なくした記憶 43

2016年01月26日20:15  なくした記憶/スキビ!《完結》

なくした記憶 43


部屋に入るなり、蓮は自分の拳で自分の頭をガツンと殴ると、ズルズルとそのまま扉を背に座り込んだ。

キョーコの心の中にいる記憶のない間の自分自身へ苛立ちが募る。

記憶のない時間はまるで、他人事のように感じてしまうのだ。
自分ではない、自分の中にいるもう一人の男。

その男が許せないからこそ、蓮はキョーコへの苛立ちを抑えられなかった。

思い出したい。でも、思い出したら…?今の自分はまたいなくなってしまうんじゃないのか?

そう思うと、自分じゃない男がキョーコを手に入れる姿を想像してしまうのだ。

ーーー最上さんが好きなのはアイツじゃない。俺だっ!!

そう思った蓮は、先ほどのホテルで乱暴にキョーコを抱こうとしてしまったことを思い出した。
その結果がこれだ。怖がらせ、怯えさせ、口も聞いてもらえなくなった。

頬を打たれた時、蓮はキョーコが好きなのは自分の中にいるアイツだと言われた気がしたのだ。

「くそっ!!!!」

髪をぐしゃっとかき混ぜる。
記憶の混乱なのだろうか…。
思い出そうとすれば思い出そうとする程、辞めろと抵抗する自分がいる。

自分自身がわからず、混乱して、結果キョーコを傷付けた。

「もう…終わりだ…。」

あんな酷いことをした自分を許してくれるはずがない。

現にキョーコは、最後の方は無意識なのだろう。ずっと自分のことを“久遠”ではなく“敦賀さん”と呼んでいた。

アイツには心を開いても、オレには二度と心を開いてくれないのかもしれない。

そう思うと悔しくて、悲しくて、怖くなった。

こうして自分はまた消えてしまうのだろうか…?

キョーコにとってはアイツが良いに決まっている。
そうしたら、俺は…オレは…?


答えの出ない思考のループに蓮は巻き込まれたのだった。



それから数時間。
キョーコは布団に入っても寝ることは出来なかった。
何度も寝返りを打ち、先ほどの蓮のことを考える。

ーーー私…知らないうちに何かしでかしちゃったのかな…。何で急に敦賀さんはあんな風になっちゃったの?
もう、このまま嫌われちゃうの??

その想いがキョーコを苦しめる。

シンと静まり返った部屋、蓮の記憶が戻るまで当たり前になりつつあった幸せな時間が全て崩れ去って…でも、蓮が記憶を取り戻してからは、蓮も自分を好きでいた事を知って…幸せで満たされて…デートして…。

ーーーそれなのに…。

キョーコの目にジワリと涙が滲む。

ーーー泣いても、どうにもならないことがわかってるのに…

心当たりがないからこそ、突然の蓮の変化に戸惑い、キョーコから涙があふれる。

零れる涙を腕で隠して、声を殺して泣いた。

久遠の温もりに包まれて寝ることに慣れてしまっていたキョーコは、結局それからも寝付くことが出来ず、気が済むまで泣いて、目を冷やす為にキッチンへ向かった。

おしぼりを冷やして目に当てると、冷んやりして気持ちがいい。

キョーコが目を冷やしてると、人の気配を感じたのだが、ここにいるのは蓮だけだ。
泣き腫らした目を見られることを避けたくて、キョーコはタオルで目を覆ったまま、蓮の気配に背を向けた。



頭を冷やす為、お風呂に入っていた蓮が、お風呂から上がり水を飲む為、キッチンに入ると、背中を向けて立ち尽くすキョーコの姿を見つけた。

「最上さん?!」

時計の針は朝方に近い深夜を指しており驚いた蓮が声をかけると、その身体は小さく揺れた。

「こんな時間に…。いや、ごめん。眠れなかった?」

気まずそうに縮こまった蓮が、伺うように言うと、蓮の言葉にキョーコが申し訳なさそうに頷いた。

「さっきは…ごめん。記憶が混乱してて…でも、君を嫌いになったとかそんなんじゃなくて…」

「う…うぅ…。」

蓮の言葉を聞き、我慢していた涙が溢れる。

「ごめん。ごめんね。あんなことして…君は、何も悪くないのに、勝手に…俺が…」

そう言って、キョーコの頭に手を乗せる。一瞬だけキョーコの肩がビクリと震えたが、フルフルと首を振るだけでキョーコは逃げ出さず、自分の手を嫌がらない姿を見て、蓮は安堵の息を漏らした。

「…一緒に…寝る?」

蓮は、自分の口から出た言葉に驚いた。
キョーコも驚いたのか大きな目を見開いて蓮を見た。

「あ、いや…あの、さっきみたいなことはしないって誓うよ!」

蓮は慌てて言葉を付け加えた。

「一緒に…横にいてくれるだけでいいんだ!」

蓮の言葉を聞いたキョーコの目には、期待の色が浮かんでいるのを、蓮は見逃さなかった。

「…おいで。」

両手を広げた蓮に、一瞬躊躇を見せながらも、おずおずと近寄るキョーコ。
キョーコが少しずつ近寄る度、蓮の心臓が早鐘を打つ。

キョーコの冷えた手が、蓮に伸びようとした時に、キョーコが一瞬にして茹でダコのように真っ赤になった。

「つつつつつ、敦賀さん!!服を着てくださぁい!!!!破廉恥ですぅー!!」

キョーコは慌てて蓮から離れると、真っ赤になった顔を両手で覆った。

「…あ、ごめん!」

一瞬そんなキョーコの行動に呆気に取られた蓮だったが、上に何も身につけていなかったことに気付き、言われた言葉の通り、急いで寝巻きを身につけながら、こんなことを前にも言われたことがあるような不思議な気分になった。

「最上さん、服着たよ?これでいい?」

蓮が顔を手で覆ってるキョーコの側に近寄って優しく声をかけると、キョーコが恐る恐る手を外して、蓮を伺う。

「あの…本当に、いいんですか?」

「え?何が?」

「だから…その…」

カァと顔を赤らめるキョーコに、蓮は優しい笑顔を向ける。

ーーーあ、久遠の笑顔だ…。

「もちろんだよ。おいで。」

ふわっと笑う蓮に、キョーコも久遠に返していた笑顔を見せ、一気に抱き付いた。

蓮は突然のキョーコの笑顔と抱擁に驚いてフリーズするが、心臓だけは一気に動き出していた。
恐る恐るキョーコの身体を抱き締めると、キョーコも苦しいくらい抱き付いてきた。

ーーー彼女が誰を求めていたとしても、今はまだ、彼女のそばにいるのはこの俺だ…。

愛しいキョーコを宝物のように胸元に抱き締めた蓮は、そう結論付けて、自身の寝室のベッドへキョーコと共に身を沈めたのだった。


(続く)
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※Amebaで2012/12/13に公開した話を若干訂正したものです。
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