なくした記憶 45


なくした記憶 45


蓮が幸せな夢に浸っていると、急に耳元で大きな音が響き渡った。

きゅるきゅるきゅるきゅるきゅきゅきゅ~

不意に飛び込んできた、奇妙な音に、蓮が飛び起きる。

「な、なんだ?!」

音の根源を探そうと左右に目を向ければ、またもや近くで音が鳴り響いた。

きゅるきゅるきゅきゅきゅきゅきゅー!!

「え?」

「ひぃやぁぁぁー!!」

音の根源を辿り視線を下に落とすと、真っ赤な顔をしたキョーコが慌ててお腹をおさえていた。

目を丸くしてそんな光景を眺めた蓮は、どこかで見た光景だな。と心の中で独りごちて、ぷっと噴き出した。

「クスクス。おはよう。キョーコ」

「おはようございます。えっと…蓮、さん?」

「久遠でいいよ?」

蓮がそういうと、キョーコはホッとしたような嬉しそうな顔になった。

「久遠…。」

そう呼ぶキョーコの唇にそっと口付けると、キョーコも目を閉じて受け入れてくれた。

軽いキスで留めて名残惜し気に唇を離すと、蓮はキョーコの慣れなくて赤くなった顔をイタズラっぽく覗き込んだ。

「ごめんね?また、君の胸を枕に寝てた?」

「う…はい。」

かぁぁ~と更に真っ赤になるキョーコが可愛くて浮き足出す。

「でも、それなら起こしてくれたらよかったのに。何であんなにお腹の虫が鳴くまで我慢してたの?」

クスクスと笑っていうと、キョーコが少し怒りつつ抗議してきた。

「起こしました!でも、起こそうとしたら、前と同じでその度に頬ずりしながら擦り寄って来るし…がっちり抱き込まれてるから、抜け出せないし、揺り起こそうとしてもますます抱きついてくるし、全然起きてくれないんだも…あ、あれ?」

「ん?どうかした?」

怒っているキョーコも可愛いなぁと思いながら蓮はキョーコを見つめていたが、突然 何かに気付いたようにキョーコが固まったので、蓮は首を傾げた。

「“また”って…?」

「え?」

「久遠っ!!もしかして記憶が…」

キョーコの言葉に、蓮は首を傾げて考える素振りを見せた。

「そういえば…」

深く考え込む蓮の顔を、キョーコが覗き込む。

「何だか前に似たようなことがあった気がして…」

「それって…」

「でも、良くは覚えてないんだ。何となく…キョーコの胸枕気持ち良かったなって…」

「ふへ?!?!」

ボンッ!!キョーコは不意打ちで言われた言葉に頭を爆発させてしまった。

「そうか…もう一回やったら思い出せるかも…。」

「な、ななななな…」

ジリジリとにじり寄る蓮からキョーコが追い詰められる。

「ねぇ、キョーコ…協力してくれる?」

耳元で熱く甘く囁けば、キョーコは真っ赤な顔のまま、口を開きかけた。

…と、その時…。

きゅるきゅるきゅるきゅるきゅきゅきゅきゅきゅ~

今までで一番大きな音が存在を主張するように響き渡った。


「もうっ!!久遠の馬鹿っ!!」

いつまでも笑い転げている蓮に向かって、キョーコは枕を使ってバシバシと叩く。
蓮は参ったと言うように手を挙げた。

「キョーコ!落ち着いて。くくくっ。もう、ごめんってば。」

照れ隠しだということが丸わかりのキョーコの行動が可愛すぎて、蓮の顔が益々緩む。

「もうっ!!知らない!!」

臍を曲げてしまったキョーコが、枕を抱き締めて蓮に背中を向ける。
からかい過ぎたかと少し反省して、蓮はキョーコを後ろからそっと抱き締めた。

「ごめん。キョーコ。許して?」

「やだっ!許しません!!」

ぷいっと顔を背けるキョーコは、枕を抱き締めて顔を隠していた。その耳元に唇を寄せて甘い声で囁く。

「朝ご飯食べないの?」

「久遠がいつまでも準備させないくせに!!」

「キョーコが可愛すぎるのがいけないんだ。」

「それは理由になりません。」

「なるよ。食べちゃいたいくらい可愛いもん。」

「私は食べ物じゃありません!」

「え?違うの?こんなに美味しそうなのに…?」

真っ赤になった耳を眺めながら蓮が言う。

「おいしそうなわけ…きゃ!やんっ!!ちょっと、ぁ、久遠っ!」

おいしそうな耳に我慢出来ず食いついた狼に、キョーコは必死で抵抗するもなかなか抗えない。

「ん。やっぱり甘くて美味しい。…こっちはどうかな?」

そう言って、耳から首元に移動する蓮の唇。
何時の間にかキョーコはベッドに押し倒され、抱えていた枕は蓮によって取り除かれ、服のボタンを外されかけていた。

「キョーコがまだご飯食べないなら、俺が先に食べちゃおうかな。」

「きゃあ!!もうっ!!久遠っ?!やん!!やめっ!」

「んー。ダメ。やめられない。」

「や!!だって今日、デートするって言ったぁ!!」

キョーコの言葉に、キョーコの胸を触っていた蓮の手の動きがピタッと止まった。

恐る恐るというように、蓮が声をかける。

「……今日は…やめとく?」

「嫌っ!!デートがいい!!」

「だって…折角…」

「デート連れてってくれるっていいましたよね?!」

「でも…」

「それとも久遠は…私とデートするのが嫌なの?」

可愛いキョーコにそう言われては、蓮は引くしかない。

「そんなわけない…」

キョーコの可愛いお願いに叶うはずのない蓮は、少々がっかりしながらも、シャキッと起き上がって、キョーコを助け起こしたのだった。



キョーコが食事を作ってる間に、蓮は少し出かけてくるといって、駐車場に向かった。
昨日キョーコに内緒で買った服がいくつかあるため、車のトランクから服の入った紙袋を取り出す。
キョーコがどんな反応するかな?とドキドキしながら、家まで運び入れた。


「すみません。何も準備してなかったので、こんなものしかできませんでしたが…」

申し訳なさそうに、言うキョーコだが、蓮は目の前に並んだ朝食に目を見開いていた。

こんがり焼けたトーストに、目玉焼きと千切りキャベツ、スープとフルーツヨーグルトまで並んでいたのだ。
この短時間の間に何時の間に?と思うほどの手際の良さに、蓮は内心感心する。

「そんなことないよ。凄く美味しそうだ。」

蓮の言葉に、ホッとした表情を浮かべるキョーコに微笑みかけて食卓を囲む。

和やかな食事を終えて、キョーコが片付けようとすると、蓮はキョーコの手から食器を取り上げた。

「片付けは俺がするから、君は出かける支度して?」

「え?でも…」

「いいから、いいから。君がいつも使うゲストルームの前に置いてる服を使って?」

「え…?」

「今日はそれを着てデートしよう。」

軽くウィンクをして見せる蓮に、キョーコはわかりました。と渋々承諾して、洗い物を蓮に任せてリビングを後にしたのだった。


(続く)

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*****


なかなかデートに出掛けない二人…
どうしてくれよう…(泣)
デートプラン考えなきゃ(笑)

※Amebaで2013/04/11に公開した話を若干訂正したものです。
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なくした記憶 44

なくした記憶 44


「寒くない?」

「ん。大丈夫です。」

キングサイズの蓮のベッドに並んで横たわる。
蓮の腕枕に遠慮気味に頭を乗せたキョーコの方に身体を向けて、布団を被せた蓮はやや緊張している様だった。
キョーコの肩が出ていないか気にしながら、そっと不安気にキョーコの顔を覗き込む。

さっきのホテルでは恐く感じた蓮の腕も今のキョーコにはとても居心地が良かった。

「さっきは…ごめんね。」

「いぇ、私が何か気に障る言動を知らないうちにやってしまってたんですよね?」

「いや、違うんだ。あれは…俺が勝手に…」

蓮はグッと押し黙ると、キョーコを抱き寄せた。
蓮の香りに包まれてキョーコはほぅっと息を吐き出す。

「嫌って…ませんか?」

「嫌いになんて、ならないよ。なるわけない。」

「じゃあ、どうして…あんな…」

キョーコの目にまたもやじわっと涙が浮かんだ。
怖かったのだ。何故急に蓮の様子が変わったのかもわからなかったのに、あんな強引に、優しさの欠片もない状態で身包みはがされそうになって。
拒否したあとの無言の時間も、蓮がなにを考えているのかもわからなくて、嫌われたんじゃないかと勝手に混乱して。

「う…くっ…」

「ごめん。本当にごめん。」

謝罪する蓮の声が申し訳なさで少し震えていて、後悔していることがしっかりキョーコにも伝わった。

「俺が…わからなくなったんだ。」

「…どういうことですか?」

「記憶のない間の俺と、今の俺が全く別人に思えて、混乱したんだ。」

「……?」

「君の口から嬉しそうに記憶がない間の俺の話を聞く度に、嬉しく思う反面、胸の中に何だかわからないチリチリとした感情が湧き上がって…」

蓮の腕に力が入る。

「君を愛してるのは俺だ!他の誰でもない俺なんだ!!なのに、なのにっ!君の記憶の中にいる俺は…今の俺以上に、君の心の中に入り込んでる。」

「…え?」

「俺が、俺自身に負けてるみたいで…悔しくて…久遠である俺の方が、キョーコは好きなのか?だとしたら、今の俺は…どうしたらいい?わからない…わからなくなって…怖くなった。」

