不意打ちの恋心

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ご無沙汰しております。風月です。
久々に人様にお見せできる短編が書けました。
多分、ほんのり微糖なおはなしです。
お楽しみ頂けたら幸いです。


*****


不意打ちの恋心


最上キョーコは最近ハードに仕事をこなしていたため、睡魔と戦っていた。

現在尊敬し崇拝している先輩俳優、敦賀蓮の自宅にて手料理を振る舞い、片付けを蓮に任せて台本を読んでいた。
片付けくらい俺にさせて。座ってて良いよ。という蓮の言葉に甘えて、ソファで次のドラマの台本を読んでいたのだが、学業とタレントの仕事を両立しているキョーコの昨夜の睡眠時間はたったの二時間で、その前日も前々日も三〜四時間ほどしか寝ていなかった為、お腹も満たされホッと一息ついた途端、眠気が来たのだ。

ーーーうぅ…今こんなところで寝ちゃったら敦賀さんに迷惑かけちゃう…。私より忙しい売れっ子の敦賀さんをさておいて寝ることなんて出来ないわ!しっかりするのよ!キョーコ…。

そう思って台本に目を通すのだが、セリフは全然頭に入って来ず、文字として認識出来ない程キョーコの脳は疲れ切っていた。



「最上さん、珈琲の付け合わせにクッキーを貰ったんだけど…って、あれ?最上さん?」

蓮がリビングにコーヒーを持って現れると、キョーコが背凭れに凭れかかってスースーと寝息を立てていた。

蓮は一瞬驚いた顔をしたのち、クスリと微笑んだ。

「寝てる。余程疲れてたんだな。」

蓮はコーヒーカップをテーブルに置くと、キョーコの眠るソファの隣に腰掛けた。

「お嬢さん、こんなところで寝ても疲れは取れませんよ?」

こっそりと耳元に囁いてみるが、キョーコは「んっ…」と鼻から抜ける声を出すだけで起きる気配がない。

「もう少し待って起きなかったらゲストルームに連れて行くか。」

蓮は愛しい少女の寝顔を見ることが出来て、少し胸の奥がくすぐったくなった。
今までもキョーコの寝顔を見たことは数回あるが、こんな風についつい眠ってしまうほど心を許されていることが嬉しくてたまらない。
部屋はいっぱい余っているし、キョーコ一人泊めるくらいどうってことはない。
本心としては己のベッドルームに連れ込みたいくらいだが、相手はまだ未成年だし、嫌われて避けられてしまっては己が被るダメージが大き過ぎる。

それが分かっている蓮は、下手な手出しは出来ないと己に言い聞かせた。

タオルケットをかけてキョーコの様子を見守っていたが、蓮がコーヒーを飲み終わっても起きる気配がない為、キョーコをゲストルームに運ぼうとタオルケットを背凭れに掛けてから、声を掛けた。

「最上さん、ここじゃ疲れ取れないからゲストルームのベッドを使って。」

すると、キョーコが薄目を開けて蓮を見た。
ぼーっと見つめてくる寝起きのその瞳に蓮の目は釘付けになった。

「ん…コーン…?」

「…え?」

「コーン!会いたかった…!!」

ガバリと突然キョーコが蓮の首に抱きついてきた。
慌てて受け止めた蓮は急に飛びついて来たキョーコを抱き締め返す。
ギュウギュウと小さな体で一生懸命抱き着いてくるキョーコの姿に蓮は愛しさを募らせた。

キョーコはその後も何かゴニョゴニョと寝言らしきことを口にしていたが、軈て蓮に抱きついたまま再び寝息を立て始めた。

ドキドキと胸を高鳴らせて、蓮はさてどうしようかと考えた。
愛しい少女を胸に抱いてベッドに行けば己の理性が狂い兼ねない。
だからと言って引き剥がすのもなんだかもったいない。
起きたら開口一番に叫ばれるかもしれないが、出来る限りこの状態をキープしたまま一緒にいたい。
そうグルグル悩んだ蓮は、少しでもキョーコの疲れが取れるようにとキョーコに抱きつかせたまま、ソファで横になることにした。
キョーコを起こさぬよう慎重に後ろに倒れ、キョーコを胸の上に乗せる。
そして、先程背凭れに掛けたタオルケットを再びキョーコの身体にかけた。

キョーコの重みに身を任せてその優しい温もりを抱き締めていると、癒し効果があるのか、徐々に蓮の瞼も重くなって来た。

愛しい少女と一緒に夢の中へ行くなんて贅沢だななんて頭の隅で思いながら蓮はその目を睡魔に任せて閉じたのだった。


それからどのくらいの時間が経ったのかわからない。
キョーコは突然目が覚めた。

「あれ…私…」

静かに身を起こすと、見覚えのある蓮のリビングだが、蓮の姿がどこにもなく周りを見回す。

「敦賀さん…?」

不安気に周りを見回していたキョーコは、己の身体の下に何か気配を感じてようやく視線を下に向けた。

「え?つ、敦賀さん?!何でこんなところに…」

しっかりと蓮に腰掛けてしまっている自分に驚き飛びのこうとするが、キョーコの腰は蓮にしっかりホールドされていて、飛び退くことが出来なかった。
そこで漸く今まで自分がどこに寝ていたのかを理解した。

「もしかして、私…敦賀さんの上に寝ちゃってたの?なんで?どうして…」

一瞬顔が青くなるが、次の瞬間には茹蛸のように真っ赤になった。

「私ったら、な、なんて破廉恥な…」

「ん…」

そう独り言を言っていると、蓮が頭だけ寝返りを打った。

その造形技術が施されたかのような美しい寝顔に目が釘付けになる。

心臓がドキドキと早鐘を打つが、育ち過ぎた恋心はここから逃げるという選択肢よりも、別の選択肢を取った。

「…もうちょっとくらい良いわよね?敦賀さんも寝てるし、私も今まで寝てたんだもん。もうちょっとだけ…敦賀さんの目が醒めるまで…」

そう己に言い聞かせて、キョーコは蓮の顔を見つめ起きないことを確認しながら、その身を再び蓮に預けた。
クンと鼻を動かすといつもの安心する蓮の香りが胸を満たす。
そっと見上げると蓮の綺麗なラインの顎が見えた。

「敦賀さん…」

程よくついた筋肉を確かめるように手を這わせ、キョーコは蓮の名を呼んで、何を思ったのか、蓮の顔にそっと顔を近づけてチュッとキスをした。
キスをした場所は顎だったが、キョーコは己の不意打ちのキスに驚いていた。
だが驚いたのはキョーコだけではなかった。
蓮もキョーコが身を起こした時から起きていたのだが、叫ばれないのを良いことにもう少しだけ一緒にいたくて寝たふりを続けていたのだ。
そしたらキョーコが逃げずに、もうちょっとだけと言いながら己に身を預けて来たので、それだけでも驚いていたのに、不意打ちの顎へのキス。
思わず目を見開いてしまったが、キョーコは己の行動に驚くあまりこちらの様子は気にしていないようだ。
でも顎よりも唇にして欲しかったというのが本音の蓮は、今の己の角度ではキョーコからは唇にしたくても届かなかったのかもしれないと願望寄りに考察した。

