なくした記憶 35

2016年01月20日08:33  なくした記憶/スキビ!《完結》

なくした記憶 35



朝、キョーコはリビングに入るとドキッとした。
蓮がすでに起きていてコーヒー片手に新聞へ目を通していたのだ。

「…お、おはようございます。敦賀さん…。」

「あ…おはよう。最上さん、早いね。ちゃんと寝た?」

「いぇ…まぁそれなりには…。」

蓮が驚くのも無理はない。
キョーコがゲストルームに駆け込んだのは、朝4時過ぎ。そして時計に目をむけると、今はまだ7時を少し過ぎたところだった。

「敦賀さんこそ、ちゃんと休まれました?」

「ん…何だか、落ち着かなくてね。眠れなかったんだ。」

昨日のゴタゴタ、そして思わぬキョーコの姿や、言動、そして突然送られたキスが、蓮を落ち着かない気分にさせていたのだが、実は、蓮が落ち着かないと思っていたのにはそれ以外にも理由があった。

寝ようと横になっても何かが足りないような、何か欠けてるような気がして、どうしても気になって寝付けなかったのだ。
だから、それはなくしてしまっている記憶のせいだと思っていたのだが、実はキョーコも同じ想いを抱いていた。

キョーコはここ最近、蓮の鼓動の音に安心感を覚えながら、蓮の暖かい腕の中で幸福を噛み締めながら寝ていたのだ。

その暖かな温もりがないのが寂しくて落ち着かず、ゆっくり眠ることが出来なかった。

「そうでしたか…。朝食…すぐ作りますね。」

「あ!ちょっと待って!最上さん!!」

ドギマギした心を落ち着ける為、キッチンに逃げ込もうとしたのだが、蓮がそんなキョーコを呼び止める。

「何ですか??」

「最上さん、君が探してたネックレスだけど…。これ…かな?」

蓮が、立ち上がって胸ポケットから取り出したネックレスを見て、キョーコは驚異的なスピードで蓮への距離を詰め近付くと、そのネックレスをマジマジと見つめた。

ネックレスを受け取る為に伸ばした手が震える。
目頭が一気に熱くなった。

「は…い。これです!これです!!良かった!!無事だった!!ありがとうございます!敦賀さん!!」

ーーーあった!!ちゃんとあった。やっぱり久遠の愛は夢じゃなかった!!確かにあの時は愛されてたんだもの!!

キョーコがネックレスに触れる寸前に、蓮はそのネックレスをヒョイと己の顔の近くまで持ち上げた。
そのネックレスの動きに釣られたキョーコの顔が、蓮の方を向き、今日初めて蓮と目が合った。

