なくした記憶 47

2016年02月08日11:37  なくした記憶/スキビ!《完結》

なくした記憶 47


「さぁ、着いたよ。」

蓮が車を停め、サイドブレーキをかけた。

「ここは?」

キョーコがシートベルトを外しながら、キョロキョロと物珍しそうに景色を見つめる。
蓮はふわっと微笑んで答えた。

「江の島だよ。」

「江の島?」

「そう、とりあえず出ようか…」

蓮はそう言って車から降りるので、キョーコもそれに倣った。

「わ!すごい…!」

キョーコはキョロキョロと辺りを物珍しげに見ながら楽しんでいるようだったので、蓮も嬉しくなる。

水族館も少しだけ覗いた。
江の島の水族館はクラゲファンタジーホールというクラゲ専用のスペースもあるので女性に人気だというのを蓮は事前に調べていたのだ。

「記憶をなくしてる間も水族館に行ったようだけど、こういうのはなかっただろう?」

「はい!とっても神秘的で素敵ですね!」

キョーコがウットリとクラゲを見つめているので、蓮もくすりと笑みを零しながら一緒にクラゲを眺めた。
ふわふわとゆっくり海の中を漂うクラゲを見ていると何だか違う世界にいる気がしてくるから不思議だ。

キョーコは、蓮が記憶をなくしている間の久遠とのこと、蓮への想いと、久遠からの愛、そして蓮が記憶を取り戻した一昨日から蓮との関係も急激に変化したことを思い出していた。
ここ数ヶ月の思い出が一つ一つ頭の中を巡っていく。
蓮への想いも、久遠とのことがあったから抑えられなくなった。
ずっとずっと蓮といたい…。でもそんなワガママが通るのか…。
頭の中では様々な思いが交錯していた。

キョーコが魅入られたようにぼうっとクラゲを見つめていると、蓮が心配したようにヒョイっと顔を覗き込んできた。

「キョーコ、大丈夫?」

「へぁ?!あ、す、すみません!大丈夫です!あ、もう行きますか?」

「ん?いや、もう少し見たいならゆっくりしていってもいいけど…」

「い、いえ!!大丈夫です!!行きましょう!」

色々と思い出したことの中に恥ずかしいものも沢山混じっていて、キョーコは真っ赤になりながら、慌てて蓮の腕をグイッと掴んだ。

「おっと…」

引っ張られ、キョーコ側に傾いた蓮からふわっと蓮の香りが漂って、不意に恥ずかしく感じたキョーコは慌てて手を離そうとした。

「あ、す、すみませっ!」

離れようとした体は蓮の腕にギュッと後ろから捕まえられ阻まれた。

ドキンとキョーコの心臓が大きく跳ねる。

「何かあった?」

「へ?!な、何かって?」

「車の中でもボーッとしてたし、今も…心ここに在らずって感じだっただろ?」

「そ、それはっ!敦賀さんが記憶をなくしてた間のことを考えてて…」

「ほら、何か変だ。俺のことだって家出るまでは久遠って呼んでたのに…。それにいつの間にかまた敬語になってるし…。何かあったなら話して?」

背中にある優しい温もりが、キョーコを安心させた。首に回された腕に手を伸ばして、勇気をもらうようにキュッとその腕を握りしめた。
前を向き、クラゲを眺めながら、キョーコは話し始める。

「今朝、椹さんから電話があったんです。」

「何て?」

「実はーーー」

それは蓮が記憶を取り戻したって聞いた椹からの電話だった。

*

『ほら、蓮のお世話係りをするっていうのは蓮が記憶を取り戻すまでってことだっただろ?』

「はぁ…まぁそうですね。」

『一応、こっちでも幾つか最上さんのために物件抑えてるから、時間があるときにでも事務所に寄ってくれないか?』

「え、でも…」

『いつまでも蓮と一緒に住めんだろう。いや〜。まぁ相手が紳士な蓮だからそんな間違いなんて起こらないとは思うが、君も女の子何だし…。万が一ってことがあるだろう?いくら社長からの指令だったとしてもな〜。女の子の君と男である蓮を一緒に住まわせるのは心配だったんだよ。』

「………はぁ…」

『まぁだから、蓮の記憶が早々に戻ってくれて安心した。だから、最上さんも心置きなく一人暮らし出来るってもんだ。悪かったね。男女が一つ屋根の下ってのは色々と大変だっただろう?』

