なくした記憶 33

2016年01月15日08:26  なくした記憶/スキビ!《完結》

なくした記憶 33



「れ、蓮…!!もしかして、記憶が?!」

社が驚いた声をあげると、蓮が首を傾げた。

「きおく…?」

「記憶をなくしてたことも覚えてないのか?」

ローリィは蓮の様子を見て、ニヤニヤと面白そうな顔を見せた。
何はともあれ、蓮の記憶が無事元通り戻ったことに安堵したのだ。

それは、社も主治医も同じだった。
皆が、ホッとして和やかな空気になっている中、キョーコだけは顔を青褪めさせ、カタカタと震え出した。

そのことに一番に気付いたのは蓮で、震えるキョーコと目が合った。

「最上さん…?」

蓮が震えるキョーコに驚き、声をかけると、キョーコは懸命に笑顔を浮かべた。

「あ…。良かっ、た…ですね。敦賀さん…。記憶が、戻って…本当に…良かった…。ホントに、よかった…。」

今にも泣きそうなキョーコの無理矢理作った笑顔に、蓮は胸騒ぎを覚える。

しかし、キョーコはすぐに身を翻し、涙の溢れそうな顔を隠した。

「飲み物…取ってきますね。」

キョーコはそう言うと、寝室を飛び出して、リビングに駆け込んだ。
リビングのドアを閉めて、そのドアを背にしてズルズルと座り込む。

ーーーもう、私を愛してくれた久遠はいない。

そう思ったキョーコは堪らなく胸が苦しくなった。

「うっ…く…久遠…!久遠!!」

キョーコは胸元にあるはずのネックレスに手を伸ばした。しかし、そこにネックレスはなかった。

「…え?うそ…!!やだ!!」

キョーコは慌てて姿見の前に立ったのだが、1日肌身離さずつけていたはずのネックレスが見当たらない。

「ふぇ…久遠!!やだよ!久遠!!なんで?!」

キョーコは一生懸命記憶を探った。

ーーー最後に見たのはいつだっけ?!

そして最後に見た時のことを思い出す。
最後に見たのは、この家のキッチンで、一日付けてたことを知った蓮から喜ばれて満面の笑顔で優しく抱き締められた時だった。

キョーコは、涙をポロポロと流して視界が悪くなりながらも、必死になってネックレスを探した。

ーーーやだよぉ!久遠!!久遠!!

キッチンや広いリビングの隅々まで。家具の下や、カーペットの下を捲って探すのだが、見つからない。

キョーコは必至で考えて、先程まで部屋が散らかされていたことを思い出した。

今は綺麗に片付けられているが、残飯が散らばっていたはず!!

キョーコは、キッチンで生ゴミの入った大きなビニール袋を見つけると、おもむろに手を突っ込んで必死に探し始めた。

蓮に記憶が戻っても、あのネックレスさえあれば、乗り越えられると思ったのに。
愛してもらえてた夢のような時間があったことを形で証明出来るものなのに!!

キョーコは、ネックレスをなくしてしまい、その愛されてた時間までから見放されてしまったようで、堪らなく苦しかった。

生ゴミの臭いが鼻につくが、キョーコはお構いなしに探し続けた。




その頃、寝室では蓮の診断が行われ、蓮はローリィから二ヶ月間も記憶を失ってたことを知らされた。

その間に撮ったドラマやCM、インタビューにも目を通す様に指示される。

「しかし、敦賀蓮として活動した期間がすっぱり綺麗に消去されてるんだもんな。記憶がなくなった原因は本当に事故だけだったのか?他には心当たりないのか?」

「記憶をなくした…原因?」

蓮は、あの日の出来事を思い出した。
蓮にとっては昨日の出来事のように思い出される。

そして思い出した蓮の顔が苦痛に満ちたように歪む。

ローリィは、それを見てため息を一つ吐くと、「まぁいい。とにかく記憶は戻ったんだからな。あんまり深く考えんな。」と笑った。

蓮の過去に、色々と突っ込んだ話がしたいというローリィのため、社は席を外してキョーコのいるリビングへ向かった。
そういえば、飲み物を取りに行った割りには、時間がかかりすぎている気がする。

社は妙に胸騒ぎを覚えて、リビングに駆け込んだ。

「キョーコちゃん?!…あれ?あ、キッチンかな?」

社がキッチンに向かうと、必死な形相で生ゴミの中に手を突っ込むキョーコの姿があって驚いた。

「キョ、キョーコちゃん?!何してるの?」

「ないんです!!ないの!!折角もらったのに!大事にするって決めてたのにぃ!!」

「何をなくしたの?」

「ネックレスです!ハートを持った天使のネックレス!!どこかにあるはずなんです!!」

キョーコは残飯の中からは見つけられず、残飯の隣に纏められた割れた食器やガラスの入ったゴミ袋に気付くと、おもむろにそれを掴んで引き寄せた。

見ただけで、そこに手を突っ込んだらどうなるかぐらいわかる。
そのはずなのに、キョーコは正気を失ってるのか、手を突っ込もうとしたのだ。
それを見て驚いた社が、キョーコの腕を掴み、顔を歪めて怒鳴りつけた。