蓮の身体が小刻みに震えているのに気付いたキョーコは、そっと蓮の身体に腕を回して抱きしめた。
キョーコが抱き締め返したことに気付いた蓮は更に力強く抱き締める。

「好きなんだ。どうしようもないくらい、君のことが…。自分自身にさえ、奪われたくないと思うほど…愛しくて堪らない。誰にも渡したくない。」

「敦賀さん…」

「キョーコ…お願いだ…俺から離れて行かないで…。」

弱々しい声で懇願する蓮に、キョーコの胸がキュンと甘く締め付けられた。
蓮がまるで大きな子供で自分に縋ってきているように見える。
そういう部分に、久遠だった頃の蓮が重なる。

「離れられるわけ…ないじゃないですか。」

キョーコの顔に笑みが零れた。

「貴方が敦賀蓮でも、久遠でも、どちらも貴方であることに代わりがありません。」

「………。」

「敦賀さん…貴方の顔を見せて下さい。」

少し戸惑いつつ、蓮は言われたままキョーコを抱き締める腕を緩めて、キョーコの顔を覗き込んだ。
キョーコは両手で、蓮の頬を包み込む。

「私が好きなのは貴方です。最初、貴方が記憶を取り戻した時、私は確かにショックを受けました。でも、気付いたんです。久遠は貴方の一部分。久遠以外にも、きっと貴方の中には色んな貴方がいます。でも、それを全て引っくるめて貴方が好き…。貴方の行動や言動の中に久遠が垣間見えるのも、久遠が貴方だからですよ。他の誰でもありません。貴方は、敦賀蓮で、久遠で、コーンで…私の愛しい人です。」

「キョーコ…」

キョーコの慈愛に満ちた目が、蓮の心を包み込み、その言葉に光を見出す。
蓮の目にジワリと涙が溜まった。

「貴方は、私の愛しい人です。」

はっきりそう言い切ったキョーコに、蓮は漸く微笑みを浮かべた。
しかし、かっこ悪いところと弱音を吐いたのが恥ずかしかったのか、少し罰が悪そうな笑顔だ。
キョーコはそんな蓮の頭に手を回して、そっと胸に抱き込んだ。
蓮はそんなキョーコの行動に驚きつつも、そっと目を閉じてキョーコの優しさと温もりに身を任せた。

「愛してる。」

キョーコの心臓に向かって直接愛を囁く。

「私もです。」

照れたようなはにかんでいるような声が返ってきて、蓮は嬉しくなった。

「明日のデートは、俺が決めていい?」

「はい。楽しみにしてますね。」

「おやすみ…キョーコ。」

「おやすみなさい。蓮…さん。」

今は、この温もりを感じたまま夢をみよう。
愛しい人の腕の中で…。

キョーコの愛に包まれて。



夢を見た。
沢山いる俺の中から、俺だけを見つけて真っ直ぐに笑顔を向ける君。
沢山の俺は俺の元に集まって、キョーコが見つめる俺の中へ一人一人が入ってくる。
その度に、君は一歩一歩俺に近付き、全ての俺が一人になった時、嬉しそうに微笑んで自分から俺の胸に飛び込んできた。

俺はもう離さないと心に決めて、俺の全てで彼女を守ると心に誓ったーーー。


(続く)
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*****


放置しすぎました。ごめんなさいー!

※Amebaで2013/04/09に公開した話を若干訂正したものです。

なくした記憶 43

なくした記憶 43


部屋に入るなり、蓮は自分の拳で自分の頭をガツンと殴ると、ズルズルとそのまま扉を背に座り込んだ。

キョーコの心の中にいる記憶のない間の自分自身へ苛立ちが募る。

記憶のない時間はまるで、他人事のように感じてしまうのだ。
自分ではない、自分の中にいるもう一人の男。

その男が許せないからこそ、蓮はキョーコへの苛立ちを抑えられなかった。

思い出したい。でも、思い出したら…?今の自分はまたいなくなってしまうんじゃないのか?

そう思うと、自分じゃない男がキョーコを手に入れる姿を想像してしまうのだ。

ーーー最上さんが好きなのはアイツじゃない。俺だっ!!

そう思った蓮は、先ほどのホテルで乱暴にキョーコを抱こうとしてしまったことを思い出した。
その結果がこれだ。怖がらせ、怯えさせ、口も聞いてもらえなくなった。

頬を打たれた時、蓮はキョーコが好きなのは自分の中にいるアイツだと言われた気がしたのだ。

「くそっ!!!!」

髪をぐしゃっとかき混ぜる。
記憶の混乱なのだろうか…。
思い出そうとすれば思い出そうとする程、辞めろと抵抗する自分がいる。

自分自身がわからず、混乱して、結果キョーコを傷付けた。

「もう…終わりだ…。」

あんな酷いことをした自分を許してくれるはずがない。

現にキョーコは、最後の方は無意識なのだろう。ずっと自分のことを“久遠”ではなく“敦賀さん”と呼んでいた。

アイツには心を開いても、オレには二度と心を開いてくれないのかもしれない。

そう思うと悔しくて、悲しくて、怖くなった。

こうして自分はまた消えてしまうのだろうか…?

キョーコにとってはアイツが良いに決まっている。
そうしたら、俺は…オレは…?


答えの出ない思考のループに蓮は巻き込まれたのだった。



それから数時間。
キョーコは布団に入っても寝ることは出来なかった。
何度も寝返りを打ち、先ほどの蓮のことを考える。

ーーー私…知らないうちに何かしでかしちゃったのかな…。何で急に敦賀さんはあんな風になっちゃったの?
もう、このまま嫌われちゃうの??

その想いがキョーコを苦しめる。

シンと静まり返った部屋、蓮の記憶が戻るまで当たり前になりつつあった幸せな時間が全て崩れ去って…でも、蓮が記憶を取り戻してからは、蓮も自分を好きでいた事を知って…幸せで満たされて…デートして…。

ーーーそれなのに…。

キョーコの目にジワリと涙が滲む。

ーーー泣いても、どうにもならないことがわかってるのに…

心当たりがないからこそ、突然の蓮の変化に戸惑い、キョーコから涙があふれる。

零れる涙を腕で隠して、声を殺して泣いた。

久遠の温もりに包まれて寝ることに慣れてしまっていたキョーコは、結局それからも寝付くことが出来ず、気が済むまで泣いて、目を冷やす為にキッチンへ向かった。

おしぼりを冷やして目に当てると、冷んやりして気持ちがいい。

キョーコが目を冷やしてると、人の気配を感じたのだが、ここにいるのは蓮だけだ。
泣き腫らした目を見られることを避けたくて、キョーコはタオルで目を覆ったまま、蓮の気配に背を向けた。



頭を冷やす為、お風呂に入っていた蓮が、お風呂から上がり水を飲む為、キッチンに入ると、背中を向けて立ち尽くすキョーコの姿を見つけた。

「最上さん?!」

時計の針は朝方に近い深夜を指しており驚いた蓮が声をかけると、その身体は小さく揺れた。

「こんな時間に…。いや、ごめん。眠れなかった?」

気まずそうに縮こまった蓮が、伺うように言うと、蓮の言葉にキョーコが申し訳なさそうに頷いた。

「さっきは…ごめん。記憶が混乱してて…でも、君を嫌いになったとかそんなんじゃなくて…」

「う…うぅ…。」

蓮の言葉を聞き、我慢していた涙が溢れる。

「ごめん。ごめんね。あんなことして…君は、何も悪くないのに、勝手に…俺が…」

そう言って、キョーコの頭に手を乗せる。一瞬だけキョーコの肩がビクリと震えたが、フルフルと首を振るだけでキョーコは逃げ出さず、自分の手を嫌がらない姿を見て、蓮は安堵の息を漏らした。

「…一緒に…寝る?」

蓮は、自分の口から出た言葉に驚いた。
キョーコも驚いたのか大きな目を見開いて蓮を見た。

「あ、いや…あの、さっきみたいなことはしないって誓うよ!」

蓮は慌てて言葉を付け加えた。

「一緒に…横にいてくれるだけでいいんだ!」

蓮の言葉を聞いたキョーコの目には、期待の色が浮かんでいるのを、蓮は見逃さなかった。

「…おいで。」

両手を広げた蓮に、一瞬躊躇を見せながらも、おずおずと近寄るキョーコ。
キョーコが少しずつ近寄る度、蓮の心臓が早鐘を打つ。

キョーコの冷えた手が、蓮に伸びようとした時に、キョーコが一瞬にして茹でダコのように真っ赤になった。

「つつつつつ、敦賀さん!!服を着てくださぁい!!!!破廉恥ですぅー!!」

キョーコは慌てて蓮から離れると、真っ赤になった顔を両手で覆った。

「…あ、ごめん!」

一瞬そんなキョーコの行動に呆気に取られた蓮だったが、上に何も身につけていなかったことに気付き、言われた言葉の通り、急いで寝巻きを身につけながら、こんなことを前にも言われたことがあるような不思議な気分になった。

「最上さん、服着たよ?これでいい?」

蓮が顔を手で覆ってるキョーコの側に近寄って優しく声をかけると、キョーコが恐る恐る手を外して、蓮を伺う。

「あの…本当に、いいんですか?」

「え?何が?」

「だから…その…」

カァと顔を赤らめるキョーコに、蓮は優しい笑顔を向ける。

ーーーあ、久遠の笑顔だ…。

「もちろんだよ。おいで。」

ふわっと笑う蓮に、キョーコも久遠に返していた笑顔を見せ、一気に抱き付いた。

蓮は突然のキョーコの笑顔と抱擁に驚いてフリーズするが、心臓だけは一気に動き出していた。
恐る恐るキョーコの身体を抱き締めると、キョーコも苦しいくらい抱き付いてきた。

ーーー彼女が誰を求めていたとしても、今はまだ、彼女のそばにいるのはこの俺だ…。

愛しいキョーコを宝物のように胸元に抱き締めた蓮は、そう結論付けて、自身の寝室のベッドへキョーコと共に身を沈めたのだった。


(続く)
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*****

※Amebaで2012/12/13に公開した話を若干訂正したものです。

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

なくした記憶 42

なくした記憶 42


湧き上がった疑問は蓮の中で波紋を呼ぶかのように拡がっていく。

ーーーオレ…ハ、ダレダ…?

