My HOME-28-

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「これで晴れて恋人同士ってことで良いのかな?」

キョーコがキッチンで忙しなく朝食の支度をしていると、蓮が嬉しそうに顔を緩ませて問いかけてきた。

「こっ恋っ人?!」

キョーコが顔を真っ赤にして食器を落としそうなほど狼狽えるので、蓮はそんなキョーコが可愛くて笑みを深める。

「ん?だって最上さんも俺と同じ気持ちってことだろう?」

「お、同じ?!同じだなんてそんなっ…!」

キョーコは狼狽えた。蓮も本気…なのだと思う。
蓮から今まで散々アプローチをされてきた。それは事実だ。
だけど、キョーコの中では今までの経験上、愛した人から同じ想いをもらったことがないのだ。
母親からも、大好きだった幼馴染からも。
その経験から、蓮がどんなにアプローチをしてきても、反応が面白くてからかってるんじゃないかとか、いまだけなんじゃないかとか、そのうち飽きるのではないかとか、そんな思いがどうしても湧き出てきてしまう。
不安なのだ。怖いのだ。愛を認めて、その愛が裏切られてしまう日が来ることが…。

ずっと一緒にいたいとは蓮に伝えたが、好きだという気持ちはまだ言葉にする勇気が出来ない。

自分と蓮は本当に同じ気持ちなのかと不安気に心は揺れる。

キョーコのそんな不安を感じ取ったのか、蓮はそっとキョーコの顔を覗き込み、にっこりと優しく微笑んだ。

「ねぇ最上さん、デートしようか?」

蓮の提案に、キョーコは目を大きく見開いて驚いた顔をした。




蓮のデートの提案から五日後、二人揃って夕方からのオフをもぎ取ることが出来た。
社の協力もあり、椹には、ラブミー部のキョーコに重要な任務を依頼したいと言って何とか合わせることが出来たオフだ。

キョーコは自室になっているゲストルームの鏡の前で何度も服を確かめながら、おかしなところはないかと入念にチェックをしていた。

そうしてピンポーンとインターフォンが鳴った。
無遅刻キングの名にふさわしく時間ぴったり。蓮が来たのだ。

「はーい!い、今行きますっ!!」

キョーコは慌てて鏡の前から身を剥がすと、玄関に走り、ドアを開けた。

扉の前に立っていた蓮が頬を緩ませて微笑みかけたのは一瞬。

「わあっ」

蓮の顔よりも差し出されたバラの花束に目を奪われていたキョーコの姿を見て目を見開いた蓮は、一瞬の間を空けて、盛大に吹き出していた。

「プッ…クク…ハハハっ!」

渡されるはずだった花束を手に持ったまま急にお腹を抱えて笑い始めた蓮を見てキョーコは真っ赤になった。

「な?!やっぱり、お、おかしかったですか?!」

キョーコは真っ赤になって被っていたスカーフを両手で握った。
蓮とデートだなんてバレたら大変だとスカーフを頭に巻いて頭巾のようにして、目も隠れるように大きなサングラスにマスクをしていたのだ。
変装は完璧なはずである。
これでは誰か知っている人が近くで見てもキョーコだとよくわからない。

「ごめっ…。クク…でもそれ…逆に怪しまれると思うよ?」

完全に変装してることがバレバレだと思えるキョーコの装いに、蓮は笑いを何とか収めて、そっとキョーコの顔を半分隠しているスカーフとマスクを外した。

「あっ…!」

「これじゃあ君の可愛い顔が見れないし…。」

「な?!」

蓮の言葉にキョーコが真っ赤になる。

「君も俺のことが見えないだろう?」

そして、最後にそっとキョーコの顔を半分ほど隠している大きな茶色のサングラスも外して、優しく微笑みかけた。

「普通にしてれば、案外バレないもんだよ?」

「でも…っ……っ?!」

フワリと微笑んだ蓮の姿を見てサングラスを外されたキョーコは目が釘付けになった。
信じられないというようにこれでもかと目を見開いたまま、口をポカンと開けて固まってしまった。

「やっぱりちゃんとキョーコちゃんの可愛い顔を見てデートしたいな?」

神々しく微笑んだ蓮は、蓮であって蓮ではなかった。
ふわりと風に舞った金髪、不思議な色彩の綺麗な瞳。
数ヶ月前グアムで偶然再会したキョーコにとって大切な大切な…

「こぉん…?」

固まっていた口が僅かに震え、恐る恐るというように声が発せられた。

キョーコの言葉に更に笑みを深めた蓮は、改めて持っていた花束をキョーコに差し出した。
赤とピンクのバラがバランスよく配色された豪華な花束だ。

「キョーコちゃん、お待たせ。迎えに来たよ。今日は俺とデートしてくれる?」

まるでおとぎ話に出てくる王子様のような蓮が、茶目っ気たっぷりに言う。
差し出された花束を受け取りつつも、混乱したキョーコの頭は今この場でおきてることの処理にいっぱいいっぱいで付いていけない。
今日は蓮とデートする予定だった。
でも目の前にいるのは蓮の姿を借りたコーンなのだ。
いや、コーンなのだろうか?
蓮の声で、蓮の体で髪の色と目の色だけがコーンで、何が何だかわからない。

「な…んで…敦賀、さん?コーン?」

「最上さんと、ちゃんとしたデートがしたくて、ミス・ウッズに我儘言って本来の姿に戻してもらったんだ。」

「…ミス・ウッズ?…本来の、姿…?」

「そうだよ。ビックリさせてごめんね?」

頭がグルグルしてしまっているキョーコに気付いて蓮は苦笑する。

「突然こんなこと言われても、理解できないかもしれないけど、敦賀蓮は芸名で、本当の名前は久遠なんだ。久遠・ヒズリ。」

「久遠…さん…?ん?ヒズリって…え?!えええぇええええぇぇえぇぇ?!」

キョーコが驚愕に目を見開いた。

「せっ!先生のっ、むむむむむむ息子さん?!」

「うん。」

「久遠さん…くおんさん…くぉん…こぉん?コーン?」

キョーコは何度も何度も反芻してショートしそうな頭の中でいろいろなピースを必死に繋ぎあわせた。

そうして全てが繋がったキョーコがハッとして、恐る恐る顔を上げ、蓮を見上げた。

「も、もしかして…つ、敦賀さんが久遠さんで、先生の息子さんで、コーンなの?!?!」

キョーコの問いかけに、蓮はゆっくりと頷いた。

「うん、そうだよ。キョーコちゃん、ごめんね。ずっと黙ってて。」

「うそ…」

キョーコの目からポロリと涙が零れた。
その涙を指でそっと受け止めながら、蓮は申し訳なさそうに微笑む。

「なんで…っ!!今まで黙って…!なんでっ今っ!」

ブワッと決壊したようにキョーコの涙が流れ出す。

その一粒一粒を指で拭いながら、蓮は優しく…でも強い言葉で言った。

「それは、最上さんのことが…キョーコちゃんのことが好きだからだよ。心から愛してるんだ。」

まっすぐな蓮の言葉がキョーコの心に突き刺さる。

ーーーずるい…

キョーコは涙を流しながら思ってしまう。
蓮はズルい。
蓮の言葉がいとも簡単にキョーコの心の壁にヒビを入れてしまう。
誰からも愛されることはないと思っていた。愛される必要もないと、そう強がってきた。
それは自分を守るための、これ以上人から傷つけられないための鉄壁の壁となって無意識にキョーコの心を守っていたはずなのに…。

「君のおかげで俺は、彼を…久遠を許すことが出来た。君がそばにいてくれたから、やっと乗り越えることが出来たんだ。」

BJを演じる時、苦しんでいた蓮を知っているキョーコ。コーンの昔の優しさと笑顔を知っているキョーコ。久遠を演じたことのあるキョーコ。演技に懸ける蓮の想いを知っているキョーコ。人の心の動きに敏感なキョーコ。そんなキョーコだからこそ、想像できてしまったのだ。

蓮の過去に起きたであろう苦しみと葛藤も、蓮がコーンであることを単なる意地悪で自分に正体を隠していたわけではないことも…。
そうしなければならなかった理由があって、苦しんで苦しんで、黙っていたことも。

ガラガラと心のバリアが崩れるのを感じながらも、それと同時に湧き上がってくる不思議なほど熱い想いがあった。

「乗り越え、られたんだね。自分の力で飛べるように…なれたんだ…」

父の手が大きすぎて飛べないと寂しそうに言っていたコーン。
その父の手はキョーコもよく知るクーのことだったのだ。

溢れ出すほどの熱い想いは、キョーコの頬をハラハラと涙に姿を変えて濡らしていく。

「違うよ。自分の力だけじゃない。君がいたから…乗り越えることが出来たんだ。」

「私…?」

涙を溢れさせた目で見つめてくるキョーコの手をとり、その場に片膝をつくと、請うようにキョーコの手の甲に蓮が甘く口づけた。
蓮の目がキョーコを見上げる。
甘く熱い想いがキョーコの中で嵐となって吹き荒れる。

「お願い。俺を受け入れて?キョーコちゃんを守る王子様を俺にやらせて。俺はもう君なしでは生きていけない。俺にも久遠にも他の誰でもない君が必要なんだ。」

「貴方は、ズルいです…。」

キョーコの心のバリアは完全に崩れ去り、消えてしまった。
替わりに全身を駆け巡る激しいほどの想い。

「ねぇ?俺たちの出逢いは運命だって思わない?」

目の前に会いたくて逢いたくてたまらなかったコーンが微笑んでいる。
キョーコはそんなコーンの、蓮の顔を熱い視線で見つめ続けた。
だが、言葉が思うように出てこない。
ポロポロと流れる涙をそのままにコクコクと頷いてみせた。

「だからね。俺のお姫様になって?」

「お、姫…様?」

「そうだよ。俺にとってのたった一人のお姫様。君のこと、心から愛してるんだ。俺の全部をあげる。誓うよ。君を決して手放したりしない。君のことをずっとずっと大事にするって。」

「こぉーん…」

「ダメ…かな?俺がコーンなのは嫌だった?」

蓮が子犬を背後に背負ってくぅーんと寂しそうに見つめてくる。
その顔に弱いキョーコは、やっぱりズルいと呟いて、一つ深く息を吸い込むと、その息を全部吐き出して、ゆっくりと目を開き、嬉しさに顔を綻ばせた。

「もう!ダメじゃないです!立ってください!!」

蓮を立たせて、キョーコは薔薇の花束を足元に置くと、蓮の身体にぎゅうっと抱き付いた。

「嬉しいです。敦賀さんがコーンで…大好きな二人がどっちも貴方だったなんて…もう、貴方に惹かれるのが当然のことだったみたい。」

「じゃあ、俺と付き合ってくれる?」

「絶対に私のことを好きでい続けて大切にしてくれるなら。」

「もちろん、大切にするよ。やった!!キョーコちゃん大好き!」

「ふふ。私も大好き!!大好き!!」

「キョーコっ!!」

「きゃっ!ふふ。苦しいです。敦賀さん…」

「絶対に離さないから…覚悟してね?」

「望むところです!!」

とても幸せに満ちた元気なキョーコの声が廊下に響いたのだった。


(続く)


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*****

なんか色々詰め込み過ぎて違和感。
なんだこれはっ!!
ブランクを感じさせちゃうような文章になって本当すみません(>_<)
これが今の風月の精一杯でした。
漸くまとまった二人です!
My HOMEはあと2話の予定です。
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

自覚した想いの行方

※Amebaの風月のスキビだよりで掲載している過去の短編です。
読み返したところ、不自然な点が見つかってしまったので、移設に伴い訂正致しました。
そして若干手を加えて、スキビをあまり詳しく知らない人でも楽しめるんじゃないかな〜という仕様にしてます。(あくまでも若干ですのであしからず。)
本当はMy HOME完結してからと思ってましたが、忘れちゃってたら意味ないのでこのような中途半端な位置に投稿してしまいました。

しかし、自分の書いた話でも時間が経ってみると、なんじゃこりゃー!ってのが色々見つかります(笑)
全部を手直しは流石にできませんが、気になったものはこちらに移動させる時に訂正していくと思います。
My HOMEも何箇所か違和感あったのですが、その時訂正しなかったので結局そのままアップしちゃってます。
読みにくいところがあったら申し訳ありません。
そして誤字等は、こーーっそり教えて頂けたら有り難いです。こーーーっそり訂正します(笑)

そして今回のは過去に掲載したことのある作品なので、特にAmebaで告知はしておりません。


*****



自覚した想いの行方


ーーーまた、目で追ってしまったわ…。

最上キョーコはほんのり頬を朱に染めながら、恥ずかしそうに顔を伏せた。

無意識の行動に溜息が出る。

最近気付いたこと、それは芸能界で人気No.1の、今をときめくトップ俳優、大先輩の敦賀蓮のことを、異性として、おこがましくも好きになってしまったということ。

ーーー絶対にこの想いが叶うことなんてありえないのに…。

190センチの身長にサラサラの黒髪、切れ長の目に甘いマスク。俳優としてだけではなく、世界的なメンズブランド『アルマンディ』の専属モデルも務める蓮は、20歳という若さで抱かれたい男No.1と世間でも騒がれている。
告白するまでもない。断られることなんてわかり切っているのだ。


もう封じることなど出来ないくらい好きなのだと、恋を自覚せざるを得なくなったのは、皮肉にもカインとセツカとしての生活が終わってからだった。

今までほぼ毎日、謎の俳優Xであるカインの妹兼付き人のセツカとして、用意されたホテルで一緒に生活をしていたのに、急に現実に戻された様に、いつもの下宿先のだるま屋に戻り最上キョーコとして生活をしていた。

蓮の姿をテレビで見掛ける度に魅入られたようにテレビに釘付けになる。
聞こえる声に胸が締め付けられる。
先日までセツカとしてあんなに蓮の近くにいたはずのに、蓮をテレビでしか見れない日が続くとやはり遠い世界の人なんだと感じてしまう。
切なくて苦しくて、ただの先輩と後輩に戻ってからは、理由もなく会うことなんて許されなくて、忙しい蓮と偶然会えるようなことも、そうそうない。
蓮が空き時間に時々顔を出してくれていたキョーコの所属するラブミー部室へもキョーコ自身が、行く機会が少なくなってしまうくらい仕事が入るようになっていた。
仕事が増えたのはありがたいことなのだが、蓮に一目会いたいと願ってしまう。
ラブミー部に行けば会えるかもしれないと思いながらも時間が作れない日々にヤキモキしてしまう。