「キョーコちゃん!!!!何をやってるんだ!!!!」

社に初めて怒鳴られたキョーコの肩がビクンと揺れる。

「あ…」

「危ないだろ!!なんてことするんだ!!」

キョーコは社に手を掴まれたまま、ポロポロと涙が零れた。

「あ、ご、ごめんね。怒鳴るつもりはなかったんだ…。」

社はオロオロと、キョーコを宥めた。

涙を流すキョーコが今にも壊れてしまいそうで、社は気付いた時には包むようにキョーコを抱きしめていた。


一方、社の怒鳴り声は寝室まで届いており、何事だ?!と、蓮もローリィや主治医と一緒にキッチンへ飛び込んだ。

そこで、ボロボロと泣いてるキョーコと、それを抱き締めて背中をさすってる社に気付き、蓮は呆然と立ち尽くす。

今すぐに社の腕から奪い取って抱き締めたいと思うのだが、足がその場に縫い付けられたかのように動けない。

そんなことをするのは許されない。
蓮はキョーコの恐怖に歪む顔を思い出して、動くことができず立ち尽くしていた。

蓮が来たことに気付いたキョーコはますます涙が零れた。

「ごめんなさい!ごめんなさい!なくしてしまってごめんなさい!!大事にするって決めてたのに!!大切にしたかったのに!ごめんなさい!」

「キョーコちゃん、落ち着いて。」

泣きながら、社の腕の中で謝罪を繰り返すキョーコと、それをオロオロと慰める社に、蓮の拳は強く握り締められプルプルと震える。
一方、蓮が来たことに気付いた社は気が気ではなかった。
思わず抱き締めてしまったが、いつ闇の国の蓮さんが現れるかわかったもんじゃない。
社は冷や汗をかきながらも、キョーコが早く泣きやむことを心の中で涙を流しながら願うのだった。


「最上くん!少しは落ち着かんか!!一体何をなくしたんだ!!」

ローリィが困り果てた顔で、キョーコに問いかけた。

「うっうう…ネック…ネ、ネック…レス。」

「どんなネックレスだね?」

蓮の主治医も優しく聞いてくれた。

「て、てんっしの、ハートを…持った天使のっネックレ、ス…」

キョーコがしゃっくりを繰り返しながらも懸命に特徴を述べると、ローリィが頷いた。

「よし!わかった!ネックレス探しを手伝おう。ここにあるのは確かなのかね?」

「…は、い。ここに来た時は付けてたはず…ですから。」

久遠がいない今、このことがわかるのは自分だけだ。
久遠と同じ顔の蓮は、その時のことを覚えていないのだから。

キョーコは段々と、そのネックレスと、愛された時間は自分の願望が見せたただの幻だったのではないかと思い始めていた。

「わかった!よし!蓮!!探すぞ!!手伝え!」

「あ…は…い。」


ローリィに言われて、蓮はノロノロと動き出した。
泣いてるキョーコと、そのキョーコをソファまでエスコートする社を苦々し気に眺めながら、蓮はこのまま見つからなければいいと密かに思うのだった。


魂の抜け殻のようにボウとしているキョーコを見て、社は一生懸命話しかけるが、中々キョーコの耳には入らないようだった。

それを少し離れた所から見つめる蓮…。

ギュッと胸が締め付けられるように苦しい。
蓮は下唇を噛み締めて、胸元を手で掴んだ。
その時に、胸ポケットに何か入ってることがわかった。
まさかと思いながら見てみると、そこには、キョーコが探していたネックレスが入っていた。

蓮は皆から見えないようにそれを取り出すと、隠すように握りしめ、キョーコの元に向かった。

「最上さん、ネックレスがここの部屋のどこかにあるのは確かなんだよね?」

蓮の問い掛けに、キョーコはまた泣きそうになりながらも、コクリと蓮の顔を見ずに頷いた。

「…だれから…もらったものなの?」

蓮の問い掛けに、キョーコは社を縋る様にみると、社は蓮に話したらいいよ。と言うように、優しい顔を浮かべて頷いて答えを促した。
キョーコはキュッと唇を噛み、ゆっくりと口を開いた。

「…大切な人からもらいました。私を心から愛してくれた…たった一人の方からもらった唯一の物なんです。」

蓮は、手に持ったネックレスを強く握り込んだ。

ーーー愛してくれた…大切な人?…社さんが…そうなのか?