気持ちが乱れ自分自身がわからなくなる。

ーーーキミハ…誰ヲ見テルノ?

記憶を思い出しそうだと言った後のキョーコの期待に満ちた目の輝き…。

それは一体何を求めているのだろうか?

ーーーオレ、ジャナイ…アイツ?

意味のわからない不安が渦をまく。

ここ数ヶ月分の記憶がない自分自身に不安がよぎる。

自分のようで自分じゃない時間。

記憶のない間の出来事をキョーコの口から聞くたび湧き上がるのは焦燥感と嫉妬心。

自分のもののようで自分のものじゃないその時間。

この混乱がどこから来るのかわからない。

ーーー君ガ好キナノハ、本当ニ、俺…ナノカ?

記憶を思い出したかもしれない。そう言えば輝くキョーコの顔に嫌な汗が背中を伝う。

ーーー記憶ヲ、取リ戻シタラ…俺ハ…ドウナル?

今の自分はどこに行ってしまうのだろうか?

蓮の中で、思い出すことへの恐怖心が湧き上がる。

ーーー嫌ダ…渡セナイ…渡シタクナイ。キョーコハ…俺ノ…

「…が、さんっ!!敦賀さんっ!!」

「…っ?!も…がみさん…。」

「大丈夫ですか?凄く顔色が悪いですけど…」

「あ…いや…。」

「殆ど手を付けてませんよね?どうされたんですか?」

「いや…ごめん。冷めちゃった…ね。」

「それは良いんですけど、無理されてないですか?今朝もそんなに寝てないですし…今日はもう会計して帰り…」

「いや…君こそ、最後まで食べてないじゃないか…。いつもの君ならもったいないっていうだろう?」

「でも…敦賀さん無理して…」

「だから、無理なんかしてないって言ってるだろうっ?!」

らしくなく苛立った声が出てしまったことに気付いた蓮はハッとして気まずそうに目を逸らした。
キョーコはショックを受けた様に固まっていた。

蓮の苛立った声は個室からも漏れ出たようで、楽し気に音を立てていた周りの音が止み、シン…っと一瞬静まり返った。

「お客様?!どうかされましたか?」

礼儀を守ったウエイターが少し慌てつつも遠慮気味に個室に顔を出し、様子を確かめる。

互いに固まっていたキョーコと蓮もその声に意識を戻され、キョーコが申し訳なさそうに頭を下げた。

「あ、…いえ、なんでもありません。お騒がせしてしまい申し訳ありません。」

「いえ、何もないならいいのですが…」

「本当に大丈夫です。大声出してしまいすみませんでした。」

尚も困惑した様子のウエイターを見兼ねて、蓮も頭を下げた。

「いえ。失礼致しました。」

その蓮とキョーコの様子に安堵の表情を浮かべたウエイターが一礼して個室から退出すると、再び二人の元に重ぐるしい沈黙が落ちる。
蓮が一つ息を落とすと、キョーコの肩が大きく揺れたのが蓮の目の端で捉えられた。

「とりあえず…食べよう…。」

「は…い…。」

蓮とキョーコは会話のないまま食事を済ませた。

前に久遠と二人できた時には美しく映っていた窓の外に広がる夜景も、今のキョーコには寂しくしか映らなかった。

席を立つ際に名残惜し気に個室を振り返ったキョーコを背後に感じた蓮は、更に苛立つ心を抑えられないまま会計を終えるのだった。


キョーコは蓮の様子から自分が何か気に障ることをしてしまったのかと、考えを巡らしていたのだが、エレベーターホールについてキョーコは首を傾げて蓮を見上げていた。
蓮は何故かエレベーターの昇り用のボタンを押していたのだ。

「敦賀さん?」

地下の駐車場に行って帰るのではないかと思っていたキョーコの呼びかけにも何の反応を示さない蓮にキョーコの中でも不安が募る。

ーーポーン

場に似合わず軽快な音を立てて止まったエレベーターが口を開くと、蓮はキョーコの腕を引いて無言で乗り込んだ。
握りこまれた腕が痛くて、キョーコが顔を歪ませる。

「痛…っ!」

思わず漏れた声にも、蓮は気付かないようだった。

「え…?ここ…」

キョーコは何故蓮がホテルの部屋の前で立ち止まっているのかわからずに問いかけようとしたのだが、ポケットから取り出した鍵で簡単に扉が開かれ、強引に中へ引きづりこまれた。

ーーーバタンッ

大きな音を立てて閉まるドアと、嵐の前の静けさというような蓮の様子にキョーコの緊張がピークに達した時、真っ暗な部屋の中で蓮に突然強く抱きしめられた。

そして強引に顎を引き上げられ、唇を重ねられる。
乱暴なその行為に、キョーコの身体が強張った。

力付くで蓮がキョーコをベッドに押し倒すと、キョーコから悲鳴が上がった。

「きゃ!!や、っ!!いやっ!!やだ…!!やめてくださいっ!!やめてくださいっ!!敦賀さんっ!!!!」

キョーコが必死で抵抗するも無言のまま蓮がキョーコを押さえつける。

「いやっ…!!いやぁぁぁぁ!!!!」

キョーコの叫び声で、蓮の手の力が少しだけ怯んだ隙に、キョーコの平手が蓮の頬を打った。

ーーパシン

渇いた音が部屋に響く。

「…あ、ごめ…なさ…。」

キョーコがカタカタと震えながら言うと、蓮はベッドを軋ませながら、キョーコから離れた。

「ゴメン…。」

ポツリと絶望したように呟いた蓮の声が、暗い部屋に響き、レストルームへ姿を消した。

キョーコは自身の胸元を隠す様に震える両手で襟元を掴む。
力が抜けたのかヘナヘナとベッドに座り込んだ。

それから数十分後にようやく蓮がレストルームから顔を出した。

「帰ろう…。」

「は、い…。」

それだけ言ったきり、言葉を発しない蓮の5歩後ろをキョーコが歩く。

蓮の背中にいい様のない不安を感じながらも、キョーコは声をかけることが出来なかった。



「あ…の…。」

車の中でも私語厳禁状態だったキョーコは、マンションの部屋に入って我慢出来ずに話しかけた。このまま蓮から何を切り出されるのかわからず心が不安で圧迫される。

「悪いけど…一人にしてくれないか…。」

一言だけ言葉を残して、蓮はばたりと自身の寝室の扉を閉めたのだった。


残されたキョーコの目には、今にも溢れ出しそうな程、涙が溜まっていた。


(続く)
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※Amebaで2012/12/13に公開した話を若干訂正したものです。

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

なくした記憶 41

なくした記憶 41


「ご機嫌だね?」

隣に座っている蓮がキョーコの顔を覗き込む。

「うん。だって美味しいんだもん。久遠も食べる?」

「うん。」

ポップコーンを一つ摘まんで差し出すと、蓮はキョーコの手を掴み、その指ごとポップコーンを口に運んだ。

「ん。美味しいね?」

キョーコの手を掴んだまま、とろける様な笑顔を向けた蓮に、キョーコの心臓が飛び跳ねる。

頬を染めて慌てて蓮から手を引き抜く。

「なっ…なっ…もう!久遠ってば!!」

そんなキョーコの仕草に目を細めた蓮は、幸せをいっぱい感じて、キョーコの肩を抱き寄せコメカミにキスを送る。


始まった予告。それよりも大きな音で鳴り響く自分の心音。

キョーコは、困ったような目で蓮を見つめた。

その瞬間、蓮の視線に絡め取られる。

暗い館内。

人々の目はスクリーンに向いている。


しかし、二人は互いから目を反らせないでいた…。


蓮の手がキョーコの頬を捉える。

徐々に近づく顔にキョーコの思考力を奪われる。

あと少しでーーーー。



ーードーン!!

物凄い爆発音に、キョーコが飛び上がり、蓮から慌てて離れた。

スクリーンの中では大爆発が起きており、ビルが崩れるシーンの予告が流れている。

ーーーま、またこのシーン!!あ、危なかった!!ここは外なのにっ!こんな人がいっぱいいるとこでなんて破廉恥すぎるわっ!