「あ…。」

蓮と目が合ったキョーコはポンっと赤くなる。

「か、返して下さい!!」

蓮の顔の位置にあるネックレスに手を伸ばす為、キョーコの身体が蓮に近付くと、蓮は空いた片手で、キョーコの腰を抱き寄せた。

ぼふっと、赤い顔のキョーコが蓮の腕の中に収まったところで、蓮の心地のいい美声がキョーコの頭上から響いてきた。

「その前に知りたいんだけど、これは誰が君にあげたものなの?」

「そ、それは、敦賀さんには関係ありません!!離して下さい!!」

キョーコは心臓をドコドコと打ち鳴らしながら、蓮の腕の中でもがくと、蓮の腕に更にグッと力が込められる。

逃してくれない蓮に諦めたキョーコは、藻掻くのを辞めて、代わりに蓮の服を控えめにちょみっと掴んだ。

「誰からもらったかなんて、敦賀さんは、知らない方がいいんです。昨日言ったとおり、私を愛してくれた大切な人からもらったものなんです。」

キョーコの声と蓮の服を掴んだ手が震える。

ーーー今の敦賀さんには、ちゃんと好きな人がいるんだから、私との思い出なんていらないのよ。

キョーコが心の中で自分に言い聞かせていると、蓮がまた口を開いた。

「その人のことを…最上さんも、愛してる…の?」

「…っ。…はい。」

キョーコは、蓮に緊張しながら言われた言葉に一瞬返事を詰まらせたが、小さく肯定した。しかし、頭の中には疑問が残った。

ーーー愛??確かに、久遠のことは好きだったけど、何か違う気がする。愛してるとは違う?だって私が愛してるのは…。

キョーコは、そっと蓮を見上げた。

「ん?」

優しく微笑む蓮に、キョーコの胸は早鐘を打つ。

ーーー敦賀さんだ!!敦賀さんなんだ。

キョーコの目からはポロリと涙が溢れた。

ーーー久遠は、今の敦賀さんの一部なんだわ。同じだけど違う。久遠のことを敦賀さんに指摘されることが苦しい。胸が…痛い位締め付けられる。

ーーー私…本当は、久遠のように、敦賀さんに愛されたかったんだ…。

「最上さん?!」

蓮は突然涙を流したキョーコに驚いて声をかけたが、キョーコは蓮の胸元にギュッとしがみつくだけだった。

キョーコはやっと自分の気持ちに気付いた。

ーーー久遠が消えたことが苦しいんじゃない。だって、久遠は敦賀さんの一部なんだもの。いなくなんてならない。ただ忘れられたことが苦しいの。その訳は、あの頃のように愛された日々に戻れないからだ。
私、敦賀さんに好きな人がいるのを知りながら、久遠に敦賀さんの愛を求めてたんだわ。汚ない汚ない。こんな私、汚ない!!

キョーコは、ボロボロと泣き出した。

「つ、つるがさんっ…ごめんなさい!!ごめんなさい!!私…私!!」

キョーコは、我慢出来ずに泣きながら、蓮に謝罪の言葉を吐き出す。
蓮は、そんなキョーコの姿に動揺しつつも、背中をさすったり声をかけたりしながら懸命に宥めたのだが、キョーコは泣き止む気配がなかった。

蓮は困ったようにキョーコを見ながら、何かを思いついたような顔をしてキョーコをヒョイっと抱え上げた。

突然抱え上げられたことに驚いてキョーコの涙が止まる。

「つ、るがさん?」

蓮の顔がキョーコの顔の位置よりも下にあり、蓮がキョーコを見上げる形になっていた。
蓮はキョーコの膝を抱えたままスタスタとソファに近付き座ると、そのままキョーコを己の足の上に座らせ抱きしめた。

「つ、敦賀さん?!何を…。」

キョーコが真っ赤になって抗議しても、蓮はキョーコを当然のように腕の中に閉じ込める。

「ん?最上さんが俺の言葉も無視したまま、中々泣き止んでくれないからね、涙の訳をゆっくり聞く為に移動したんだ。」

「それは謝りますけど、何で私を足の上に座らせるんですか!!離して下さい!」

「嫌だね。泣いてる女の子を一人になんてしないよ。」

「そんなこと、誰にでもしないで下さい!!女の子だってだけで、誰にでも、こんな風に優しくされたら勘違いしちゃうじゃないですか!!」

「うん。大丈夫だよ。俺がこんなことする女の子は君ぐらいだから。」

「だから、そういうことじゃなくってですね!私にもしないで下さい!!」

「どうして?」

「勘違いしちゃうじゃないですか!!離して下さい!!」

「勘違いってどんな勘違い?」

今まで赤い顔をして恥ずかしさから抗議していたキョーコだが、この蓮の一言でとうとうキレた。

「私のことを好きなんじゃないか?!っていう勘違いですよ!!少しは良く思ってくれてるのかな?!って勘違いしちゃうじゃないですか!!そんなことある訳ないのに!!期待しちゃうじゃないですか!!」