ならばキスをしてしまいやすい角度にすれば良いと、蓮はまだ寝ているふりをしてキョーコを抱えなおし、寝返りを打った。

「きゃっ!わ…顔が近っ」

キョーコは蓮の突然の寝返りに驚いた。
先程までは蓮に乗っかる形だったが今度は蓮と向かい合う形で、ソファの背凭れと蓮の身体にサンドイッチにされた状態だった。
逃げ場がない中、蓮の顔は鼻同士がくっつきそうなくらい近くに迫っていた。
キョーコは真っ赤になったが、かちんこちんになって何も出来ない。
すると、蓮が「ん…」と言いながら、キスを強請るように少し唇を近づけて来た。

キョーコの心臓がありえないくらいのスピードで鼓動を刻んでいたが、完全に蓮が寝ていると思っているキョーコは、ゴクリと唾液を飲み込むと、頬を染めて蓮に誘われるままその唇を密かに重ねた。
一瞬であれば己の胸の中にしまっておける。そう思ったのだ。

だが、すぐに離れようとした唇はその後追いかけられ再び塞がれた。

「んッ…」

背凭れに退路を断たれているため、逃げることも叶わない。

味わうように重ねられた唇の熱に溶かされている間に、背中に回された手のひらに頭を固定されて、ますます逃げ場がなくなる。

「敦賀さ…っんぐ!」

真っ赤になって名を呼んでも、重ねられる唇は甘く食まれて、薄く開いた唇に肉厚の何かが押し入って来た。
驚いて押し返そうと舌で抵抗すれば絡め取られて、漸くキョーコはそれが蓮の舌だとわかった。

「ふぅ…ん…ハァッ」

時々キョーコに息継ぎの間を与えながらも、いつの間にかソファに押し倒されていたキョーコの太ももに蓮の手が添えられていた。

「ちょ、敦賀さんッ…」

「ん…?」

真っ赤になったキョーコがグイッと蓮の胸を押し返したことで、蓮はキスをやめ、愛しそうにキョーコの顔を覗き込んだ。

「い、今のは一体…」

「…君からキスを仕掛けて来たんだろう?」

そう指摘されて、ハッと唇を隠して真っ赤な顔になってしまったキョーコが可愛くて、蓮の顔面が崩壊する。

「んなッ?!き、気付いて…」

「まぁ君が起き上がった時に俺も目が覚めてたからね。」

「え…?えええぇ?!嘘…!」

「最上さんがどんな反応するか知りたくて寝たふりしてたんだ。そしたらまさかまた俺にくっついてきて顎にキスしてくるなんて…嬉しい誤算だった。」

蓮の心は弾んでいた。あの天然記念物的に初心なキョーコがなんとも思っていない男にキスをするとは思えない。
キョーコの中で確実に特別な男になれているという証に違いない。

「んなっ!な…お、起きてたなら声かけてください!!そしたらあんなこと…」

「してもらえなかっただろうね。寝たふり続けて正解だった。」

キョーコは返す言葉を失い、真っ青になって口をパクパクしていた。
どんな制裁を受けることになるのだろうと、あんなキスをされても蓮の気持ちに微塵も気付いていないキョーコはこの後に蓮からされるお仕置きを覚悟した。

「まさか最上さんから不意打ちでキスしてくれるなんて…しかも顎だけじゃなく、唇にも…」

「キャァァァ!!すみませんでした!!すみませんでした!!すみませんでしたぁぁぁ!!ついつい出来心で敦賀さんにあのような暴挙を…最上キョーコ、この所業についてのお仕置き…!どんなことでも覚悟している所存でございますので、どうかこのことは…忘れ…」

キョーコの突然の謝罪に呆気にとられていた蓮だが、その中に出てきたひとことで蓮の空気が妖しいものにがらりと変わった。

「…お仕置き?そう…どんなことでも覚悟…出来てるんだ。」

「ふぇ…?」

そして蓮の表情を見て、キョーコはピキンと固まった。
そこにはキョーコの苦手とする夜の帝王が舌舐めずりをして微笑んでいたのだ。

「えっと…あ、あの…」

ダラダラと冷や汗を流して、抵抗しようと思っても、ソファに押し倒されたこの状況で逃げる事は叶わない。

「どんなお仕置きも、覚悟…出来てるんだ?」

言質を取るため、再び発せられた問いかけに、キョーコは迫力負けしてうっかり頷いた。

「は、はひ…」

キョーコの返事を聞いて嬉しそうに微笑んだ帝王は、そのキョーコの耳元に囁いた。

「じゃあ、最上さんの全てを俺に頂戴。」

「…え?」

キョーコは蓮の言葉の意味が分からず、固まった。

「全てって…」

「心も身体も人生も、これからの最上さんのプライベートの時間全部。」

キョーコは目を見開いた。そして顔を真っ青にしてすぐにガタガタと震えだした。

「そ、それは…一生かけて私をイジメ抜くとかそう言う…」

「違うから。」

何か勘違いしているキョーコをバッサリと否定した蓮は、恋愛曲解思考のキョーコにはこれでは何も伝わらないかとため息を吐き出して、改めて言い直した。

「君には、嘘のない本当の気持ちを言葉にしないと伝わらない事はわかってる。だからちゃんと言うよ。だから君にはその気持ちをしっかり受け止めて考えて欲しい。」

「え?」

「俺は、君が…最上キョーコさんのことがどうしようもないくらい好きだ。もう君以外に人生のパートナーは考えられない。君と一緒に人生を歩みたい。君の隣で君と一緒に笑いあって生きていきたい。君の隣に立つ男が自分以外のやつだなんて許せない。君の声で起きて、君のご飯を食べて、君と俺の子供と楽しい家庭を築きたい。」

「な…え、えええぇ?!」

「これが俺の真剣な気持ち。だから最上さんの心も身体も人生も欲しいって言ったのはつまり、君のこれからの人生で隣に立つ男としての権利が欲しいってこと。」

「な、そ、え、えええー?!」

蓮の気持ちを知ってキョーコは混乱した。
まさか蓮が自分を思ってるなんてそんなことあるわけないと思い、蓮の言葉を何とかして曲解しようとするが、それでもどう考えても、捻じ曲げようがなかった。
言葉だけではない。蓮の目がそれほど真剣だったからだ。
そして見つけてしまったのだ。蓮の真剣な目の奥に揺れる不安な心。カインの時に見た弱い心がチラチラと垣間見えている。