キョーコはドキドキとうるさい心臓を宥めながら、俯いて目を瞑った。

ーーーそ、そうよ!思い出したわっ、前回はこれのせいでこの後全然集中出来なくて、映画の内容が全く頭に入ってこなかったのよぉ!!!!

キョーコは頭をぐるぐると動かして悶えていたのだが、ふと、急に浮かんだ考えに熱がスっと引くのがわかった。

ーーーでも、あの時と同じだと思ってるのは…私だけ…なんだわ。今の久遠はあの時のことを覚えていないんだもの…。

そう思うと、少しだけ寂しくなってしまった。
肩を抱き寄せる蓮もあの時と同じ…。

ーーー時間は進んでるはずなのに、同じことを繰り返して…

キョーコが考え込んていると、急に視界がふっと暗くなった。

驚いて視線を上げると、一瞬にして唇を奪われてしまった。

「んっ。」

ちゅっという密やかな音を残して甘い唇を堪能した蓮が、キョーコから離れた。

「な…なっ…なっ!!」

真っ赤になったキョーコが自身の唇を守るように両手で抑える。

そんなキョーコの肩を抱き寄せて頭にもキスを落とした蓮は、そっとキョーコに囁いた。

「不意打ち成功。」

楽しそうに響いたその声に、キョーコはもうっ!と照れて蓮から離れようとしたのだが、それは肩を抱かれているため許してもらえなかった。

仕返しとばかりに、映画を見ている蓮の頬にキスを落とすと、驚いた顔の蓮と目が合った。

そのままぷいっと照れて映画に視線を戻す。するとクスリと柔らかく微笑んだ彼の気配がした。

そっと指を絡めて手を握られる。熱い掌に驚いて蓮に目を向ければ、妖しく微笑んでその捕まえた指に口付けられた。

目はキョーコの視線を捉えたまま、逸らさずに。

それを見たキョーコの頬が真っ赤に染まる。

クラクラとなる頭で映画の内容など入ってくるはずもなく、キョーコはまたもや、この映画を見逃してしまうのだった。


ーーー思えばあの時、私は自分の気持ちを封じ込めようと必死だった。ちゃんと気持ちが通じ合ってからのデート…そういう意味ではこれが初デートになるのかも。

キョーコは、蓮の肩に擦り寄る様にして、ふふっと微笑む。

指を絡めた蓮の手がそんなキョーコの手をギュッと握りしめたのだった。

*
*
*

「もうっ!久遠の馬鹿っ!」

結局映画に集中することが出来なかったとキョーコは恥ずかしさを紛らわすかのようにぷりぷりと怒ってみせる。それを見て笑みを深めた蓮が、ごめんごめんと謝りながら映画館を後にした。

車を走らせてついた場所を見て、キョーコが驚いた顔をしたあと、嬉しそうに蓮に笑いかけた。

「ここ、ハンバーグが有名なんだよね?」

「うん。そうだよ。知ってたんだ。」

キョーコが知ってたことに少し驚いた顔をする蓮。しかしキョーコはくすくすと笑っていた。

「ふふ。ここ、初デートの時に久遠が連れてきてくれたとこなんです。」

「え?本当に?」

「うん。」

「いつかここに君を連れて来たいと思って携帯でチェックしてたんだよ。」

「そうなの?!」

「うん。じゃあ…ここでいいかな?お嬢さん。」

「ふふ。はい。また来たいと思ってたの。」

蓮は、嬉しそうに答えるキョーコの手を取りエスコートするのだった。

素直にエスコートされたものの、例のごとく個室へと通されたキョーコは高級すぎるレストランにそわそわと落ち着かず視線を彷徨わせる。

「くす。落ち着かない?」

「うっ…だってあまりにも高級過ぎて…。久遠は似合うからいいけど…私なんて…。」

「こら。私なんて…という自分を卑下した言い方は良くないよ。君は俺にとっては誰よりも大切な存在なんだから。」

「そ、そそそそそんなこと言われてもっ!!」

「それに、あまりいい気はしないな。俺のこの世で一番愛しい君が君自身からそんな風に思われてるなんて…。」

ふーっと息を吐いてやれやれとわざとらしく首を振り、寂しげに見つめてくる蓮にキョーコの顔が耳まで一気に赤くなる。

「も、もうっ!!そんなからかわないでよ!!」

「からかってなんかないよ。例えば…そうだな。俺が、俺なんかどうせ…って言ってたら、君はどう思う?」

「なっ?!久遠はなんかじゃありません!!」

「ね?ほら、今のキョーコなら俺の気持ちがわかったんじゃないかな?」

「う…そ、そうですね。なんか…は、良くないです。ごめんなさい。」

ぽしょんと頭を垂れるキョーコに、蓮はぷっと吹き出して笑った。

「そんなに落ち込まないで?これからそう言う部分を一緒になおしていこう。君は誰よりも魅力的だってことを嫌でもわからせてあげるよ。」

「本当に?久遠は私で後悔しない?」

「しないよ。君と歩けない未来なんて意味がない。」

ふわりと微笑まれて、キョーコは嬉しさのあまり言葉に詰まった。

そうこうしている内に、料理が目の前に並べられる。

ハンバーグに目をキラキラと輝かせるキョーコを穏やかな気持ちで見つめながら蓮は心の中で呟いた。

ーーー本当に可愛いな。ずっと人目につかない所に閉じ込めておきたいくらいだ。

そう考えてはたと気付く。

ーーーあれ?俺、前にも同じシチュエーションで同じようなことを思わなかったか?

「どうしたの?久遠…?」

フォークを持つ手を止めて固まっている蓮を見て、キョーコがコトリと首を傾げる。

「あ、いや…前にもこんなことがあったな…って…」

そう言った途端、キョーコの目が輝いた。

「何か思い出したの?!」

「え…あ、いや…」

キラキラと目を輝かせるキョーコに、蓮は咄嗟に否定の言葉を吐いた。

「そっか…。」

寂し気なキョーコの顔を見て、蓮は自分の胸の内に訳のわからない仄暗く苦い気持ちがひろがるのがわかった。

ーーーなん…だ?これ…。

「んー。やっぱり美味しい!!ね、久遠……久遠?」

「え…あ…あぁ、おいしい…ね。」

「?うん…。」

それからパタリと会話が止んでしまい、蓮はそれから一言も言葉を発しなかった。



ーーー君ハ、今…誰ト、デートシテルノ?

蓮の中で、仄暗い気持ちが姿を現し…疑問を投げかけた。

音にならず届くことのない言葉に、答えられる術のないキョーコは、蓮の感情の見えない顔に不思議そうに首を傾げることしか出来なかった。


(続く)

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※Amebaで2012/12/12に公開した話を若干訂正したものです。