そんなある日のことだったのだ。


蓮のマネージャーである社から、蓮が倒れたとキョーコに電話で連絡が入ったのは…。


「え?!風邪で、栄養失調ですか?!」

『あぁ、そうなんだ。一応点滴は打ってもらったんだけどやっぱりそれだけじゃ心配というか、キョーコちゃんのスケジュールを椹さんに確認したら、明日はオフってことだったから、本当に無理じゃなかったらでいいんだけど、今日の夜と明日の夜だけでも蓮の為に食事を作りに行ってやってくれないかな?…あの、久しぶりのオフみたいだから本当無理にとは言わないんだけど…もしよかったらで…ラブミー部への依頼ってことで…ダメ、かな?』

社が申し訳なさそうに話をする。

「ダメだなんてとんでもないです!!!!それは敦賀さんの一大事じゃないですか!!行きます!!この最上キョーコに是非行かせて下さい!!」

願っても無い社の申し出に、勢いのまま受け賜わり、蓮のマンションへと行くことを決めた。

芸能界一忙しい殺人的スケジュールの中、倒れてしまったという蓮。
一人暮らしの蓮の看病をたった一食の食事の世話だけで終わらすつもりは勿論なく、元々責任感の塊のようなキョーコは引き受けた依頼を完璧に遂行するべく、泊まり込みで蓮の看病をする気満々である。

蓮は自宅で眠ってるはずだから勝手に入ってと言っていた社の言葉を思い出し、押しかけたチャイムは鳴らさずに、社から預かったカードキーと教えてもらった暗証番号でドキドキと心臓を高鳴らせながら、蓮の部屋がある超高級マンションのエントランスへと足を踏み入れた。
息を大きく一つ吐いて、気持ちを切り替えると、迷いなく蓮の部屋のある最上階のボタンを押す。

たどり着いた最上階には蓮の部屋へ続く玄関のドアが一枚あるだけだ。
カードキーを使い、玄関をこっそりと開けて中の様子を伺い、小さく「お邪魔します。」と声をかけてみるが、シンと静まり返った廊下からは返事もない。

足音を立てないようにそろそろと広いリビングへたどり着くと、大きなソファの上に無造作に置かれたカバンと、その上にバサリと掛けられた上着があり、家主の在宅を確認出来た。

乱雑に置かれたであろう荷物はやはりいつもの蓮らしくない。

とりあえず蓮の様子を確認しようと蓮の寝室をノックして覗くと、熱の為に荒い呼吸で苦しそうにしている蓮がキングサイズのベッドの上にいた。

慌てて様子を見に近寄るが、乗せてあるタオルは既に温くなっており、熱を冷ます機能は果たせていない。

氷嚢と氷枕を準備する為、立ち上がり離れようとしたキョーコの耳に、小さく、でも確かに蓮が誰かを呼んでるような呻き声が聞こえた気がして、蓮の口元にキョーコは耳を近付けた。
すると蓮が小さく「キョーコ…ちゃん…」と苦しげに呼ぶ声が聞こえた。

キョーコは一瞬、自分の名前を呼ばれたと思って心臓を大きくドキンと跳ねさせたのだが、以前、社が風邪で倒れ、蓮の代理マネージャーを引き受けた時も、蓮が珍しく風邪を引いて、熱に浮かされて自分に向かって"キョーコちゃん"と微笑んだのを思い出してしまい、キョーコの心臓が苦しくなるほど切なくなった。

ーーー敦賀さんの想い人…私と同じ名前なんだわ…。

キョーコの瞳から涙が零れた。
あの当時は、蓮から嫌われていたし、蓮は自分のことをファーストネームではなく、最上さんと呼ぶから、蓮の口から出た名前が自分の名前のはずがないのだ。


涙をそのままに、慌ててキッチンに向かい、涙を止めようとするのだが、いつまでたっても止まらない。

「ど…して…??」

ハラハラと溢れ出る涙を止めることも出来ず、手で顔を覆う。

「知ってたのに…私…。…なのに…なんで…なんでこんなに…っーー」

ーーーこんなに、好きになっちゃったの…?


好きで好きで堪らない…。
蓮には既に自分と同じ名前の“キョーコちゃん”という好きな人がいることは前から知っていたはずなのに…。

キョーコはようやく、蓮のマネージャーの社が自分をキョーコちゃんと呼んでも、蓮がキョーコちゃんと呼んでくれない理由がわかった気がした。


ーーーそうだよね。好きな人と同じ名前なんて、呼べないわよね…。


キョーコの涙は止まらず、無理に止めようとしても溢れてくるので、とりあえず泣くだけ泣こうと決めて、キッチンにうずくまり冷蔵庫に背中をつけて声を殺して泣き始めた。

ーーー馬鹿だ…私…。敦賀さんが私のことなんて好きになるはずないのに…。最初から失恋確定で好きになってしまうだなんて…。

カインとセツカとしての近過ぎた距離が自分は蓮の特別だと錯覚させていたのかもしれない。

ーーー知ってたはずなのに、最初から…。直接敦賀さんから恋愛相談されてたじゃないの…。

キョーコは鶏の着ぐるみの仕事をしていた時、蓮に恋愛のアドバイスを己がしていたことを思い出した。
嘉月の役作りで行き詰っていた蓮の力になりたくて、最上キョーコとしてでは聞けないことを鶏の格好をしているのをいいことに、好きな人はいないのかと聞きだして、恋の兆候に気付きもしていなかった蓮に、それが恋だと教えた。
どんな相手なのかと問えば、蓮より4つ年下のキョーコと同じ年の女の子で、当時の役作りにピッタリな相手だったので、その恋に発破をかけたのは他でもない自分だったではないか。



その後、一通り泣いて復活したキョーコは、本来ここへ来た目的を思い出し、慌てて氷嚢と氷枕を準備すると、蓮の元へ運んだ。

起きた蓮が、キョーコを"最上さん"と呼ぶ度に、"君は対象外だよ。"と言われてる気がして、キョーコは泣きたくなっていたが、蓮に心配かけまいと無理に笑顔を作って乗り越えた。

キョーコは翌日も、仕事を終えて戻ってきた蓮に、食事を作り、大分回復したのを見届けると、また蓮に会えない日常生活へ戻っていったのだった。



蓮の看病から二週間程たった時だった。

TV局をキョーコが歩いていると、蓮を見つけた。
久しぶりの生の蓮に会って、胸が高鳴る。


ーーー敦賀さんだぁ!

キョーコは嬉しくて挨拶しようと駆け出そうとしたのだが、蓮は共演者と思える女の子とにこやかに会話を交わしてるところだった。

年は自分と同じくらいの女の子。

しかし、僅かに聞こえた蓮の声が発した呼び名にキョーコは凍り付いた。

「ーーーコちゃんは、ーー」

たまたま"コ"で終わる名前の女の子なのかもしれない。
しかし、その子は確実に下の名前で呼ばれているのだ。


ーー『相手はまだ、高校生だ…。』

かつて、キョーコが中に入ってるとは気づかぬまま鶏の着ぐるみの坊へ相談をしていた蓮の言葉が蘇る。

ーー『確か、16歳だ…。』


ーーーあの子が…敦賀さんの好きな"キョーコ…ちゃん"…?

キョーコは胸が苦しくなり溢れようとする涙を懸命に堪え、相手の女の子を潤んだ瞳で見つめる。

艶やかなストレートな黒髪、可愛い笑顔、素直そうで純情そうな女の子だ…。
見ただけで好感が持てる女の子。

キョーコは、切な過ぎて唇を噛み締める。

ーーー敦賀さんとあの子は両想いだわ…。

女の子の表情からは、蓮に好意を持ってることが簡単に読み取れた。

ーーー疑うことを知らなかったピュアだった頃の私みたいに素直に恋をして真っ直ぐに想ってる女の子…。

心臓が張り裂けそうなほど痛んだ。嫉妬と羨望の目を女の子に向ける。
幼馴染で人気アーティストの不破尚に利用されるだけ利用されて、鼻紙ティッシュのように捨てられる前の、昔の自分を見ているようだ。

どこかで、蓮にとって自分は特別なんじゃないかと自惚れてた。

カインとセツカのことだけではなく、部屋に上げてくれて、時々ご飯を作ることも許してくれていたから…。


ーーー私は、特別なんかじゃなかった。名前でさえも、今だに呼んでくれないのに…どうして特別だなんて思ったりしたの…?

幼馴染の尚と同じように自分は蓮にとっても家政婦同然なのだろうか?

ーー『何もしないよ。君には、泣かれたら…困るからね。』

蓮から言われた言葉がどんどん蘇る。
胸がギュッと苦しくなる。


ーーー敦賀さんにとって私は何ですか?…私はあなたにとっても、家政婦でしかないの?私は家政婦としての存在価値しかないの??


キョーコの瞳に溜めた涙が限界に達する。一粒の涙が頬を伝ったところで、キョーコの身体が震え出した。

ーーーダメだ!!ここで泣いたらいけない!!

キョーコは、姿を見かけたのに大先輩である蓮に挨拶もしないなんて無礼者だと自分を責めながらも、涙を流す姿を見せたくなくて、一刻も早く蓮から離れなければと、後ずさる。


ーーカタン。

動揺しながら後ずさった為に、窓に肩がぶつかった。


その音に気づいた蓮が振り返り、驚いた顔で涙目のキョーコを見ていた。

「最上…さん?」


ーーーあぁ、やっぱり…私は最上さんでしかないんだ…。


キョーコは決壊したように涙がポロポロとこぼれ出した。

何か言って誤魔化さねばと思うのに、胸が苦しくて言葉がでない。

目の前の蓮が、突然泣き出したキョーコに狼狽えているが、キョーコの涙は全く止まらない。

キョーコは、何も言えなかったが、先輩に挨拶だけでもしなければと、蓮に90度の角度で勢いよくガバリと最上級の会釈をすると、猛ダッシュでその場を離れた。

走りながらもキョーコの目からは涙が容赦なく流れ続ける。

キョーコは人気のない非常階段に駆け込むと、ポケットを探って青いコーンの石を取り出した。
昔、数日間だけ河原で一緒に過ごした綺麗な金髪と碧い目をした妖精からもらった悲しみを吸い取ってくれる石。
泣き虫なキョーコの悲しみが減るようにとお別れの時にもらったキョーコの宝物だ。
妖精の名前をもらってコーンと名付けたその石を握りしめると、キョーコはしゃがみ込んでわんわんと声を上げて泣き出した。

もう、我慢なんて出来なかった。

好きな人との会話を邪魔してしまった。
きっと呆れられた…。
訳のわからない女だって思われたかもしれない。
…でも、もうどうしようもない。時間は巻き戻せないんだから…。

キョーコが一人で泣いていると、勢いよく非常階段のドアが開かれた。

キョーコは涙が邪魔して、相手を見ることは出来なかったが、直感的に蓮だと分かった。

大きな手が、キョーコの腕を取ると、グイッと引き上げ、頭を胸に押し付けるように抱き締められる。

ふわりと香る落ち着く香りに、胸が締め付けられる。

「離してください!!敦賀さんなんて大っ嫌い!!嫌い嫌い嫌い!!!!大っ嫌い!!」

キョーコは泣き喚き、蓮の胸にしがみ付きながらも暴れた。
この温もりから離れたくないのに、突き放したい。
この優しさが憎らしいのに、恋しくて堪らない。

キョーコの心はぐちゃぐちゃだった。

蓮はキョーコの言葉に傷付いたが、キョーコを無言で離すまいと抱き締め続けた。

「私なんかに、構わないで下さい!!無責任に甘やかさないで下さい!!私のことなんて何とも想ってないくせにっ!!」

「最上、さん…?」

「大体、敦賀さんは誰にでも優し過ぎるんです!!何で私を追ってきたんですか?!とっととキョーコちゃんのところに行ってください!!」

「え?!キョーコ…ちゃん??どうして、そんなこと…?」

蓮が狼狽えたので、キョーコが苦しくて切ない気持ちをぶつけるように蓮に一気に言った。

「知ってますよ!!敦賀さんの好きな人が"キョーコちゃん"だって事ぐらい!!この間も、その前も、熱を出したら敦賀さんはその子を呼ぶんです!!知ってるんだから!!」

キョーコはポロポロと涙を流して喚きたてる。

「八つ当たりだって、分かってます!!でも、敦賀さんがいけないんです!!好きな人がいるくせに、私の心をこんなに掻き乱すんだから!!」

わあわあと泣くキョーコを、蓮は信じられない気持ちで見つめながら、抱き締める腕に力を込めた。

緊張しながらも蓮が静かに口を開く。

「…"キョーコちゃん"は…俺の初恋の女の子なんだ…。」

キョーコが蓮の腕の中でピクリと震える。

「俺が、10歳の時に出会った。」

蓮が語りだしたので、キョーコは涙を流しながらも大人しく耳を傾けた。
しゃっくりだけはどうしても止まらず、鳴り響く。

「その子には、俺ではない大好きな男の子がいてね、いつもその子の王子様のノロケ話を聞かされてたんだ。」

キョーコは蓮の胸元の服をギュッとつかむ。

「王子様の名前は、ショーちゃん…キョーコちゃんはそう呼んでた。」

蓮はキョーコの頭を撫でながら言葉に出す。

大きな手に包まれて、キョーコは段々と落ち着きを取り戻して行った。
耳に心地の良い声が、心に直接響く。甘くて優しい気持ちが、じわりと胸に広がる。

「たった数日間だけの出会い。俺たちはお互いの下の名前しか知らなかった。」

「そう…なんですか…。今は…その子は…?」

「ちゃんと元気に生きてるよ。今は俺の腕の中にいる。」

「………?」

ーーー腕の中??胸の中じゃなくて??


「俺は今もキョーコちゃんが好きだよ。何事にも一生懸命取り組む姿とか、無邪気で明るい笑顔とか、細やかな気遣いとか…大好きで大好きで、愛しくて堪らない。だから、嫌いだなんて言われたら…堪えるよね?」

蓮は苦笑した。

キョーコは不思議そうに蓮を見つめる。
蓮は一体何の話をしてるのだろう??

ーーー腕の中にいるのは、私なのに…?


