なくした記憶 41

2016年01月23日17:39  なくした記憶/スキビ!《完結》

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

なくした記憶 41


「ご機嫌だね?」

隣に座っている蓮がキョーコの顔を覗き込む。

「うん。だって美味しいんだもん。久遠も食べる?」

「うん。」

ポップコーンを一つ摘まんで差し出すと、蓮はキョーコの手を掴み、その指ごとポップコーンを口に運んだ。

「ん。美味しいね?」

キョーコの手を掴んだまま、とろける様な笑顔を向けた蓮に、キョーコの心臓が飛び跳ねる。

頬を染めて慌てて蓮から手を引き抜く。

「なっ…なっ…もう!久遠ってば!!」

そんなキョーコの仕草に目を細めた蓮は、幸せをいっぱい感じて、キョーコの肩を抱き寄せコメカミにキスを送る。


始まった予告。それよりも大きな音で鳴り響く自分の心音。

キョーコは、困ったような目で蓮を見つめた。

その瞬間、蓮の視線に絡め取られる。

暗い館内。

人々の目はスクリーンに向いている。


しかし、二人は互いから目を反らせないでいた…。


蓮の手がキョーコの頬を捉える。

徐々に近づく顔にキョーコの思考力を奪われる。

あと少しでーーーー。



ーードーン!!

物凄い爆発音に、キョーコが飛び上がり、蓮から慌てて離れた。

スクリーンの中では大爆発が起きており、ビルが崩れるシーンの予告が流れている。

ーーーま、またこのシーン!!あ、危なかった!!ここは外なのにっ!こんな人がいっぱいいるとこでなんて破廉恥すぎるわっ!

キョーコはドキドキとうるさい心臓を宥めながら、俯いて目を瞑った。

ーーーそ、そうよ!思い出したわっ、前回はこれのせいでこの後全然集中出来なくて、映画の内容が全く頭に入ってこなかったのよぉ!!!!

キョーコは頭をぐるぐると動かして悶えていたのだが、ふと、急に浮かんだ考えに熱がスっと引くのがわかった。

ーーーでも、あの時と同じだと思ってるのは…私だけ…なんだわ。今の久遠はあの時のことを覚えていないんだもの…。

そう思うと、少しだけ寂しくなってしまった。
肩を抱き寄せる蓮もあの時と同じ…。

ーーー時間は進んでるはずなのに、同じことを繰り返して…

キョーコが考え込んていると、急に視界がふっと暗くなった。

驚いて視線を上げると、一瞬にして唇を奪われてしまった。

「んっ。」

ちゅっという密やかな音を残して甘い唇を堪能した蓮が、キョーコから離れた。

「な…なっ…なっ!!」

真っ赤になったキョーコが自身の唇を守るように両手で抑える。

そんなキョーコの肩を抱き寄せて頭にもキスを落とした蓮は、そっとキョーコに囁いた。

「不意打ち成功。」

楽しそうに響いたその声に、キョーコはもうっ!と照れて蓮から離れようとしたのだが、それは肩を抱かれているため許してもらえなかった。

仕返しとばかりに、映画を見ている蓮の頬にキスを落とすと、驚いた顔の蓮と目が合った。

そのままぷいっと照れて映画に視線を戻す。するとクスリと柔らかく微笑んだ彼の気配がした。

そっと指を絡めて手を握られる。熱い掌に驚いて蓮に目を向ければ、妖しく微笑んでその捕まえた指に口付けられた。

目はキョーコの視線を捉えたまま、逸らさずに。

それを見たキョーコの頬が真っ赤に染まる。

クラクラとなる頭で映画の内容など入ってくるはずもなく、キョーコはまたもや、この映画を見逃してしまうのだった。


ーーー思えばあの時、私は自分の気持ちを封じ込めようと必死だった。ちゃんと気持ちが通じ合ってからのデート…そういう意味ではこれが初デートになるのかも。

キョーコは、蓮の肩に擦り寄る様にして、ふふっと微笑む。

指を絡めた蓮の手がそんなキョーコの手をギュッと握りしめたのだった。

*
*
*

「もうっ!久遠の馬鹿っ!」

結局映画に集中することが出来なかったとキョーコは恥ずかしさを紛らわすかのようにぷりぷりと怒ってみせる。それを見て笑みを深めた蓮が、ごめんごめんと謝りながら映画館を後にした。