「いえ…大変なことなんてなにも…。」

『で?事務所にはいつ寄れそうかね?』

「…そうですね。今日だったら夕方18時以降には…」

『わかった。じゃあ待ってるから…』

*

蓮は話を聞いて驚いた顔をしていた。

「え?キョーコ出て行くの?一人暮らし始めるの?」

「元々、そう言う約束だったの。敦賀さんの記憶が戻るまで私が敦賀さんの家に住み込みでお世話係りをするって…」

「だけど…もうキョーコは俺の恋人なんだし…」

「間違い…」

「え?」

「相手は蓮だから間違いなんて起こらないとは思うが…って椹さんに言われたんです。」

「…間違い?」

蓮の眉間にシワが寄った。

「はい。それを聞いて私と敦賀さんがこんな関係になるのは間違いだったのかな?って…思っちゃって…」

尻窄みになりながら、キョーコが言う言葉に、蓮はキョーコを抱きしめる腕に力を込めた。

「違う。間違いなんかじゃない。」

「敦賀さん…」

「久遠って呼んで。そしてお願いだから、これからもずっとそばにいてくれ…」

「久遠…でも…」

「俺の愛しい人は後にも先にも君だけだ。間違いなんかじゃない。俺が君を好きになったのは、気の迷いでも何でもない。信じて、キョーコ…」

「久遠…」

「お願いだ。出て行かないで…。頼むから、俺のそばにいて…これからも一緒に暮らそう?」

「ありがとう。久遠…」

キョーコは寂しそうに微笑んだ。その答えは、出て行く決断をしているように蓮には聞こえてしまった。

「わかった。じゃあ俺も行く。」

「へ?い、行くってどこに?」

「キョーコが出て行くなら、俺もキョーコの新しい部屋に住む。」

「ちょ、なに言って…」

「六畳一間でもなんでもいいよ。キョーコがいてくれれば、俺はどこでも良い…」

蓮がチュッとキョーコの頬に口付けた。

「え?!ちょ、こ、こんな所で…みんな見て…」

キョーコが真っ赤になって逃げようとするので、そのキョーコの体を捕まえて、チュッチュっと軽いキスを繰り返す。

「もう!ダメだってば!久遠っ!」

「キョーコがずっと側にいるって約束してくれたら辞める。」

「もう!わかった!わかりましたから!ずっと久遠の側にいます!」

蓮は嬉しそうに破顔すると、キョーコの肩を抱き、その唇に口付けた。

「約束。」

真っ赤になったキョーコに怒られながら、2人はその後も手を繋いで江の島を満喫した。

2人でシラス丼を食べ、神社へ行き、恋人の名前を呼びながら鐘を鳴らすと永遠に結ばれるというジンクスがある龍恋の鐘を2人で鳴らす。
その鐘がある丘から海が見えて、その海を2人で眺めると、ちょうど夕日が沈もうとしているところだった。
くしゅと小さなクシャミをするキョーコの後ろに立ち、蓮がキョーコの体を己のコートで包みこんだ。

「あったかい?」

「ふふ。とっても暖かい。」

可愛らしい笑顔が蓮を見上げた。
それに蓮は笑みを深めて、そのおでこに軽く口付ける。

「もう。また。」

「キョーコが可愛いからいけないんだよ。もう俺は君から離れられないんだ。だって君のこの温もりを知ってしまったから。」

「そんなの…私も一緒です。」

キョーコは蓮のコートの中でもぞもぞと動いて体の向きを反転させると、蓮の身体にギュッと抱き付いた。

「私だってもう貴方から離れるなんて出来ない。」

そう言って見上げてきたキョーコに蓮は反則だと小さく呟いて再び苦しいくらい強く抱きしめた。
夕日が見守るその丘で、長い影が伸びる。
オレンジ色に照らされた2人の顔が徐々に近付き、静かに優しく唇を合わせて重なった。


(続く)

スキビ☆ランキング



*****

デートについてたくさんのご意見下さった皆々様、ありがとうございました!
今回はたまこさんのご意見を大幅に採用させて頂きました!!

そしてメッセージでも水族館という案を頂いたので、前回と違う水族館だったらいいだろうと、龍恋の鐘にかこつけて、江の島水族館に行かせることに。

今回もかなり難産でございました。

何とか書けてよかったー!!
でもすみません。江の島なんて言ったことがないので、インターネットで調べまくった知識しかないから、地理も何となくしかわかってないです。

とりあえず散々引っ張った割にデート篇は短いけどこんなもので勘弁してくださいませっ(汗)
やっぱり甘々なだけのデートを書くのは苦手っぽいです。
関連記事
前の記事 次の記事