なくした記憶 40

2016年01月23日14:04  なくした記憶/スキビ!《完結》

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なくした記憶 40


「先ずは…ちょっとショッピングなんてどう?ずっと買いたかったものがあるんだ。」

蓮が運転しながら人懐っこい笑顔を浮かべてキョーコに提案した。

「うん、いいけど、何買うの?」

「それは…行ってからのお楽しみ。」

信号で止まった車の中で、蓮は嬉しそうににっこりと微笑んだ。



キョーコが連れてこられたのは高級感あふれるお店。

不安気に見上げるキョーコに蓮は笑みを零す。

「堂々としてれば…案外気付かれないもんだよ。」

蓮は降りる前に帽子を深く被ると、ジャケットを羽織って外に出た。

普段の蓮なら着ないような革ジャンだ。

そんな姿まで絵になる蓮は、車をおりたキョーコにスっと手を差し出した。

「ほら。手を貸して。」

「…うん。」

キョーコは恥ずかしそうにしながらも、差し出された蓮の手を握る。
指を取られて絡められると、あっという間にカップル繋ぎになり、キョーコの頬がカアッと朱に染まった。

ドキドキしながら2人は歩く。


蓮に連れられて入った店は、女性ものの洋服を取り扱った店だった。

品があって、可愛らしい。そんなキョーコのツボをつつくような服が多いこの店にキョーコのテンションが上がる。

「わぁ!!この服凄くかわいい!!あっ!こっちも。」

楽しそうに服の間を練り歩き、たまに自身にあてがうキョーコの仕草を蓮は目を細めて見ていた。

蓮に熱くみつめられる視線に気付かぬ振りをして、精一杯内心のドキドキを隠す為に、必要以上にはしゃいで見せる。

しかし、チラリと見えた服の値段に、キョーコは思わず目を瞠ってしまった。

「く、くくくくくくおっ!久遠っ!!」

「どうかした?!」

急に楽しげだった顔を一転、真っ青に青ざめさせたキョーコを見て、蓮が驚き慌てて近付く。

「ふ、服の価格が一桁、おかしいです!!久遠さんの目的のものを買って、す、すぐに出ましょう!!」

キョーコのあわあわとしながら言う言葉に一瞬ポカンとした蓮だったが、その後にぷっと噴き出した。

「くくくっ。なんだ。そんなこと…。気にしなくていいよ?それに俺の目的はキョーコに似合う服。彼女を飾れるのは彼氏の特権…だろ?」

蓮が神々しい笑顔のままでキョーコを見つめてそう言うと、キョーコがポンと音が出そうな勢いで真っ赤になる。

「か、彼女?!彼女って…まさか…」

「勿論君だよ?キョーコ以外にいないだろう?」

わたわたと慌て出したキョーコを引き寄せて頭にキスを送ると、キョーコがぷしゅーと小さくなってしまった。

そんなキョーコに蓮は、クスクスと笑いながら、ほら。好きな服選んで?と、促す。

上目遣いで困ったような目で見上げてくるキョーコを誘導して先ほどまで気に入って見ていた服を何着か順番に試着させてみる。

蓮は、キョーコが最後の試着してる間に、今まで試着してキョーコの反応が良かったものの会計をこっそりと済ませ、車のトランクに運んでもらった。

最後の服を着て出て来たキョーコに満足そうに微笑んで、蓮は、「じゃあ今日のデートはそれ着て出掛けよう。」と満面の笑みを浮かべた。



申し訳なさそうに眉尻を下げたキョーコを背にして、蓮は上機嫌で会計を済ませて車に戻る。

今までのキョーコが来ていた服は紙袋に入れてもらい、後部座席へと収めた。

「すみません。あの、靴まで…買って頂いて…。」

このまま行こうと言った蓮に頷いたものの、どうしても履いてきた靴がミスマッチになってしまい、躊躇しているキョーコを見て、蓮はすぐさま新しい靴をキョーコに履かせた。

キョーコ好みの靴で、サイズもピッタリだったので、キョーコは驚きを隠せなかったが、蓮は値段も見ずに、さっさと靴も一緒に会計を済ませてしまったのだ。

心底申し訳なさそうなキョーコをみて、運転しながら蓮は苦笑を零した。

「君は…さっきからそればっかりだな。気に入ったんだとばかり思ってたけど、本当は気に入らなかった?」

「そんなことないっ!!凄く可愛くて私好みで驚いたくらいだし…で、でも、やっぱり凄く高級店だったから申し訳ないというか…。」

「だったら、にっこり嬉しそうに笑ってくれた方が俺は断然嬉しいな。折角の初デートなんだし、今日は俺に花を持たせてよ。ね?」

そう言う蓮に、キョーコはふわりと微笑みながらも、少しだけさみしそうな表情になった。

「…うん。」

そんなキョーコの返事に、疑問を抱いた蓮が赤信号で止まってキョーコを見る。

「どうしたの?」

「あ…いえ、あの…デートは…ね、二回目なの。」

「え?」

キョーコの言葉に蓮が驚く。

「あのデート番組の企画が上がった時に、まだあの馬鹿が相手だって知らなかったけど、久遠ってば拗ねちゃって、俺が一番にキョーコちゃんとデートしたいってごねてたの。見兼ねた社さんが慌ててスケジュール調整して時間作ってくれて、デートしたの。だから、今日は二回目…。」

