砂浜アクシデント

砂浜アクシデント


まだ肌寒さが残るがピクニック日和の平日の午後、キョーコはロケバスの中で、ドキドキと脈打つ心臓を落ち着かせながらその時を待っていた。

ビーチでは沢山のスタッフがビーチシートを取り囲み、慌ただしく撮影の準備をしていた。

撮影が始まるまでは、風邪をひいたら行けないからとキョーコの肩にはタオルを掛けられている。

「スタンバイオーケー!!配置について。」

号令を聞いて、エキストラもこの肌寒い中、水着になって配置についた。

「京子さん入りまーす!」

「よろしくお願いします。」

キョーコはやや、緊張した面持ちでスタッフに挨拶しながら、誘導されるままビーチに向かった。

「じゃあ京子ちゃん、タオルを外してあっちに頭を向けてうつ伏せに寝そべってくれる?」

「…は、はい!わかりました。」

キョーコは深呼吸を一つして、自分の中のスイッチを切り替えると言われるまま、タオルを外しビキニ姿を露わにする。
タオルは丁寧に折り畳んでそばに置いて寝そべった。

それを確認して近くにいた衣装スタッフが声をかける。

「じゃあ京子ちゃんごめんね。失礼して外すわね。」

「は、はい!」

キョーコのビキニの後ろのフックが外され、キョーコはわかっていたこととはいえ、心許ない気持ちになった。

「京子ちゃん、ごめんなさい。腕も抜くから少し力を抜いてくれる?」

「あ、はい!すみません!!」

キョーコは言われるまま脱がされて無防備な姿になると、キョーコはこのまま逃げたい気分になったのだが、そこに肩からタオルが掛けられたことで、少しホッと息をつけた。

チラリと視線を送った先に、スタンバイ中の蓮と社が並んで立っていた。

キョーコは蓮の姿を見て、勇気をもらうともう一度深呼吸をして、気持ちを切り替えた。

「貴島さん入りまーす!」

「よろしくお願いします。」

そうしてキョーコに近付いてきたのは貴島だった。

「よろしくね!京子ちゃん。」

「あ、はい。よろしくお願いします。」

「じゃあ失礼して。寒いよね?外すけどいい?」

貴島がスタンバイ位置についてタオルに手をかけた。

「は、はい!!よろしくお願いします。」

貴島の声掛けにキョーコも心を決めた。

「うぉっ!京子ちゃん背中綺麗だね。」

「あ、ありがとうございます!」

背中綺麗と言う言葉に、キョーコはホッと息を吐いた。

「ふふん。嬉しいな〜敦賀君の視線は怖いけど、仕方ないよな〜こればっかりは、キャスティングだもんね!」

貴島の声がウキウキと弾んでいるが、確かに蓮からの怒りの波動が離れているキョーコにも伝わってきた。

ーーーひーー!!なんであんなにお怒りなのよぉ〜!!やっぱり…私のような貧相な身体じゃ人様の目に余ると…!!でもっ、でもそれは貴島さんの言うようにキャスティングで決まったことで仕方ないじゃないですかぁぁ!!

キョーコは心の中で涙目になりながら、必死で笑顔を作った。

「そ、ソウデスヨネ〜!キャスティングですもんね!仕方ないですよね〜!!」

「うんうん。そうだよ。敦賀君より俺の方が京子ちゃんには適任ってことかな。」

「え…それってどう言う…」

キョーコが真意を確かめようとしたところで、監督からスタートの声が掛かった。

日焼け止めのCMの為、UVを乗せた貴島の手がキョーコの背中を滑る。

「ん…」

女の人とは違うザラッとした貴島の手の感触がちょっと怖くてキョーコの背中がビクンと跳ねた。
貴島は口許に笑みを浮かべ、両手を使い丁寧に塗り進んでいった。


「………社さん。」

「何だ?蓮。」

「塗りすぎじゃないですか?」

「まぁ、仕方ないだろ。オーケーが出てないんだから…。」

一方その頃、離れた場所にいた蓮はイライラしていた。
必要以上に力の入った腕組みをしながら蓮は2人の撮影を見守っていた。

本当はロケバスの中でスタンバイなのだが、心配で出てきているのだ。

蓮はこの後の撮影で別のモデルに日焼け止めを塗ることになっている。

オーケーの声がかかり、キャスト入れ替わりの為蓮も呼ばれた。

「行ってきます。」

肌寒い中、コートを社に託して足早にキョーコの元へ向かう蓮を見送りながら、社はやれやれと首を振った。
入れ替わるのに少し時間がかかるため、そんなに急ぎ足にならなくてもいいはずなのに、キョーコが心配で堪らないらしい。
それならさっさと告白して付き合ってしまえばいいと思うのだが、相手はあのキョーコだ。
一筋縄ではいかないことは社も百も承知だ。

「だけどなー。いい線行ってると思うんだけどな〜。」

最近のキョーコを見ていると蓮は気付いていないようだが、おやおや?と思う場面が時々あるのだ。
一時期蓮が日本にいない間、キョーコの臨時マネージャーを引き受けたことがあったが、蓮のことを話す時の顔が恋する乙女に見えた時もあった。

