん中にぺたんと座り込んで、ポロポロと涙を流し始めた。

信じていたのに、ずっとずっと信じてたのに…。
東京の大学行くから付いてきてくれないか?と言われた日から、ショーのお嫁さんになることをずっとずっと夢見て、ショーの為に高いマンション背伸びして借りて、尽くしてきたのに…!
キスしてこないのも手を出してこないのも大事にされてるからだって思ってたのに!

世界の全てを失った。そんな気分だった。
怒りをぶつけることができたらどれだけ楽だったか…。でも、そんな気力も湧かず逃げてきてしまった。逃げ出してしまった。

家にももう帰れない。行き場もない。何もない…。何も…。

「ふぇ、ふぇぇぇぇ…」

思わず嗚咽が漏れた時ーー

「最上先輩?」

低く優しいバリトンの声が己の名を呼んだ。

「先輩、大丈夫ですか?」

「ほへ?」

思わず間抜け顔で見上げた先には、同じ職場の男前の後輩の姿があった。

「つ、敦賀くぅーん…」

知ってる顔を見つけてしまったからか、その優しい眼差しに気付いてしまったからか定かではないが、キョーコは何故かいつの間にか蓮の広い胸に縋り付いて泣き始めた。

まさかこれが、キョーコの人生と運命を大きく動かす転機になるとも気付かずに…

*


目撃してしまったキョーコの彼氏の浮気現場。
バレンタイン前日という日にたまたま見つけてしまった事実に何だか落ち着かなくて、蓮はバレンタイン当日の朝からキョーコのマンションの側でウロウロしていた。

キョーコの連絡先は実はまだ知らない。
平日は職場で毎日顔を合わせるので、特に必要性がなかったこともあるが、アドレスや電話番号を教えてくれと人から言われることはあるものの、自分から教えて欲しいなどと今までに言ったこともなければ発想さえもしたことがなかった。
己にとって無意味な電話番号ばかりのアドレス帳。
肝心の電話番号が入ってないことに今更ながら焦りを感じる。
調べようと思えば調べられるが、勝手に番号を調べてかけるなど不審に思われるかもしれないのでそれもできない。

家を訪ねるのはいいが、そこにキョーコがいなかったら?彼氏に向かって浮気してキョーコを傷付けるなと言えばいいのか?
キョーコがいたら、事実を伝えて…でもそれでキョーコがもしも傷付いてしまったら?

考えれば考えるほど、わからなくて蓮はその場でウロウロソワソワとするしかなかったのだ。
完全に不審者と思われそうなところだが、その見た目の良さに救われてるのも事実。
通り過ぎる人がいれば考え事をしながらも爽やかな笑顔で会釈をするので、見たこともないくらいのイケメンがマンションの前にいて挨拶してくれるという奥様方のトキメキ話にしかならないようだ。

そうこうしているうちに、キョーコがウキウキとしながら、マンションに入っていくのが見えた。

「あ、最上先輩…」

ちょっと離れた位置にいたために、見かけただけで捕まえることが出来なかった。
だけどあのいかにも浮かれてますというようなルンルン顏を目撃してしまっては、やはりあの顔が陰るのは見たくないと思ってしまう。
どうしようどうしようとウロウロしつつ、いつの間にかマンションのエントランスの前に立っていて、部屋番号を押して呼び出すか呼び出さないかと考えて悩む。
自分には首をつっこむ権利などないかもしれない。もう諦めて帰ろうとしたその時、キョーコが先ほどの表情から一転して暗い表情で肩を落としてマンションのエントランスを出て蓮の横をペラペラの紙のようにすうっと通り抜けた。
あまりにも変わり果てた姿に一瞬キョーコだと気付くことが出来なかったが、一拍遅れて気付いて、蓮は慌てて後を追った。

この世の悲壮感を全て背負っているような後ろ姿でハラリヒラリと今にも強い風が吹けばどこかに飛んで行ってしまいそうな儚い足取りで歩いており、蓮の胸が締め付けられた。

その場に崩れ落ちたキョーコをみて慌てて駆け寄ると、キョーコは肩を震わせポロポロと涙を流し声を上げて泣いていた。

恐る恐る近づいて、ごくんと唾を飲み込み声を掛けた。

「最上先輩?」

ピクンと大きく震えた肩に手を伸ばし、呼びかける。

「最上先輩、大丈夫ですか?」

顔を上げたキョーコの絶望を乗せた表情に、心を痛めて、安心させるように微笑んだ。
こぼれ落ちそうなほど見開かれた大きなキョーコの目から、涙の粒が次々と溢れる。

「つ、敦賀くぅーん…」

「わっ!先ぱ…」

いつもニコニコ楽しそうなキョーコ。
弱みは見せず、いつも前向き。そんな姿に好感を持っていた。
初めて見た泣いている姿、突然縋り付くように胸に飛び込んできた想像以上に華奢でか弱い震える身体。