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なくした記憶 40

なくした記憶 40


「先ずは…ちょっとショッピングなんてどう?ずっと買いたかったものがあるんだ。」

蓮が運転しながら人懐っこい笑顔を浮かべてキョーコに提案した。

「うん、いいけど、何買うの?」

「それは…行ってからのお楽しみ。」

信号で止まった車の中で、蓮は嬉しそうににっこりと微笑んだ。



キョーコが連れてこられたのは高級感あふれるお店。

不安気に見上げるキョーコに蓮は笑みを零す。

「堂々としてれば…案外気付かれないもんだよ。」

蓮は降りる前に帽子を深く被ると、ジャケットを羽織って外に出た。

普段の蓮なら着ないような革ジャンだ。

そんな姿まで絵になる蓮は、車をおりたキョーコにスっと手を差し出した。

「ほら。手を貸して。」

「…うん。」

キョーコは恥ずかしそうにしながらも、差し出された蓮の手を握る。
指を取られて絡められると、あっという間にカップル繋ぎになり、キョーコの頬がカアッと朱に染まった。

ドキドキしながら2人は歩く。


蓮に連れられて入った店は、女性ものの洋服を取り扱った店だった。

品があって、可愛らしい。そんなキョーコのツボをつつくような服が多いこの店にキョーコのテンションが上がる。

「わぁ!!この服凄くかわいい!!あっ!こっちも。」

楽しそうに服の間を練り歩き、たまに自身にあてがうキョーコの仕草を蓮は目を細めて見ていた。

蓮に熱くみつめられる視線に気付かぬ振りをして、精一杯内心のドキドキを隠す為に、必要以上にはしゃいで見せる。

しかし、チラリと見えた服の値段に、キョーコは思わず目を瞠ってしまった。

「く、くくくくくくおっ!久遠っ!!」

「どうかした?!」

急に楽しげだった顔を一転、真っ青に青ざめさせたキョーコを見て、蓮が驚き慌てて近付く。

「ふ、服の価格が一桁、おかしいです!!久遠さんの目的のものを買って、す、すぐに出ましょう!!」

キョーコのあわあわとしながら言う言葉に一瞬ポカンとした蓮だったが、その後にぷっと噴き出した。

「くくくっ。なんだ。そんなこと…。気にしなくていいよ?それに俺の目的はキョーコに似合う服。彼女を飾れるのは彼氏の特権…だろ?」

蓮が神々しい笑顔のままでキョーコを見つめてそう言うと、キョーコがポンと音が出そうな勢いで真っ赤になる。

「か、彼女?!彼女って…まさか…」

「勿論君だよ?キョーコ以外にいないだろう?」

わたわたと慌て出したキョーコを引き寄せて頭にキスを送ると、キョーコがぷしゅーと小さくなってしまった。

そんなキョーコに蓮は、クスクスと笑いながら、ほら。好きな服選んで?と、促す。

上目遣いで困ったような目で見上げてくるキョーコを誘導して先ほどまで気に入って見ていた服を何着か順番に試着させてみる。

蓮は、キョーコが最後の試着してる間に、今まで試着してキョーコの反応が良かったものの会計をこっそりと済ませ、車のトランクに運んでもらった。

最後の服を着て出て来たキョーコに満足そうに微笑んで、蓮は、「じゃあ今日のデートはそれ着て出掛けよう。」と満面の笑みを浮かべた。



申し訳なさそうに眉尻を下げたキョーコを背にして、蓮は上機嫌で会計を済ませて車に戻る。

今までのキョーコが来ていた服は紙袋に入れてもらい、後部座席へと収めた。

「すみません。あの、靴まで…買って頂いて…。」

このまま行こうと言った蓮に頷いたものの、どうしても履いてきた靴がミスマッチになってしまい、躊躇しているキョーコを見て、蓮はすぐさま新しい靴をキョーコに履かせた。

キョーコ好みの靴で、サイズもピッタリだったので、キョーコは驚きを隠せなかったが、蓮は値段も見ずに、さっさと靴も一緒に会計を済ませてしまったのだ。

心底申し訳なさそうなキョーコをみて、運転しながら蓮は苦笑を零した。

「君は…さっきからそればっかりだな。気に入ったんだとばかり思ってたけど、本当は気に入らなかった?」

「そんなことないっ!!凄く可愛くて私好みで驚いたくらいだし…で、でも、やっぱり凄く高級店だったから申し訳ないというか…。」

「だったら、にっこり嬉しそうに笑ってくれた方が俺は断然嬉しいな。折角の初デートなんだし、今日は俺に花を持たせてよ。ね?」

そう言う蓮に、キョーコはふわりと微笑みながらも、少しだけさみしそうな表情になった。

「…うん。」

そんなキョーコの返事に、疑問を抱いた蓮が赤信号で止まってキョーコを見る。

「どうしたの?」

「あ…いえ、あの…デートは…ね、二回目なの。」

「え?」

キョーコの言葉に蓮が驚く。

「あのデート番組の企画が上がった時に、まだあの馬鹿が相手だって知らなかったけど、久遠ってば拗ねちゃって、俺が一番にキョーコちゃんとデートしたいってごねてたの。見兼ねた社さんが慌ててスケジュール調整して時間作ってくれて、デートしたの。だから、今日は二回目…。」

言いながら恥ずかしくなったキョーコは頬をかぁっと赤らめ、下を向いてごにょごにょと言った。

「そう…なんだ。」

「うん…。」

蓮は、初デートの記憶までなくなってしまっていたことにショックを受けた。
何となく気まずい沈黙が流れる。

キョーコにとってはこれはもう初デートではないのだ。

「そのデートって…寝室に飾ってるあの写真を撮った時?」

「うん。」

キョーコが遠慮気味に頷く。

ーーー思い出したい…。キョーコとの今までのことを全部、全部思い出したい。なにもかも…。

蓮の中でその思いが深まる。

「あの…さ、キョーコ。」

「…はい。何でしょう?」

「初デートのやり直し…してくれないかな?」

「え?やり直し…?」

「うん。キョーコとどんなとこに行って、どんなものを一緒に見たのか知りたいんだ。」

蓮の言葉を聞いて、キョーコの顔が嬉しそうな笑顔になった。
ふわりと微笑んで同意を示す。

「ふふ。わかりました。いいですよ?」

「じゃあまず、どこに行ったんだい?初デートの日のこと詳しく教えて?」

キョーコは、道中嬉しそうにその日の出来事を蓮に話して聞かせたのだった。


「うーん。まぁ今から髪染めたりなんてしても、時間かかるから、髪型はこのままでもいいかな?」

「うん。あ…でも、バレたりしない?敦賀蓮がデートなんてばれたら週刊誌に売られちゃうんじゃ…。」

「まぁ多少は大丈夫だよ。それにばれたとしても…君は俺の恋人なんだし、堂々としてたらいいよ。」

「う…あ…は、はい。」

恋人と聞いて、キョーコの頬がかぁっと赤くなる。

今でも本当に夢のようなのだ。

もしかしたら今日一日の出来事が全部夢なのじゃないかとさえ思ってしまう。

ーーーだって、あの敦賀さんよ?!抱かれたい男No.1で、芸能界一の色男で、日本中の女性たちが彼に夢中なのよ?!その敦賀さんとわたしみたいな駆け出しのペーペータレントが恋人だなんて…本当に…現実でありえるのかしら?!

実際に蓮と恋人同士になれたのは今朝のことなのだ。

それまではずっと気持ちがすれ違っていて噛み合わない想いに寂しさを感じていたはずなのに、告白したらその告白に答えてくれて、ずっと好きだったのだと告げられた。

他に好きな人がいると、お互いに勘違いしていたことがわかって、身体まで重ねて…きっともう蓮なしでは生きていけないだろう。キョーコはそんな気さえしてしまうのだった。



「まずは映画だね?みたい映画…ある?」

劇場について、今あっている映画の一覧を見ながら、蓮がキョーコに声をかけた。

「うーん。じゃあ、この間と同じので…。先生が出てるこれ!」

「え?!それだと、キョーコつまらないだろ?」

「いえ…あの、実はあの日殆ど見れなくて…。内容も殆ど覚えてないの。」

えへへ。と恥ずかしそうに笑うキョーコを蓮が不思議そうに見る。

「え?何で?」

その視線を受けて、キョーコがぷいっと視線を外してもじもじと言う。

「と、隣で久遠がいつもより近い位置で一緒に見てると思うとドキドキし過ぎて見れなかったの!!お家とはまた違う雰囲気に心臓が壊れそうで…全然頭に入ってこなかった。」

ぶちぶちと文句を言うキョーコに蓮は、笑みをこぼすとキョーコの頭を嬉しそうに撫でた。

「じゃあ、それにしようか…ポップコーン…食べるよね?」

「あ、うん。食べたい!」

「了解。味は…キャラメルだっけ?」

「………え?」

「ん?何?」

蓮の言葉にキョーコがオロオロと目を彷徨わせて蓮を見たので、蓮が不思議そうにキョーコを見つめ返した。

「い…ま、キャラメルって…」

「ん?違うのが良かった?」

キョーコはフルフルと首を降った。

「ううん。キャラメルがいい!」

キョーコは、蓮の手をギュッと握りしめて、期待を込めた目で蓮に答えた。

突然手を握られ、蓮が驚いていると、キョーコは嬉しそうにはしゃいでポップコーン売り場へと蓮を引っ張って促した。

「ほらっ。久遠っ!早く早く!!」

「はいはい。ちょっとキョーコ。どうしたの?」

「ふふふ。秘密。」

急にはしゃぎ始めたキョーコに驚きながらも、蓮は、嬉しそうにポップコーンを購入したのだった。

あの日と同じポップコーンの
キャラメル味と、オレンジジュース、コーヒーを持って、二人はあの日と同じ一番後ろの席に腰を落ち着けた。

ーーーもしかしたら…。

もしかしたら、蓮は、記憶が戻りかけてるのかもしれない。ポップコーンの味も、キャラメルが美味しかったと言ってたのを覚えてくれていたのだろうか?

それが無意識下のことだったとしても、キャラメル味を何の戸惑いもなく選んでくれた蓮に、キョーコは嬉しさでニマニマしてしまいそうになる顔を蓮に見せたくなくて、わざと大げさにはしゃいでいたのだった。


(続く)
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※Amebaで2012/05/29に公開した話を若干訂正したものです。

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なくした記憶 39

なくした記憶 39



テレビ画面には社長から見るように言われた蓮が出演したDVD。

ソファの上で寛ぐ蓮の足の上にはすっかり定位置となってしまったようにキョーコが座っていた。

蓮の身体に身を預け、2人で記憶をなくしていた間の蓮の話をテレビの話と絡めながらし、時折キスを交わす。

2人にとって、幸せな甘い時間がひろがっていた。

「ふふふ。もう!久遠ちゃんとDVD見ないと!やぁ!もうふふくすぐったいったら。」

「んー。ちゃんと観てるよ?」

そんなやり取りをしていた時に、テレビの曲調が変わった。

どうやら今まで流れていたドラマが終わって、新しい番組に切り替わったようだ。

「ん。」

ちゅっ。と2人でキスを交わしていると、テレビのタイトルコールが響いた。

そのタイトルコールがキョーコの耳に入った瞬間、キョーコは固まった。

ーーーま、まさかっ!!