言いながら恥ずかしくなったキョーコは頬をかぁっと赤らめ、下を向いてごにょごにょと言った。

「そう…なんだ。」

「うん…。」

蓮は、初デートの記憶までなくなってしまっていたことにショックを受けた。
何となく気まずい沈黙が流れる。

キョーコにとってはこれはもう初デートではないのだ。

「そのデートって…寝室に飾ってるあの写真を撮った時?」

「うん。」

キョーコが遠慮気味に頷く。

ーーー思い出したい…。キョーコとの今までのことを全部、全部思い出したい。なにもかも…。

蓮の中でその思いが深まる。

「あの…さ、キョーコ。」

「…はい。何でしょう?」

「初デートのやり直し…してくれないかな?」

「え?やり直し…?」

「うん。キョーコとどんなとこに行って、どんなものを一緒に見たのか知りたいんだ。」

蓮の言葉を聞いて、キョーコの顔が嬉しそうな笑顔になった。
ふわりと微笑んで同意を示す。

「ふふ。わかりました。いいですよ?」

「じゃあまず、どこに行ったんだい?初デートの日のこと詳しく教えて?」

キョーコは、道中嬉しそうにその日の出来事を蓮に話して聞かせたのだった。


「うーん。まぁ今から髪染めたりなんてしても、時間かかるから、髪型はこのままでもいいかな?」

「うん。あ…でも、バレたりしない?敦賀蓮がデートなんてばれたら週刊誌に売られちゃうんじゃ…。」

「まぁ多少は大丈夫だよ。それにばれたとしても…君は俺の恋人なんだし、堂々としてたらいいよ。」

「う…あ…は、はい。」

恋人と聞いて、キョーコの頬がかぁっと赤くなる。

今でも本当に夢のようなのだ。

もしかしたら今日一日の出来事が全部夢なのじゃないかとさえ思ってしまう。

ーーーだって、あの敦賀さんよ?!抱かれたい男No.1で、芸能界一の色男で、日本中の女性たちが彼に夢中なのよ?!その敦賀さんとわたしみたいな駆け出しのペーペータレントが恋人だなんて…本当に…現実でありえるのかしら?!

実際に蓮と恋人同士になれたのは今朝のことなのだ。

それまではずっと気持ちがすれ違っていて噛み合わない想いに寂しさを感じていたはずなのに、告白したらその告白に答えてくれて、ずっと好きだったのだと告げられた。

他に好きな人がいると、お互いに勘違いしていたことがわかって、身体まで重ねて…きっともう蓮なしでは生きていけないだろう。キョーコはそんな気さえしてしまうのだった。



「まずは映画だね?みたい映画…ある?」

劇場について、今あっている映画の一覧を見ながら、蓮がキョーコに声をかけた。

「うーん。じゃあ、この間と同じので…。先生が出てるこれ!」

「え?!それだと、キョーコつまらないだろ?」

「いえ…あの、実はあの日殆ど見れなくて…。内容も殆ど覚えてないの。」

えへへ。と恥ずかしそうに笑うキョーコを蓮が不思議そうに見る。

「え?何で?」

その視線を受けて、キョーコがぷいっと視線を外してもじもじと言う。

「と、隣で久遠がいつもより近い位置で一緒に見てると思うとドキドキし過ぎて見れなかったの!!お家とはまた違う雰囲気に心臓が壊れそうで…全然頭に入ってこなかった。」

ぶちぶちと文句を言うキョーコに蓮は、笑みをこぼすとキョーコの頭を嬉しそうに撫でた。

「じゃあ、それにしようか…ポップコーン…食べるよね?」

「あ、うん。食べたい!」

「了解。味は…キャラメルだっけ?」

「………え?」

「ん?何?」

蓮の言葉にキョーコがオロオロと目を彷徨わせて蓮を見たので、蓮が不思議そうにキョーコを見つめ返した。

「い…ま、キャラメルって…」

「ん?違うのが良かった?」

キョーコはフルフルと首を降った。

「ううん。キャラメルがいい!」

キョーコは、蓮の手をギュッと握りしめて、期待を込めた目で蓮に答えた。

突然手を握られ、蓮が驚いていると、キョーコは嬉しそうにはしゃいでポップコーン売り場へと蓮を引っ張って促した。

「ほらっ。久遠っ!早く早く!!」

「はいはい。ちょっとキョーコ。どうしたの?」

「ふふふ。秘密。」

急にはしゃぎ始めたキョーコに驚きながらも、蓮は、嬉しそうにポップコーンを購入したのだった。

あの日と同じポップコーンの
キャラメル味と、オレンジジュース、コーヒーを持って、二人はあの日と同じ一番後ろの席に腰を落ち着けた。

ーーーもしかしたら…。

もしかしたら、蓮は、記憶が戻りかけてるのかもしれない。ポップコーンの味も、キャラメルが美味しかったと言ってたのを覚えてくれていたのだろうか?

それが無意識下のことだったとしても、キャラメル味を何の戸惑いもなく選んでくれた蓮に、キョーコは嬉しさでニマニマしてしまいそうになる顔を蓮に見せたくなくて、わざと大げさにはしゃいでいたのだった。


(続く)
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※Amebaで2012/05/29に公開した話を若干訂正したものです。
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