自分が守らなければと湧き上がる強い想いを感じながら、蓮はそんなキョーコの身体を強く強く抱き締めた。

*

「とりあえず、場所移しましょうか?」

ヒソヒソと集まりだした近所の人々、心配そうなその眼差しはどうやらイケメンが女の子を泣かせてるとでも噂が広まっていたのかもしれない。
一通り泣いて落ち着いたように見えたキョーコの頭をポンポンと撫でながら言えば、キョーコはギュっと更に抱きつきながらも、コクンと小さく頷いた。

キョーコの小さな手を包み込むようにしっかり握って、蓮は人気のない公園にキョーコを導いた。暖かいココアを自販機で買い、キョーコに渡すと自分用にブラックのコーヒーのボタンを押した。

「ありがとう…」

キョーコは、漸く自分の醜態を晒してしまったことに気付いたようで、腫れた目元と同じくらい顔と耳も真っ赤にして申し訳なさそうに小さな声でぽしょりとお礼を口にした。蓮はいいえと笑う。

「なんか私、こないだから敦賀君に奢ってもらってばっかり…それにこんな恥ずかしいところ見られて…先輩失格ね。」

無理してにへらっと笑うキョーコに、蓮はそんなことありませんよ。といって、ベンチに誘った。

蓮の横に並んでキョーコがベンチに腰掛ける。
微妙に空いたその距離を詰めるべきか詰めないべきかと、蓮が心の中で葛藤している間に、キョーコがポツリポツリと自分から事の次第を話し始めた。

「ショーちゃんっていう私の同居人…一度会ったことあるわよね?」

「えぇ、先輩が酔いつぶれた時に家に送って…」

「実はね、彼、私の幼馴染なの。」

「え…。」

「ずっとね、私は彼と付き合ってるんだと思ってた。彼の為に身を粉にして働いて、彼の為に自分の人生を全て捧げて生きてきた。」

蓮はグッと己の拳を握りしめた。
あの男を前にしたキョーコのあの日の笑顔が脳裏に蘇る。
大好きだと全身で訴えかけるような笑顔だった。

「だけど、彼にとっては…ショーちゃんにとっては違ったみたい。」

蓮はキョーコの顔を見て怪訝な顔をした。

「え?」

蓮の戸惑うような声に、キョーコは明るく言った。

「今日ね、バレンタインチョコを友達の家で作ってきたの。本当はその後ショッピングに行って、夕方に帰る予定だったんだけど、友達に急遽仕事が入っちゃって…」

「うん。」

「予定より、早く帰ったら玄関に女の人のパンプスがあって、ショーちゃんの部屋の前を通った時に、見ちゃったんだ。ショーちゃんが、その、女の人と…裸で…」

言いにくそうに顔を伏せ、耳を赤くしたキョーコはまた泣きそうな顔になっていた。

「ヤッてたんだ?」

引き継いでくれた蓮の言葉にキョーコがカァッと顔を赤らめてコクンと頷いた。

「ふぅん。」

蓮の中でキョーコの初心な反応を横目で見ながら悶々としたものが湧き上がる。
一緒に暮らしている男女に身体の関係が全くないわけがない。
あの男とキョーコがと考えただけで頭に血が上りそうになるのに、先輩だって身体の関係くらいあるんでしょうなんて聞ける訳がない。
聞いてしまったら自分がどうなるかわからなくて怖かった。

「それでその時に聞いちゃったの…」

キョーコの話がそこで終わりだと思ってた蓮は、キョーコの話が終わってなかったことに驚いた。

「え?何を?」

「ショーちゃんは私のこと、今まで家政婦としか見てなかったんだって。ベッドの中にいた女の人にそう言ってた。」

「家政婦?」

蓮の眉間にシワが寄る。

「なんでも自分の言いなりになる家政婦。雇ってるんじゃなくて、飼ってるんだって。」

悔しさでキョーコが拳をプルプルと震わせ始めた。

「便利だからそばに置いてやってるんだって。ふざけんじゃないわよ!!家賃もガス代も電気代も、あんた一人じゃ1/5だって払えないくせにっ!!」

段々とムカムカとした気持ちがキョーコの中に芽生え始めたようだ。
いきなりの剣幕に、蓮は驚いて目を見開いた。

「あんたなんて!あんたなんてねぇ!!一人じゃ掃除機もかけられないし、料理だってできないし、私がいなきゃなんにもできないのよぉぉ!!」

ふんふんふんっと物凄い形相で、キョーコは地団駄を踏んだ。
その姿を蓮は呆気にとられててポカンと見守る。

「何が!好きなわけねーじゃん!よ!!何が、まな板みたいな身体よ!誰が地味で色気のない女よ!!悪かったわねぇ!まな板みたいな身体で、地味で色気がなくて!!このっこのっこのっ!」

