My HOME-プロローグ-

2015年10月20日12:59  My HOME/スキビ!《完結》

My HOME


「え?改装工事…ですか?」

「そうなんだよ。ごめんねぇ~キョーコちゃん、一昨日配管の劣化が見つかって店がちょっとした騒ぎになっただろう?だから、ちゃんと調べてもらった方がいいだろうってことになってね、床の軋みも気になってたからこの際だから店内を改装しようってあの人と話し合ったんだけど…」

申し訳なさそうな顔で言いにくそうにする女将さんの言葉を最後まで言わせたくなくて、キョーコは安心させるようににっこりと微笑んで見せた。

「私なら大丈夫ですよ。一ヶ月くらいなんとかなります。ですから、女将さんたちは安心して里帰りして来て下さい。」

大将と女将さんは改装工事の間、田舎で居酒屋を営む大将のお兄さんのお店を手伝うことになっているそうだ。
その間、キョーコがどう過ごすかということまで気に掛けてくれて下さっている。

「本当に大丈夫かい?」

「はい!私にはモー子さんという心強い親友がいますから!!」

胸をドン!と叩いて宣言すると、女将さんはやっとそうかい。と安心した笑みを浮かべてくれたのだった。



「えぇえ?!地方ロケ?!」

『あんた…言ってなかったっけ?あと10日は戻れないわよ。』

「えええー!そんなぁ~!!聞いてないよぉ~モー子さぁぁん!!じゃあ私はどうしたらいいのよぉぉー?!」

『はぁぁ?!そんなこと知らないわよ!!とにかく自力でどうにかしなさいよ!!こっちの事情も聞かず勝手にアテにしたあんたが悪いんでしょうが!!』

「だってだってぇーー!!」

『あ…呼ばれたみたい。悪いけど切るわよ。』

「え?!モー子さん!!ちょっ…待っ……!!」

頼りにしていた親友からアッサリと切られてしまった携帯電話からは虚しいツーツーという無機質な音が鳴り響く。

「も、モー子ざぁぁぁぁーーーん!!」

ロケならばしょうがない。しょうがないが、今のキョーコにはモー子こと、親友の奏江以外に頼れる人がいないのだ。
その場に崩れ落ちたキョーコが携帯を握りしめてエグエグと涙を流してると、後ろから優しく声をかけられた。

「キョーコちゃん?こんな廊下の真ん中でどうかしたの?」

それは尊敬するかの先輩のマネージャーの声で、振り返ると、そこには心配そうに覗き込む先輩俳優の姿があった。

距離の近さにドキリとする。

「最上さん、何かあったの?」

覗き込まれて漸く自分が廊下のど真ん中で座り込んでいた事実に気付いて頬に熱が集まって、慌てて立ち上がったのだった。

キョーコは二人と共にカフェスペースへと移動して、促されるまま、素直にポツリポツリと事の次第を話した。
だるま屋の改装工事のため、今日から部屋を出る事になったこと、アテにしていた奏江は地方ロケで暫く帰ってこない事を話すと、先輩俳優である蓮も、そのマネージャーの社も親身になって話を聞いてくれた。

「そっかー。それは大変だったねぇ~。」

「じゃあ、今夜泊まる場所も決まってないのか…それは困ったね。」

「でも、いざとなれば、世の中にはネットカフェなんていう便利なところもありますし!!何とかなるとは思うんですが…」

心配かけさせたくなくて慌てて言った言葉だったのだが、逆に心配させてしまったようだ。

「こら、女の子がそんなところに一人で泊まるなんて危ないだろう。それに君は芸能人なんだからもっと自覚をもたないと…。そういう時はとりあえず椹さんに相談をーー」

「いや、ちょっと待って!」

「…何です?社さん。」

蓮がラブミー部の担当になっている椹に相談してみるといいとアドバイスしようとしていたのを、社が遮った。
名案だとばかりににんまりとした満面の笑みを浮かべる社に嫌な予感がしつつも、蓮は問いかける。

「それなら俺、いいところ知ってるんだけど…」

「本当ですか?!社さん!!」

ニコニコと人の良い笑みを浮かべる社にキョーコが天の助け!とばかりに身を乗り出して食いついた。

ニマニマした社とキラキラしたキョーコ、そんな二人を目にして蓮は一人、これでまた遊ばれる材料が増えたとゲンナリしていた。



「す、すみません、まさか敦賀さんのお宅だとは…」

社から出された条件は、鍵付きの個室あり、お風呂トイレ別、広いキッチン有り、眺め良好、たまに送迎付き、家賃は最低一日一食ご飯の支度のみでオッケーというものだった。
学費や、養成所の月謝を給与からやり繰りしているキョーコには破格の条件で、すぐに飛びついたのだが、まさか先輩俳優の家だとは思いもしてなかった。

「普通、あそこまで条件揃えられたらわかりそうじゃない?」

キョーコは社に、じゃあ、21時半ぐらいにはラブミー部の部室に迎えをやるから、運び込む荷物は全部ラブミー部に集めててね!と言われて別れ、蓮が迎えにくるその瞬間まで全く想像もしていなかったそうなのだ。

ーーーこの子の中の俺の存在って…。

少し凹みそうになるのは仕方がないと思う。

「いえ、だって…」

ーーーどこの世界に、自分の担当俳優に面倒ごとを押し付けるマネージャーがいるのよぉー!!

心の中でキョーコはそう叫ばずにはいられない。
しかも、蓮と自分は男と女なのだ。芸能界はただでさえ下世話なスキャンダルにも目を配らなければいけないはずなのに、そこのところを社はわかっているのだろうか?と思ってしまう。

「だって…何?」

戸惑っているところに、蓮に静かに問われて、恐る恐る上目使いで蓮を見上げた。

ドキンと心臓が跳ねる。
急に二人っきりなのだと意識してしまい、益々キョーコの心臓が落ち着かなくなった。

「あ、あの!だって、敦賀さん困りませんか?!仮にも私も女ですし、一緒に住んでるなんて何処かからバレたりしたら…私と…もしもその…スキャンダルになったりしたら…って…」

ーーーあぁぁぁぁぁぁー!!私ったらいきなり何口走ってるのよぉぉぉー!!

蓮がまん丸に目を見開くのをみて、思わず頭を抱えたくなった。

ーーーそりゃあ!敦賀さんにとってはお子ちゃまですもの!!女の子なんて認識されてないんだからそんな風に思ったりする方がおかしいとは思うけど普通、マネージャーさんってそういうところ厳しくするもんなんじゃないのぉぉぉぉ?!

自分の失言に思考の中で悲鳴をあげていると、蓮が優しくポンポンと頭を叩いて、現実に引き戻してくれた。
そっと蓮を伺いみると、そこにあったのは慈愛に満ちた表情で柔らかく微笑む姿だった。

「なんだ。そんなこと。俺は別に構わないよ。それにセキュリティはしっかりしてるし、そう簡単にバレたりしないから安心して。」

ーーーそんな風に優しくされたら…

ーーーその胸に飛び込みたいとか思っちゃうじゃないですか…

キューっとなる胸を抑えて、キョーコは慌ててそれを振り払うように目を閉じて、未だ手に下げたままの食材の存在を思い出した。

「はっ!!た、大変!!ご飯っ!!急いで作りますね!!」

そう言い残して思わず、逃げるようにキッチンへと駆け込んでしまったのだった。


かくして、恋する二人の同居生活が幕を開けた。



(続く)

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