「ん?どうしたの?キョーコ?」

突然キスの途中にピタリと固まってしまったキョーコに蓮は訝しげな視線を向ける。

キョーコの全神経は背中を向けたテレビへと注がれていることに気付いた蓮は、その目をテレビに向けた。

「?テレビがどうかしたの?」

蓮の言葉にピクリと反応したキョーコは顔を青ざめさせて必死で首を振って否定した。

「ちちちちちちがいます!!違います!!も、もうDVDも飽きましたよね?ここら辺で止めておきませんか?!」

そんなキョーコの言動に不信を抱いた蓮は、キョーコの手がリモコンに伸びるのを阻止すると、キョーコをがっちりと腕の中に収めたまま、テレビ画面に目を向けた。

「く、くくくく久遠!これはきっと、社長が入れ間違えたんだわっ!!だって、久遠はこの番組には出てないもの!!」

キョーコは、おろおろしながら必死で蓮に訴えたのだが、蓮は真剣な目でテレビ画面を見つめていた。

「あ!ダメ!ダメだってば!!…んっ。んんっ!!」

キョーコが余りにも暴れるので、蓮はキョーコの唇を己の唇で塞ぎ、目だけでじっとテレビ画面を伺っていた。

『今日デートしてくれるのはなんと!タレントとしても女優としても華が咲き始めてる京子さんと、不敗伝説を今もまだ更新し続けている人気絶頂の歌手!!不破っ尚っさんっでっす!!』

蓮はそのテレビの言葉を聞き、自分がキョーコにキスしていたことも忘れて、呆然とテレビ画面を見つめていたのだった。



「く、久遠?」

画面を見たまま、固まってしまった蓮を見てキョーコが遠慮気味に声をかける。

画面の中ではキョーコと尚の息の合いすぎたやり取りが繰り広げられていた。

段々と蓮の顔が歪み、不機嫌になってるのがわかった。

大魔王降臨である。

キョーコは、自分さえも観たくもない番組をまさかまたもや蓮と2人で見るハメになり、社長であるローリィを恨んだ。

ーーー社長~~~!!なんってことしてくれるんですか貴方はぁぁぁぁぁ!!大魔王が降臨するような番組にしないでください~!!!!

キョーコが心の中で滂沱の涙を流してる時に、蓮の頭がポスンとキョーコの肩に落ちて来た。

突然頭を預けられたキョーコは、びっくりして蓮を見た。

「久遠…?」

キョーコが呼びかけると、蓮の手にグッと力が入りキョーコの腰を抱き込む。

それは言葉に出さずとも、『絶対に離さない。』と言ってる様にキョーコに感じさせた。

顔を上げて、キョーコを見つめた蓮は何かを口にしようと仕掛けたが、途中でその言葉を呑み込んでしまったのか、グッと言葉に詰まると、何も言わずにキョーコをギュッと力強く抱き締めた。

今にも泣き出しそうな蓮の表情に、キョーコは驚きながらも、そろそろと蓮の背中を撫でる。

「久遠?」

呼びかけると、辛そうな表情の蓮がキョーコの唇に口付けた。

噛み付くようなそのキスに、キョーコは驚きで目を見張る。

そのままソファに押し倒されたキョーコだが、蓮の気持ちはそれでは晴れなかったらしい。キョーコの胸に顔を埋めて、そのまま止まってしまった。

キョーコの心臓はドキドキとしていたのだが、画面の中では相変わらず尚との息の合いすぎたやり取りが続いている。

キョーコの胸に頭を乗せたまま、淋しそうな表情で画面を見つめる蓮。

キョーコはそんな蓮が何故か拗ねてしまった大きなワンコに思えてならず、胸がキュンとなった。

じっと何も言わずに画面を見つめ続ける蓮の髪を安心させる様に優しく梳く。

サラサラと髪を撫でることを繰り返していると、蓮が胸に顎を乗せた体制でキョーコをじいっと見つめた。

「ん?何ですか?」

穏やかなキョーコの表情に、蓮は面白くないのかプイッと視線をそらす。

ーーー本当に子供みたい。

キョーコはそんな蓮が可愛くて堪らずに、思わずクスクスと笑ってしまった。

キョーコが可笑しそうに笑うことで益々不機嫌になっていく蓮。

キョーコは堪らずに蓮の頭を抱き締めて、その頭にキスを落とした。

「もう。だから観るの辞めようって言ったのに…。」

クスクスと柔らかく笑うキョーコに蓮はバツが悪そうにいじけ続ける。

「…だって…こんなのが入ってるなんて普通思わないだろ?」

「まぁ、私も驚きましたけど…。」

「いつの間に撮ったの?何で不破が相手役なのに受けたの?」

「久遠が記憶をなくしてる間です。相手役は…私も知らされてなかったんです。」

キョーコは子供をあやすように、蓮の髪を撫でながら言った。

「それにしても…あいつとデートなんて…俺だってまだなのに…。」

蓮がブチブチと文句を言っている。

「もう。どうしたら機嫌戻してくれますか?」

キョーコの言葉に、蓮がジッとキョーコを見上げる。
何かを強請るようなその視線に、キョーコは母性本能を擽られる。

のそりと近付く蓮の首に抱き付いてちゅっ。っと唇にキスを送ると、蓮が照れたようにはにかんだ。

「俺もキョーコとデートがしたい…」

キョーコにキスを返して、蓮が答える。
言葉とは裏腹に、蓮の手がキョーコの身体を確かめるように動き始めた。

「…ん。久遠…。」

先程までの行為を思い出させるその手の動きに、キョーコは顔を赤らめながらも、甘い声で名前を呼ぶ。

蓮の手がキョーコの衣服を取り払い始め、蓮の唇がキョーコの首筋に埋まった…。

そんな これからという時に、不意に蓮の携帯が着信を知らせて震え始めた。

その音に驚いて衣服を掻き集めたキョーコと、ガックリと肩を落とした蓮のすぐ近くで携帯は遠慮なく震え続ける。蓮はその携帯に悪態をつきたい気分になっていた。

発信者の名前は社で、蓮は携帯の電源を切っとけば良かったと思ったが、かかって来たものはしょうがない。

蓮は一度キョーコの首筋に顔を埋めると、キョーコから離れて電話に出た。

「…はい。」

少し棘のある声で電話に出てしまい、社から呆れた声が返って来た。

「…なんだよ。まだ怒ってんのか?」

「…そういう訳では…。」

「その様子じゃまだちゃんと話し合いが出来てないみたいだな。お前はしっかりキョーコちゃんと話をするべきだ。」

「………はい。」

「とりあえず、明日調整出来そうな仕事を調整したら、明日は夜の生番組だけになったから、18時に迎えに行く。それまでにキョーコちゃんと、なんとか話し合いしろよ?」

社の言葉に、蓮の顔がぱぁっと輝いた。

「ほ、本当ですか?!」

「あぁ、明日は夕方までオフだ。しっかり片付けろよ!」

「ありがとうございます!社さん!!」

「あぁ、ま、そういうことだから。頑張れよ。」

「はい!ではまた明日。」

「あぁ。明日シケた顔して来たら承知しないからな。」

「はい。」

「明日はキョーコちゃんも撮影は夜だけみたいだからな。2人でしっかり話し合えよ。」

蓮は嬉しさの余り破顔して社に返事をすると、電話を切り、キョーコに尻尾を振り切らんばかりの表情で近付くと、ギュッと抱き締めた。

「きゃっ!く、久遠?!どうしたの?」

「キョーコ!!デートだ!デートに行こう!!」

ウキウキと楽しそうに言う蓮に、キョーコが目を見張る。

「え?!で、デートって今から??」

「うん!今から一日デートしよ。明日は18時までオフになったんだ!!」

「え?」

「今から出掛けたら、ちょうど一日デートできるだろ?」

時計を見ると、まだ夕方の17時を回ったばかりだ。

確かに計算上では今から出掛けたら一日デートになるだろう。

「決まり!ねぇ、どこに行きたい??」

ウキウキと言う蓮に呆気に取られてたキョーコだが、可笑しそうにまた笑うと、蓮の首に嬉しそうに抱き着いた。

「貴方とならどこへでも。」

蓮はキョーコの返事に破顔すると、キョーコを大切そうに抱き締めて、キスをした。
2人は仲良く手を繋いで、車のキーと簡単な変装道具だけを持って外に出たのだった。



(続く)
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*****


なんか本当にすみません。

お待たせしてたのに、こんなお話しか出来なくて~!!

ちょっと最近、スランプ気味??(笑)

一応、皆さんから頂いた意見を元に最初に少しだけ大魔王登場させてワンコで書いてみました!

お楽しみ頂ける方がいるのか激しく疑問なのですが、これからも頑張りたいと思います!!(笑)

さーて。デート…どこにしましょうかねぇ??(笑)

お話読んでくださってありがとうございます!!