蓮はキョーコの目を優しい目で見つめ返した。

「キョーコちゃんと、初めて出会った時のことは今でも覚えてるよ…。涙をいっぱい瞳に溜めた目で、酷く驚いた顔をして、俺を見て言ったんだ。『あなた…妖精さん…?』ってね。」

蓮が悪戯っぽくくすくすと笑う。

キョーコの涙目が大きく見開かれた。

「そうそう、その目だよ。君は、そんな目で俺を見てたんだ。」

「まさか…?!コーン…?!」

「うん。俺の大好きなキョーコちゃんは、10年前から君だけだよ。」

蓮の言葉にキョーコは茫然と立ち尽くした。

「うそ…」

「敦賀蓮は芸名。俺の本名は久遠。小さなキョーコちゃんには聞き取れなくて、コーンって勘違いされたんだ。俺は、自分にコンプレックスを持ってたから、敢えて訂正もしなかった。」

「敦賀さんが、コーンだったの?」

「そうだよ。俺はずっと君の事が好きだったんだ。今でもこれからも、君だけが俺の特別なキョーコちゃんだよ。」

蓮が神々しい笑顔でキョーコを見つめる。

それでもキョーコは信じられなくて、嘘よとつぶやく。

「だって…髪の色も…目の色だってっ…!」

「日本人の敦賀蓮になるために髪は染めてカラコンで黒目にしてるんだ。」

「なんで…今まで黙って…」

「ゴメンね。俺はずっと久遠から逃げてたんだ。自分のせいで大切な人を沢山傷付けてしまった。だから久遠の思い出も何もかも封印して敦賀蓮として生きてきた。…だけど、偶然にも君と再会して、そしてカインヒールを演じることになって…君のおかげでやっと過去の自分を受け入れることができたんだ。カインの闇は俺の闇だった。何度もその闇に飲み込まれそうになったけど、その度に君は俺に光を与えて助け出してくれた。」

「そんな…私はなにも…」

「最上さん、君の存在とぬくもりが、俺の破裂しそうだった心を救ってくれたんだ。本当に君には感謝してもしきれない。」

蓮のこれでもかというほどの神々笑顔にキョーコは恥ずかしくなって、パフっと蓮の胸に顔を埋める。

「そんな…じゃあ、私…自分で自分に嫉妬してたの??」

蓮がくすくす笑う。

「俺は、凄く嬉しかったよ。」

「コーンの…意地悪…。」

「仕方ないだろ。好きな子には意地悪したくなるんだから…。」

「私なんかで…いいんですか?」

キョーコが自信なさそうに言う。

「地味で、色気も何もない女なのに…。」

蓮はキョーコの背中を抱き締めて答える。

「君こそ、俺なんかでいいのか?…俺は今も、君の昔の王子様に嫉妬をしてるよ。」

「え?!何でですか?!」

「君が、あんな奴の言葉に今だに縛られてるから。」

「そんな!私縛られてなんて…。」

「縛られてるよ。地味で色気のない女だなんて、あいつに言われた言葉だろう?」

「それは…そうですけど…。」

「俺は君を地味だとは思わないし、色気がないなんてありえない。誰よりも素敵な女の子だ。」

「敦賀さん…恥ずかしいから辞めて下さい。」

キョーコは蓮の言葉に真っ赤になってしまった。

「本当のことだよ?君は、もっと自信を持っていい。少なくとも、俺の中では君に叶う女の子は存在しない。」

「えぇえ?!そんな馬鹿な!」

「根性があるし、コロコロ変わる表情は見てて飽きない。料理の腕も世界一だし、思いやりも責任感もある。ずっと君に側にいて欲しい。」

「敦賀さん…。私も許されるなら、敦賀さんの側にいたいです。」

蓮はギュッとキョーコを抱き締めた。

「本当に…?嬉しい!!夢見たいだ。君が俺を選んでくれるだなんて!!」

「大袈裟ですよ。敦賀さん!!それはこっちのセリフです!!」

キョーコが蓮の腕の中で息苦しそうに真っ赤な顔で言う。

「大袈裟なもんか!俺は一度"ショーちゃん"に負けてるんだから。」

「それは…仕方ないじゃないですか!あの頃は、あの馬鹿が一緒にいる時間が一番長かったんですから…。」

キョーコが困ったように蓮を見上げると、蓮は優しく慈しむような笑みを浮かべた。

「そうだね。過去はどうあれ、今は君が俺の腕の中にいる。俺は君を手離すつもりはないよ?一生ね。」

キョーコは、嬉し過ぎて泣きそうな顔を蓮に向けた。

「約束ですよ。手離したら恨みますからね。呪いますからね!」

「うん。そんな愚かなことはしないよ。」

蓮は嬉しそうにキョーコの頭を撫でた。

「この手が…好きです。」

キョーコはうっとりと瞳を閉じた。

「この香りも…好き…。」

蓮は、そんなことを言いながら目を閉じて頬を預けてきたキョーコに、無表情を向け固まると、頭を撫でていた手を頬に滑らせ、キョーコの顔を上に向けて、そっと唇を重ねた。

重ねられた瞬間、キョーコは驚きで一瞬目を見開くが、キスをされていることに気付いて、頬を染めながら、瞳を閉じて蓮の優しい唇の感触を感じた。




お互いの体温を確かめ合う様に、ただ静かに抱き締め合う。


「今度は、キョーコって呼んでも良いのかな?」

「え?!」

「初めて君の名前を呼んだ時に、キョーコって呼んで良いのは王子様のショーちゃんだけだって、怒られたんだ。」

「~~~!!そんなことまで覚えてたんですか?!」

キョーコは真っ赤になってしまった。
蓮にそんな失礼なことを言った過去の自分を叱ってやりたい気分だ。

「最上さん…?」

「呼んで下さい。キョーコって…。あなたに、呼ばれたいんです。」

蓮は破顔した。
間近で見た破壊力満点の破顔にキョーコは赤面する。

「つ、敦賀さん?!」

「俺のことは、蓮か、久遠って呼んでよキョーコ。俺もキョーコに呼ばれたいんだ。」

「へ?!」

キョーコがピキンと固まる。
それをみた蓮は、笑顔で凄む。

「なに?俺には呼ばれたい名前で呼ばれるのに、俺の呼ばれたい名前では呼んでくれないの?」

キラキラキラと輝く蓮の凄みのある笑顔。

「ええ?!そんな…でも…」

キョーコはしどろもどろだ。

「お願い…キョーコ。」

今度は、蓮の背後に仔犬の泣く姿が見えた。

「う…あの…恥ずかしいので、耳を…」

その姿に弱いキョーコは根負けして、もじもじと顔を真っ赤にしながら、恥ずかしそうに蓮に言う。
蓮は言われた通りキョーコに耳を近付けた。

「ーーー」

キョーコが蓮の耳に蓮にだけ聞こえるように、小さな小さな声で囁くと、蓮は破顔してキョーコを抱き締めた。

「愛してるよ!キョーコ!!」

嬉しそうな蓮の声が非常階段に響いていた。

好きな人に名前を呼ばれる幸せをキョーコは蓮の腕の中で、しっかりと噛み締めたのだった。



END


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*****

☆ブログ一ヶ月記念リクエスト☆

★gongoro様からのリクエスト★
《今本誌ではキョーコが蓮にほにゃらほにゃら(笑)しかけているところですが
もう蓮に恋をしてることを自覚するキョーコなんてどうでしょうか?
蓮に好きな人がいることを思い出して
苦しむキョーコ、ちょっと切ないけど最後はハッピーエンドなんてどうでしょうか?》
↑こちらのリクエストにお答えしたお話です。

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拍手お礼〈1〉

久しぶりの投稿にも関わらず沢山の拍手をありがとうございます!!
とても嬉しかったです♪


拍手お礼です。
※非公開コメントの方には、名前に伏せ文字を付けてお返事しております。

【My HOME-27-】
chimaris様
ご無沙汰してしまい申し訳ありません。
長い間、待ってて下ってありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!

ま■様
応援メッセージありがとうございます!
今度こそ完結に持っていけるように頑張ります!

へ◆へ◆っ◆様
長いこと待っていてくださってありがとうございます(*^^*)
やはり頼るべきは親友モー子さんですね☆


拍手やコメント大変励みになります!
ありがとうございました!

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My HOME-27-

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ーーブ…

「はいっ!!もしもしっ?!」

『っ……!!』

携帯の着信音が鳴るよりも早く、バイブが震えたコンマ1秒ほどで電話に出たのは、言わずもがな蓮である。
蓮の電話を取る素早さに驚き、一瞬息を飲んだ相手の気配に相手を確信して蓮は必死に呼びかけた。

「もしもしっ?!もしもしっ?!最上さん?!最上さん?最上さんだよね?!」

『…は…い…あの、お、はよう…ございます』

おずおずと答えた声に安堵の息が漏れる。

「あぁ良かった!昨日から何度も掛けたんだよ?ずっと電源を切っていただろう?」

『はい。すみません。あの、モー子さんの家にお邪魔してまして…。』

「あぁ、そっか。琴南さんの…。」

心底ホッとした蓮は、良かった…と呟きながらその場でハァァーと息を吐いた。

『もしかして…ずっと起きて…?』

「あ、いや…まぁ、うん…心配で…」

少しばかりのバツの悪さを抱えながらも返事をする。

最近アプローチが必死になってきたのを自覚していた蓮は、最初はこのまま帰ってこないのではないかという不安から電話をかけていたのだが、何度電話をかけても繋がらないので何か事件に巻き込まれたのではないか、キョーコの身に何かあったのではないかと心配で堪らなくなり、社に相談までしていたのだ。
社からは琴南さんのところだろうと言われてはいたが、もしそうじゃなかったら?と気が気じゃなかったので眠れなかった。

『っ!!ご心配おかけしてしまい、申し訳ありません!!』

青い顔しているキョーコが目に浮かんで蓮は何でもないことのように言う。

「いや、無事ならいいんだ。今何処?」

コートを腕にかけ、キーを片手に掴みながら蓮は言った。

『いえ、あの…実は…』

言い淀むキョーコを逃がしたくなくて、玄関へ向かい靴を履く。

「迎えに行くよ。今ど………こ……」

ガチャリと玄関を開けたところで蓮は驚いて立ち止まった。
エレベーターと玄関のドアの丁度中間に耳に携帯電話を当てたキョーコが立っていたのだ。

蓮はゆっくりと耳に当てていた携帯を下ろした。

「見つけた…。」

安心してふわっと嬉しそうに柔らかく微笑んだ蓮に、キョーコはぶんっと音がしそうな勢いで思い切り頭を下げた。

「ご心配おかけして申し訳ありませんでした!!」

「本当にね…。もう、帰ってこないかと思ったよ…。」

蓮がゆっくりとキョーコに近づく。
頭を下げたままのキョーコの視界に蓮の靴が入ったところで、キョーコはゆっくりと身体を起こした。

「最初は…そのつもりでしたけど…でも…。」

モジモジとキョーコが何かを言おうとしているので、蓮はじっとその言葉の続きを待った。
キョーコはパッと顔を上げて、蓮を見上げた。

「敦賀さんに逢いたくなっちゃって…帰ってきちゃいました。」

赤くなった顔でにへらと笑ったキョーコの言葉と表情に、蓮は一瞬にして心を奪われ目を見開いた。

「それで…あの…。」

すると再びモジモジしだしたキョーコは、目を左右に彷徨わせながら更に言葉を探す。

「私…も、敦賀さんのことが…あの、えっと…」

キョーコはそろりと真っ赤な顔で蓮の顔を伺うように上目遣いで見上げた。
蓮は食い入るようにキョーコを見つめ息をすることすら忘れてしまっていた。
キョーコが何かを伝えようとしているのが蓮にもわかった。良くないと思いながらも僅かな期待が蓮の中でムクムクと湧き上がる。
目が合ってほんの数秒、だが永遠にも感じる沈黙の後、キョーコがドキドキしている心臓の音を押さえ込みながら、瞳を潤ませ、ゆっくりと口を開いた。

「私…あの、敦賀さんと、一緒にいたいです…!出来れば、あの……っきゃっ!!」

キョーコは突然蓮に力一杯抱きしめられていた。
苦しいくらいの抱擁に、キョーコは真っ赤になりながら口をパクパクさせてしまった。
暖かい蓮の腕に包まれて、蓮の想いも一緒だということが何となく伝わってきて、キョーコはドキドキしながらもキュッと蓮の服の裾を握りしめた。先ほどの緊張が嘘のように、幸福感に包まれていくのを感じながら、キョーコは深く息を吐くとゆっくりと目を閉じ口を開いた。

「…貴方と一緒にいたいです。出来れば…ずっと…ずっと…」

キョーコの言葉に答えるように、蓮は更に強くキョーコを抱きしめた。
蓮は胸がいっぱいになりながらも口を開く。

「俺もだよ。俺も、ずっと君と一緒にいたい。…おかえり。最上さん。」

「ふふ。ただいまです。敦賀さん。」

朝日の光に包まれて二人はいつまでも抱きしめ合っていた。


(続く)

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*****

キョーコちゃん朝帰りの巻〜☆

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My HOME-26-

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『モー子さぁぁぁぁぁん!!助けてぇぇぇぇ!!!!』

キョーコからそんなSOSの電話が掛かってきたのは、ちょうど奏江が本日の仕事を終えて控え室に戻った時だった。

今夜泊めて欲しいというキョーコは何処か様子がおかしい。もう仕事がこの後入ってない奏江はキョーコの方も仕事が終わったことを確かめると、ラブミー部を待ち合わせ場所に指定した。

先日キョーコが奏江の家に泊まってから約二週間と5日振りだ。
その間もずっと蓮の家に同居してることを知ってる奏江は、全く仕方がない子ね。なんて思いながらも、好きな男と、そして恐らくキョーコのことを好いているであろう男と3週間以上も二人っきりで一緒に暮らしていて何もないはずはないのに、親友だと一方的に連呼する割には自分の重要な話は滅多にしてこないキョーコに少し焦れていたのだ。
漸く色々な話が聞けるかもしれないと、奏江は無表情を装い、ラブミー部があるLMEへとスピードを上げてせかせかと向かうのだった。




「で?敦賀さんには何て言って出てきたわけ?」

「えっとね…今日は帰りません。ってメールで…」

キョーコとラブミー部室で合流した奏江は、その後キョーコの作った晩ご飯を食べて、奏江のマンションのリビングでくつろいでいた。

キョーコはなかなか本題に入ろうとせず、最近受けた仕事の話ばかりしていたが、ご飯も食べ終わったしそろそろ良いだろうと、漸く奏江は蓮の名前を出したのだ。
キョーコはもごもごと答えにくそうに答える。