「ぶっふ…」

怒りに任せて地面に八つ当たりしていたら急に後ろから吹き出す声が聞こえて、キョーコは驚いて振り返った。

「…え?」

「や、すみません。ちょっと…ぷっふ…くくくくくくくく…」

プルプルと肩を震わせ、蓮が思いっきり笑っていてキョーコは首を傾げた。

「敦賀君?」

「いや、失礼しました。あまりにも形容しがたい表情だったものでつい…。だけど、それだけ元気があれば大丈夫そうですね?」

ふわりと優しく微笑まれて、キョーコはえっ?と再び首を傾げた。

「最初マンションの前で先輩を見たとき今にも消えてしまいそうなくらい儚く見えたので、元気が戻って少し安心しました。」

蓮にそう言われて、マンションを出たとき、確かにこの世の終わりのような気がしていたことをキョーコは思い出した。
生きていても仕方ない、惨めで惨めで、怒りすら湧く気がしなかった。
なのにどうしてだろうと頭を捻って、そして蓮の顔を見てキョーコは、あぁと合点がいった。

「それは、敦賀君がいてくれたから…だね。」

「え?俺?」

「うん。敦賀君が私を見つけてくれたから。」

キョーコにそっと微笑まれて蓮の胸の中にフワッと風が吹き抜けた。

「そして敦賀君が私の涙を受け止めてくれたから…かな?」

蓮が目の前に現れたとき、キョーコは救われた気がした。抱き留めてくれたその腕の力強さがキョーコに生きる希望を与えてくれた。
一人ではもう立つことが出来ないと思っていた足でまた再び立ち上がることが出来た。

「先輩…俺…」

「あーあ。なんかいっぱい泣いたらお腹すいちゃったな〜。」

そう言ってキョーコはショーのために用意したバレンタインチョコを鞄から取り出した。

「先輩、それってもしかして…」

「これ?ショーちゃんにあげるために作ったガトーショコラ。」

「それって先輩の手作りってことですか?!」

「そ。」

そう言ってキョーコはおもむろにラッピングをバリッと破いた。パコッと開けた蓋の中から現れた綺麗なハート型のガトーショコラ。
キョーコの手作りのバレンタインチョコ(=キョーコの本命チョコ)に蓮が期待に胸を高鳴らせて目を輝かせたそのとき、そのハート型はひょいっとキョーコの指に摘み上げられた。

「あ…」

蓮が何も言えぬ隙に、あっという間に、パクッとキョーコが己の口に運んでしまった。
呆然とその姿を蓮は見送ってしまった。

しかし、一口では入りきらないサイズだったので、まだ二口分ほどキョーコの手に残ってる。

モグモグと食べるキョーコに、蓮がごくんと唾を飲み、勇気を振り絞り慌てて口を開いた。

「先輩、あの俺にも一口…」

「え…?」

言いかけた蓮の言葉を最後まで聞かぬ間に、キョーコは残りをあっという間に食べ終えてしまった。


ズーンとこの世の終わりのように落ち込む蓮にキョーコは慌てて謝罪する。

「ご、ごめん!敦賀君もお腹すいてるとは思わなくて…」

チラッとキョーコを蓮が恨めしげに見る。

「お腹すいてるんじゃないですよ。」

「…え?」

「最上先輩の手作りチョコが食べたかったんです。」

ブスッと不貞腐れた蓮の言葉にキョーコは、え?と驚いた。

「チョコを?そんなのいつでも作れるよ?」

「〜〜そうじゃなくて…!」

「敦賀君?」

キョーコは心底不思議そうに蓮を見ていた。
そして蓮は直球じゃないと伝わらないことを悟って、フゥ〜と息を吐き出してはっきりと言った。

「バレンタインの今日!先輩の本命チョコが食べたかったんです。」

「ふぇ?!」

「最上先輩のことが好きだから、先輩の本命チョコが食べたかったんです!!」

「え…ええええええ?!」

キョーコは驚いて大きな声を上げてしまった。
まさか、失恋したその日に、社内で1番イケメンだと言われている男の子から告白されるなんて微塵にもおもってなかったのだ。

「ずっと先輩のこと好きだったのに、先輩は男と同棲してるし…」

恨めしげに見つめられて、キョーコがうっと怯んだ。
顔がみるみるうちに赤くなるのがわかる。

「…一口。」

「え?」

蓮が真剣な顔でずいっとキョーコに顔を近づけた。

「一口もらってもいいですか?」

「一口って…でも、もう残ってな…」

そうキョーコがタジタジに応える隙に、蓮はキョーコの唇を奪った。
キョーコが目を見開いてギシッと固まる。

チュッと離れた唇に何も言葉を返せないでいると、蓮が満足そうにペロリと己の唇を舐めとった。

「ん…甘い…。」

「な、な…」

真っ赤な顔でパクパクしてるキョーコの手を引きその身体を抱き締めて、蓮はキョーコの耳元に囁いた。

「もう一口…。」

「ふぇ?!な…ん…んん…」

先ほどよりも深く重なった唇。
キョーコの顎を引き、舌を差し込み、キョーコの口内を味わいながらチョコの味を探す。

突き飛ばされないのをいいことに、逃げ回る舌も追いかけて捕まえて絡め取ってを繰り返した。

「ふ…ん…」

夢中で貪っていたところで、苦しげなキョーコの声に意識を引き戻されて、蓮は漸くキョーコを解放した。
はぁはぁと肩で息するキョーコの色っぽい姿に目を細めて、極上の笑顔で微笑みながら、キョーコの頬をそっと撫でた。