※Amebaで2012/04/21に公開した話を若干訂正したものです。

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なくした記憶 38(限定)

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なくした記憶 37


皆さんからなくした記憶が読みたいとお声を頂き、久しぶりにUPしちゃいました!!
風月もびっくりな展開に(笑)
ではでは、お楽しみにー♪




*****




なくした記憶 37


蓮はしばらくして、漸くキョーコを強く抱き締め過ぎていたことに気付き、そっとキョーコの身体を離した。
すると、キョーコの目には涙が溜まっており、蓮は慌てて涙を拭った。

「ご、ごめん!!強く抱き締め過ぎたよね?」

だが、キョーコはそんな蓮の言葉に首を振った。

「違うの。幸せ過ぎて。嬉し涙なの。」

キョーコの言葉に蓮は驚いてキョーコをジッと見つめる。
目を見ながら、蓮はキョーコの名前を大切そうにそっと呼んだ。

「キョーコ…。」

「久遠…。」

蓮とキョーコの顔がゆっくりと近付くと、先程よりも深い口付けとなった。

優しく、でも、全てを食べつくそうとするようなキス。

深く深く口付けても、キョーコが拒絶の反応をしないので、蓮はキョーコの身体をまるで自分に取り込むかのように強く抱き締めた。キョーコも負け時と蓮の首に回した腕に力を込める。

二人は互いの身体をピッタリとくっ付けてキスに夢中になった。

やがて、キョーコの身体から力が抜けた所で、漸く二人の唇が離れた。

潤んだ瞳で力なく自分を見つめるキョーコに止まらない愛しさが次から次へと湧き上がってくる。

蓮はキョーコの口だけでは収まらず、顔中にキスの雨を降らせて、そして耳や首筋にもキスを落とした。

「~~っもぅ!久遠!!待て!!」

蓮がピクリと止まり、くぅ~んと鳴く仔犬のような顔を見せると、キョーコは言った。

「先にご飯ですってば!」

真っ赤になりながら慌てて背を向けるキョーコ。

「待て!って、犬じゃあるまいし…。」

と、苦笑を漏らしながらもキョーコを背後から優しく抱き締める蓮。

「もぅ!待てって言ってるじゃないですか!!く、久遠は待ってくれましたよ!!」

キョーコは、久遠に待てなんて言ったことはないが、久遠なら待ってくれるはずだと思って咄嗟に言った。

「やだ。俺は待てない。」

しかし、蓮はそう言いながら、キョーコの髪や首筋にいくつもキスを落とす。

「もー。後でいくらでも抱き締めてあげるから、大人しくしてて下さい!!」

キョーコがいつも久遠に言っていた言葉を言うと、蓮は尻尾を振り切らんばかりに勢い良く振って、キョーコの顔を覗き込んだ。

「本当に?」

「本当です!!」

キョーコが頷くと、蓮はキョーコの顔を後ろから上に向かせて、「約束。」と言いながら、キョーコの唇を奪った。

今までの言葉のやり取りは久遠の時と同じはずなのに、蓮にかかれば久遠からされたことのないような切り返しが返って来て、キョーコはドキドキしていた。

突然された不意打ちのキスにキョーコが真っ赤になる。
そんなキョーコが恥ずかしさを紛らわそうとするように料理するのを蓮は上機嫌で眺めるのだった。


キョーコが用意した朝食に、二人仲良く向かい合って手を合わせて食べ始める。

和やかな食事の時間…。

しかし、蓮は少しだけ何故か物足りなさを感じていた。

途中で蓮の箸が止まって考え込んでしまったことに気付き、キョーコが蓮に声をかけた。

「久遠?どうかした?何か口に合わないものでもあった?」

「ん?…あ、ごめんね。そうじゃないんだけど…キョーコ…。」

「はい?どうされましたか?」

「本当にこんな食べ方だった?」

「……ふへ?!」

蓮の言葉に、キョーコの顔が真っ赤に染まるのだが、蓮は自分の中でもやもやした気持ちと戦ってる為気づかない。

「ど、どどどどどうしてですか?」

「んー?なんかわからないんだけど、凄く物足りないと言うか…何と言うか…。何か思い出しそうなんだけど、それが良く分からないんだよね。」

しきりに首を捻る蓮を見て、キョーコは茹でダコのように真っ赤になって縮こまっていたのだが、蓮の“思い出しそうなんだけど…”という言葉に、実践する覚悟が決まった。

キョーコは蓮に気付かれないように小さく深呼吸を繰り返すと、意を決して、蓮に近付いた。

「…久遠?」

キョーコから声をかけられそちらを振り向いた蓮は、キョーコがあまりにも近くから覗き込んでいたので心臓がドキンと高鳴った。

「久遠の時の食べ方を知ったら思い出しそうですか?」

キョーコの潤んだ目が蓮の心を揺らす。

「う…ん。そう…だね。」

蓮はそう言いながら、ゴクリと喉を鳴らした。

「じゃあ、実践…ですよね。」

キョーコはそう言いながら、蓮の手から箸をそっと取り上げると、蓮の膝の上に座った。

「し、失礼します!!」

「え?!?!も、最上さん??!!」

蓮は、そんなキョーコの行動にビックリしながら顔を真っ赤にするのだが、キョーコも蓮に負けず劣らず真っ赤なままで、箸で掴んだサラダを蓮の口元まで持って行った。

「はい。久遠?あーん」

キョーコの行動と言葉に、蓮が無表情で思わず固まる。

それを見たキョーコは目を見開いた。

そしてクスクスと笑い出したキョーコに、蓮は少しだけムッとなる。

「キョーコ?何がおかしいのかな?」

「ふ、ふふふ。だっ、て…敦賀さ、んまで、無表情になるからぁ!!くすくすくすくす」

自分の膝の上で必死に笑いを堪えようと肩を揺らしている少女は、耐えられなくなってサラダをお皿に戻すとお腹を抱えて笑いだした。その姿に、蓮の中でむくむくとイタズラ心が沸き起こる。

蓮はキョーコの細い腰を一気に抱き込むと、キョーコを後ろから思いっきり抱き締めた。

「きゃあ!!」

キョーコは顔を真っ赤にしながら可愛い悲鳴を上げた。


蓮の箸と共に、床に敷いたラグの上を二人仲良く転がる。

「ちょ、ちょっと久遠!!」

「キョーコが笑うから仕返しだよ。」

蓮が心底楽しそうにキョーコを抱き締めたまま、広いリビングの床を転がると、キョーコも耐えられずまた笑いだした。

「くすくす、もー!久遠ったら子供みたい!!…あ、そう言えば前にも…。」

「ん??」

蓮がキョーコを身体の上に乗せて後ろから抱き締めたまま、優しく先を促す。

「久遠にも、同じことをされたことがあるんです。」

「…俺は、知らぬ間に随分と君とベタベタしてたようだね?何だか妬けちゃうな。」

「えぇ?!そんな、自分のことなのに…。」

キョーコは可笑しくてまた笑った。
自分も、蓮の好きな人を誤解して知らぬ間に自分自身に嫉妬をしていたのだ。

見えない壁を感じていたキョーコは、その壁がなくなった今、とても幸せな気分になっていた。

「私、前に久遠にこうされた時、久遠に向かって言った事があるんですよ。」

「ん?何て?」

キョーコは、蓮の方を振り返って蓮を見つめた。

思いの外至近距離で目が合って、互いにドキドキと胸を高鳴らせる。
そして、キョーコは口を開いた。

「久遠…大好きだよ。」

「俺も、キョーコが大好きだよ。」

返って来たのはあの日と同じ言葉…。
だけど、あの日は自分の好きと、久遠の好きは全く別物だった。
でも、今は違う。蓮の声の真剣さから、蓮もキョーコと同じ気持ちでいてくれることがわかって、キョーコの目からは涙が流れた。

そんなキョーコの涙に気付いた蓮が優しく微笑んで、キョーコの涙を唇で受け止める。
蓮はそっとキョーコと身体の向きを入れ替えてキョーコを下にして、そっと口付けた。
互いの想いをもう止めることなど出来る者はいない。

静かに合わせた唇が段々と深く深くなっていく。

蓮の中での理性の紐も、キョーコと唇を重ねる度に擦り減り、既に糸は切れていた。


溺れるとは、こう言うことだろうか?
もう二人は止まらずただただ互いへの熱い想いを肌を重ねて伝え合うのだった。


愛しさと、想いに身を任せ、二人は肌を重ね合った。


(続く)

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設定は朝のはずなのに…何故かこんな困った展開に…!!
どどどどどうしよう!!(←超動揺)

風月パニックです!!(笑)

※Amebaで2012/02/26に公開した話を若干訂正したものです。
↑この頃は、キス以上のお話を書くときにこんな恥じらいもあったのに、今はどこに行ってしまったのか…(笑)
や、もちろんまだ今も恥じらいはありますけどね!慣れって怖い…(笑)

なくした記憶 36

ここで限定に行けないのが風月でございます(笑)
ようやく想いを伝えあった二人の行く末を一緒に見守ってあげてくださいませ☆



*****


なくした記憶 36


「んん…っ」

キョーコも蓮も時を忘れるほどキスを交わしていたのだが、キョーコが苦しそうな声を出したことで、ようやく二人の唇が名残惜しげに離れた。

キョーコのぷっくりと腫れた唇を蓮が嬉しそうに微笑んで指でなぞる。

再び近付こうとする蓮の唇に、キョーコは突然待ったを掛けた。

「その前に、ご飯です!!!!」

キョーコは、蓮の顔面に両手で防御を掛けると、顔を抑えられて固まった蓮の腕の中から滑るように出て、キッチンに向かった。

蓮は、そんなキョーコに不服そうな顔を向けながらも、キッチンに消える直前に見えたキョーコの真っ赤な耳に、破顔すると、幸福を噛み締めるように顔を緩めたまま目を閉じた。

ほぅっと蓮から甘い息が漏れる。

「甘くて…柔らかかったな…。」

しばらく目を閉じて幸せを噛み締めていた蓮だったが、キッチンから聞こえるカチャカチャという食器の音につられて、キョーコのいるキッチンへと向かった。

しばらくキョーコの食事の準備をする姿を後ろから見守っていたのだが、蓮は突然イタズラを思い付いた少年のような顔をすると、料理をしてるキョーコを後ろに近付き、そっと抱き締めた。