「メールねぇ。それで了承もらったわけだ。」

「う…えっと、了承…は…」

いつもはハキハキしているキョーコが蓮の話題になってからは急にしどろもどろになり始める。

「何よ?あんたもしかして、メール送りっぱなしで返事見てないわけ?」

「うぅ…だってその…うっかり場所言っちゃいそうで…」

「言わなくてもあんたの行きそうな場所くらいわかるんじゃないの?」

「そ、そうかもしれないけど…でも…」

クッションを胸に抱いて目を彷徨わせるキョーコをジッと観察して、奏江は本題に斬りかかった。

「で?何があったのよ?敦賀さんと。」

「う…その…」

カァァァと急に顔を赤らめたキョーコを見て、奏江はおや?と目を見張る。

「…告白でもされたわけ?」

ズバリっと容赦なく斬りかかった奏江にキョーコは益々顔を真っ赤にして狼狽えた。

「なっ?!あ、う…ぇ…な、何で?!」

「…されたのね。」

分かり易すぎるキョーコの反応に奏江はやれやれと溜息を吐く。

「ち、違っ!あ、あれは…つ、敦賀さんの気の迷いで…」

「ふーん?気の迷いねぇ〜…」

表情は素直なくせに、中々口から出てくる言葉が素直にならない親友を奏江はジトッと見つめる。

綺麗な奏江の目にジッと見つめられてキョーコはううっ…と身を小さくした。
キュウゥという効果音が聞こえてきそうだ。

「だって…あの敦賀さんだよ?何で私なんて…」

「…何て言われたわけ?」

「ぅ…あの、あの…ね、“最上さんが好きだ。いや、好きだなんてちんけな言葉に思えてしまうくらい愛してるんだ。”って…」

「うげぇぇ…」

思わず口から砂を吐きそうになってしまった奏江だが、蓮の声を真似て言葉にしたキョーコはカァァァと真っ赤になってしまって、クッションに顔を埋めた。

「それからずっと敦賀さんおかしくなっちゃって、過剰なほどのスキンシップと愛情表現をしてくるのよぉ…」

聞いてる奏江はもう、ご馳走様という感じだ。クッションに真っ赤な顔を埋めてるキョーコから出てくる言葉が惚気以外に聞こえない。
しかし、そんなキョーコが突然勢いよくガバッと顔を上げて縋るように奏江を見る。

「ね?!おかしいよね?!だってあの敦賀さんだよ?!どんな女性だってより取り見取りじゃない!!何でよりによって地味で色気のない私なんかにそんな…」

キョーコの自分を卑下した言葉に奏江はピクリと眉間に皺を寄せた。

「アンタ…まだそんなこと言ってるわけ?良い加減自覚しなさいよ。全く危なっかしいったら…。」

奏江は心底蓮に同情した。
ストレートなセリフをぶつけてアピールまでしているのに、本命には本心として受け取られていないのだ。
恋愛曲解思考が染み付いている親友にわからせるにはどうしたものかと痛みだした頭を抱える。

「自覚って言われても…」

もごもごと何を自覚したら良いの?なんて言いながら思考の渦に入り込みそうなキョーコを引き戻すため、奏江は声をかける。

「アンタはどう思ってるのよ?敦賀さんのこと。」

「わ、私…は…」

「釣り合うとかと釣り合わないとか別にしてよ。一人の男としてどう見てるわけ?」

「ひ、一人の男としてって…それはそう!そ、尊敬してるわっ!」

「………」

「や、優しいし、ご飯作ったら美味しいよっていつも言ってくれるし、応援してくれたり、疲れてるはずなのに演技の練習にも付き合ってくれたり…」

「もーーー!!だからそうじゃなくて、アンタ自身はどう思ってるのかって聞いてるのよ!!この間だって、敦賀さんに会いたくて帰ったんでしょう?」

「こ、この間はだってモー子さんが…」

「私が何よ?」

「か、帰りたい家に帰れって言ったんじゃない。」

「だから、帰りたい家が敦賀さんのいる家ってことなんでしょ?」

「う…そ、そう…なんだけど…」

奏江は深くため息を吐いた。

「良い加減素直になりなさいよ。じゃないと敦賀さんが可哀想じゃない。」

「へ?!なんで敦賀さんが可哀想なの?」

奏江は心底呆れたという目をキョーコに向ける。

「あんたね…意を決して本気でアプローチしてるのに好きな女の子に逃げられたらそりゃいくらなんでも敦賀さんだって凹むわよ。」

「す、好きな女の子って…」

カァァァとまた顔を赤らめるキョーコに、奏江は自覚させるため、容赦なく言葉を浴びせる。

「だって、好きだ。愛してるまで言わせたんでしょう?あの敦賀さんに。」

「う…」

「そして過剰なほどのスキンシップとってきたり、毎日のように甘い言葉を囁かれたりしてるわけでしょ?言っとくけどね、敦賀さんがアンタのことを好きなのは今に始まったことじゃないわよ?」

「へ?!」

「私は敦賀さんがアンタの誕生日と同時に薔薇を差し出した時から、敦賀さんのアンタへの思いを確信してたわよ。」

「ええぇ?!うそ?!」

「普通しないでしょ?ただの後輩に薔薇の花を一輪差し出すなんて、あんな気障なこと。」

「そ、そんなに前から?!」

「いつだったかアンタに私、聞いたことあったわよね?カラオケボックスで…敦賀さんアンタのこと好きなんじゃないの?って…」

キョーコはハッとして目を見開く。
確かにそんなことを言われたことがあった気がする。

「アンタはその時バッサリ否定してたけど、やっぱりそうだったんだって思ったもの。まぁアンタは全然気付いてなかったみたいだけどね。」

「どーして言ってくれなかったのよぉ〜!モー子さぁぁぁん!!」

「言ったところでアンタは本気にしないじゃない。」

奏江のピシャリとした言葉にキョーコはうっと言葉に詰まる。

「そ、それもそうかもしれないけど…」

目線をウロウロと彷徨わせ、まだ実感が湧いていないであろうキョーコに奏江は言葉を続ける。

「大体好きでもなければ家に上げるのを許したりしないわよ。特に敦賀さんみたいな人はね。」

「そ、それは多分、代マネでお邪魔したことあるからで…」

「さっき疲れてるはずなのに演技の練習にも付き合ってくれたって言ってたわよね?普通好きでもなければそんなことにわざわざ付き合ったりしないんじゃない?」

「で、でもそれは敦賀さんが演技にひた向きな人だからで…私だけ特別なわけじゃなくて…」

「アンタ…敦賀さんが他の誰かに演技指導してるの見たことあるわけ?」

「ない…けど…」

「そうよね…。あったらあっという間に噂が広がって、敦賀さんのところには迷惑も考えない女の集団が昼夜問わず押しかけるわよ。」

「えぇ?!」

「だってあの敦賀さんよ?敦賀さんに演技指導してもらっちゃったー!なんて話す人がいたら一気に広がるのわかってるじゃない。あの人はそんな危ない橋を渡ったりしないわよ。」

「確かに…そうかも。」

「だから、敦賀さんの中で、アンタは最初っから特別ってことなのよ。」

「………」

「で、それを踏まえた上で聞くけど、アンタにとっての敦賀さんはその辺の男と同列なわけ?」

「な?!そ、そんなわけないじゃない!!敦賀さんがその辺の男と同列なんて!!」

「ふーん?」

「敦賀さんは別格なの!神の寵児であらせられる方で…」

「あぁ、わかったそこだわ。」

「へ?!そこって?」

「あんた神の寵児とかなんとか言って、自分には手の届かない別次元の人だと思い込もうとしてるんでしょう?」

「思い込もうと何も…だって敦賀さんは…」

「好きなくせにそうやって逃げて…。全く素直じゃないんだから。」

「モー子さぁぁん」

縋るような目でキョーコは奏江を見る。
キョーコもわかっているのだそうやって逃げてしまっていることを。奏江は馬鹿な子ねと困ったように優しい顔で微笑んだ。

「アンタの気持ちを敦賀さんに素直にぶつけたら良いのよ。大丈夫。敦賀さんはアンタの幼馴染の馬鹿とは違うでしょ?ちゃんとアンタの気持ち…受け止めてくれるわよ。」

「そう…かな…?」

「何?アンタ、敦賀さんのこと信用してないわけ?」

「違っ!!そんなわけないじゃない!!」

「あのバカの時みたいになるのが怖いんでしょう?それって敦賀さんも同じことする人だって思ってるんじゃないの?」

「あのバカと敦賀さんを一緒にしないで!!違うわ!敦賀さんはそんな人じゃないもの!!」

「だったらぶつかってみなさいよ。好きなんて言葉に抵抗があるなら、ずっと一緒にいたいとかそんな言葉でもあの人には嬉しいんじゃないの?」

「…モー子さん…。」

キョーコは目をキラキラさせて奏江を見た。

「やっぱり親友ね!!モー子さん、大好きぃぃぃ〜!!」

「あー。はいはい。暑苦しいわね〜もーーー!!」

ガバリと抱きついてきたキョーコを宥めて、奏江は時計を見た。

「あ!もーこんな時間!!」

時計の針は1時半を指していた。

「さっさと寝るわよ!夜更かしは美容の敵!!」

「はぁい!」

「今日は泊めてあげるけど、明日はちゃんと帰って敦賀さんと話をするのよ?」

「うん。ありがとう。モー子さん、話聞いてくれて。」

「ま、話聞くくらいでよければいつでも聞いてあげるわよ。」

キョーコは奏江の言葉にえへへ。と嬉しそうに笑う。


その時、キョーコの携帯電話には何度も連絡が入っていたのだが、オフにされた携帯電話が震えることはなかったのだった。


(続く)


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お粗末様でしたー!!

My HOME-25-

皆さんのコメントやメッセージが本当…書く気の源だなぁとつくづく実感。
こんなに調子良くどんどこ書けるとは自分でも驚きです。


*****



My HOME-25-


台本を開いていても、掃除をしていても、何をしていても一日中、蓮のことばかりをキョーコは考えていた。
何かに集中すれば忘れるだろうと憎い幼馴染の呪い人形を作り始めても、手元は疎かになり、全く進まない。

キョーコは深くため息を付いた。

呪い人形作りも諦めて、洗濯物を畳みながら時間を確認すればまだ16時になったばかり、キョーコは今のこの首の状態で外に出る気にもならなくて冷蔵庫などにある食材から何か作ろうと晩御飯のメニューを考え始めたが、浮かぶのは食事を食べながら嬉しそうに笑う蓮の顔ばかりだった。

“美味しいよ。最上さん、いつもありがとう。”

“最上さんは、凄いね。こんな短時間でこんな美味しい料理が出来るなんて…”

“こんな美味しい料理食べたの初めてだ。”

“最上さんの手料理が毎日食べれるなんて贅沢だね。”

今までに言われた蓮の言葉と表情を思い出してキョーコは頬を赤く染めてボーっと物思いに耽っていた。

ーーーやっぱり…喜んで貰えるものを作りたいわよね。

キョーコは洗濯物を畳み終えると、こういう時は料理に限るとばかりに、キッチンへ向かうのだった。



蓮の顔を思い浮かべて料理をするうちに、いつの間にか蓮への返事よりも、蓮の喜ぶ顔を思い浮かべるようになり、キョーコの口からは自然と鼻歌が聞こえていた。

上機嫌で鼻歌を歌っているキョーコの脳内では夢のようなピンク色の妄想劇が繰り広げられる。


『ただいま。最上さん。何作ってるの?』

料理をしている後ろからギュッと抱きしめられた私は驚きつつも敦賀さん微笑みかける。

『きゃっ!敦賀さんおかえりなさい。早かったんですね!』

後ろから抱きしめられたまま、嬉しそうに答える私。

『うん。キョーコに早く会いたかったんだ。』

『もう…。すぐ出来ますから、手を洗ってソファで待っててください。』

『わかった。楽しみにしてるね。』

甘く優しく囁いた敦賀さんの唇が私の唇を奪い余韻を残して離れた。

『ん…。もぅ…』

『じゃあ後でね。』

抗議の気持ちをこめて軽く睨むが、敦賀さんは優しい笑みを浮かべて頭をぽんぽんと叩いてキッチンから出て行くのだ。


ボンッ自分の想像でキョーコの頭で火山が噴火した。

ーーーきゃー!!!!!!私ったらなんってあり得ない妄想してるの?!後ろからギューされて、チューなんて!!しかも相手が敦賀さんなんてっ!!あり得ないったらありえないわよぉ!!!!もう馬鹿馬鹿ばかっ!!夢見すぎなんだからっー!!この妄想オツムっ!!妄想オツムっ!!

蹲って頭をパコパコと叩いて、思考を取り払う。


ーーーそう。敦賀さんならもっとスマートにっ!!

『ただいま。最上さん。』

『あ、おかえりなさい。敦賀さん。』

『美味しそうな匂いだね。今日は何かな?』

『えっと、キョーコ特製グラタンと、キノコのスープ、野菜たっぷりサラダです。』

『そっか。最上さんのグラタン早く食べたいな。待ちきれないよ。』

『ふふ。あとは並べるだけですから、リビングで待っててください。』

『うん。わかった。』

ーーー…そして敦賀さんは、爽やかな優しい笑顔でリビングに向かうのよっ!!きゃーーー!!!!もうっ!!素敵ッ!!何してもかっこ良くてサマになるなんて!!反則よぉー!!!!