「ご馳走様です。」

蓮の言葉に、ピキョンと固まったかと思ったら物凄い勢いで5メートルほどの距離をとられ、思いつく限りのキョーコ流の悪口で罵られた。

「つ、敦賀君の破廉恥〜〜!!!!女ったらし!遊び人!!プレイボーイ!!女の敵〜!!!!」

「先輩がチョコを一人で全部食べちゃうからですよ。」

「そ、そんなの!!また作ればいいじゃない!!な、なにも、キキキキキキキキキスなんてしなくてもっ!!」

そしてキョーコはカァァァと真っ赤に顔を赤らめたかと思えば、ハッと何かを思い出して、顔を真っ青に染めた。

「そ、そういえば、私ったらさっき敦賀君の胸に縋り付いて…キャァァァ!なんって破廉恥なのぉぉぉ!!私ったらおとっおとっ!男の人の身体に自分から抱きついてしまうだなんてぇぇぇ!!フシダラ…フシダラよぉぉぉぉ!!」

青くなったり赤くなったりを繰り返すキョーコを見て、蓮は目をパチクリと瞬いた。

ーーーえ?あれ?キス一つでなんだ?この反応…。え?もしかして…

蓮は少しの期待を抱いてキョーコにそっと近づいた。

「最上先輩…」

「キャァァァ!!」

突然、蓮が目の前に現れて、キョーコの心臓がわかりやすいほど飛び出した。

「あの、先輩、もしかして…なんですけど…」

「な、な、何?」

「今のが…ファーストキスだったり…?」

キョーコの顔が真っ赤に染まり、それは答えをわざわざ聞かなくても雄弁に事実を語っていた。
蓮もキョーコの照れが移ったのか真っ赤になって、その場にしゃがみ込み赤くなった顔を片手で覆った。

「嘘だろ…じゃあ本当にあいつとはただの幼馴染?」

「だ、だからそう言ったじゃない!」

「男女の関係は…一切無し?」

「だ、男女の関係って…?!」

「抱き合ったり、SEXしたり…」

「キャァァァ!!ないわよ!ないわよ!ないわよ!!なんてこと言うの?!結婚もしてないのにそんなフシダラなこと…やっぱり敦賀君の破廉恥ぃぃ!!!!」

公園の大きな木に抱きついて真っ赤な顔で全面否定をしてキャーキャーと騒ぐキョーコを見て、蓮は心底ほーっと安堵した。

「そっか…なんだ…よかった…はぁー」

キョーコのファーストキスの相手になれたこととキョーコの身体がまだ綺麗なままであることを知って、蓮の喜びは思いの外大きく、ついつい舞い上がってしまった。
舞い上がりすぎた頭は、もう歯止めが効かなくなっていた。

「じゃあ先輩、俺と結婚を前提に付き合ってください!」

「ふぇ?!」

「あ、結婚するまではSEX出来ないんでしたっけ?でも結婚は時期をみてちゃんと決めたいし…じゃあ先に籍だけでも入れちゃうのはどうでしょう?」

「え、ちょっと敦賀君?!」

「安心してください!うちの家系、社訓にもあるように愛する人は全身全霊をかけて愛し尽くすことがモットーですから。」

「な、何?…社訓?」

「とりあえず今日籍だけ入れて、結婚式は今年の先輩の誕生日でどうですか?あー。でも6月っていうのも捨てがたいですよね!」

「つ、敦賀君?!なんの話をしてるのか…」

「あ、ちなみに俺の本名、久遠ヒズリなんで。」

「は?!」

「これは暫く内緒にしてて欲しいんですが、俺たちの会社、ヒズリコーポレーションの現社長のクー・ヒズリは俺の父で、俺は一人息子で跡取りだから…」

「は、はいいいいぃぃぃぃ?!」

「最上先輩には次期社長夫人として迷惑をかけることもあるかもしれませんが…」

「ちょ、とま…」

「先輩には俺が付いてますから!!何かあったら俺、全力で支えますし、絶対幸せにするんで、これから末永いお付き合いをよろしくお願いします!!」

あまりにも大きな話にキョーコの思考はプシューと音を立て緊急停止してしまった。
そのままその場で気を失ったキョーコに、蓮は驚いて、慌てて車を呼び己の実家に連れ帰った。

両親にも事情を説明し、キョーコが目が覚めたところで再び目を回して倒れてしまう前に、二人から認めてもらうと蓮は婚約届けと指輪を至急用意させ、届けを役所に出すと、己のマンションにグッタリとしたキョーコを連れて帰った。

