なくした記憶 44

2016年01月27日10:19  なくした記憶/スキビ!《完結》

なくした記憶 44


「寒くない?」

「ん。大丈夫です。」

キングサイズの蓮のベッドに並んで横たわる。
蓮の腕枕に遠慮気味に頭を乗せたキョーコの方に身体を向けて、布団を被せた蓮はやや緊張している様だった。
キョーコの肩が出ていないか気にしながら、そっと不安気にキョーコの顔を覗き込む。

さっきのホテルでは恐く感じた蓮の腕も今のキョーコにはとても居心地が良かった。

「さっきは…ごめんね。」

「いぇ、私が何か気に障る言動を知らないうちにやってしまってたんですよね?」

「いや、違うんだ。あれは…俺が勝手に…」

蓮はグッと押し黙ると、キョーコを抱き寄せた。
蓮の香りに包まれてキョーコはほぅっと息を吐き出す。

「嫌って…ませんか?」

「嫌いになんて、ならないよ。なるわけない。」

「じゃあ、どうして…あんな…」

キョーコの目にまたもやじわっと涙が浮かんだ。
怖かったのだ。何故急に蓮の様子が変わったのかもわからなかったのに、あんな強引に、優しさの欠片もない状態で身包みはがされそうになって。
拒否したあとの無言の時間も、蓮がなにを考えているのかもわからなくて、嫌われたんじゃないかと勝手に混乱して。

「う…くっ…」

「ごめん。本当にごめん。」

謝罪する蓮の声が申し訳なさで少し震えていて、後悔していることがしっかりキョーコにも伝わった。

「俺が…わからなくなったんだ。」

「…どういうことですか?」

「記憶のない間の俺と、今の俺が全く別人に思えて、混乱したんだ。」

「……?」

「君の口から嬉しそうに記憶がない間の俺の話を聞く度に、嬉しく思う反面、胸の中に何だかわからないチリチリとした感情が湧き上がって…」

蓮の腕に力が入る。

「君を愛してるのは俺だ!他の誰でもない俺なんだ!!なのに、なのにっ!君の記憶の中にいる俺は…今の俺以上に、君の心の中に入り込んでる。」

「…え?」

「俺が、俺自身に負けてるみたいで…悔しくて…久遠である俺の方が、キョーコは好きなのか?だとしたら、今の俺は…どうしたらいい?わからない…わからなくなって…怖くなった。」

蓮の身体が小刻みに震えているのに気付いたキョーコは、そっと蓮の身体に腕を回して抱きしめた。
キョーコが抱き締め返したことに気付いた蓮は更に力強く抱き締める。

「好きなんだ。どうしようもないくらい、君のことが…。自分自身にさえ、奪われたくないと思うほど…愛しくて堪らない。誰にも渡したくない。」

「敦賀さん…」

「キョーコ…お願いだ…俺から離れて行かないで…。」

弱々しい声で懇願する蓮に、キョーコの胸がキュンと甘く締め付けられた。
蓮がまるで大きな子供で自分に縋ってきているように見える。
そういう部分に、久遠だった頃の蓮が重なる。

「離れられるわけ…ないじゃないですか。」

キョーコの顔に笑みが零れた。

「貴方が敦賀蓮でも、久遠でも、どちらも貴方であることに代わりがありません。」

「………。」

「敦賀さん…貴方の顔を見せて下さい。」

少し戸惑いつつ、蓮は言われたままキョーコを抱き締める腕を緩めて、キョーコの顔を覗き込んだ。
キョーコは両手で、蓮の頬を包み込む。

「私が好きなのは貴方です。最初、貴方が記憶を取り戻した時、私は確かにショックを受けました。でも、気付いたんです。久遠は貴方の一部分。久遠以外にも、きっと貴方の中には色んな貴方がいます。でも、それを全て引っくるめて貴方が好き…。貴方の行動や言動の中に久遠が垣間見えるのも、久遠が貴方だからですよ。他の誰でもありません。貴方は、敦賀蓮で、久遠で、コーンで…私の愛しい人です。」

「キョーコ…」

キョーコの慈愛に満ちた目が、蓮の心を包み込み、その言葉に光を見出す。
蓮の目にジワリと涙が溜まった。

「貴方は、私の愛しい人です。」

はっきりそう言い切ったキョーコに、蓮は漸く微笑みを浮かべた。
しかし、かっこ悪いところと弱音を吐いたのが恥ずかしかったのか、少し罰が悪そうな笑顔だ。
キョーコはそんな蓮の頭に手を回して、そっと胸に抱き込んだ。
蓮はそんなキョーコの行動に驚きつつも、そっと目を閉じてキョーコの優しさと温もりに身を任せた。

「愛してる。」

キョーコの心臓に向かって直接愛を囁く。

「私もです。」

照れたようなはにかんでいるような声が返ってきて、蓮は嬉しくなった。

「明日のデートは、俺が決めていい?」

「はい。楽しみにしてますね。」

「おやすみ…キョーコ。」

「おやすみなさい。蓮…さん。」

今は、この温もりを感じたまま夢をみよう。
愛しい人の腕の中で…。

キョーコの愛に包まれて。



夢を見た。
沢山いる俺の中から、俺だけを見つけて真っ直ぐに笑顔を向ける君。
沢山の俺は俺の元に集まって、キョーコが見つめる俺の中へ一人一人が入ってくる。
その度に、君は一歩一歩俺に近付き、全ての俺が一人になった時、嬉しそうに微笑んで自分から俺の胸に飛び込んできた。

俺はもう離さないと心に決めて、俺の全てで彼女を守ると心に誓ったーーー。


(続く)
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放置しすぎました。ごめんなさいー!

※Amebaで2013/04/09に公開した話を若干訂正したものです。
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