そんな風にキョーコが一人脳内コント妄想劇を楽しんでいた時だった。
キョーコは突如としてフワッとした温もりに包まれた。

「ただいま。最上さん、会いたかったよ。」

「っ?!?!?!」

後ろからギュウッと抱きしめられ、耳をくすぐる熱い吐息が甘い声で囁いた。
キョーコの身体がブアッと赤くなりピキンと固まる。

「あれ?おかえりなさいは?言ってくれないの?」

蓮が耳と尻尾を寂しそうに垂らして甘えた声を出す。

「早くキョーコに会いたくて撮影終わらせて急いで帰ってきたんだよ?労ってくれないの?」

「……お、かえり…なさい、ませ…」

キョーコの言葉に蓮はキラキラと笑顔を輝かせて、嬉しそうに弾んだ声を出した。

「うん。ただいま。キョーコ。何作ってるの?」

「ふぇ?!えっと…きょ…いえ、グラタン…と、キノコのスープに、野菜たっぷりサラダです。」

「そう。凄く美味しそうだね。食事が楽しみだよ。」

ニコニコと上機嫌な蓮には申し訳ないがこのままではキョーコの心臓も持たないし、何より抱きしめられたままでは料理をすることも出来ない。
キョーコが蓮に離してもらおうと言葉をかけようとしたのだが、蓮はそれより前にキョーコの耳元で低く囁いた。

「つ…」

「でもね?俺が今一番食べたいのは最上さん…だったりして?」

「っ!!!!!」

「ずっと我慢してたから…もう限界…ね。食べさせて?」

蓮はそう囁くと、キョーコの顎を下から掬い、しっとりと唇を重ねた。

「っ?!!!!」

何度も味わうように重ねられる唇。
片手で固定された顎は逃げることを許されず、その間にもう片方の大きな手のひらがキョーコの胸を包み込んだ。

「っつ…ん…!!あ…」

身体の芯から痺れるような熱さと甘さに支配され、キョーコの膝がガクガクと揺れた。
胸の柔らかさを確かめるように動く蓮の腕に縋り付いて、キョーコは辛うじて立てている状態になっていた。

キョーコの体から力が抜ける直前に蓮は漸くキョーコの唇を解放した。

「ん…。ご馳走様。」

壮絶な色気を纏った蓮が、妖しく微笑みながら己の唇についた唾液を舐めとり、キョーコを背後から緩く抱きしめた。

キョーコの心臓が破裂しそうなほど大きく音を立てる。

「愛してるよ。最上さん…キョーコ…。」

「っ!!ーーーも、もうっ!わかりましたから!リリリリビングで待っててください!!」

何とか声を出せたキョーコは体を反転させ、真っ赤な顔で蓮の顔も見れずに、グイグイとキッチンから追い出そうとした。
その細い手首を捕まえた蓮は指先にチュッと口付けると、にっこり笑ってその手を引くと今度は正面からキョーコを抱き締めた。
どうやら蓮の頭のネジは数本とんでしまっているようだ。

「ずっとここにいて…」

言いながら頭にチュッと口付けられて、いっぱいいっぱいだったキョーコは更にトドメを刺され、意識がふっと遠のいた。

「$€○%□#.@&¥?!:/×@¥◇&~ーーーー…!!」

ふらぁと倒れそうになったキョーコを慌てて抱えた蓮はキョーコをお姫様抱っこで抱え上げると、自分の寝室へとつれていったのだった。



キョーコの顔のすぐ横に肘をつき、その腕に頭を乗せて、キョーコのすぐ隣に横たわる。
いつまでも見つめ続けていたくなるあどけない寝顔を蓮は優しく手で撫でながら愛でていた。

「んっ。」

キョーコの瞼が震え、目が覚めたことを伝えると、蓮は甘く神々しい笑顔を浮かべた。

「キョーコ…おはよう。」

「んっ。…がさ…」

ぼうっとして蓮を瞳に映すキョーコの唇にまた唇を重ねる。

「っ?!」

キョーコの目が見開き固まったが、蓮は今度は軽いキスで終わったようで、すぐに顔を離してにっこりと微笑んだ。

「身体は…大丈夫?」

「だっ…大丈夫…です。」

意味深な蓮の言葉に、キョーコは気付かず何で身体?と思いながらも返事を返す。
そして蓮への抗議の言葉を漸く口に出来た。

「そっそれよりも…何でキスするんですか!!まだちゃんと私…お返事してないのにっ!!」

「ん?最上さんに隙があるからだよ。一緒に生活してきてもう散々我慢に我慢を重ねてきたんだ。俺の気持ちはちゃんと伝えただろ?だからもう遠慮はしないことにしようと思ったんだ。大人しく返事を待つつもりはないよ。正々堂々判断してもらえるようにまずは君に俺も男だって認識してもらわなきゃいけないからね。ただの優しいだけの先輩でなんていてあげないよ?」

蓮は夜の帝王で妖しく微笑み、そっとキョーコの頬を撫でると、またもやキョーコに唇を合わせようと顔を近付けた。

「だから…早く俺に堕ちて…」

「きゃーーーー!!!!」

キョーコは慌てて蓮の顔を両手で妨害する。
これ以上は本気で心臓が持たない。

「そ、それよりもご飯です!!ご飯食べましょー!!!!」

「……ん。そうだね。最上さんの料理は冷えても美味しいけど、あったかいほうがやっぱりもっと美味しいもんね。」

どうやら蓮も少し過激にやりすぎてたかな?と思っていたようで、キョーコの言葉に賛同してくれて、キョーコはホッした。

先に蓮が体を起こすと、キョーコも慌てて起き上がり、蓮が足を下ろした方の反対側のベッドサイドへ急いで降りた。

真っ赤な顔で胸元を庇い、警戒するような眼差しを浮かべるキョーコに、少しはアプローチが効いてるかもなと気を良くした蓮は、口元を緩ませて、寝室から外へ出たのだった。


それからと言うもの、蓮の猛アプローチが始まった。
食事の時は膝の上にキョーコを抱き上げ、食べさせたがる。
キョーコが一口、蓮の箸から料理を口に含むたび、耳元で愛を囁く。
洗い物をするため、キッチンに立っていれば、後ろから抱きしめる。

ソファの上でコーヒーを飲むいつもの時間も、蓮の膝の上に座らされていた。

お風呂は当然ながら一人で入ったが、それ以外の時間は蓮がとことん付き纏う。
ベッドに連れ込まれそうになった時、キョーコは流石に断固拒否して慌ててゲストルームに逃げ込んだのだった。

ゲストルームの扉を背にしてズルズルとしゃがみ込む。

顔は真っ赤になっていた。
あそこまで蓮が本気だとは思わなかった。
情熱的なアプローチはキョーコには刺激が強過ぎて頭がクラクラしてしまう。

「これ…色いい返事をしたら…私、どうなっちゃうの?!」

どうやら別の心配が生まれてしまったらしいキョーコは、ガンガンと頭を悩ませながらベッドに倒れこみ、眠りについたのだった。


(続く)


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*****


蓮様本気のアプローチの巻~♪

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My HOME-24-

とりあえず、キョーコちゃん視点にしてまいました。一箇所だけにするつもりが、中途半端に切れずにダラダラと…ダブった部分もありますがご容赦下さいー!!


*****


My HOME-24-


眠りについていたキョーコは朝いつも起きる時間に目が覚めた。

ぼんやりと目を開けると胸の上で何かが動く気配がした。
なんだろ?くすぐったいなって思いながら胸元を見て悲鳴を飲み込んだ。

「んっ…。」

どうやら昨夜は気を失い蓮をなけなしの胸の上に乗せたまま、そのまま寝てしまっていたようだ。

「ん~。」

頭の位置を探すように動く頭が己の胸に顔を埋める位置で停止したことで、キョーコの心拍数が一気に上がる。熱い寝息が胸元に吹きかけられる感覚にキョーコは身動きが取れず既にいっぱいいっぱいで固まったのだが、その途端強い力で抱きしめられ、蓮の頭がグリグリと動き胸に顔を擦り付けられた。

「きゃっ!!」

思わず叫んでしまったキョーコは、もうとにかく起こしてでもなんでも引き剥がす必要性を感じた。
もう心臓が持たない。そう思ったのだ。

気持ち良さそうに眠っているのに起こすのは良心が咎めるが、いかんせん頭を預けられてる位置が悪すぎる。
朝食を作りにいくという立派な理由があれば、たとえ起こしてしまったとしても蓮も怒ったりはせずに簡単に解放してくれるだろう。

そう考えたらキョーコは思い切って蓮に声を掛けた。

「つ、敦賀さんっ!!」

「んっ…」

返事はあったものの、起きる気配は全くない。
申し訳なさよりも自分の限界が勝って、キョーコは蓮の目を覚まさせる為、ゆさゆさと揺さぶった。

「おっ起きてください~!!敦賀さん~~~!!」

「ん~…?」

今度はちゃんと反応したものの、グリンと動いた頭はキョーコの心臓をからかうばかりでキョーコの存在には気付かない。
気づいて欲しくて、肩を てしてし と必死で叩いた。
そうして蓮が漸くこちらに気付いた。
ぼうっとした目がキョーコを捉える。
目が合って蓮がどんな反応するのかとドギマギしながら声を掛けた。

「お、おはようございます!!」

「ん…。おはよう…。」

「そ、そろそろ起きないと朝ごはんとお弁当の支度がですね…」

「ん。いいよ。もう少しこのままで…」

そういった蓮はまたキョーコの胸に顔を埋めるのでキョーコは慌てた。

「だ、ダメですってば!!」

「だって…喉乾いた…頭痛い。」

そう言いながらまた元の大勢に戻ろうと頭の向きを調整する蓮に、心臓はピークを迎えドッドッドッドッという超スピードで血を送り出していた。

ーーーい、今、目…合ったわよね?!何で敦賀さんはこんなに普通なの?!

キョーコは一人パニックになりかけたが、漸く蓮も何か可笑しいと気付いたようだ。

「え…?」

そろりと顔を離し、蓮は何かを確かめるように自分が今寝ていた場所とキョーコの顔を見比べた。
何度か行き来して、蓮は漸く今の今までキョーコの胸を枕にして寝ていたことに気付いたようで、頬を赤くして驚いていた。

「ごっごめんっ!!」

「い、いえっ!!すみません…」

蓮の反応に驚いてつい条件反射で謝っていた。

「な、なんで君がここに…?」

戸惑っている蓮を見て、ホッとしたような寂しいようなそんな不思議な気持ちになる。

「えっと…や、やっぱり覚えてないですよね?珍しく酔ってらっしゃったみたいで…」

キョーコは蓮の腕に囲われた中で、両腕で胸を庇うように縮こまりながら、どういえば良いのかわからないというように困ったように眉を下げた。

「ごめん…覚えてな…」

蓮が言いかけて、一点を見つめて驚いたように固まったのを見て、キョーコは首を傾げる。
蓮は唇を震わせて小さな声で問いかけた。

「それ…は?」

「え?あ…。」

キョーコも指摘され一瞬わからなかったが、急に思い出したことがあって真っ赤な顔になった。自分では確認してないが、蓮が凝視しているのが昨日蓮に吸われた場所だと気付いたからだ。
起き上がって逃げたいところだが、蓮の身体は今だキョーコの上にあり、身動きを取ることが出来ない。

「こっこれは…えっとその…ちょっとしたトラブルといいますか…敦賀さんには関係ないことなのでお気になさらず…」

蓮に付けられたなんて恥ずかしすぎて言えず、覚えてないなら忘れさせたままにしようとキョーコはその場所を手で隠して誤魔化そうとしたのだが、その瞬間、蓮の空気がガラリと変わった。
急速に温度が氷点下まで下がった感じがしてキョーコがピキンと固まる。

「関係…ない…?」

怒りが溢れたその声音にキョーコが震え上がった。

「ひっ!!」

「誰につけられたのか知らないけど、関係なくはないだろう…?」

「えぇ?!いえ、本当…ただの事故ですからっ!!」

「ただの事故でこんなにくっきり?誰に許したの?」

蓮の怒りの波動に怨キョ達もすくみ上がって動けなくなっていた。
キョーコも真っ青になって涙を浮かべて蓮に訴える。

「ゆ、許してな…」

「そう…。じゃあ俺が上書きしてあげる。いいだろ?」

「へ?!」

キョーコが言われた言葉の意味がわからなくて目をまん丸に開けた瞬間、キョーコの隠している手を強引に引き離して、蓮の熱い吐息がキョーコの首筋に吹き掛けられた。

「あ…や…」

制止する間も与えられぬまま、蓮が首筋にキツいくらいに吸い付く。
昨夜と同じ場所に昨夜と同じ人物からしつこいくらいに吸われ、熱い舌で首筋を辿らた。甘く痺れるような感覚にキョーコは襲われ、もう何が何だかわからなくなる。

「やっ…ん」

蓮はキョーコの耳を甘噛みすると、そのまま耳に息を吹き掛けながら、「痕つけられたのはここだけ?」と囁きながら、ゆっくりとキョーコのボタンを外しにかかった。

ボタンを外している蓮に気付いて、キョーコは慌てて両手で制止しようとしながら叫んでいた。

「つ、敦賀さん!!お気を確かにぃぃぃぃ!!!!」

キョーコの叫び声に漸く我を取り戻してくれた蓮の動きが止まった。
半分までボタンは外されてしまったが、何とか無事でいることができそうだ。

しかし、蓮の様子がおかしくて、キョーコは心配そうに蓮を下から覗き込んだ。
呆然としている蓮は己の思考にはまってしまったようだ。

先ほど必死で抵抗しようとした時に潤んだ瞳でそのまま蓮を見上げていると、顔を上げた蓮と目が合った。
驚愕に目を見開き、呆然と自身を見つめる蓮にキョーコが戸惑っていると、蓮が漸く言葉を発した。

「思い、出した…」

「え?!ええぇ?!」

キョーコは真っ赤になった。一体何処からどこまで思い出したというのだろうか。

「ごめん…昨夜は…暴走したみたいだ…」

「い、いえっ!」

「ここも…消毒も何も、痕付けてたの俺だったんだね。何度もごめん。痛かったろう?」

「い、いえ!!じ、事故ですから!!」

「…事故?」

「寝ぼけてたんですよね?!大丈夫です!!勘違いなんかしませんから!!」

「え…?いや、違う。さっきのあれは事故じゃなく、嫉妬だよ?」

「へ?嫉妬…?」

「自分以外の誰かが、最上さんにあんな痕を付けたのかと思ったら頭に血が上ったんだ。」

「え…何で…?」

キョーコが問えば蓮は真剣な顔でキョーコを見つめた。
キョーコの心臓がドクンと大きく跳ねる。
ドキドキドキドキと徐々にスピードを上げる心臓、目を逸らすことも、途中で口を挟んで誤魔化すことも出来なかった。
蓮がそっとキョーコの手を優しく取り指を絡めて重ね合わせる。
熱い掌がキョーコをベッドに縫い付けたまま、そんなキョーコの目を見つめて蓮は口を開いた。

「単刀直入に言う。最上さんが好きだ。いや、好きだなんてちんけな言葉に思えてしまうくらい愛してるんだ。」

「う…そ…」

キョーコの唇と心がワナワナと震えた。
とても信じられなくて、でも嘘を言っているようにも見えなくて、キョーコの目から涙が溢れた。
そんなキョーコの手を蓮はぎゅうっと握りしめる。
繋がったその場所から蓮の体温と想いを感じて、キョーコの顔が真っ赤に染まる。

「嘘じゃないよ。本当だ。自覚したのはダークムーンの撮影の時だけど、それよりもずっとずっと前から…俺は君に惹かれてた。」

蓮の懐かしむような優しい微笑みがキョーコの心を攫う。

「昨日の言葉も酔っ払ったからだけじゃない。全部本心だ。君のことが好きだから、誰にも渡したくない。だから独占欲の俺の証を刻み込んだ。」

「そんな…まさか…」

呆然と呟くキョーコを蓮は柔らかい笑みで見つめる。

「俺は君を…最上キョーコという一人の女性をこの世の中の誰よりも心から愛してる。」

力強い蓮の声がキョーコの鼓膜を揺らした。




蓮のいなくなったベッドの上で今だキョーコはぼうっと宙を見つめていた。

“愛してるんだ。”

蓮の真剣な表情が頭に浮かんでカァァッと顔が熱くなる。

“だから考えてくれないか?俺とのこと…俺との未来をーー”

結局朝ごはんも昼ごはんも用意する時間がなくて、蓮はキョーコにありったけの想いを伝えると、時間だからと今日の仕事に向かってしまった。

ーーー敦賀さんが…私を…?