「超高級マンションの最上階ワンフロア一室だなんて…もういろんなことがありすぎてちょっとやそっとのことじゃ驚けるきがしないわ…。」

「じゃあ先輩、俺、変装解いてくるんで、寛いで待っててください。」

ぼーっと待っていたところでガチャリと一人の男が入ってきた。

「お待たせしました。」

輝く金髪、グリーンの瞳。

「あ、あ、あ、あんた誰よぉぉぉぉ!!」

「やだなぁ先輩、俺ですよ。敦賀蓮もとい、久遠ヒズリです。説明したじゃないですか…」

「もー何が何だか…ゆ、夢なら醒めてぇぇ!!」

「じゃあ醒める前に、初夜を満喫しましょうか…」

「ちょ、へ?!な?!ど、何処触って…キャァァァ!敦賀君のエッチィィィー!変態ぃぃぃ!」


こうしてキョーコの怒涛のようなバレンタイは幕を閉じたのだった。

苦い恋の終わりは甘い恋の始まり…なのかもしれない。


END

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*****


いやー。すみません。

本当はキスをしたところで綺麗に終わるはずだったんですけどね!!
キョーコちゃんのファーストキスとか、ショーとはそんな関係じゃなかったこととか、蓮の裏設定とか…入れてみたらどうなるかなー?と思ったら何故かこうなりました(笑)
蓮様舞い上がって暴走しすぎー!
全てを失って絶望しちゃってたはずのキョーコちゃんが、あれよあれよと言う間に、蓮様によって全力で新しい居場所作られちゃいました。


「家もう帰れないって、どうするんですか?」

「暫くはモー子さんの所に置いてもらおうかなぁ?」

「猛虎さん?…大丈夫なんですか?それ…良かったら家に…部屋余ってるんで…」

みたいなやり取りにするつもりだったのに、途中から蓮様壊れちゃったよ!

ま。完結できたからいっかー。
なんてのほほんと考えてます。

夜中に降臨してきた話だし、こんなもんよ。と自分に言い聞かせることにしましたさ。ハハハハハ(笑)

風月は昨日38度以上の熱が出て今日病院行って仕事お休みもらっちゃいました。
インフルエンザ菌だってさ。
今年流行ってるらしいですが、インフルエンザと症状は似てるけど感染はしないみたい。
皆さんもお気をつけくださいね。

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

甘くて苦い恋の味*前編

ハッピーバレンタイン♡
今年は何の予定もなくて悲しいです!

なくした記憶が終わるまでは出来るだけ他の話を書かないようにしたいけど、イベントはやっぱり別っぽい!
逃しちゃったら来年まで温存しなきゃいけなくなっちゃうので浮かんだら書かなきゃだよね?!ってことで書いてみました。

とは言え、元々バレンタイン話を書く予定はなかったのですが、今朝方の真夜中に不意にネタの神様が降ってきて、睡魔さんの活動を全力で阻止されてしまったので、これは書かねばとなったのでございます!


あ、キョーコちゃんOL、蓮様サラリーマンの完全にパラレルです。
しかも年齢逆転してキョーコちゃんが先輩です。

苦手な方はお引き返し下さい。


どんな話でも歓迎!って方はどうぞお楽しみ下さいませませ!


*****


甘くて苦い恋の味*前編



10月下旬ーー

「ーーーぱい、最上先輩。」

「んー。もーちょっと…」

「おい、敦賀君ほっとけ。そうなった最上君は、周りの声なんて聞こえんから。敦賀君ももう気にせず帰ったら?」

「え?あ、あぁ。はい…」

「んじゃ、お先に〜また月曜な。」

「はい…お疲れ様です。」

ひらひらと手を振りながら退社していく椹部長を見送って、蓮はパソコンに必死の形相で噛り付いているキョーコをチラリと見ると、そのまま自分の席に腰を落とした。

*

「はぁぁぁー!やぁっと終わったぁぁぁ!!」

キョーコが仕事を終わらせて、その場で思いっきり伸びをする。

「あ、やだ!もうこんな時間…!またやっちゃった…」

もう誰もいないシンとしたオフィス。

キョーコのデスクの辺りだけ残ってる照明。
集中するあまり、終電まで逃してしまった。

「んー。でも今日は確か…」

物思いに耽ってると、誰もいないと思っていたオフィスに背の高い男が入ってきた。

「え…?敦賀君?」

「あれ?最上先輩仕事、終わったんですか?」

「えぇ。どうしたの?こんな時間まで…」

「それはこっちのセリフですよ。はい、これ…。」

「…え?」

蓮が二つ手に持っていた缶コーヒーの片方をキョーコに手渡した。

「お疲れ様です。」

ぽかんという顔をしていたキョーコだが、すぐにクスッと笑顔になって受け取った。

「ありがとう。敦賀君。」

「それより先輩、お腹空きませんか?これからどっかへ飲みに行きません?」

「え?飲みにって…こんな時間から?空いてる店なんて…」

「この時間でも空いてる店、俺結構知ってるんで、行きましょう。」

「え、あ、で、でも、私…今手持ち無くて、帰ーーー」

ーーグルルルルルルルル…キュイキュイキュイキュイ…

「…え?な、何だ?!」

蓮が何の音だ?と周りを見回すと、キョーコが真っ赤な顔で顔を俯せていた。

「ごめん。私の、お腹の音…」

真っ赤な顔でポツリと言われた言葉に、蓮は漸く先ほどの音の正体がわかって、プッと少しだけ笑ってしまった。

*

「最上先輩、酔ってます?」

「んーん、酔ってらい。酔ってらいよ。」

結局、蓮に丸め込まれてキョーコは後輩の蓮からご馳走してもらうことになった。

「呂律回ってませんし、完全に酔ってますよね?」

「らから、酔ってらいってばぁ。」

そう言いながらキョーコは机に突っ伏した。

「あぁ、先輩!服にタレが…」

そう言って腰を上げた蓮は、キョーコの気持ちよさそうな顔を見て、ドキンと大きく心臓を跳ねさせた。
思わず周りを見回し、そっとキョーコの顔がよく見える隣の席に移動する。