もちろんそれを突っ込めばいきなり真剣で険しい面持ちで全力否定してくるものだから、思い違いだったのかとその時は思わされるのだが、それでも後から思い返せば少しの期待は残っている。

そんなことを考えながら蓮に視線をやると現場の時が止まっていた。

「…ん?え?!な、何だ?!何があった?!」

蓮の腰に細い腕が絡みつき、そこかしこから主に女性達からの悲鳴が上がっていた。
社は慌てて渦中の方向に向かった。


「す、すすすすすみません!!敦賀さんっ!!ちょっと、あの、びっくりしちゃって。」

「い、いや、いやいや、ぜ、全然。気にしないで最上さん。あ、離れたらだめだよ。」

社が近くへ行くと、何故か真っ赤な顔のキョーコが、これまた真っ赤な顔の蓮に抱き付いていた。
2人の間を隔てるものは何もなさそうだ。

「一体全体、何があったんだ?」

当然の疑問を社が口に出せば、キョーコが焦ったように口を開いた。

「や、社さん!ごめんなさい!ああああの、これには訳が…」

「うんうん。大丈夫だから、落ち着いて話そうか。」

「あの、俺が最上さんにお疲れ様って声をかけたら、突然最上さんが飛びついて来て…」

「ちちちちちちが!違います!!あの!何かが胸の下で動いて、ビックリして跳びのいたら敦賀さんが…あの…ごにょごにょ。」

正確には突然動いたキョーコの胸が露わになることを恐れた蓮が咄嗟にキョーコを抱き締めたのだが、一瞬のことで、蓮もキョーコもどちらから抱き付いたのかわからなくなっていた。
キョーコの肩から掛けられていたタオルははらりと砂浜に落ちている。
周りの悲鳴は蓮がキョーコを抱き締めたことでエキストラの中のファンからの悲鳴だったらしい。

「え?…何かが動いた?」

蓮がキョーコの言葉に訝しんで眉をあげた。

「は、はい!あの、ビーチシートの下で…」

キョーコが申し訳なさそうに指差した先で、放置されたビキニが僅かに動いた。

蓮が片手でしっかりとキョーコを抱き締めたまま、もう一方の手を伸ばして、ビーチシートを捲ると、その下に蟹がもぞもぞと逃げようとしていた。

「カニ…?」

「カニ…ですね。」

ビーチシートが外され、自由になった蟹はせかせかと海に向かって行った。

それを見送った2人はプッと吹き出し、楽しそうに笑った。

満足するまで笑った蓮とキョーコだったが、大きな問題が残っていた。

「さて最上さん、今の状況はわかってるかな?」

「は、はい。すみません。あの、すぐに離れて…あ…」

離れようとしたキョーコを蓮はグッと力を入れて引き止めた。

「ダメだから。わかってる?今、君裸も同然なんだよ?」

「わ、わかってます。」

蓮に指摘されてキョーコは益々真っ赤になった。
そんな状態で蓮に抱き付いているのだ。
蓮の体温がダイレクトに伝わって来てキョーコの心臓は爆発寸前だ。

「周りにはこんなにスタッフもいるし貴島君だって社さんだっている。」

「は、はい。だけど敦賀さんにこんな…」

早く離れないと身がもたないと思うのだが、何処かで離れたくないと思っている自分もいてキョーコは蓮に対して申し訳ない気持ちになった。

「俺はいいの。取り敢えず移動して着替えよう。監督。少し時間頂けますか?最上さんを安全なところに連れて行きます。」

「え?あ、あぁ頼む。」

「じゃ最上さん、俺の首に手を回して」

「え…?こ、こう…ですか?」

「うん。じゃ捕まっててね。」

「おい蓮。」

蓮が立ち上がろうとした所で、社が待ったをかけた。

「なんですか?社さん。」

「まだ肌寒い。これを着ていけ。」

社に預けていたコートを渡され、蓮はそれを受け取ると礼を述べて、コートを羽織りそれでキョーコの体を隠して立ち上がった。

「ずっるいよねー。敦賀君。俺の方が京子ちゃんの側にいたのに、最終的には搔っ攫っちゃうんだもんな〜」

貴島の残念そうな声を聞いて、キョーコが抱きついた相手が貴島でなくて良かったと心底胸をなでおろす社だった。

ロケバスで何かがあったのか、なかったのかは知らないが、その後の撮影は終始ご機嫌な蓮がいたとかいなかったとか。

何はともあれ、快晴に相応しい穏やかな現場になったことは断言できるだろう。


END

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*****


久々すぎて、どうしたものやら…(笑)
リハビリで短編書いてみました。

かなり久しぶりに降って湧いたお話です。

それにしてもブランク酷い。
最近本も読んでないから文章力も低下しまくりですね。

前はどうやって書いてたんだろ〜笑

お粗末な内容で失礼しましたーー!!
多分、夏頃のCMを今頃取ってるよな〜と思いつつ書いた内容です。
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