「きゃっ!!」

小さな悲鳴を上げるキョーコの耳をパクリと口に含むと、キョーコから可愛らしい声が漏れて、蓮は嬉しくなり更に調子に乗ってくる。

「ちょちょちょちょちょっと!!料理中に何して下さってるんですかぁ!!危ないじゃないですかぁぁぁぁぁ!!」

耐えきれなくなったキョーコが真っ赤な顔のまま怒ると、蓮はキョーコを抱き締めたまま動きを留めた。

「ん?俺何かした?」

しれっと言う蓮に、キョーコは口をパクパクさせながら必死で訴えた。

「ななななな何かって!!えぇ、しましたとも!!しましたともぉ!!みみみみみみみみみみみみみ耳を、舌でなぞったり、甘噛みしたりぃ!!!!おまけにこのお手々は何してるんですかぁ~!!」

「ぷっ」

顔を真っ赤にして訴えるキョーコを抱きしめた蓮の肩がプルプルと震え出す。

「…ぷ?」

キョーコがまさかと思いながら蓮をみると、蓮はキョーコを抱き締めたまま、大爆笑を始めた。

「あっはははは!!最上さん!!みみみみみみみみ耳って…耳を何回言ってるの?!」

あまりのキョーコの狼狽え振りを見てクスクスクスクス笑う蓮に、キョーコは真っ赤になりながら怒り出す。

「酷い!!!!からかったんですね!!敦賀さんの馬鹿ぁ!!」

涙目になり怒るキョーコを蓮は苦笑しながら宥める。

「からかうつもりなんかなかったのに、最上さんが可愛すぎるのがいけないんだよ…。ずっと君に触れていたい。」

そういいながら、蓮の手がキョーコの体のラインをなぞると、キョーコの身体がピクリと反応する。

「も、もう!離して下さい!!これじゃあ久遠の時よりタチが悪いじゃないですかぁ!!」

「え?!どう言うこと?」

「久遠も、料理してる私を後ろから抱き締めて邪魔ばっかりしてたんです!でも、今の敦賀さんのように破廉恥な行為はしませんでした!!」

そう言いながら、キョーコはぷぅと赤い顔を膨らませた。
キョーコの言葉と表情に、蓮は一瞬無表情になった。

「そう…なんだ。食事の準備中に後ろから抱き締めたり…か。…ねぇ、最上さん…。今日はお互いオフだし、俺の記憶がなかった間にどんなことをしてたか再現して欲しいんだけど。今日からしばらくの間、俺が記憶を思い出す前の、久遠として接してた時と同じように接してくれないか?」

蓮の言葉にキョーコは一気に顔を赤らめた。

「ええええぇ?!?!つ、敦賀さんにですか?!」

「何かな?その反応は…。同じ人間なんだから出来るだろう?」

「な、ななな何でそんなことする必要が?!」

キョーコは狼狽えながら言うのだが、蓮はキョーコの瞳を不安気に覗き込みながら言った。

「そうしたら何か思い出すかもしれないだろう?」

「お、思い出さなくていいこともあるかと思います!!」

キョーコが真っ赤な顔して言うので、蓮は目を見開いた。
そして、蓮はわざとらしくため息をついて、嘘くさい辛そうな表情でキョーコをじっと見つめる。

「俺は、君に関することは全て思い出したいんだ…。思い出せないことがあることがとても辛い…。俺は記憶をなくしてる間、君とどんなことをしてたんだ?こんな風に食事の支度をする時に抱き付いたり…他には?君とどんなことをして過ごしていたの?」

最初は辛そうな顔を作れたのに、後半は好奇心が滲み出てしまったのか、蓮の目にワクワクとした光が見えている。

キョーコは心の中で悲鳴を上げた。

ーーーこの顔は辛いなんて絶対嘘よ!!洗いざらい思い出して私が動揺してる訳を探る気よぉ!!!!いやぁ!!!!そういえば、私ったら尊敬する大先輩の敦賀さんにあんなことやこんなことをぉ~!!!!思い出さないでぇー!!!!


キョーコは、蓮の頭を胸に抱いて寝たことや、蓮に縋り付いて泣いた事、裸の蓮に抱き締められたことを思い出して真っ赤になっていた。

しかし…

「ねぇ、最上さん?まさか出来ないなんて言わないよね?」

最後はキュラリと光る有無を言わさぬ似非紳士スマイルを向けられ、腕と言う檻の中にキョーコを囲う。子ウサギと化してしまったキョーコは思わずコクコクと頷いてしまっていたのだった。


「じゃあ、俺がこうやって抱き付いた時はどうしてたの?」

蓮がわざと色っぽい声でキョーコの耳元で囁くと、キョーコの耳が真っ赤に染まる。

「や、やっぱり恥ずかしいです!!本当にやらないとだめですか??」

キョーコはもじもじと、顔を伏せるので、蓮はこっそりとそんなキョーコが愛しくて堪らないと言う目で見つめる。

「最上さんに関わることはどんな些細なことでも全部知りたいと思うんだ。」

蓮の言葉に、キョーコは目を見開いた。

その言葉を聞いて思い出したことがあったのだ。
あれは、蓮と一緒に眠るようになって、3日目の夜だったと思う。蓮とキョーコはこんな会話をしていたのだ。

『好きな子のことはどんな些細なことでも知りたいと思うはずって言うのは、本当だったんだな。』

腕の中のキョーコを愛おしそうに見つめながら、蓮が口を開いた。

『え?』

不思議そうに蓮を見上げるキョーコの額に、蓮がそっとキスを落として微笑みかけた。

『昔、付き合ってた彼女にね、言われたことがあるんだ。好きな人のことを何でも知りたいと思うのは当然でしょ?!って…』

蓮は、苦笑を浮かべて、キョーコの髪を手で梳きながら、柔らかい口調で言った。

『俺は、その気持ちが全くわからなかった。別にその子に言われたからって、その子のことを知りたいとも思わないし、自分のことを知って欲しいとも思わない。その後も、何人かの女性に言われたことはあったけど、そんな気持ちを理解出来たことはなかったんだ。』

『そう…なんですか?』

キョーコはその時、さみしそうに目を伏せた。
もしかしたら、知りたいと思ってるのは自分だけなのかと、淋しくなってしまったのだ。
蓮の寝巻きをギュッと掴むと、蓮は破顔しながら、キョーコの髪にキスを落とした。

『でも、今やっとわかったよ。好きな子のことは何でも知りたいって気持ち。キョーコのことは、何でも知りたいって思うんだ。きっと今までのは、好きだと錯覚してただけなんだよ。キョーコを好きになってやっとわかったよ。キョーコのことが好きだから、誰よりも知りたいって思う。それと同時に、俺のことも知って欲しいって思う。』

蓮の手がキョーコの頬を包むと、キョーコも嬉しそうに笑った。

『私も、久遠のこと好きだから…何でも知りたいって思うの。久遠も同じ気持ちになってくれてたなんて嬉しい。』

キョーコは、蓮の頬にそっとキスを贈った。
破顔を浮かべる蓮と、照れたように笑うキョーコが手を握り合って二人で夢の世界に旅立つ。
二人の温もりが互いの心を温めあった。

「久遠…」

キョーコは、記憶をなくしていた間の蓮とのやり取りを思い出して、目を閉じて蓮の本当の名前を呼んだ。
後ろに立っていた蓮がピクリと反応する。

そしてキョーコは目を閉じたまま、背後に立って抱き締める蓮の身体に身を委ね、愛おしそうに蓮の腕に手を添えた。

そんなキョーコの突然の行動に、蓮がドキマギしていると、キョーコがポツリと呟いた。

「やっぱり、貴方は貴方なんですね。例え久遠でも、敦賀さんでも、貴方の想いは同じなんですね。」

そしてキョーコは、振り返ると蓮に向き直ってまっすぐ蓮を見つめた。

「私も、貴方のことは何でも知りたいです。もし、私が記憶をなくしたとしても、ちゃんとこの気持ちを思い出させてくださいね?」

キョーコは蓮に微笑みかけた。その艶を含んだような、愛らしいような初めて見る表情に、蓮は釘付けになった。

「も…が、みさん?」

「貴方は、私のことはキョーコって呼んでました。」

「…キョー……コ?」

「はい。そして私は、貴方のことをずっと久遠って呼んでたんです。最初は、コーンとキョーコちゃんだったんですけど、久遠が私のことを好きになってくれてから、キョーコって呼びたいと言われたんです。」

「…おれ…も、呼んで…いいの?」

「勿論よ。久遠。」

キョーコが呆然と呟く蓮に、ふわりと微笑んで見せると、蓮は静かに名前を呼んだ。

「キョーコ…」

「はい。」

「キョーコ…!」

「はい。」

「キョーコ!キョーコ!!」

蓮のキョーコを呼ぶ声は、段々と大きくなり、最後は嬉しくて堪らないと言うように、弾むような声で呼びながら、キョーコを抱き締めた。

「きゃっ!!く、久遠!!苦し…」

「君をキョーコって呼べる日が来るなんて!!嬉しいよ。本当に嬉しい!!名前を呼ぶことでこんなに満たされることがあるんだって初めて知ったよ。」

「久遠…」

蓮がキョーコをギュウギュウと抱き締めるので、その蓮の喜びはキョーコにも伝わった。

そんな蓮の言葉が嬉しくて、キョーコの目に涙が溜まる。

そして、蓮も涙が出そうなくらい感極まっていたのだった。


(続く)

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※Amebaで2012/02/09に公開した話を若干訂正したものです。

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