「先輩、大丈夫ですか?」

袖に着きそうだった焼き鳥の皿を遠ざけて、キョーコの肩を揺らす。
ボヤンと開いた目が蓮を捉えて、のそりと身を起こす。

「ん…?あれ?敦賀君?」

不思議そうにトロンと見つめられ、蓮の心臓はバクバクと激しく音を立てた。

「最上先輩、お酒弱いんですね?」

「ん…眠い…」

そう言って、コテンと頭を蓮の肩に預けてきて、蓮は驚いた。
アルコールの匂いに混じってキョーコの匂いと温もりが驚くほど近くにあり、蓮の手がキョーコに伸びそうになった時、対するキョーコの顔色がみるみる悪くなった。

「う…」

「え?先輩?!」

「敦賀君、ギモヂ悪い…」

「わっ!あ、と、トイレ!トイレ行きましょう!!」

「うぷっ!」

必死で吐き気をこらえようとするキョーコを抱えて、蓮はトイレに駆け込んだ。

背中をさすり、キョーコの体調を気遣う。

「大丈夫ですか?先輩…」

「ん…ごめ…変なとこ見せちゃ…って…」

ズルッと壁に背を預けそうになったキョーコを慌てて支える。

「先輩っ!お水です、口すすげますか?」

「ん…ありがと…」

受け取った水で口をすすぎ、ヨタヨタと覚束ない足で、蓮に支えられながら席に戻る。

お金を支払おうとするキョーコを制して、蓮が全額払うと、自分で歩くというキョーコを強引に抱っこして抱き上げた。

「タクシーで帰りましょう。先輩家どの辺ですか?」

キョーコを先に乗せて、続いて蓮もタクシーに乗り込む。

キョーコのいう場所にタクシーを走らせて、ウトウトと船を漕ぎ始めたキョーコをおぶって、蓮はタクシーを降りた。

「ここ…か?随分と大きなマンションだな…実家なのかな?」

自分のマンションに比べたら見劣りするものの、一人暮らしとは思えない造りのマンションに蓮は驚いていた。

「えーっと部屋番号は…。」

悪いと思いながらもキョーコのカバンの中にあった手帳を開いて、部屋番号を確かめていると、ひらりと一枚の写真が落ちた。
蓮が慌てて拾うと、そこにはキョーコが知らない男の隣で幸せそうに微笑んでる写真だった。

「え…?」

ーーーまさか、恋、人?

蓮の中でザワッとしたモヤモヤした気持ちが生まれるが、それを見なかったふりをして慌てて、手帳に挟み直した。

念のため、家族がいるかもしれないので、チャイムを押した。
暫くしても返事がないので、キョーコのカバンから見つけていた鍵でロックを解除する。

エレベーターが上昇するたびに、少しだけ気分が高揚していた。
背中にある愛しい温もりが、蓮の首に回された細腕が、蓮の心を幸せで満たす。

蓮の教育係だったキョーコに憧れ、仕事に対する一生懸命な姿に恋をして早数ヶ月。
見た目で誤解されることは多いのだが、蓮にとってキョーコへの思いは初恋と言ってもいいくらいだ。
今までに付き合った女性は沢山いるが、キョーコに抱くような気持ちは今まで味わったことがない。
ドキドキしたり、笑顔を見れて心が浮き足だったり、目でいつの間にか姿を追ってみたり…。

4月に入社して半年。やっと周りからも認められるくらいの働き手にはなれてきたつもりだ。
まだまだもしかしたら自分なんて釣り合わないかもしれないけど、キョーコにとってはお荷物かもしれないけど、頼りになる同僚だと少しでも思われてたら嬉しい。

どんな部屋に住んでるのか、どんな家族がいるのか…それが垣間見えたらまた少し、キョーコとの距離も近くかもしれない。

そんなことを思いながら、キョーコの部屋のある階に着いた。

「えっと、最上先輩の部屋は…」

探しながら進んでいると、キョーコの部屋と思しき部屋の前でタバコを吸ってる男がいた。
その男が蓮の方を向いた時、先ほど見たキョーコの写真の男だと気付いて思わず目を見開いて立ち止まってしまった。

「あ?んだよ。」

蓮にじっと見つめられて、流石に不審に思ったのだろう。しゃがんでいた男が立ち上がって、威嚇するようにポケットに手を突っ込み、胸を張って問いかけた。
しかし、蓮の身長は190センチ。
顔立ちも自分より整っている気がして、男の眉間に皺が寄った。