キョーコは胸が熱くなった。キョーコ以外に人生のパートナーは考えられないと言った。隣に立つ権利が欲しいと懇願してくれた。
キョーコもその気持ちに応えるため、地獄の底まで持って行くつもりだった己の想いの蓋に手をかける。

「敦賀さん…。」

そうして、キョーコは蓮も完璧に見えるけど完璧ではない一人の人間なのだと認識した。

そっと手を伸ばし、蓮の頰に手を伸ばす。
そしてその目をしっかりと覗き込み、蓮の瞳の奥で揺れる不安気な一人の男に向かって返事を返した。

「私も貴方が好きです。どんな貴方も大好きです。」

蓮は目を見開いた。言われた言葉に胸が熱くなる。

「最上さん…!」

そして想いが重なった蓮とキョーコは抱き合うと、どちらからともなく再び唇を重ねた。

まだ恋愛初心者のキョーコのために、蓮はキスだけにとどめる。

「これから先はゆっくり時間をかけて、君の全てをもらうから覚悟してね。」

「…はい!望むところです!」

少しずれたキョーコの返答に苦笑して、蓮はキョーコと気持ちが結ばれたその嬉しさの余韻に身を任せて再びキョーコを抱えて目を閉じた。

それから少し遅くなったがキョーコの下宿先へ車で送り、車から降ろす前にももう一度キスを交わす。

「おやすみ。最上さん。」

「おやすみなさい。敦賀さん。」

可愛く頬を染めて笑うキョーコを見て、やっぱり家に泊めればよかったと胸の内で独りごちながら、名残惜しくも別れて帰路につく。

部屋に戻りソファに綺麗に畳んで置かれたタオルケットが残されていて、蓮はそれを持って己の寝室に入った。
キョーコと思いが通じ合っていることがわかって気持ちが高ぶった蓮は寝ることが出来ずに何度も寝返りを打つ。

「あー。駄目だ。全然眠れる気がしない…。」

枕元に置いたタオルケットを抱きしめてやはり最上さんを帰すんじゃなかったなんて思う 蓮はやはり重度の恋愛音痴なのだろう。
結局キョーコも同じように眠れぬ夜を過ごしたようで、こんな二人が一緒に暮らし始めるまでにはそんなに時間はかからないかもしれない。

不意打ちのキスで繋がった二人の恋心。
お互いに恋愛音痴で不器用な二人。
プロポーズ紛いだった蓮の言葉にキョーコが気づくのはまだもう少し先なのかもしれない。


END

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アレはあの人で私じゃないの!

アレはあの人で私じゃないの!


キョーコと奏江はラブミー部の雑用でファンレターの入った段ボールをそれぞれ二箱ずつ抱えて、階段を昇っていた。

「全く…。いつまでこんなこと続けなきゃいけないのかしら…。アンタも私も、今やドラマでレギュラーまでやってるのに!」

「こればっかりは文句言っても仕方ないわよ、モー子さん。とにかくポイントのために頑張りましょう!」

そんな文句を言いながらもキッチリと与えられた仕事を熟すのは、そういう性分だからだ。

「それより、私はこの後が楽しみなんだ〜。だって今日はモー子さんとぉ〜初めてのぉ〜」

「あんた、浮かれるのはいいけど前見て歩きなさ…って!キョーコ!!!!」

「キャァァァ!!」

浮かれていたキョーコがウッカリと足を踏み外して後ろにぐらりと身体を傾けた。
奏江は咄嗟にファンレターの箱を脇に放り出して、キョーコの身体を掴むが、間にあわずキョーコと共に階段から落下する。

流石にヤバイと衝撃に備え、ギュッと目を瞑り、とにかく守らなければとキョーコの頭を抱きしめた瞬間、予想よりも早く衝撃が来た。

ーーガッッッツン。

ーーー……ッいっっったぁぁぁぁぁあアアアア!!

硬いものにおでこがぶつかって、ドサリと倒れた己の体。
人を抱えて倒れた為か、全身を強打した衝撃で暫く動くことができなかった。

「ごめんなさい!!モー子さん!!モー…え?!つ、敦賀さん!!なんで敦賀さんが!!敦賀さんも大丈夫ですか?!」

ーーーえ?嘘…敦賀さん…?一体どこに…

キョーコの叫び声に、奏江はウッと呻きながら目を開けた。
おでこの痛みが半端ないため、目を開けるのも困難だった。

「ごめんなさい!!私のせいで…大丈夫ですか?!」

「った…うっ…。」

何とか開いた目の前には涙を目にいっぱい溜めて青い顔をしているキョーコが心配そうに覗き込んでいた。
キョーコの怪我のない様子を見て、奏江はホッと胸をなで下ろす。

「良かっ、た…無事…で…。」

痛む身体に鞭を打って何とか起き上がり周りを伺うが、キョーコが呼んでいた敦賀さんらしい人の姿が見当たらない。
すると、身体の上で誰かが動く気配がしたので、驚いてそちらに目をやった。
いつの間にキョーコ以外の人が巻き込まれていたのだろうか?

「うっ…く…」

「あぁぁ!!モー子さぁぁぁん!良かったよぉぉぉぉ!!」

一瞬、キョーコは何を言ってるのかと奏江は本気で思った。
何故なら、こちらを見ずに別の方を見ながら奏江に対して呼びかけているのだ。
長い黒髪の女性がムクリと己の身体の上で起き上がり、ゆっくりとその顔を上げた。

そしてその女性と目が合った瞬間、互いに信じられないものを見たというように眼を見開いて固まった。

「「………え?」」

それは、とても奇妙な感覚だった。
鏡が目の前にあるという条件以外で、自分自身と目が合うということが現実で起こり得るのだろうか?

しかも鏡を見ているのであれば、自分と同じ動きをするはずなのに、明らかに違う動きをしているのだ。
まるで、誰かが別の意思で目の前にいる自分を操っているかのようだ。
いや、夢か幻覚かなにかだろうか?それとも何かのドッキリ?

何が何だか分からずに、奏江が混乱している間に、キョーコは泣きながら自分ではない方の奏江の身体に抱き付いていた。

「うわーーーん!!モー子さぁぁん!!無事で良かったよぉぉぉぉ!!」

自分と同じく戸惑っている様子の己の身体が、勝手に動いて抱き着いてきたキョーコの背中を戸惑いがちにポンポンと叩いていた。

まだ事態が飲み込めていないところへさらに第三者から声が掛かった。

「蓮!!大丈夫か?!」

青い顔をした人気俳優敦賀蓮の敏腕マネージャー、社だ。

社に手を取られ、助け起こされようとするが、身体が痛くて思うようにいかない。

「あ、あり、がと…ございま…」

「琴南さんも、キョーコちゃんも、大丈夫?二人とも立てる?」

先程から訳がわからない。
何故、己に呼び掛けているはずなのにその度に、頭を背けられるのだろうか?