蓮はギリギリと拳を握り締めるが、顔だけは穏やかになるように心掛けた。

「じゃあ、俺が探しておくから、君はもう眠った方がいいよ。もう、こんな時間だし。」

時間はすでに2時半になろうとしている。

「社長や先生もこのまま探させる訳にはいかないだろう?」

蓮の問いにキョーコはコクンと頷く。

「じゃあ、後は俺に任せて。」

ポンとキョーコの頭に手を置くと、キョーコの手が、隣にいる社に縋るように伸びて、社の腕をギュッと掴んだ。

掴まれた社はギョッとしたのだが、キョーコの気持ちもわかるので、何も言わなかった。

「じゃあ、行こうかキョーコちゃん。寝る前に、ちゃんとお風呂入った方がいいね。」

社はキョーコの気持ちを汲んで優しく言葉を掛けた。

キョーコの支度を手伝い、キョーコをバスルームへ送る。
洗面所で先に手を洗うキョーコについて、社も一緒に少しだけ洗面所に入った。

「キョーコちゃん、良かったの?…ネックレス…くれたのは、蓮なんだろ?」

「違います。敦賀さんからもらった訳ではありません。久遠から…もらったの。」

キョーコは、久遠の温もりを思い出して、じわっとまた涙が零れそうになるのを必死で堪えた。

ーーーあのベッドでされたキスは…久遠からのお別れのキスだったの…?

キョーコは、グッと唇を噛み締めた。



社が、洗面所を後にしてリビングに戻ると、蓮のとびきりの似非紳士笑顔に出迎えられた。

キュラキュラ輝く笑顔に、社は本日何度目かの嫌な予感を覚えた。

「あ、あれ?社長とお前の先生は?」

社は頬を引き攣らせながら、当たり障りのないことを聞いた。

「あぁ、もう用が済んだので帰ってもらいましたよ。」

「そ、そうか!じゃ、じゃあ俺も帰ろうかな?!」

社は鞄を素早く掴むと、その鞄を盾にして、蓮から逃げるように後ずさった。


「へぇー。社さんは、恋人をこんな一人暮らしの男の家に置いて行くんですか?」

一段と低くなった声と、その発せられた言葉に、社は意味がわからず首を捻る。

「は????」

そんな社の姿に馬鹿にされたように感じたのか、蓮は不機嫌さを露わにした。

「とぼけないでください!!!何、俺が記憶を失ってる間に、ちゃっかり最上さんを自分のものにしちゃってるんですか!!!!」

蓮の言葉に、社の頬が引き攣る。

「…へ?!あ、あの…れんくん??」

「裏切られた気分ですよ。社さんは味方だと思ってたのに。散々言葉で俺を煽っといて、自分も狙ってたと言う訳ですか?!」

「れ、蓮!!それは誤解だから!!なんか、とんでもない勘違いをお前はしてるから!!」

社は顔面蒼白で、無実を訴えるのだが、蓮は聞く耳を持たなかった。

「何が誤解だって言うんですか!!さっきだって、俺の前だと最上さん泣きそうな顔するのに、社さんには心を開いてたじゃないですか!!!!」

「蓮!!落ち着けって!俺の話を聞け!」

「言い訳なんていりませんよ!!社さんを信用してた俺が馬鹿でした。さっきだって脱衣所に二人だけで入って、何をしてたんですか!!」

「いや!!何もしてないから!!変なこと言うなよ!!」

社は顔を真っ赤にして否定した。

「とにかく、お前は頭を少し冷やせよ!!そして、記憶をなくしてた間のことも自分で思い出せ!!俺はもう何も言わん!!」

そして、社は蓮をキッと睨んだ。

「そんなに言うなら、本気で俺がもらうぞ!!キョーコちゃんをこれ以上傷付けたら許さないからな!!」

社は蓮に背中を向けた。

「お前が倒れた時、キョーコちゃんはずっと心配して付き添ってたんだぞ。お前が事故に遭ったと聞きつけた時から、キョーコちゃんはずっとお前のそばにいたんだ。俺が言えるのはそれだけだ。明日はお前もキョーコちゃんもオフにしてあるから、しっかり話をしろ!!明日の夕方、また連絡するからな。」

社はそう言うと帰って行った。

キョーコと家に二人きり。
キョーコに合わせる顔がない蓮は、しばらくそこから動くことが出来なかった。


(続く)

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最初に書いてたのと同じものはやっぱり書けませんでしたー!!
書いた文章丸々消去してしまうとか、ダメージでかいですね。

慌てて書いて慌ててUPしたので、おかしなとこ多いかも?!

話の流れは変えてませんからなんとか繋がりそうです!
※Amebaで2012/02/05に公開した話を若干訂正したものです。
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