キョーコが本気で怒りを露わにする様子と、その怒りの言葉の内容を聞いて、蓮は驚いたような顔になって、イタズラっぽく笑った。

「それって、俺のこと好きって言ってるみたいに聞こえるよ?俺こそ勘違いしそうだ。」

「みたいじゃなくて、そうなんです!!!!敦賀さんのことが好きだから、こんなことされたら困ります!!わかったらとっとと離して下さい!!」

顔は赤いままだが、怒りのあまり鬼のような形相で告白をするキョーコに蓮は驚きで目を見開いた。

「ほ、本当に?!」

驚き過ぎて声が掠れる。

「本当です!!だから離して下さい!!これ以上好きになったら私、壊れちゃいます!!」

キョーコは離してもらおうと躍起になって暴れるが、蓮はそんなキョーコを力一杯抱き締めた。
キョーコの身体がピクリと固まった。

「嫌だ!絶対に離さない。そんな言葉を聞いて離せる訳ないだろう。それに、勘違いなんかじゃない。」

蓮は抱きしめたキョーコの身体を離すと、片手でキョーコの顎を持ち上げて顔を覗き込んだ。
蓮から至近距離で見つめられて、キョーコの瞳が不安気に揺れる。
今にも蓮の吐息が掛かるのではないかという距離に、キョーコの顔が更に真っ赤に染まった。

「俺は君のことがずっと好きだったんだ。最上さんのことが…ずっと好きだった。君に好きな人が出来たって事を聞いて、ショックで全ての記憶をなくしてしまうほどに、君の事を愛してるんだ。」

蓮の言葉にキョーコは目を見開いた。

「…え?だって敦賀さんには…」

キョーコは困惑した。蓮の真摯な目からは嘘をついてるように思えない。だからと言って、芸能界一の抱かれたい男と呼ばれるほどの、美貌も魅力も溢れる人から告白を受けるなんて、キョーコには考えられない事だった。

しかも、初めてなのだ。
好きな人から、好きと言われることだって。
心底困惑してるキョーコを見て、蓮はキョーコの頬を愛おしそうに撫でながら言った。

「ずっと好きだった。ダークムーンで恋の演技に詰まった時に、君への恋心が俺の役者生命を救ってくれたんだ。そして君の言動全てが俺の心を沈めさせも浮上させたりもするんだ。あんな…君を傷付けるようなキスをして、記憶をなくすよりも前に、本来なら君に想いを伝えるべきだったんだけど、あの時は焦ってて余裕がなくなってたんだ。君が誰かに取られてしまう前に、自分の物にしてしまいたくて、あんな強行をとってしまった。本当にごめん。」

蓮はキョーコの目を心底後悔してる顔で覗き込むと懺悔をした。
蓮の表情を見て、キョーコの胸が痛む。

「そんな…。私こそ…嘘を…ついてたんです。」

「?」

「あの時、私は本当は敦賀さんのことが好きになってたんです。でも、これ以上好きになるのが怖くて…ただの後輩なら近くにいられるって思ったんです。でも、そんな時にたまたま告白をして下さった方がいたので、この人なら好きになれるかも。って思って、敦賀さんへの想いを封じる為に、距離を置こうと思ったんです。敦賀さんに振られるのはきっと耐えられないから。」

キョーコの言葉に、蓮は驚いた顔で目を見開いた。

「俺が…なんで君を振るって思ったの?」

蓮の手は今やキョーコの身体が倒れないように支えてるだけなのだが、キョーコが逃げることはなかった。

「あの…敦賀さんの周りには魅力的な女性が多いから、私なんて目にも止まらないって思って…。だって私、地味で色気のない女だし、大切だと想う人から想いを返されるなんて、私にとっては夢物語なんだって思ってたから。そういうのは御伽噺の中だけの都合のいい夢だって…。」