それに、先程からキョーコも社も、敦賀さんがどこにいるというのか?

「はい!敦賀さんと、琴南さんに助けて頂いたおかげで私は何ともありません。でもお二人を巻き込む形になってしまって本当に申し訳…」

ーーーまるで、私が…私、が…?!ま、まさか!!

奏江がハッとして漸く一つの考えに行き着いた所で、奏江は社に腕を担がれ、立ち上がらされていた。

よろめきながら、壁を支えにした己の手を見る。
ゴツゴツした長い指…。

続いて立ち上がった目の前にいる己の頭とキョーコの頭の位置がいつもの視界より下にあり、見える景色も明らかにいつもと違う。

ーーーちょっと…ちょっと待って?!もしかして、これ、敦賀さんの目線?!だとしたら私が敦賀さんになってんじゃないの?!

慌てて、目の前にいる己を確認すると、キョーコに支えられて立ち上がったところだった。密着した身体、キョーコとの顔の近さに頰を染めている様子のラブミーツナギの奏江の姿を確かに見た。

ーーーってことは…アレ…中身は、あの人なんじゃ…!!

奏江を支えたまま、只管謝り続けるキョーコとそれに対する社は大丈夫だよ。蓮は頑丈だから。と何事にも気付かない様子で会話をかわしている。

漸く事態が飲み込めた奏江だったが、それを明らかにする前に社にせっつかれた。

「さぁ蓮!歩けるか?お前のことだから、病院よりも仕事って言うんだろうが、流石に病院に行くか?」

「いえ…あの…。」

慌てて自分は蓮じゃないと伝えなければと思ったが、言葉が見つからない内に、分かってるというように社から背中を叩かれた。

「あぁ、全く、流石だよなお前。こんな時でも仕事最優先なんだもんな!でも撮影の合間に念のため病院で検査受けるからな!キョーコちゃんと琴南さんも念のため病院行って診てもらって。ごめんね。あんまり構ってられなくて…じゃあ、俺たちは行くから。」

そういって、キョーコと自分の身体から引き離されそうになって、奏江は慌てて抵抗しようとした。

「…え?や、ちょ…」

「蓮、気持ちはわかるが、流石に片付けを手伝ってる暇はない。次の現場に行かないと…」

思ったよりも強引な社の腕の力に引き戻される。
鍛えているとはいえ、全身強打した身体は力が全然でなかった。

ーーーえええええ?!嘘でしょ!ど、どうすんのよこれぇぇぇ!!

奏江はドナドナよろしく、キョーコと己の身体に入っているのであろう蓮を残して、その場を去ることになってしまったのだった。

それからは怒涛の時間が過ぎた。
分刻みでスケジュールが入っているという噂は伊達ではなく、本当にこれは人一人の仕事なのかと思うほど色々な仕事が次々に舞い込んで、気が付けば22時を回っていた。

思いもよらず売れっ子の仕事を熟すことになった奏江は悪い気がしていなかった。

ーーーコレ、ある意味凄い経験なんじゃないかしら。

役者の仕事が何より大好きで、大好きで一日中お芝居をしていたいと思う奏江にとってまさに夢のような1日だった。
まだまだ天辺越えまで撮影は残っているのだが、本当にドキドキワクワクしてしまうのが抑えられない。

このまま蓮の身体を乗っ取れないかしら…とまで思ってしまう。

高揚した気持ちのまま、あの子は今頃、どうしてるかしらね?なんて何気なく考えた奏江は、一気に青ざめた。

ーーーウソ!!しまったわ!!今頃あの子…!!!!

奏江は今日のキョーコとのスケジュールを思い出して、居てもたってもいられなくなった。
慌てて蓮の携帯を取り出し、人の携帯を勝手にみたらいけないとかそんなことを言ってる場合ではない!と慌てて着信履歴を探す。

ーーーあった!!

すぐに見つけた『最上さん』の文字を迷わずクリックして電話をかける。

ーーー出て!出るのよ!!出なさい!!キョーコ!!

電話を掛けながら、奏江の脳裏には嬉しそうな今朝のキョーコの言葉が蘇る。

『うふふ。今日は大将がモー子さんのために腕をふるってくれるって!女将さんの許可も降りたし、泊まっていいからね。あー楽しみ〜。モー子さんと一緒にお風呂に入って、一緒の布団で眠れる日が来るなんてぇ〜!!』

友人との裸の付き合いに憧れがあったのだと話していたキョーコの嬉しそうな笑顔。

ーーー…もう、一緒に入ったとか言わないわよね!!ちょっとぉ私の身体を勝手につかってそんなことしたら流石に許さないわよ!敦賀蓮!!

そうして、長いコール音の後、漸く電話が繋がった。
ホッとして奏江は蓮の声で口を開く。

「良かった!!キョーコッ!!実は…」

その瞬間、相手が一言も発しないまま何故か突然プツリと一方的に切られてしまった電話。

「は?!ちょ、何!!」

慌てて掛け直すも、その後は電源が入っていないため掛かりませんというアナウンスしかならなかった。

ーーーなんなのよ!!どうなってるってのよぉぉぉ!!教えなさいよ!!キョーコぉぉぉ!!

キョーコと己の身体をつかった蓮がどんな状況になっているのか考えるのも恐ろしくて、奏江はその後ずっと悶々としてしまうのだった。


END

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*****

A→蓮様視点で奏江の完璧演技でキョーコちゃんとのイチャイチャライフ完全満喫「うふふー!モー子さんつーかまーえた!」

B→蓮様視点で奏江になってキョーコちゃんの恋愛相談。「もしかして、お…つ、敦賀さんが、好き、なの…?」「お、お、お、お風呂は…流石に…」

C→キョーコちゃん視点で奏江LOVE全開で蓮様と気付かず積極的に迫って、甘えて…「ね?モー子さん…約束、したでしょ?」

なんてね☆
某様企画の選択肢楽しそうだったなーと思いつつ、参加できなかったので、気分だけでも(笑)

あ、この選択肢は冗談なので、勿論続きません!笑


いつもと違う感じの設定で書きたいなーと思っていたところで突然思いついた奏江視点。
元々このお話は蓮様視点で考えてたのですが、奏江視点の方が面白いのでは?!と思ってこんなお話に( *´艸`)

蓮様視点だったら風月のいつものお約束パターンになりそうだったので、こんなのもたまにはありですよね〜♪うふふ♡
まぁ、かなり、短めだったのでただのネタのような感じになってしまいましたが、短編のつもりで書きました!