今まで全く想像していなかった。
それこそ明日は雷が降るんじゃないかとか地球が滅亡しちゃうんじゃないだろうかと物騒な事を考えてしまうくらいだ。

蓮の気配が色濃く残る寝室で胸がきゅうっと切なくなった。
蓮のことを思い出すと、また抱きしめられたいなんて思いと、心臓に悪いので抱きしめらるなんてとんでもないという相反する思いがせめぎ合う。

ーーー敦賀さん…真剣だった。

愛を告げた蓮の目は真剣そのもので、冗談やからかいなんて気配はまるでなかった。

ーーー本当に…私…なの…?

蓮本人にそう言われたのにも関わらず、キョーコは実感が沸かず、腑に落ちない。

ーーーだって“キョーコさん”は?

代マネの時のあの蓮の優しい甘く溶けるような眼差しは、なんだったのだろうか…?
酔っ払った蓮からあれはキョーコ本人のことだと言われたが、どういうことなのだろう?

ーーーあの時は…嫌われてたはずだもの…。

キョーコちゃんだなんて、あんなに甘やかなマスクで呼ばれるなんてことありえない。どうしてもそんな風な考えが浮かんでしまう。
ベッドの中でコロンと寝返りを打つと、胸の中がキュウンと切なく締め付けられた。

「はぁぁー。本当に…どうしたらいいの?!」

考えても答えなんて出なくて、好意を向けられてることを素直に認めてしまえば、もうあとは愚か者への道へ真っしぐらな気がしてならない。

「アイツの時の10倍くらい愚か者になるのは確定よね…」

キョーコはキュウッと蓮の枕を抱き締めた。



暫く思考にはまっていたキョーコだがいつまでもゴロゴロしているわけにはいかないと気合を入れて起き上がった。
幸運なことに学校は祝日のおやすみで、撮影なども入っていない。
本来なら事務所に雑用があるかもしれないから顔を出そうと考えていたところだが、今日が一日オフでよかったなんて珍しいことを思い、足が引きずられるようにダラダラと動いてしまう。思考が今だに先ほどまでの出来事に囚われたままだからだろう。
ここ数日の間に色々なことが起こったような気がする。
特にこの二日間で蓮との二人の関係性が大きく変わってしまった。

ーーー私がキスなんかしちゃったから…?

あんなことしなければ今までのままでいれたのだろうか?
だけどあの時は止めることなんて出来なかった。
指を切ったのは不注意だったが、指を咥えられあまつさえ再び唇を重ねてしまった。蓮からのキスも甘く溶けてしまいそうでーー。
あの場面を皮切りに転がり落ちるように先輩後輩の鉄壁の距離がなくなってしまった。

ーーー裸も…見られてたし…。あんな酔った敦賀さんも初めてで…首にキスマークまで…

顔を洗おうと鏡の前に立ち、キョーコはハッとして顔を上げて、己の首元を確認した。その瞬間、顔は一瞬真っ青になり、次に茹で蛸のように真っ赤になった。

「な、ななな、何よこれぇぇぇぇぇーーーーーーー!!!!」

己の首もとにある凄まじい所有印に、キョーコは大絶叫を上げざるを得なくなったのだった。



「全く…本当にっ!信じらんない!!!!」

キョーコは真っ赤な顔のまま、プリプリと怒っていた。

「こんなに、メチャクチャな痕の付け方するなんて…!!」

あまりにもくっきりと右側に集中して至る所にあるため、絆創膏で隠すのも不自然だし、コンシーラーでも隠せないだろう。
包帯巻くのも…何だか変よね?

キョーコは恥ずかしさのあまり、自分の部屋となったゲストルームで布団に潜り込んでいた。

あの寝ている蓮への不意打ちのキスに決壊した恋心が現れていたのならばその時点でこの想いを秘め続けることがもうキョーコにとっても既に限界だったということだろう。

「どう…したらいいの?」

今日、蓮はなるべく早く帰ってくると言っていた。
返事を返さなければいけない。

ーーーだけど…私は…。まだ、怖い…。

手に入れてしまったら、どうなるのか?
いつか離れなければならない日が来るはずだ。
そんな日が来る恐怖と背中合わせて生きていくことになるのだろうか?

「貴方が…好き…だけど…。」

想いを伝える勇気なんて探しても見つかるものじゃなくて、キョーコは苦しくなる胸を抱えて、ベッドの中で丸まったのだった。


(続く)


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*****

そろそろラストスパート!

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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ちょいと短めですが、翌朝の蓮様とキョーコちゃんをご堪能下さいませ。



*****



My HOME-23-


蓮は急速な喉の渇きで目を覚ました。

「んっ…。」

気付けばうつ伏せで寝ていたようで、恐らく二日酔いであろう頭を動かすのも億劫だったが、なんとか頭の向きだけ変えてぼうっとしながら目を開けると、置いてある家具の配置から自分がいつも使っている寝室のベッドの中にいることがわかった。
いつの間に眠ったんだっけ?なんて思いつつも、何だかまだ起きたくなくて瞼が再び重くなる。
のどは乾いたがそれよりも起きることが勿体無く感じてしまったのだ。

「ん~。」

横向けていた顔の向きを正面にして、抱きしめていたものを抱きしめ直すと、蓮はグリグリと顔を擦り付けた。

「きゃっ!!」

途端に抱きしめているものが小さな悲鳴を上げた。

ーーーん…?なんだ??そういえば、俺…何をだきしめてるんだろ?こんな抱き枕家にあったっけ??

自分が何かを抱きしめて眠っているのはわかったが、何を抱きしめているのかまではわからない。
わかるのは優しい香りと、何だかホッとする温もり、そして柔らかな感触。
出来ることならこのまま一日中ベッドの中で抱きしめたまま過ごしたいくらいだ。

うとうとと睡魔に誘うその正体を確かめたいという思いよりも堪能したい思いの方が強く目覚めかけていた意識は夢の世界へと再び足を向けようとしていた。

「つ、敦賀さんっ!!」

抱きしめていた枕から慌てたような声が響く。

「んっ…」

キョーコに似たその声に何と無く返事をしながらも、夢の世界へはあと一歩だ。
そんな時、肩がゆさゆさと揺さぶられて目を覚まさざるを得なくなった。

「おっ起きてください~!!敦賀さん~~~!!」

「ん~…?」

キョーコの声が聞こえた気がするのに、横を向いて目を開けてもキョーコの姿がない。

軽く目を開けたままぼうっとしていたら、肩を てしてし と叩かれたことでゆっくりと頭を動かして上を見上げた。
ボンヤリ見える視界、顔を真っ赤にしたキョーコがこちらを見つめていた。

「お、おはようございます!!」

「ん…。おはよう…。」

「そ、そろそろ起きないと朝ごはんとお弁当の支度がですね…」

「ん。いいよ。もう少しこのままで…」

「だ、ダメですってば!!」

「だって…喉乾いた…頭痛い。」

そう言いながらまた元の大勢に戻ろうと耳を下にして顔を抱き枕につけた。
するとドッドッドッドッという超スピードで血を送り出している心臓の音が聞こえて、蓮はパチクリと目を覚ました。

「え…?」

そろりと顔を離し、自分が今寝ていた場所とキョーコの顔のあった方を見比べる。
何度か行き来して、蓮は漸く今の今までキョーコの胸を枕にして寝ていたことに気付いた。
抱きついていた抱き枕の正体もキョーコだとわかり、飛び起きて少し身体を浮かせた。
着ている服もお互いパジャマではなく普段着のままだ。


「ごっごめんっ!!」

「い、いえっ!!すみません…」

「な、なんで君がここに…?」

蓮はガンガンと痛む頭で昨日のことを何とか思い出そうと試みた。

「えっと…や、やっぱり覚えてないですよね?珍しく酔ってらっしゃったみたいで…」

キョーコは蓮の腕に囲われた中で、両腕で胸を庇うように縮こまりながら、どういえば良いのかわからないというように困ったように眉を下げた。

そんなに飲んだつもりはないが、恐らく連日の寝不足が祟って悪酔いしてしまったのだろう。
断片的にしか思い出すことが出来ない。

「ごめん…覚えてな…」

蓮は言いかけて、キョーコの首筋に残ったかなりくっきりとした鬱血痕に気付いた。
蓮の心臓がドクンッと跳ねる。

「それ…は?」

「え?あ…。」

キョーコも指摘され一瞬わからなかったが、急に思い出したことがあって真っ赤な顔になった。自分では確認してないが、蓮が凝視しているのが昨日蓮に吸われた場所だと気付いたからだ。
起き上がって逃げたいところだが、蓮の身体は今だキョーコの上にあり、身動きを取ることが出来ない。

「こっこれは…えっとその…ちょっとしたトラブルといいますか…敦賀さんには関係ないことなのでお気になさらず…」

蓮に付けられたなんて恥ずかしすぎて言えず、覚えてないなら忘れさせたままにしようとキョーコはその場所を手で隠して誤魔化そうとしたのだが、その瞬間、蓮の空気がガラリと変わった。
急速に温度が氷点下まで下がった感じがしてキョーコがピキンと固まる。

「関係…ない…?」

怒りが溢れたその声音にキョーコが震え上がった。

「ひっ!!」

「誰につけられたのか知らないけど、関係なくはないだろう…?」

「えぇ?!いえ、本当…ただの事故ですからっ!!」

「ただの事故でこんなにくっきり?誰に許したの?」

蓮の怒りの波動に怨キョ達もすくみ上がって動けなくなっていた。
キョーコも真っ青になって涙を浮かべて蓮に訴える。

「ゆ、許してな…」

「そう…。じゃあ俺が上書きしてあげる。いいだろ?」

「へ?!」

キョーコが言われた言葉の意味がわからなくて目をまん丸に開けた瞬間、キョーコの隠している手を強引に引き離して、蓮の熱い吐息がキョーコの首筋に吹き掛けられた。

「あ…や…」

制止する間も与えられぬまま、蓮が首筋にキツいくらいに吸い付く。
昨夜と同じ場所に昨夜と同じ人物からしつこいくらいに吸われ、熱い舌で首筋を辿らた。甘く痺れるような感覚にキョーコは襲われ、もう何が何だかわからなくなる。

「やっ…ん」

蓮はキョーコの耳を甘噛みすると、そのまま耳に息を吹き掛けながら、「痕つけられたのはここだけ?」と囁きながら、ゆっくりとキョーコのボタンを外しにかかった。

どうやら血が上った頭では確かめずにいられなかったようだ。

ボタンを外している蓮に気付いて、慌てて両手で制止しようとしながらキョーコは叫んでいた。

「つ、敦賀さん!!お気を確かにぃぃぃぃ!!!!」

キョーコの叫び声で蓮はハッと記憶が呼び覚まされた。
半分までボタンを外したところで、バラバラと砕けていたピースが戻るように昨夜の出来事を断片的にだが徐々に思い出す。

帰宅したキョーコに安堵して抱きしめた自分、キスをしようとして拒まれたから代わりに隙があった首筋に吸い付いた自分、痕がついたことで満足して俺のもの宣言をした自分、キョーコから貴方のキョーコちゃんじゃありませんと言われてショックを受けた自分、そのあと少し言い合いになって…キョーコが何かおかしな勘違いしていることがわかって…蓮の頭痛がドンドンと酷くなるが必死に思い出そうと試みる。

うりゅっと潤んだ瞳で見つめてくるキョーコを見て、蓮はその後のことも全部思い出した。
胸を触って、誰のために大きくしようとしたのか聞いたら、蓮の為だとハッキリ答えたキョーコ。
そしてキョーコに告白したら、キョーコから寝室に誘われて、一緒にベッドに入ったのに、結局何もしないで抱きしめるだけで寝てしまったのだ。

最後の方は多少蓮の希望的脚色が入ったようだが、大方の流れは思い出すことが出来た。

「思い、出した…」

「え?!ええぇ?!」

キョーコは真っ赤になった。何処からどこまで思い出したというのだろうか。

「ごめん…昨夜は…暴走したみたいだ…」

「い、いえっ!」

「ここも…消毒も何も、痕付けてたの俺だったんだね。何度もごめん。痛かったろう?」

「い、いえ!!じ、事故ですから!!」

「…事故?」

「寝ぼけてたんですよね?!大丈夫です!!勘違いなんかしませんから!!」

「え…?いや、違う。さっきのあれは事故じゃなく、嫉妬だよ?」

「へ?嫉妬…?」

「自分以外の誰かが、最上さんにあんな痕を付けたのかと思ったら頭に血が上ったんだ。」

「え…何で…?」

キョーコに問われて蓮は真剣な顔でキョーコを見つめた。
キョーコの心臓がドクンと大きく跳ねる。
ドキドキドキドキと徐々にスピードを上げる心臓、目を逸らすことも、途中で口を挟んで誤魔化すことも出来なかった。
蓮がそっとキョーコの手を優しく取り指を絡めて重ね合わせる。
キョーコをベッドに縫い付けたまま、そんなキョーコの目を見つめて蓮は静かに告げた。