車を走らせてついた場所を見て、キョーコが驚いた顔をしたあと、嬉しそうに蓮に笑いかけた。

「ここ、ハンバーグが有名なんだよね?」

「うん。そうだよ。知ってたんだ。」

キョーコが知ってたことに少し驚いた顔をする蓮。しかしキョーコはくすくすと笑っていた。

「ふふ。ここ、初デートの時に久遠が連れてきてくれたとこなんです。」

「え?本当に?」

「うん。」

「いつかここに君を連れて来たいと思って携帯でチェックしてたんだよ。」

「そうなの?!」

「うん。じゃあ…ここでいいかな?お嬢さん。」

「ふふ。はい。また来たいと思ってたの。」

蓮は、嬉しそうに答えるキョーコの手を取りエスコートするのだった。

素直にエスコートされたものの、例のごとく個室へと通されたキョーコは高級すぎるレストランにそわそわと落ち着かず視線を彷徨わせる。

「くす。落ち着かない?」

「うっ…だってあまりにも高級過ぎて…。久遠は似合うからいいけど…私なんて…。」

「こら。私なんて…という自分を卑下した言い方は良くないよ。君は俺にとっては誰よりも大切な存在なんだから。」

「そ、そそそそそんなこと言われてもっ!!」

「それに、あまりいい気はしないな。俺のこの世で一番愛しい君が君自身からそんな風に思われてるなんて…。」

ふーっと息を吐いてやれやれとわざとらしく首を振り、寂しげに見つめてくる蓮にキョーコの顔が耳まで一気に赤くなる。

「も、もうっ!!そんなからかわないでよ!!」

「からかってなんかないよ。例えば…そうだな。俺が、俺なんかどうせ…って言ってたら、君はどう思う?」

「なっ?!久遠はなんかじゃありません!!」

「ね?ほら、今のキョーコなら俺の気持ちがわかったんじゃないかな?」

「う…そ、そうですね。なんか…は、良くないです。ごめんなさい。」

ぽしょんと頭を垂れるキョーコに、蓮はぷっと吹き出して笑った。

「そんなに落ち込まないで?これからそう言う部分を一緒になおしていこう。君は誰よりも魅力的だってことを嫌でもわからせてあげるよ。」

「本当に?久遠は私で後悔しない?」

「しないよ。君と歩けない未来なんて意味がない。」

ふわりと微笑まれて、キョーコは嬉しさのあまり言葉に詰まった。

そうこうしている内に、料理が目の前に並べられる。

ハンバーグに目をキラキラと輝かせるキョーコを穏やかな気持ちで見つめながら蓮は心の中で呟いた。

ーーー本当に可愛いな。ずっと人目につかない所に閉じ込めておきたいくらいだ。

そう考えてはたと気付く。

ーーーあれ?俺、前にも同じシチュエーションで同じようなことを思わなかったか?

「どうしたの?久遠…?」

フォークを持つ手を止めて固まっている蓮を見て、キョーコがコトリと首を傾げる。

「あ、いや…前にもこんなことがあったな…って…」

そう言った途端、キョーコの目が輝いた。

「何か思い出したの?!」

「え…あ、いや…」

キラキラと目を輝かせるキョーコに、蓮は咄嗟に否定の言葉を吐いた。

「そっか…。」

寂し気なキョーコの顔を見て、蓮は自分の胸の内に訳のわからない仄暗く苦い気持ちがひろがるのがわかった。

ーーーなん…だ?これ…。

「んー。やっぱり美味しい!!ね、久遠……久遠?」

「え…あ…あぁ、おいしい…ね。」

「?うん…。」

それからパタリと会話が止んでしまい、蓮はそれから一言も言葉を発しなかった。



ーーー君ハ、今…誰ト、デートシテルノ?

蓮の中で、仄暗い気持ちが姿を現し…疑問を投げかけた。

音にならず届くことのない言葉に、答えられる術のないキョーコは、蓮の感情の見えない顔に不思議そうに首を傾げることしか出来なかった。


(続く)

スキビ☆ランキング

*****

※Amebaで2012/12/12に公開した話を若干訂正したものです。
関連記事
前の記事 次の記事