同時刻のキョーコちゃんor蓮様視点はご想像(脳内妄想)でご自由にお楽しみいただければ、嬉しく思います♪

みなさんがこの話で、どんな同時刻妄想を浮かべるのか…知りたい〜!!
もし、思いつくものがあったら是非教えてくださいね♡

いやはや、かなり短い時間で一気に書いたので、拙い文かもですが、吐き出せて満足です。

お粗末様でございました!

身代わりだとわかっていても

身代わりだとわかっていても


「俺は敦賀君みたいに強くないから。」

ーーーそう言う人もいるけれど、私は本当のこの人を知ってる。
本当のこの人は、とても弱くて、繊細で、臆病な人だ。
縋り付くように求められる身体、なにもかも奪うような口付け。
逃げたりしないように、自分の存在をいもしない男に示すような真っ赤な独占欲のシルシ。

この人には私がいないとダメなんだとそう思わせる何かがあり、放って置けなくなる。

ーーーそう、たとえ私が誰かの身代わりなのだとしても…。


初めて関係を持った日、あの日は彼が珍しく酷く酔っていた。
大御所と何故か飲み比べをすることになってしまったらしい酔った彼を介抱し、肩に腕を担ぎながらマンションに入った。
グッタリと重い足を引きづりながら、体重を預けてくる彼に密かにドギマギしつつ、彼の部屋に向かうエレベーターに乗る。
この時は、彼のマネージャーの社さんも一緒だったが、彼は夢見心地でぼんやりと私を見つめると、二ヘラと笑い「凄く可愛い…キョーコちゃんがいっーーーぱい…」と言って、体重を全て預けられたかと思えば突然口付けられた。
真っ赤になった私と、驚いた社さん。社さんが慌てて私から彼を引き離そうとするが、構わずにものすごい力で抱き締められて、離してくれなくなった。
顔中にキスの雨を降らさせて、そのままいつの間にかエレベーターから玄関に運ばれ、玄関をくぐったところで冷たい廊下の床に押し倒さていた。
首に顎に無我夢中でキスをされ、悪戯な手が服の中に忍び込んで来て、社さんが大慌てで止めに入る。

「ぁ…や…」

「お、おい、蓮…落ち着け!!キョーコちゃん困ってるだろ!!」

社さんの声も耳に入らなくなっている彼に服をはだけられ、アルコールで熱くなった舌が、無我夢中で口の中を這い回る。

「ん…つ、がさ…きゃあ!」

あっという間に外されたブラのホック。
そのブラの形を辿るように彼の掌が胸を鷲掴んだ。

真っ赤になった私は、彼に触られてることよりも社さんに見られていることの方が気になった。

「キョーコちゃん、本当にごめん…こいつ酔ってて…おい!!コラ!!蓮!!」

だけど、社さんから頭を叩かれ顔を上げた敦賀さんは今にも泣き出しそうな捨てられた子犬のような目をして、私を見つめた。
その瞬間、私の心臓は甘く切なくキューンと締め付けられ、ドキドキと騒ぎ始めた。
これを逃したらもう二度とこんな機会は訪れないのではないかとズルイ考えが頭をよぎり、私は気がつけば、敦賀さんの頭を胸にしっかり抱きしめていた。

「え…キョーコちゃん?!」

「や、社さん…もう大丈夫です。敦賀さんには今夜は私が責任持ってついてますので…」

敦賀さんが私の素肌に手を這わせてギュウギュウに抱きついてきて息苦しいが、驚く社さんに早く帰って頂くため、何とか言葉を絞り出す。
これ以上は他人に見られたくなかった。

「いや、でも…」

「お願いします。敦賀さんとこのまま、ふ、二人に…していただけませんか?」

社さんは驚いて目を見開いた後、悲しそうな顔をして静かに首を振った。

「悪いけど、キョーコちゃんがそれで良くても、蓮のマネージメントをしている立場で言わせてもらうとそれは出来ない。酔って女の子に襲いかかるなんてスキャンダルを蓮に起こさせるわけには…」

「イヤ!!お願いします!私、誰にも言いません!!言いませんから…秘密にしますから、お願いです、社さん…!」

「…キョーコちゃん。流石にそれは…」

「お願いします。見ないで…今日のことは見なかったことにしてください。私は敦賀さんが相手なら…構いません。ちゃんとこの夜のこと忘れられますから。誰にも言いません。だから…今は敦賀さんと、二人きりに…」

たくし上げられた服は乱れに乱れていた。暴かれた胸に吸い付いた愛しい人の頭を大切に抱きしめて目を閉じて懇願する。

「このまま二人に…」

その後、社さんがどうやって居なくなったのかはわからないが、いつの間にか姿はなくなっていた。

「敦賀さん…こんなところじゃ恥ずかしいです…」

私の願いを聞き入れるかのように、吸い付いていた胸から顔を上げた敦賀さんに抱えられて、寝室のキングサイズのベッドの上に運ばれ押し倒された。

ベッドの上で服を脱いだ敦賀さんが私の体からも服を抜き取る。
互いに生まれたままの姿になって抱き合い、心臓が壊れそうなくらい暴れ出した時、敦賀さんは事切れたようにわたしの体の上に崩れ落ちて眠りについた。

翌朝、目が覚めて裸で抱き合ってベッドの中にいた私に心底驚いて動揺した敦賀さんは、記憶がなかったようでひたすらに謝られた。
起きる前に抜け出そうと何度もトライしたが、ガッチリと抱き締められた腕は解けず結局朝になって裸をしっかり敦賀さんから見られてしまったのだ。

只管謝られている途中でマネージャーである社さんからの電話が鳴った。
戸惑う彼に出てもらい、その間に黙って身支度を整え、彼の目を盗んで忍び足で部屋を出た。


その後の彼からの夥しい着信やメールの嵐。
だけどメールは開かず、留守電も聞かなかった。
夜のことを一切覚えていないらしい彼は私と関係を持ってしまったと勘違いしている。
恐らく、社さんもそう思っているだろう。
だけど実際には裸で抱き合って眠っただけでそれ以上でもそれ以下でもない。
彼にあの夜のことを訂正するのも説明するのも憚られた。

「したのはキスぐらいで、何もなかったんですよ。」その一言を口にするのは簡単なのだろうが、どうしても悔しくて出来なかった。
やはり彼にとって、酔っていても思いとどまってしまうほど地味で色気のない女だと思われたのかもしれないと思うと、心が悲鳴をあげてしまいそうなほど悲しかった。

彼を避けるようになって10日ほど経った日に、久しぶりに酷く落ち込んでる彼を見つけた。
ちょうど気まぐれの収録を終えたばかりで、坊の着ぐるみを抱えていたので、久しぶりの彼に声をかけた。