「単刀直入に言う。最上さんが好きだ。いや、好きだなんてちんけな言葉に思えてしまうくらい愛してるんだ。」

「う…そ…」

キョーコの唇と心がワナワナと震えた。
とても信じられなくて、でも嘘を言っているようにも見えなくて、キョーコの目から涙が溢れた。
そんなキョーコの手を蓮はぎゅうっと握りしめる。
繋がったその場所から蓮の体温と想いを感じて、キョーコの顔が真っ赤に染まる。

「嘘じゃないよ。本当だ。自覚したのはダークムーンの撮影の時だけど、それよりもずっとずっと前から…俺は君に惹かれてた。」

蓮は目を細め、キョーコに安心させるように微笑みかけながら言霊を重ねる。

「昨日の言葉も酔っ払ったからだけじゃない。全部本心だ。君のことが好きだから、誰にも渡したくない。だから独占欲の俺の証を刻み込んだ。」

「そんな…まさか…」

呆然と呟くキョーコを蓮は柔らかい笑みで見つめる。

「俺は君を…最上キョーコという一人の女性をこの世の中の誰よりも心から愛してる。」

力強い蓮の声がキョーコの鼓膜を揺らした。



(続く)


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*****

ふぅ。やっと蓮様が告白してくれました((*´∀`*))
でもでもベッドの中で押し倒したまま告白ってありなのか?!と、激しく疑問。こんな予定じゃなかったのに蓮様ったら…ε-(´∀`; )困った君です(笑)

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「あれ?キョーコちゃんは?」

その場に根が生えたように固まっていた蓮は、社の言葉にハッとして顔を上げた。

「あ、あぁ…次の予定があると言って行っちゃいました。」

「そっかぁ。残念だな。ま、でも俺たちもそろそろ行かないといけないから行くか!」

「そう…ですね。」

蓮は同意をしつつ、キョーコと光が向かった先に、視線を投げ、グッと拳を握りしめ、目を瞑ると、気持ちを切り替えて俳優敦賀蓮のスイッチを入れた。

歩き始めて社が今の電話の内容でスケジュール変更があったことを蓮に知らせる。

「そうそう、今日の最後のスケジュール…あれ、今先方から連絡があって日程変更になったから。」

「え?そうなんですか?」

「あぁ。お前最近無理してるだろ?今日はちゃんと休めよな。順調に行けば18時には帰れるはずだし。」

「ええ。そうですね。」

寝不足なのも社はちゃんと気付いているのだろう。

しかし、蓮としては暇を持て余すとどうしても脳が勝手に妄想劇を繰り広げてしまう為、仕事をしてた方が気が紛れていいんだけどな。という思いが湧かないでもない。
でも担当俳優の体調を管理し、コントロールするのもマネージャーの勤めだ。
何が蓮にとって最善なのかをいつも考えてるマネージャーは、きっと“なら新しい仕事をねじ込んで下さいよ。”とお願いしても、頑として首を縦には振らないだろう。




仕事を終えて帰宅すると、こんなに早く帰宅できることは滅多にないため手持ち無沙汰になった。

「久しぶりに飲むか…。」

冷蔵庫を開け、アルコールを取り出す。
ミネラルウォーターと氷も一緒に用意してリビングに戻った。
アルコールを口にしながらチラリと時計に目を向ける。

まだキョーコが帰宅するには早い時間だ。

グラスを口に運びながら、昼間の出来事を思い出す。

己でさえも素のキョーコから名前で呼ばれたことがないのに、あっさりと呼ばれている男の姿を思い出してジリジリと胸が妬ける。

蓮はギリっと奥歯を噛み締めて、その炎を鎮めるためにグラスを一気に煽った。

軽快な音を立てる氷にまた新たなアルコールを注ぎ入れる。
ミネラルウォーターは出しただけでまだ蓋も開けていない。

ここ数日のキョーコの姿が頭の中をグルグルと駆け巡り、またもやふしだらな妄想が脳内で勝手に繰り広げられる。
その中に登場する男が自分だけであればどんなに楽しかったか…。

昼間の一件から、キョーコの“ーーさん”が誰のことを指すのかわからず疑心暗鬼になってしまった蓮はありとあらゆる可能性を想像してしまい、その度に耐えられなくて溺れるように酒を煽って行った。

“光さん”とはどんな関係なのだろうか?
今も一緒にいたりするのだろうか?
自分よりも帰りの遅いキョーコに余計な心配を募らせる。
明らかにキョーコ自身の為ではなく、誰かを想ってキョーコは自分の胸を育てようとしていた。
その相手が誰なのか蓮には皆目見当もつかない。

寝不足でやられた頭では正常な思考回路が働かないため、キスされたという事実や日々の中で向けられていた好意さえも頭の中で、今頭を占めている問題とは別のカテゴリーに保存されているようだ。
グイッと一気に飲み干して、ダンッとテーブルに戻せば、また新たなアルコールをトクトクトクッと注ぎ入れて嫌な想像をしてしまう自分を戒めるかのように喉を焼く。
抱かれたい男No.1の余裕などキョーコ相手ではどこにも存在しないのだった。



ーーカランッ

蓮の手の中にあるグラスの氷が音を立てて崩れた。

酒瓶が2.3本カラになって転がっており、帰宅したキョーコはリビングのドアを開けた途端、部屋に立ち込めたアルコール臭に顔を顰め立ち止まった。

「なっ…何事…?!」

蓮はテーブルに突っ伏しており、寝ているようだった。

「敦賀さんっ!!」

慌ててキョーコが近寄り蓮の腕に手を置くと、蓮がゆっくりと顔を上げてぼんやりとした顔でキョーコを見つめた。

「敦賀さん、飲み過ぎですよ。」

「ん。…おかえり…。」

「た、ただいま帰りました!」

アルコールで上気した顔でふにゃっと微笑まれて、アルコールで焼けた喉からは掠れた声が出る。それがなんともいえず色っぽく感じてキョーコは真っ赤になって答える。
やはり「おかえり」と「ただいま」を言い合える関係は今でもくすぐったい。

そして蓮はただいまと答えたキョーコに嬉しそうにガバリと抱き付いた。

「きゃっ!!」

「んー…キョーコォ……」

「ふぇっ?!!!」

キョーコは蓮に急に耳元で熱っぽく呼び捨てにされたことでドキンッと心臓を高鳴らせた。

「キョーコちゃんは、えらいえらい。ちゃんと帰ってきまちたね~。」

そう言いながら、酔っ払った蓮はキョーコの頭を手と頬を使ってグリグリと撫で付ける。

「きゃあ!!つ、つるがさん!!」

キョーコが真っ赤になってうろたえても、蓮はお構い無しでのし掛かる。
支えきれなくなったキョーコはラグの上に押し倒された。

「んー。キョーコ…」

「も、もう…なんでこんなめちゃくちゃな飲み方…」

キョーコはドッドッドッと心臓を打ち鳴らしながら真っ赤な顔でぼやいていた。
蓮のこんなに酔っ払った姿を見るのは初めてだ。
旅館や居酒屋で働いていた経験から数々の酔っ払いを相手にしてきたが、こんな風に甘えて来られたのは初めてで、しかも相手が想いを密かに寄せている先輩俳優なのだから、たまったもんじゃない。
蓮の手がキョーコの頬を捉え、グイッと顔を強制的に蓮の方に向けられた。
蓮の閉じた瞼と突き出された唇から、キスされようとしているのを敏感に感じ取ったキョーコは慌てて蓮の顔を両手でぐぐぐっと押し返しながら蓮に言った。

「つ、敦賀さん!!と、とにかく、ベッドへ行きましょう?ね?」

「ん~。このまま…」

「だ、ダメですっ!!心臓が持ちませんっ!!」

ジタバタと暴れるキョーコが顔を逸らして蓮のキスを拒むので、蓮は代わりにキョーコの首筋にチュウ~っと吸い付いた。

ブワッとキョーコの体温が上がるが、蓮は何度も何度も同じ場所に痛いくらい吸い付いて独占欲の証を刻み込む。

「つつつつ敦賀さぁぁぁぁん!!や、やめっ!!やんっ!!」

抵抗するキョーコの耳を甘噛みすればキョーコから甘い声が漏れて蓮は気を良くした。

「ん~。やっぱりキョーコちゃんはすっごく可愛い…。」

神々スマイルで微笑んで蓮はキョーコを益々抱きしめる。
キョーコはいっぱいいっぱいで反応が出来ず、目を回していたが、ここで気を失ったら自然界の草食動物の如く喰われるっ!!と本能的に察していたのか、何とか気を保つことができた。

「つ、敦賀さん!!お気を確かにぃぃぃー!!」

今まで蓮からキョーコちゃんだなんて呼ばれたことがないキョーコは、目を回しつつも必死で蓮に正気に戻るよう訴えてていたのだが、ふとあることに気付いた。

ーーー“キョーコ…ちゃん?”

それは確か、蓮の代マネをした時に、倒れた蓮から熱に浮かされて出た女の子の名前だ。

ーーー私と同じ名前の…敦賀さんが好きな女の子…。

相変わらず首に吸い付いている蓮にだんだんと熱くなっていた体がすうっと冷えて行った。

ーーーそっか…同じ…名前だから?

だから、優しくするのだろうか?だから、いつも助けてくれるのだろうか?

キョーコがぼうっと考え出した時に、蓮は嬉しそうに顔を上げてキョーコの首にくっきりとついた痕を指で辿った。

「ちゃんとついたよ。俺の印。これでキョーコちゃんも俺のものだ。」

満足そうに呟いた蓮に、キョーコはポツリとつぶやいた。

「違います。」

「え…?」

「私は“貴方のキョーコちゃん”じゃありません!」

キョーコの言葉に、蓮の上機嫌が一気に急降下した。

「…ふぅーん。じゃあ誰のキョーコちゃんなの?」

キョーコの肩をグッと床に押さえつける。

「誰のものでもありません!!」

キョーコは負けじと言い返した。

「…昼間のアイツ?“光さんのキョーコちゃん”だから?」

「へ?!ち、違います!!光さんは関係ありません。」

「じゃあ誰?誰のキョーコちゃんなの?教えて…。」

蓮は懇願しながら、キョーコの胸に頭を預けてグリグリと顔を擦り付けた。

「ひゃあ!!ちょ、ちょっと!!敦賀さん!!いい加減にしてください!!」

「いやだ…キョーコちゃんは誰にも渡さないもん。」

「だから私は敦賀さんのキョーコちゃんじゃーー」

「俺のキョーコちゃんだもん!!」

「違いますっ!!そうじゃなくて貴方のキョーコちゃんは別にいるじゃないですか!!」

「…え?」

「そのキョーコちゃんと一緒にしないで下さい。私は私なんです!」

プイッと拗ねたようにそっぽを向いたキョーコを不思議そうに見つめた蓮が問いかける。

「?最上さん以外のキョーコちゃん?」

「そうです。」

「…えっと、俺にキョーコちゃんって名前の知り合いは一人しかいないんだけど、誰のことを言ってるの?」

「え?!そんなわけないじゃないですか!!私と知り合う前から知ってるキョーコさんのことです!」

「ん~?俺が好きなのは今も昔も今俺の腕の中にいるキョーコちゃんだけだよ。」

「もうっ!!いい加減なこと言わないで下さいよぉー!!」

「いい加減じゃないもん。キョーコちゃんのことは全部大好きだもん。」

「なっ?!」

蓮の言葉に絶句したキョーコは一度固まる。

「だからね、知りたいんだ。誰のためだったの?」

「誰のため…とは?」

「ここ、誰のために大きくしようとしてたの?」

蓮の手が妖しく動き、キョーコの胸を服の上から包み込んだ。

「へ?!」

キョーコは真っ赤になって固まる。

「昨日さ、揉んでたよね?一人で…ここを…こうやって。」

蓮は服の上からキョーコの胸に手を添えてグイッと揉み込んだ。

「きゃ!!やんっ!!敦賀さんっ!!」

慌てたキョーコが蓮の手を制止しようと試みる。

「柔らかそうで…甘そうで…食べたいよ…」

「ちょっ!!もう、離してください~!!」

「ううん。やだ。だって俺が離したら他の男のとこ行っちゃうんでしょ?」

「行きません!!敦賀さん以外の人のとこになんて行かないって約束しますから離してくださいー!!」

「…じゃあ誰のために胸を大きくしようとしてたのか教えてくれたら離す。」

「敦賀さんです!!敦賀さんのためですっ!!」

「え?!本当?!」

蓮の目がうれしそうにキラキラと輝いた。

「本当ですっ!!本当ですから離してください~。」

「いや。だって俺のためなんだよね?じゃあもう俺のものだろう?」

「ちっ違いますっ!!」

「…キョーコちゃんの…嘘つき…。」

プンっと拗ねた顔をする蓮にうっかりときめきスイッチを押されてしまってキョーコは絶句する。

「なっ?!」

「俺はこんなにキョーコちゃんを愛してるのに、キョーコちゃんは俺に冷たい。」

「あ、愛っ?!」

蓮の言葉にキョーコは狼狽えた。
だけど、蓮の身体中から漂うアルコール臭に蓮が酔ってるからこんなことを言うのだと思い、冷静さを取り戻した。

「もう!飲み過ぎなんですよ!」

「そんなに飲んでないよ。」

「充分飲んでます!こんなこと言い始めたのが何より酔ってる証拠です!!ほら、起きてください。」

「んー。キョーコちゃんから離れたくない。」

「こんなところで眠ったら風邪引いちゃいますから寝室に行きますよ!」

キョーコの言葉に蓮がピクッと反応した。

「寝室…?いいよ。行こう。」

「行くならさっさと起きてくださいー!!」

「んー。」

もぞもぞと蓮が動くが中々起き上がらない。

「ちょっと敦賀さん!ベッドに行く気あるんですか?!」

「んー。ある。あるよ。もうちょっと。」

もたついて漸く起き上がった蓮から離れてキョーコは宣言する。

「じゃ、すぐ寝室に行ってください。」

「ん。キョーコは?」

「い、いきません!」

「えー?だってキョーコから誘ったじゃないか…」

いつの間にかキョーコと呼び捨てにされているがこれも酔っ払いの戯言だ。

「私はまだやらなきゃいけない家事が残ってるんです!!」

キョーコがそう言うと、蓮は思いっきりしゅーんとした顔になってのっそりと立ち上がった。
フラフラと歩く足元が覚束なくて危なっかしい。
数歩も歩かない内に蓮の膝がガクッと崩れた。

「危ないっ!!」

キョーコは慌てて近寄って蓮の身体を支える。

「もう。ベッドに入るとこまでは見届けさせて頂きますから。」

「ん。ありがとう…キョーコ。」

蓮は嬉しそうにニコニコと笑うが相変わらず足元がフラフラだ。

ため息を一つ落としたキョーコは蓮の腕を自分の首に回して、蓮を寝室へと連れて行ったのだった。



「ちゃんと寝てください!」

布団を捲って蓮を横たわらせ、布団を被せようとした時だった。

グイッと腕を引かれ、物凄い力で抱き締められてしまったのだ。

蓮の香りが色濃く残るこの場所は蓮がそばにいなくてもキョーコの恋心をピークにまで高鳴らせるというのに、キョーコは何故か蓮にベッドの中に引き摺り込まれて抱き締められてしまった。

「つ、敦賀さ…」

「ん。おやすみ。キョーコちゃ…」

キョーコが逃げないようにキョーコの身体にのし掛かって巻きついたまま、蓮は夢の世界に飛び立っていた。

気持ち良さそうにすぅすぅと寝息を立て熟睡する蓮の顔が可愛くて、キョーコは身悶えるしかない。

ーーーもうっ!!反則なんだってばっ!!