「君は、いつまであんなやつの言葉に惑わされてるの?君は地味でもなければ、色気がないなんてあり得ない。世界中のどんな美女よりも、魅力に溢れてるんだ。」

蓮がキョーコを諭すように言い聞かせる。
蓮の言葉に、キョーコは驚く。

「で、でもっ!!敦賀さん私に言いました!!頬にキスした時も、あんなのただの御礼のキスだって…。それにそれに!!ダークムーンの打ち上げの時だって、君には何もしないって!!馬鹿だなぁって顔をして…それは私にそんな魅力はないって言いたかったんですよね?頬にキスされただけで使い物にならなくなるようなお子ちゃまじゃなければ、敦賀さんは相手にするってことじゃないんですか?」

「んな!!あれは、そんな意味じゃない!!」

キョーコの言葉に、蓮は慌てて訂正をした。

「違うよ!違うんだ。君は、本当に無防備で危なっかしくて、平気で一人暮らしの俺の家に来るだろう?俺はその度に、自分の理性と闘ってたんだよ。君に手を出したら、泣いて嫌われて、記憶から抹消されて後輩としても近付かない赤の他人に祭り上げられると思ったんだ。君を深く傷つけると思ったから、あの時はあんな風に言ったんだよ。本気で動揺する君を、安心させる為にね。俺の側から離れないように。俺は臆病者なんだ。君に嫌われたら生きていけない。」

「そんな…じゃあ、あの時の出来事が記憶をなくした原因なんですか?」

「うん。君に嫌われる現実を生きたくなかった。恐怖で怯えさせた君の顔が頭から離れなくて、君にしてしまったことも、君への恋心も全てを忘れてしまいたかった。次に君と顔を合せた時に拒絶反応されるのが怖かったんだ。」

「敦賀さん…。」

キョーコは呆然としてしまった。自分の隠してた気持ちが、知らぬ間に蓮を追い詰めていたのだ。
キョーコは蓮に申し訳なくて、そしてどうしようもない愛しさが溢れて、蓮の首にギュッと抱き付いた。
突然の抱擁に、蓮の顔が真っ赤になる。

「も、最上さん?!」

「ごめんなさい!ごめんなさい!!あの時、拒絶したのは、怖かったからなの。」

「うん。突然あんなことされたら誰だって怖くなって当然だよ。」

「そうじゃなくて、敦賀さんの温もりを知ってしまったら、絶対に離れられなくなる自分が怖かったの。敦賀さんに触れられた唇から想いが溢れ出しそうで、怖かったの。敦賀さんには、他に好きな人がいるって思ってたから。」

「そんな。君以外に好きな人なんて…。俺には君さえいてくれたらいいんだよ。」

蓮は優しくキョーコの頭を撫でてギュッと大切そうに抱き締めた。

「敦賀さんが、好きです。本当に本当に大好きです。」

キョーコがギュッと抱き付いて言うので、蓮は破顔してキョーコの顔を覗き込んだ。

「俺も、最上さんのことが好きだよ。」

視線と視線が絡み合う。
ようやく伝え合えた想いに、二人はくすぐったい気分になりながら額を合せてクスクスと笑った。

一通り笑ったあとに、蓮はキョーコを覗き込んで名前を呼んだ。

「最上さん…」

「敦賀さん…」

キョーコもそれに答える。
お互いを熱い視線で見つめ合った二人は、自然な流れで唇を合わせた。

果てしなく甘い幸福な気持ちが二人を繋ぎ、世界を作る。


キョーコも蓮も、夢中になりながら何度も何度も甘いキスを繰り返すのだった。



(続く)

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*****


段々とクライマックスへと向かっております!
でももう少し続きそう。


前回のなくした記憶が限定だった為か、アメンバーさんが一気に270人を越えてしまいました!!
びっくりです。

本当に、あんな展開で限定にしてしまって申し訳ない。
拍子抜けされた方いたらすみません。

今回もお楽しみ頂けてれば幸いです♪
※Amebaで2012/02/08に公開した話を若干訂正したものです。
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