「よぉ。また酷い顔してるな。今日はどうしたんだい?」

そうしてここ最近、好きな子に避けられて落ち込んでいるのだと知った。
顔も知らないその子に嫉妬さえ覚える。
詳しくは教えてもらえなかったが、彼に好きな人がいたことを思い出して、酷く切なくなった。

久しぶりに事務所で社さんと会った。
酷く気まずくて、交わした言葉は二言三言。
でもその中で、敦賀さんが最近仕事が終わると家で深酒をしていることを知った。

私は松島さんから敦賀さんのスケジュールを聞き出していたので、今日の上がりが早くなることを知っていて、23時過ぎに自宅を訪ねた。
すでに出来上がっている敦賀さんは私を誰か別の“キョーコちゃん”と勘違いしたらしい。
驚いた顔の後に、にへらと嬉しそうに笑って「キョーコちゃん。」と言いながら、アルコール臭漂う体で抱きついて来た。
きっとその好きな子と自分を重ねてるんだろうと思った。
だけど、それでも良かった。

前回敦賀さんから相手にされなかった私は、リベンジのつもりで来たのだ。
勘違いされてるなら好都合。

私は彼の首に手を回して、じっと目をみつめ精一杯キスをねだった。
想いが叶って重なった唇はアルコールの味がした。
再びベッドで縺れ合うように絡まって素肌を合わせる。
身体中にキスをされて恥ずかしいところにも舌を使って慰められた。
キスをしながら入り込もうとする彼の一部は酔っているためか中々上手く入らず、受け入れることが出来なかったが、またもや彼に抱き締められたまま眠る羽目になってしまった。

そうして迎えた翌朝に、彼は豹変した。
目が覚めた時に再び腕の中に戻って来ていた私に驚きながらも、爽やかな朝に相応しくない夜の帝王が降臨したのだ。
逃がさないとばかりに抱き締められキスをされ、記憶のない夜を埋めるかのようにとうとう全てを捧げることになった。
それはもう酔っ払っている時とは違い、想像以上に熱く激しく、もうやめてと暴れても、意地悪な彼は、連絡を返さなかった罰だと称して何度も何度もしつこいくらいに行為を繰り返した。

そうして持ってしまった捻れた秘密の関係。
事務所やテレビ局では前と変わらない先輩後輩。
だけど夜は、ただの男と女。
アルコールに溺れた彼とお約束のようにベッドに縺れ込む。

何度かそんな夜を繰り返して、覗いてしまった彼の心の闇。
焦がれる想いに蓋をして切ない恋心をぶつけてくるような激しい夜。
片想いをしてる彼女への想いを私の体にぶつけているのだろう。
囁かれる愛の言葉も、手のひらの温もりも、本当はその彼女へ向けられるべきものだとわかっていながらも、溢れ出す彼への想いが気付かないふりをする。
ずるい女だと自分で自分を罵りながら、それでも拒絶されないのを理由にして何度も足繁く通ってしまうのだ。

だけど、自然と出来た暗黙のルールもあった。
彼がシラフの時には絶対に行かない。飲んだ夜だけの関係なのだ。

助けを求め、縋り付いてくるような潤んだ目で見つめられるたび、心が痛む。

「お願い。俺を置いていかないで…」

そんな風にいいながら私に縋り付くのは酔ってるせい。

「愛してる。他の誰よりもずっとずっと…他のやつの所になんて行くのは許さない。」

こんな風に駄々を捏ねるのも酔ってるせい。

「ねぇ、どうやったら君の心がちゃんと手に入るの?どうしたら俺とずっと一緒にいてくれる?」

こんな捨てられた子犬みたいな顔をするのも全部全部酔ってるせい。

「ねぇ、キョーコちゃんの中を俺でいっぱいにしたいよ。」

「はぅ…ん…」

「心がダメなら、体だけでも全部、俺でいっぱいに…くッ…」

彼から滴る汗の一滴にさえも敏感になった身体は彼をキツく締め付ける。

「く…ぁ、あぁぁぁぁぁ…」

「やぁぁぁぁぁんッ」

初めて熱いものが一気に内側に直接注ぎ込まれて、彼の身体が崩れ落ちて来た。

「ごめ…」

「ん…はぁ、はぁ…」

胸が熱くなった。彼に注がれた熱が愛おしい。なにも謝る必要はないのだと、黙って彼の頭を抱きしめた。




「御懐妊です。」

「…ッ!!」

「10周目くらいですね。どうしました?心当たりがないとか?」

「いえ、そんな事は…」

「まぁまだ実感わかないかもしれませんが、ちゃんとしっかりどうするか考えてくださいね。あなたとそのお腹の子のために。お相手の方ともよく話し合ってください。」

「…はい。ありがとうございました。」

そう答えたが、このことを彼に打ち明けるつもりはなかった。
迷惑を掛けたくない。彼の輝かしい経歴に傷をつけたくはなかった。

だけど、お腹の子を堕ろすなんて選択肢もなかった。
彼と関係を持ったという何にも代え難い証。この想いと関係を墓場まで持って行くと誓いながらも、この二人を結びつけた証と言える存在を奪われたくはなかった。


