恋心の涙

2016年03月05日00:37  短編(原作寄り)/スキビ!

恋心の涙


わかってた。
そんなこと…他人のアイツからわざわざ指摘されなくたって。

誰よりも一番、私が…わかってた。

あの人には自分が相応しくないってことぐらい。

あの人が神の寵児で、存在そのものが奇跡のような美貌を持って生まれたあの人だから、どんなに私が背伸びをしたって追いかけたって、隣に並ぶことなんて出来ないって。


なのに…あんな奴に…アイツに、あんな風に言われて悔しくなった。

『バッカじゃねぇの。』

先ほど投げかけられた言葉がキョーコの悔しさを呼び覚ます。

『お前みてぇな地味で色気のねぇ女、あの男が振り向くはずねぇだろ!』

古傷を抉るような残酷な言葉、ムカムカと思い出すだけで吐き気さえ催す最悪の時間だった。

『なんならよぉ、お前の色気ってやつ、俺が今から引き出してやろうか?』

壁に追い詰められ、耳元に内緒話をするように囁かれた言葉。
全身に鳥肌が立って、キョーコはその馬鹿男、不破尚を突き飛ばすと、その場から一目散に逃げ出した。

ーーーわかってる。言われなくたって、わかってるもの。敦賀さんにとって私は手のかかるただの後輩なんだって…。

キョーコは目に涙をいっぱい溜めてひたすら走った。

ーーーわかってるのに…わかってたはずなのに…!何で?!どうして…どうしてこんなに苦しいの?!

キョーコは涙が流れるのを堪えて唇を強く噛んだ。

「最上さん?」

優しい低音の響く声がどこにともなく走っていたキョーコを呼び止めた。

ーーーほら…そんな優しい声で呼ぶから…勘違いしそうになるんじゃないですか…!!

「どうかしたの?」

心配そうな声が後ろから追いかけてきて、キョーコの目からとうとう堪えきれなくなった涙が溢れた。

「も、最上さん?!」

ボロボロと涙を流すキョーコにギョッとして蓮は狼狽えた。
オロオロする蓮にキョーコはやりきれない己の想いをぶちまけたくて堪らなくなってきた。

「つ、っるがさんが、悪いんですっ!!誰にでも、や、やっさっしくっするからっ!」

「え?!お、俺?!最上さん一体何が…?」

「キョーコちゃん?!なにがあったの?」

ハチャメチャな事を言ってるのはわかってたが、どうにも止められなかった。
決壊したような想いの洪水がとめどなく溢れ出し、それは嗚咽へと変わっていった。
決して叶うことのない、先がわかりきった己の惨めな恋。
分不相応な想いなど持つからこんなことになるのよと自分を責に責めて、己の心にわざと傷を付ける真似をする。
一方通行だとわかりきっていても、それでも求めずにはいられない愚かな想い。
隠したいくせに隠したくなくて、暴かれたいと願う激しい想い。

泣きじゃくるキョーコを蓮は放って置けず、社に目配せするとそのまま人気のない場所へ連れて行った。

「ひっく、ひっく…」

心を締め付けるようなしゃっくりに、蓮は堪らずキョーコを安心させるため、いつかのように抱きしめていた。

「最上さん、大丈夫。大丈夫だから…ね?なにがあったかわからないけど、俺は君の味方だから。」

優しい声音と安心する温もりに包まれてキョーコは段々と落ち着きを取り戻した。

「最上さんも今日は上がり?」

コクンと小さく頷けば、蓮はそっか。と落ち着いた静かな声で答えた。
心にじんわりと染み入るその声は、キョーコの心に立ったササクレを優しく撫でる。

「俺も今日は上がりなんだ。良かったら落ち着ける場所で話そう?」

キョーコは少し考えたのち、ふるふるとか弱く首を振った。

「何で?俺には話せない?そんなに俺は頼りない?」

またふるふるとか弱く蓮の言葉を否定するため首を振る。

「ね。最上さんのためってより、このままじゃ俺が心配で夜も眠れないから、ゆっくり話、聞かせてくれないかな?」

キョーコは返事に困ってギュッと蓮に抱き付いて顔を蓮の胸に埋めた。

「ね?俺のために。お願い最上さん。」

優しい優しい蓮の声。
暖かくて長い指先がキョーコの髪を甘やかすように梳いた。

キョーコは胸が苦しくなってほんの僅かに蓮にそれとわかるように頷いて同意を示した。



蓮の車で連れて来られたのは、当然の如く蓮のマンションだった。
抱き合って慰めてるのを真っ赤な顔で見てしまった社は用事があったんだったとか言いながらいつの間にか居なくなっていたので二人っきり。

最上階の部屋の玄関を開錠しようと蓮がカードキーを差し込んだ時、キョーコの手がギュッと勇気を振り絞るように、蓮の服の裾を握りしめた。

「ん?」

甘いマスクで優しく問いかけるように覗き込まれて、キョーコは泣き腫らし、まだ潤んだままの瞳で、蓮を想いの丈を籠めて熱く見つめた。

蓮の心臓がありえないほど大きく跳ねる。

その視線に感じた衝撃で、一瞬息をすることも忘れ、か細く発せられた彼女の言葉を聞き逃した。

「…て、さい…」

「…え?」

蓮が何事かともう一度聴きたくて聞き返すと、キョーコは下を向き、唇を噛み締めた。そしてまた今度は先ほどよりも強い目で蓮を見つめてキッパリと口にした。

「私を…抱いてください。」


その言葉を聞いて固まってしまった蓮に、どれほどの衝撃をもたらしたか気付かずに、キョーコはギュッと目を閉じて愚かな想いの玉砕に備えたのだった。


END
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やー。こんな始まりもありですかね〜?

今回、しっくりくるタイトルがなかなか見つからなかったです。
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