胸に頭を預けている蓮の頭をそっと抱きしめ、髪をサラサラと梳く。

胸がドキドキと騒いで熱くなる。

「もう、明日には忘れてるくせに…。」

大好きだの愛してるだのとんでもないことを宣っていた蓮。

「私じゃなかったら本気にしちゃうんですからね!」

言いながら切なくなる。
そう、どう考えても意味不明な酔っ払いの戯言なのだ。

「それにしても…見られてたなんて…」

昨夜のことを指摘された時には真っ赤になるより他はなくて、そしてそのことを思い出しながらその時の自分の格好を思い出して今更ながらに真っ青になった。

ーーーちょっと待って?!私…あの時服…着てなかったんじゃ…!!!!

パキンとキョーコの体が固まる。

ーーーうそっ!!なんてこと!!嘘でしょー!!!!

心の中で何度思い返してもそんなことをしたのはお風呂上がりのあの時間だけのはずだ。
それを蓮に見られていたなんて想像もしていなくて真っ赤になったり真っ青になったり忙しい。
まるで忙しない信号機のようにチカチカ変わるキョーコの意識を引き戻したのも、やっぱり蓮だった。

「キョーコちゃんは…俺のだもん…。」

蓮の寝言にピシリと固まって、キョーコはそのままふわっと気を失ってしまうのだった。


(続く)


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*****

やっぱり大好き。酔っ払い蓮様♪

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「はぁぁぁぁ~」

「何だ?朝からため息ばっかりだな。」

「え…あ、すみません。」

「いや、いいけどさー。昨日も様子おかしかったし、キョーコちゃんと何かあったのか?」

「………別に、何もありませんよ。」

「ふーん?ため息ついたり、無表情のまま固まったり、明後日の方向見てぼうっとしてたり…今日は特に多いよなぁ~。」

蓮の反応を見てニヤニヤと遊びの顔に入り始めた社を敏感に察知した蓮は慌てて警戒心を強め、気を引き締める。

「…そうですか?」

「蓮君は何をしちゃったのかなぁ??」

グフフと笑い始めた社を見て、蓮は無視を決め込みスッと立ち上がり歩き始めた。

「あ、おい?蓮?!」

「そろそろ呼ばれますよね?行きましょうか。」

「ったく。お前はーーー」

ブツブツと文句を言いつつも仕事の顔に切り替えた敏腕マネージャーを背後に感じながら蓮は心の中で独りごちた。

ーーー話せるはずがない。

キョーコの裸を見てしまったなど他の男に話して、そんなキョーコの姿を想像させることさえ許せない。

ーーーあの姿は俺だけの…

激しく熱い口付けをして身体を掻き抱く妄想が蓮の頭の中で繰り広げられる。

「あっ!キョーコちゃん!」

ーードクンッ

蓮の心臓が一気に跳ねた。
慌てて社の視線の先を辿ると、社の声でこちらに気付いたラブミーツナギのキョーコが振り返るところだった。

「っ敦賀さん…!!あ、社さんも、お疲れ様ですっ!!」

「お疲れー!キョーコちゃんは今日はラブミー部の仕事?」

「はいっ!そうなんです!」

最初は蓮の姿を見て緊張して固まりそうになったキョーコも、社に意識を向けたことでなんとか笑顔を作りいつも通りの会話を交わすことが出来た。
そんな二人を見ながら蓮はどうしてもキョーコを邪な目で見てしまう。
唇の味を知ってしまった蓮の飢えは時間が経てば経つほど渇く一方だ。
そして不意に脳裏をよぎったのは昨夜のキョーコの独り言だった。

“やっぱりーーーーさんも、大きい方が好みなのかな?”

ーーー…そういえば、あれは、誰のことだったんだ?

キョーコが“◯◯さん”と呼ぶのはなにも自分だけではない。

大きい方が好みというのはあの行動から察するに胸のことで間違いないだろう。

ーーーだとしたら、誰を思って?誰の為に…あんな…こと、を…?

どうして胸を大きくしたいなどと思い至ったのだろう?
自分が触れた時に明らかに拒絶するかのように固まった彼女。
だとすると、自分には触れられたくなかったということなのだろうか…?

ならば、昨日のあの姿は…自分以外の誰か別の男の為に…?

フツフツと胸の中に新しく現れたのは渦巻く黒い感情。

ーーーそんなの…許せない。

蓮は気付けば一人勝手にグルグルと思考を巡らせていた。

「ーーん?おい、蓮!!」

「はっ…!え…?あ…」

社に小突かれ、蓮は漸く我に返った。
キョーコが心配しながら伺うように下から覗き込んでいるのに気付き、ドキマギしてしまい、やはり目を合わせることが出来ず、慌てて社の方に視線を向けた。

「なんですか?」

「聞いてなかったのか?」

「え…何をですか?」

「キョーコちゃんが今夜の食事のリクエスト何かあるかって…」

「あ、あぁ…そう、ですか…。」

蓮に視線を外されたことでキョーコは胸がキュウッと苦しくなった。

「なんでもいいよ。最上さんが好きなもので。」

「……わかり、ました…。」

蓮の答えをきいて落胆して俯いてしまったキョーコに社が声をかける。

「ったく。そういうのが一番困るんだよ。ねー?キョーコちゃん。」

キョーコは曖昧に笑って社に向き直ると、また二人は会話を始めた。
笑顔で言葉を交わす二人を何と無く見ていた蓮だったが、何故か急に蓮の頭の中に有り得ない構図が浮かび上がった。

ーーーもしかして…社、“さん”…?

二人を見た蓮の視線が鋭く光る。蓮の脳裏に裸のキョーコを抱きしめている社の姿を想像しそうになり慌てて首を振った。


ーーーいやいや、まさか…でも…。

キョーコと社が楽しそうに話しているのが気に入らなくて、蓮は二人の間に割り込む為に、口を開きかけたのだが、その直前にキョーコへ背後から別の声がかかった。

「あれ?そこにいるのもしかして京子ちゃん?」

「あ!貴島さんっ!おはようございます!!」

蓮の耳がピクリと反応する。

ーーー貴島…“さん”?

「おー!敦賀くんとマネージャーさんもお揃いで!!それにしてもやっぱり京子ちゃん相変わらず元気いいね。」

「貴島さんこそお元気そうで何よりです。」

貴島を見上げてにこやかに話をするキョーコを見て蓮の中に嫉妬の炎が湧き上がる。

ーーーまさか、貴島君…か?

ジリジリと胸が焼けている感覚に、今すぐキョーコを捕まえて腕の中に閉じ込めたい衝動を感じる。
出来ることなら誰の目にも触れないところに閉じ込めてしまいたい。
皆が皆、キョーコを色目で見ている気がして気が気じゃないのだ。

「あれ?どうしたの?敦賀くん…怖い顔して…」

「いや…?」

必死で平静を装ってにっこりと微笑むが、キョーコは少し怯えたように顔を青ざめさせていた。

「そんな怖い顔してると京子ちゃんにも嫌われちゃうよー?ねー?京子ちゃん!」

そう言ってキョーコに同意を求める。

「えぇ?!い、いえ…そんな…」

キョーコは貴島に言われた言葉に慌てふためいて返事を返す。
貴島が冗談を言っていることに気付かず慌てて訂正させようとしている。
そんなキョーコにくくくっとからかうように貴島は笑った。

「京子ちゃんって本当純粋だよねー。」

「ええぇ?!そ、そんな!!」

「ね?今夜空いてない?飲みにでも行こうよ。勿論、二人っきりで…さ?」

さり気なくキョーコの肩を抱き寄せて、耳元で囁けば、キョーコの頬がカアッと赤くなりアワアワと慌て出す。蓮は一気に黒い感情が体内から噴き出すのを感じた。
連日の寝不足で思考回路が壊れた蓮は、己のコントロールがうまく出来ず、笑顔の仮面をかなぐり捨てて、怒りを込めた目で思いっきり貴島を睨み付け、貴島のキョーコの肩を抱く手を思いっきり払いのけていた。

「痛っ!」

「ひっ!!」

蓮の怒りを敏感に感じ取ったキョーコだが、そのキョーコの動きよりも素早い動きで貴島から奪うようにキョーコの腕を引き寄せ、庇うように頭を抱きしめた。

「気安く彼女に触るな!」

「なっ!あんなの冗談に決まってるだろー?何だよ、敦賀くん。…随分、余裕…ないじゃないか…。」

「つ、敦賀さっ!!」

急に引き寄せられ抱き締められたキョーコもたまったものじゃない。
蓮の怒りに怯えていたはずなのに、その力強さと頬に直接伝わる体温に心臓がバクバクと壊れそうなくらい暴れ始める。

「蓮っ!!おま、何してるんだよ!!」

慌てる社の声を耳にしつつ一度着火した蓮の怒りはなかなか消えない。

「悪いけど、彼女はまだ未成年だ。飲みに…?行けるはずないだろう。」

「つ、敦賀さん!!」

ぐいっとキョーコが慌てて蓮の腕を引いたことでハッと我に帰り少し冷静になれた。
周りに目をやるとテレビ局の廊下で注目を集めてしまってたのだ。

「…ごめん。」

蓮はなんとかそう言葉にして、己の怒りを抑え込み、キョーコの頭を抱え込んでいた腕をそっと解く。
そして貴島にも頭を下げた。

「ごめん。つい…」

「いや、敦賀くん少し疲れてるんじゃない?少し休んだ方がいいかもね~。」

貴島が軽いノリで言ったことでこの場は何とか収集がついた。
何事かと注目していた人達もホッとして散って行く。

「すまない…。」

「いーっていーって!その代わり今度埋め合わせ、よろしくっ。っとそろそろ行くよ。またね。敦賀くん、京子ちゃんも。」

「あ、はいっ!!お疲れ様でした!!またよろしくお願いします。」

キョーコが貴島に向かってぺこりとお辞儀をすれば、貴島は振り返らずヒラヒラと手を振って去って行った。


蓮も一緒に貴島の背中を見送りながら、貴島に頭を下げ続けているキョーコを見つめる。
胸の奥がジリジリとする感覚はまだ消えず、怒りによって発生した手の震えがとまらない。

ーーーもし、彼女が……

自分以外の“誰か”との関係を望んでいたら…?

そんな未来が垣間見えて怖くなったのだ。
他の男になんか渡したくない。
でも今の自分にどんな権利があるというのだろう?

今の自分は、キョーコにとってただの先輩で、ただの同居人というだけだ。
キスも奪うように口付けて自分の気持ちを押し付けただけ。

キョーコからキスはされてもキョーコから明確な言葉をもらったわけではない。
本番で一発OKだった為に、気が大きくなっただけかもしれないのだ。
ラブミー部のラスボスだけに、過度な期待は禁物…だからこそ、明確な答えがない今はとても不安定だった。

「あ、悪い電話だ。」

社がそう言ってゴム手袋を取り出すと蓮とキョーコの側から離れた。

蓮が己の気の高ぶりを沈めたくて深い息を吐き出した時に、また新たな声がキョーコの名を呼んだ。

「あ、京子ちゃーーん!!うわっ!!敦賀さんや!!本物?!は、はじめまして!!」

「…はじめまして。」

「あ、光さん。おはようございます。今日はお一人なんですか?」

蓮はキョーコの発した呼び名に衝撃を受けた。

ーーー“光…さん”?!

慌てて光さんと呼ばれた男に視線を向ける。

ーーー何者なんだ?!

ファーストネームでキョーコが親しげに男を呼ぶことなど滅多に無い。
年もキョーコより年上である自分と変わらないように見える。
相手の男はキョーコとほのぼのした空気を作り出し、キョーコに好意を持ってるのが丸わかりだった。

「これから事務所?」

「あ。はい!そうです!」

「残念~!俺も撮影じゃなかったら送って行くのに…」

「えぇ?!そんな、お気持ちだけで充分ですよ~。」

「あ、そうだ!!この間作ってくれたカツカレー美味しかったよー!!次は何を作ってくれるの?」

「ふふふ。それは来週のお楽しみです。」

楽しそうに話す会話の中で聞こえた単語に鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けた。

「え…?」

いつの間に男の家に料理を作りに行っていたのだろうか?
寝耳に水な話で蓮はショックを隠せない。
しかもどうやら来週も作りにいく約束を既に取り付けられているようだ。

「あ、そや!まだ時間あったら二階の楽屋に雄生たちがいてるんやけど、行けへん?」

「そうなんですね。それではまだ時間があるので、少しだけお邪魔させていただきます。」

キョーコがにっこり笑顔で答えれば、光と呼ばれた男も嬉しそうに顔を紅潮させた。

「おっしゃ!雄生達も喜ぶで~。」

「ふふ。あ、では敦賀さん、私はここで光さんと失礼しますね!」

「敦賀さん!いつも応援してます。同じ事務所何でいつかお会いできるといいなって思ってました!また今度ゆっくりお話しさせてください。」

「え?あ、あぁ…」

蓮はそう返事をするだけでいっぱいいっぱいだった。
脳が思考回路を動かすことを諦めたのか、全く言葉の内容が入ってこない。
爽やかな好青年。
きっと誰の目からみてもそう映るだろう光は、どこからどうみてもキョーコとお似合いに見えた。

蓮に背を向けて楽しそうに話しながら歩き始めた初々しいカップルのような二人を蓮はただ呆然と見送ることしか出来ないのだった。


(続く)


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蓮様ピンチ!近付く馬の骨の巻~♪

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