そうして私はある決断をしてあの男に電話を掛けた。
カラオケで待ち合わせて、部屋で待っていると、派手な身なりをした幼馴染のショーが入って来た。

「久しぶり。座って。」

「んだよ。忙しい俺様をわざわざこんなところに呼びつけやがって。」

憎まれ口を叩くヤツを気にせず、とりあえず伝えるべき要件を述べる。

「あのね、私妊娠したの。」

「…………は?!」

唐突な私の言葉に、たっぷりと間をとって眉間に深いシワを刻んで怪訝な顔をした。

「わり。なんか幻聴が聴こえたみてぇだ。で?誰が…?何だって?」

「だから、私のお腹に赤ちゃんができたの。」

「はぁぁぁぁぁぁぁ?!」

「ちょっと!!そんな大声出さないでよ!」

「だっ、おま、んなわけねぇだろ。驚かすなよ!あのな〜妊娠って、そんなキスや手繋ぐくらいじゃ出来な…」

「………。」

「…………マジかよ…。」

私は静かに頷いた。顔を染めつつも神妙な顔をしている私の顔を見て、ショーは気色ばんだ。

「だ、それなら、相手は?!相手がいるはずだろ?!一体どこの…まさか、アイツか!?敦賀か?!!」

「ッ!あ、相手は…言えない!」

「その顔、絶対、敦賀だろ!言わなくてもお前は昔っから顔見りゃわかるんだよ!バッカじゃねぇの?結局遊ばれて捨てられたのかよ!」

「な?!失礼な!そんな言い方しないで!!敦賀さんはそんな人じゃないわよ!」

「じゃあなんだよ?なんでお前は俺の前にいるんだよ!どうせ迷惑がられたんだろ?!」

「違うわよ!敦賀さんには…話してないもの。」

「………はぁ?!意味わかんねぇ〜なんで身篭らせた張本人に真っ先に言わねぇんだよ!」

「それは…だって…言えないわよ!!敦賀さんの足かせになりたくない!…そんなことより、ショー、アンタには匿って欲しいのよ!」

「あ?匿う?何言ってんだよ!それより仕事はどうすんだよ!お前もまぁまぁ顔知られてんだぞ。誰の子だっていうつもりだよ!」

「だから、あんたの子ってことにして欲しいって言ってるの!」

「はぁ?!はぁぁぁぁぁ?!嫌に決まってんだろ!なんで、俺が…!!」

「アンタ結構遊んでるでしょ。隠し子の一人や二人いたって不思議じゃないじゃない!」

「バカ言ってんじゃねぇよ。なんで俺がお前を抱いたことにしなきゃいけねぇんだよ!」

「ちょ!やだ!バカショー、そんな言い方しないでよ!」

「そういう目で見られんだよ!ったく、なにやってんだよ。馬鹿はお前だ!」

「アンタが口裏合わせてくれるなら、社長にもそれで話をするつもり。産んでから子供を育てて、また役者にも復帰するつもりよ。」

「そんな甘い考えが通用するかよ。それにそんな責任も取れねぇような男の子供なんか産むんじゃねぇよ!!人生棒に振る気かよ!」

「………アンタに頼もうとした私がバカだったわ。」

ギャーギャー騒いで、蓮を非難する言葉しか言わないショーに苛立ち、キョーコは諦めて立ち去ろうとしたが、その腕をむんずと掴まれた。

「待てよ。どうするつもりだ。」

「アンタの他に頼めそうな人がいないか探すのよ!」

私の答えを聞いて、アイツは深々とため息をついたのち、手を離さずに言った。

「…条件がある。」

「…え?」

「その条件が飲めるんだったら、考えてやってもいいぜ。」

その日から、私は再び敦賀さんを避けるようになった。
だけど、前回のようにただ無視をするのではなく、理由をつけて誘いを断り続けた。
ショーから出された条件は、二度と蓮に会わないこと、そして子供が生まれる前にショーと正式に籍を入れるということだった。

そして社長にも尚と交際していること、身ごもったことなどの事情を話した。
アイツに告げてから一週間後、テレビや新聞を賑わすスクープが取り上げられていた。

『不破尚、熱愛!』

『実は幼馴染!不破尚の相手はタレントの京子』

『デキ婚の可能性か!?産婦人科で目撃された尚と京子』

記者に取り囲まれ、社長が用意してくれた臨時のマネージャーとSPに護られて、事務所に着くと、そこには眉間にシワを寄せた奏江と、腕組みをした千織が待ち構えていた。

二人には洗いざらい話しているアイツとの憎っくき関係。
何故付き合うことになったのかと根掘り葉掘り聞かれて、心に罪悪感を持ちながらも尚と作り上げたでっち上げ話をして納得させた。

騒がしい日々が数日経った頃、目の前に突然彼が現れた。

「最上さん。」

「あ、つ、敦賀さんッ。」

「…ちょっといいかな?」

ニッコリとした有無を言わさぬ似非紳士笑顔。

「あ、えっと…」

逃げ場を探そうと目を彷徨わせてるうちに腕を強い力で握り締められた。

「こっち。」

「ちょ、敦賀さ…待って…!どこに?!」

彼は事務所の裏口から外へ出た。
そこには待ち構えていた記者やカメラマンが数名いて、裏口から出てきた彼に向かって一斉にマイクとカメラを向けた。

「敦賀さん!!敦賀さんは、タレントの京子さんとは仲がいいと伺いました!敦賀さんは、不破さんと京子さんとの関係をどう思われますか?」

私は彼の身体に隠れていた為、記者は誰も私に気付かず、カメラは彼だけを捕らえていた。
質問ぜめになっている彼の背後で私の身体は震え始めた。

「京子さんの妊娠の有無はご本人から聞いてますか??噂が本当かご存知ですか?」

「敦賀さん、京子さんの妊娠についてどう思っているか聞かせてください!!」

いずれ蓮の耳に入ることはわかっていたが、目の前で彼に降りかかる質問で私の心が冷えていき、顔が青くなって行くのがわかった。
そんな私の腕を掴む彼の手にグッと力が入る。

「どうもこうもありませんよ。寝耳に水です。大ボラもいいところです!それに彼女のお腹の中に、もし本当に誰かの子供がいるとしたら、それは他の誰の子でもないどう考えても俺の子です。」

彼の爆弾発言に、私はピキンとその場で思考が凍りついた。

そしてそれは記者の皆さんも一緒だったようで、「は?」や、「え?」という短い驚きの声を発した後、一瞬場が妙に静まり返った。

「そ、それは!!どういうことですか?!」

「もしや、敦賀さんも、京子さんと関係が?!」

先ほどよりも熱のこもった質問が怒涛のように次々に上がる。

「俺も…じゃありません。不破君と京子はただの幼馴染。それは俺も彼女から聞いていたので承知の上です。俺と出会う前から今に至るまで、彼と彼女の間で男女の関係は皆無です。京子と実際に身体の関係がある男は世界中を探したとしても俺だけです。」

「ええええぇ?!ちょ、ええぇ!!大スクープ!!」

彼から明かされる真実に、狼狽える記者の皆さん。

「ねぇ、そうだよね?京子。」

そう言いながら背中に隠していた私の手を引いて、記者の前に私を引きずり出した彼は、茫然として未だ事態を飲み込めないでいる真っ青な私の唇に口付けた。

「ん…ちょ、何を…!」

キスをされて、真っ赤になって狼狽えていると、その大きな体に抱きしめられ、その体が小刻みに震えていることを知った。

「ねぇ、お願いだから、逃げないで正直に本当のことを話して。本当に妊娠したの?それなら俺の子なんだろう?」

そうだった。この人はとても弱くて、繊細で傷付きやすい人だった。
でも何で?なんで身代わりの私のためにここまでしてくれるの?
こんなに優しい声で問いかけてくれるの?