そしてすぐにその蓮が背負ってるキョーコに気付いて、目の前の男が驚いた顔をした。

「それ…」

「え?」

「それ、ウチんだよ。あ、キョーコのカバン貸せ!」

「あっ。」

強引にカバンを取り上げられ、男がカバンを漁る。
それを見て蓮は慌てて声をかける。

「ちょっと…」

「くっそ。鍵は?ねぇのか?」

「いや、鍵はここに…」

蓮が手に握っていた鍵を見せる。

「んだよ。なんであんたが持ってんだよ。貸せっ!」

奪おうとされた鍵をヒョイっと守った。
その蓮の行動がお気に召さなかったようで、苛立った声が聞こえた。

「てめぇ、なんのつもりだよ?」

「そっちこそ、なんのつもりですか?これは先輩の家の鍵で…」

「てめぇには関係ねぇだろうが!いいんだよ。俺とこいつは一緒に住んでんだからよ!」

男の告白に、蓮は目を見開いた。

「え…?一緒に…住んでる?」

「そうだよ。だから、それは俺ん家の鍵。返せ!」

「いや、おかしいじゃないか…。君の家の鍵なら、なんで君が鍵持ってないんだ?」

「だーかーらー、忘れたんだよ!家出る時!キョーコがそのうち帰ってくんだろうと思って待ってたのになかなか帰ってきやがらねぇし…お陰で体冷えたじゃねぇか。風邪でもひいたらどうしてくれんだ。おい、キョーコ!」

男の呼びかけで、背中のキョーコがピクンと反応した。

「ん〜。ショーちゃん?」

今まで聞いたことがないくらい嬉しそうな甘ったるい声が背中から聞こえた。

「お前トロいんだよ!昔っから!さっさと起きて鍵開けろ!!」

「ん…ごめんね〜ショーちゃん。」

ギュッと抱きしめられて、頬ずりをされて、蓮は今キョーコが自分と目の前の男を間違えていることがわかってしまい、足元から何かがガラガラと崩れていく音を聞いた気がした。

「ん…あれ?あれ?」

蓮が下ろそうとしないので、キョーコの足が宙を蹴る。
降りれないと不思議そうにするキョーコの声と動きに蓮は慌ててキョーコを下ろした。

「あ…」

フラッと倒れそうになったキョーコを慌てて、蓮が支えると、キョーコは漸く蓮の存在にも気付いたようだった。

「はれ?敦賀君?」

「誰だよ、こいつ。」

「あ!ショーちゃん!おかえりぃ〜今日は帰れないんじゃなかったの?」

「その予定だったんだけど、変更になったんだよ!って…お前、酔ってんの?」

「んーん。酔ってらいよ。」

「嘘つけ!酔ってんじゃんか。対して飲めねぇくせにアルコールくせぇよ!」

「あら?あら?」

「どーした?」

「ん…鍵がないの。」

「鍵ならそいつが持ってるよ。」

「え?」

二人のやりとりを呆然と眺めていた蓮だったが、キョーコに見つめられて、ハッと意識を取り戻し、手のひらの中の鍵を差し出した。

「あぁ、鍵、コレですよね?」

「へ?なんで敦賀君が?」

「酔っ払ったお前を連れてきてくれたんだろ。ほら、早く鍵よこせよ!」

「そうなの?ありがとう、敦賀君。はい!ショーちゃんどうぞ!」

蓮から鍵を受け取ったキョーコは、ショーちゃんと呼ぶ男に嬉しそうに鍵を渡した。

ショーと呼ばれた男はさっさと鍵を開けて、キョーコを気にもとめず1人でズカズカと中に入った。

「ごめんね。敦賀君、迷惑かけて…」

「いや…」

「お茶でも飲んでいく?」

「いえ、遠慮しておきます。」

「そう?じゃあ、気をつけて帰ってね?」

「はい…じゃあお休みなさい。」

「お休みなさぁい。」

お酒の残った赤い顔で上機嫌ににっこりと笑顔で挨拶を返されて、蓮の初恋は見事に散ってしまったのだった。

*
*
*

そして季節は巡りに巡り、2月。
先日、誕生日を迎えた蓮は25歳になっていた。

街はバレンタインに向けたチョコレートの宣伝で埋め尽くされている。

「ねぇ、蓮、どんなチョコがいい?」

「何でもいいよ。」

蓮の隣には、ロングヘアの似合う派手めの誰もが羨む美人の彼女の姿があった。

大学時代の友人が開いた飲み会で出会った彼女に猛アプローチをされたことがキッカケで今に至る。

バレンタイン前日の土曜日のこの日、蓮は彼女に連れられてショッピングに駆り出されていた。
百貨店の食品売り場で競うように並べられたチョコチョコチョコ。
その試食をしながら、彼女が蓮にべったりとくっついて人混みを縫うように歩いていた。

それでも蓮の頭の中はまだキョーコに占められていた。
時々、職場に手作りお菓子の差し入れを持ってくるキョーコ。作りすぎちゃって。皆さんのお口に合えばいいのですが。と控えめに笑いながらいう、そのお菓子は甘さも控えめで品が良く、そのどれもが美味しくて職場でも評判がいい。