「う、ご…ごめ、なさ…私、妊娠したなんてばれたら、敦賀さんにご迷惑をかけてしまうと思って…アイツに頼んで、アイツの子供ってことに…」

「なんで真っ先に俺に話してくれないの?俺に体は開いても心は開いてくれないのはどうして?」

「だ、だって…敦賀さんには好きな人がいるからっ!」

「え?好きな人…?」

彼は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で見つめてきた。

「しらばっくれないでください!知ってるんですから!ダークンムーンの撮影の時から、ずっと敦賀さんには4歳年下の好きな人がいるってこと!」

「えぇえ?!な?え?なんで?」

信じられないことに、敦賀さんが真っ赤になって狼狽えた。

「そんな時から?!なんで…?俺がずっと君を好きなこと知ってたの?」

「ほへぇ?!」

今度はこっちが豆鉄砲を食った顔になった。

「え?えぇ?!私…?いえ、ちちち違います!だって、敦賀さんが好きなのは4歳年下の女子高生で…事務所の子で…」

「…俺のそばにいる4歳年下の女子高生で事務所の子と言ったら、君しかいないよね?」

「へ…ええぇ?!ウソ、でも…、そんなはず!」

「俺が好きでもない子を家に上げて料理を作らせる男だと?好きでもない子を毎夜呼びつけて抱く男だと?好きでもない子にあんなに愛してるって軽い気持ちで言える男で、好きでもない子に他の男は絶対見れない場所にあんなに強く独占欲の印を刻み込む男だと?君が他の男と噂になるのをなんとも思わずただ黙って見てるだけの男だと?本当にそう思う?」

「え…あの…えっと…」

記者の皆さんも私と同様敦賀さんの問題発言に激しく狼狽えていた。
ざわざわとしたざわめきが大きくなる。

「俺はキョーコのことが好きだから、少しでも一緒に長い時間過ごしたいから家にあげるし、キョーコの作る料理だから喜んで残さず食べるし、キョーコが好きだから毎日でもキョーコに触れたいし、愛しく思ってるから愛してるって言葉にして伝えるし、君を俺に繋ぎ止めるために独占欲の印だって刻む!君の中に俺の熱を直接放ったのも、君が俺から離れられない既成事実を作るためだ!他の男と君が噂になるだけで真実は違うとわかってても気が狂いそうだ!!」

私は真っ赤になって何か言い返したくても何も言葉を発せられなくなった。

「俺以外とは、たとえ噂になるだけでも許せないよ。キョーコ…結婚するなら相手は俺だろう?君の旦那様になるのも君の子供の父親になるのも俺だけだ。それ以外は認めない。俺以外を選ぶなんて許さない。」

キョーコは身を震わせた。
こんなにも熱く深い想いで愛してくれていたなんて、思ってもみなかった。
記者の方も連絡を受けて駆けつけたのか、最初にいた時の3倍に増えているように思える。
シャッターを夢中で切るカメラマンと固唾を呑んで見守る記者たちに囲まれて、彼は真剣な目で私の目を覗き込んだ。

「君の気持ちを聞かせて。俺に何度も体を許してくれたのはどうして?俺の子を身篭ったのに、俺の子じゃないってことにして産もうとしたのは何で?俺にずっと心を開いてくれなかったのはなんで?」

私はもう、逃げ場を失ったことを悟った。
この人が本当に失うことを恐れていたのは、まぎれもない私のことだったのだとようやく気付いたのだ。

「…貴方のことを本気で好きになっていたからです。全部全部、貴方が敦賀さんが好きだから、大好きだから!抱かれたのも赤ちゃんができたことを隠したかったのも、心を開けなかったのも、貴方に迷惑かけるのが怖かったから。拒絶されるのが怖かったから。背を向けて置いていかれるのが怖かったから…だからショーちゃんにお願いしたの。どうしても敦賀さんとの間にできた赤ちゃんが産みたいけど、敦賀さんに迷惑はかけたくなかった。敦賀さんの足を引っ張りたくなかったの。」

「キョーコ…。これからは隠し事はしないで。全部話して。俺が全部受け止めるから。愛されること愛することを怖がらないで。俺は絶対に君を一人にしないって約束する。だから、一生俺のそばにいてほしい。」

「ッ!!敦賀さ…」

ベッドの中でされるような濃厚なキスの嵐。
集まった記者の皆さんは真っ赤な顔で固まり、カメラマンは無我夢中でシャッターを切っていた。

そして久しぶりのキスでくたりと体から力が抜けた私をお姫様抱っこで抱き上げた敦賀さんは、カメラに向かって今までの爽やかさに更なる磨きをかけて、ニコリと微笑むと堂々と声高らかに宣言した。

「今、ご覧頂いた通りです。タレントの京子は、誰がなんと言おうと俺のなんで。京子もお腹の中にいる子も、絶対に他の誰にも渡しません。」

彼の言葉に私は頬を染めた。

「敦賀さん…。」

名前を呼ぶ私に、極上の笑顔を向けた彼は優しい声で言ってくれた。

「結婚式も早めに挙げようね。今日から新居が決まるまでは今の俺の家で一緒に暮らそう。あぁ子供の名前も決めないと…今日から忙しくなりそうだね?」

「本当に私で良いんですか?後悔しませんか?」

「後悔なんてするはずないだろう?君ほど魅力的で俺を夢中にさせる人は他にいないよ。寧ろ、君を手放す方が後悔して生きていけない。君は俺にとっての光そのものなんだ。」

「…ごめんなさい。貴方の愛を信じきれなくて逃げてしまって…。」

「君が俺を愛するが故の行動だったんだろう?君の不安に気付かず取り除いてあげられなかった俺の所為でもある。君だけが悪いわけじゃない。」

そう言われて、私の目からポロリと涙が流れた。

「敦賀さん…ごめ、なさ…」

「いいんだよ。これから先、泣くのは俺の胸でだけにしてね。愛してるよ。キョーコ。」

そんな私を彼が抱きしめてくれたところで、突然賑やかなパレードが近づいてくる音がした。

鼓笛隊の音に乗って、賑やかな集団が記者諸共包み込む。
呆気にとられた記者たちの前で、私と彼は華やかな衣装を纏った女性たちに促されるまま、裏口前の階段から降ろされた。
すると丁度自分たちが立っていたすぐ後ろのドアがバーンと開くと、そこからお約束の事務所の社長であるローリィが華々しく花吹雪の中登場した。

「ブゥゥゥゥーーーラボォォォーーーーー!!」

「「社長…」」

「蓮と京子の記者会見は、今日の16時から行う!!会場はーーーー」

そんなこんなで当日の記者会見を捻じ込まれた蓮とキョーコは晴れて交際、そして記者会見の場で早急に準備した指輪で公開プロポーズをすることになった。

それから半年も経たない間に、蓮は己の出生を明らかにし、キョーコと蓮…もとい久遠は盛大な結婚式を挙げた。

尚との熱愛報道はそれから間も無く笑い話になりそうなところだったが、あからさまに不機嫌になる蓮によってその話は禁句となり話題にも出なくなり人々の記憶からも忘れ去られたそうだ。

報道陣の前でそのラブラブっぷりを存分に見せつけた私達は、何かと夫婦の話題になれば取り上げられることも多く、出産後はバラエティ番組でも夫婦で呼ばれる機会が増え、プライベートでも仕事でも濃厚な時間を過ごすことになるのだった。


END

スキビ☆ランキグ

想いは溢れて、深まって(限定)

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