きっとバレンタインも本命に手作りチョコを渡すんだろうと考えて、あの同居人の勝ち誇った顔が頭に浮かんで、胸にチクリと痛みが走った。

そんなことを考えていたからだろうか?
蓮は見たくもない人物を見つけてしまって、思わず立ち止まった。

「蓮?」

立ち止まった蓮を不審そうに見上げる彼女。
だが蓮の目はまっすぐに目の前の男に注がれていた。
女の肩を抱き、ベタベタと甘えているのはキョーコの同居人のはずの男だ。
しかし、その隣にいる女はキョーコとは似ても似つかない別人だった。

「蓮?あの人たちがどうかしたの?」

「え…あ、いや…何でもないよ?…行こうか…」

にっこりと万人向けの笑顔を作り、先を促す。

その笑顔に大抵の女性は騙されるのだが、過去に唯一騙されなかったのがキョーコだった。

『敦賀君の笑顔ってさ、嘘くさいよね?』

『え…?そうですか?』

『うん。なんか、心から笑ってないっていうか、作ってるなぁって感じ。』

そう指摘されたのがキッカケでキョーコのことが気になり始めたのが、たしか研修が始まって三週間が過ぎた頃だったと思う。

キョーコとの出会いから失恋した日のことまでが蓮の頭の中を巡り、そして、先ほどのショーちゃんと、その隣で明らかに彼女という雰囲気を出していた女のことをずっと考えていた。

「ーーーって!ねぇ、蓮!聞いてる?!」

「え…?あぁ、ごめん。」

「もー。何なのよ!さっきから心ここに在らずって顔しちゃってさぁ。」

意識を取り戻し、キョーコに嘘くさいと見破られた笑顔を彼女に向ける。
今は彼女とランチをしているところだった。

「ごめん。なんだっけ?」

また話し始めた彼女を見ながらぼんやりとキョーコと姿を比べてしまった。
彼女は美人だと思う。背も高く、すらっとした細身の身体。爪も綺麗にしてるし、ヘアスタイルも洋服もソツがない。だけどベタベタと塗りたくった化粧、髪を染めすぎて傷んだ髪、少々濃い香水の匂い。パッチリと作られたまつ毛。媚びた表情。

その一つ一つが、蓮の心に違うという信号を送る。

「ちょっと蓮?!聞いてないでしょ?!」

「あ、あぁ、ごめん。」

「もういい!帰る。」

「え?もう?まだ半分残ってるよ?」

「帰るったら帰る!もう私たち終わりね!別れましょう!」

そう言うと、プンッと彼女は怒りを隠しもせずに席を立つと一人でさっさと店を出てしまった。

蓮はその後ろ姿を見送って、その場で深いため息を吐くと、またぼんやりとキョーコとあの男のことを考えていた。

*

「信っじらんない!なんで追いかけてこないのよ!」

「あれ?帰ったんじゃ…」

蓮の椅子の横には、ふるふると拳を震わせて彼女が立っていた。
時計を見れば彼女が出て行ってから一時間近くが経っている。
そんなに長く考え込んでたのか…と驚いていたのだが、そんな場合ではないようだ。

流石に周りからの視線が痛いので、蓮は彼女を連れて店を出ると公園へ場所を移した。

「彼女が別れましょうって言いながら怒って出て行ったら普通追いかけるでしょう?!馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!」

「ごめん。ごめんって…。」

内心で面倒くさいと思いつつも苦笑しながら謝罪の言葉を述べる。

「もう知らない!絶対に許さないんだから。もう本当に別れてやる!」

プンッと顔を背ける彼女を見て、蓮は深くため息をついた。

「じゃあいいよ。許してくれなくて。そんなに怒ったなら君の言う通り別れよう。」

「え…?!」

「怒らせてばかりでごめんね?今までありがとう。じゃあね。元気で。」

蓮はそう言うと、何の未練もなくくるりと彼女だった女に背を向けて歩き出した。

「ちょっと!ヤダ!蓮っ?!嘘でしょう?!」

追いかけてくる声に振り向きもせず、蓮の足は自然とキョーコのマンションに向いていた。

*

蓮の携帯には帯びただしい数の着信と留守電が元彼女から入っていた。

「自分から別れようって言い出したくせに、何なんだ?一体…」

何通も送られているメールにもクドクドと謝罪の言葉が綴られていて、読む気にならない。
きっと留守電も同じ内容だろう。
蓮は留守電を聞きもせずにそのまま内ポケットに仕舞った。

キョーコの部屋番号を押して、呼び出すかどうしようかで迷って手を止める。

会ってどうするつもりなのか、彼のことを話したら傷付けるだけじゃないのかなどと色々考えて、やはり呼び出しボタンを押さずに、その場を離れたのだった。


(続く)

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*****


今朝方夜中にパッと目が覚めて浮かんだ話…!
とりあえず考え出したら眠れなくなっちゃって必要事項メモとって、ようやく再び就寝。
バレンタイン話だったので、慌てて形にしてみましたが、思った以上に彼女がでしゃばってしまったため、長くなりそうなのでとりあえず書けたところまで!

続きは書け次第アップします!

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こんにちは。風月のスキビだよりへようこそ。
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