なくした記憶 49

2016年03月07日08:21  なくした記憶/スキビ!《完結》

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なくした記憶 49


「………不気味だわ…」

キョーコはテレビを睨みつけるようにしながらソファの上でヌンッとした顔で呟いた。

「キョーコ?どうしたの?」

蓮の不思議そうな声に慌てて意識を取り戻す。

「え?あ、久遠!」

振り返れば、お風呂から上がったのかパジャマに着替えタオルを肩に掛けガシガシと頭を拭いている蓮がすぐそばに立っていた。

「何か考え事?」

「いえ、あの、大したことではないんだけど、あの社長が何も仕掛けてこないのが不気味だなぁと思って…」

「あぁ…確かに…。あれから何もないままもう一ヶ月か…」

蓮は一ヶ月前のことを思い出した。

**

『え?社長にばれた?』

キョーコはシュンとして蓮の前に正座していた。

『それは…いつ?』

『今日の昼間、モー子さんに話してるところ聞かれちゃって…』

蓮が目を見開く。

『ご、ごめんなさいー!!』

キョーコが蓮に涙目で渾身の土下座をした。

『え?あ、ああ。キョーコ、いいから顔を上げて。』

蓮は優しい声でキョーコを諭すと顔を上げさせた。

『でも…』

『明日…』

『…え?』

『明日、俺からも社長に報告してくるよ。』

『で、でも…あの…』

忙しい蓮を気遣っているだろうキョーコは申し訳なさそうに眉尻を下げた。

『大丈夫だよ。明日は俺も現地に行くの10時からだから朝はたっぷり時間がある。』

『そう…なんですね。』

『うん。だから安心して?ほら、片付け終わったならお風呂はいっておいで。』

優しい蓮の笑みにキョーコは安心したように微笑み返すと、元気良くお風呂場に向かった。
後に残された蓮は、ふぅと深く息を吐いて、携帯を手に握りしめたのだった。

*

『やぁっと来やがったか。待ちくたびれたぞ。』

訪れたのは翌日の早朝。
社長の部屋をノックすれば「入れ。」の一言の後に、顔を見て言われた言葉がそれだった。

バスローブを羽織っていかにも社長の椅子というような革張りの立派な椅子に踏ん反り返って、ニタニタと蓮を見ている。

『社長、報告が遅くなって申し訳ありません。』

きっちりと90°の角度で頭を下げれば、ソファを示され、「まぁ座れ」と促される。

『で?いつからだ?』

何がとは聞かなくてもわかる。

『先週の金曜日、俺が記憶を取り戻した次の日です。』

『そうか…』

ふーっとローリィが葉巻の吸い込んだ煙を吐き出した。

『どうだ。蓮、そろそろ公表してみる気はねぇか?』

蓮が目を見開く。
恐らくローリィの口にした公表とはキョーコとの交際についてではなく、己の出生についてだ。

『…え?』

『本気なんだろう?最上君のことは。』

『勿論です!この先、結婚することも視野に入れてます。』

『だったらよ、どーだ?お前の両親のこともこの間の記憶のことも全て公表して、最上君への公開プロポーズに繋げるってのは…』

『え?!記憶のことは構いませんが、両親のことはまだ…。それに、プロポーズも、今は付き合い始めたばかりですよ?しかも彼女は、まだ高校生ですし…。』

『なぁーに。プロポーズしたからってすぐに結婚しなきゃいけないわけはあるめぇ。その辺はお前がうまーくフォロー入れて高校卒業したらとか、20歳になったらってことにしたら良い。』

『でも、もし断られたら…』

『なんだ?断られたらあっさり諦めるのか?その程度の想いなのか?』

『な?!そんなわけないじゃないですか!勿論断られても諦める気なんて微塵もありませんよ!だけど…そういうことじゃなくて…』

『まぁ、わかってるよ。お前にとっては急過ぎるだろうが、アッチがな…もう抑えが利かないみたいで…』

『…は?』

『俺はお前の意識も戻ったし軽傷だったから騒ぎ立ててなかったんだが、アッチがよ。知っちまったみてぇでな…お前が事故に遭っちまったってのを。』

蓮は目を見開いた。

『大事な一人息子がよ、事故に遭ったって知ってから、何度もなんども電話が来るんだ。居ても立っても居られないみたいで、いつこっちに返してくれるんだ!ってうるせぇんだよ。』

『で、でもっ…』

困惑する蓮に、ローリィは人差し指を一本だけ立てて、ズイッと蓮に近付けた。

『いいか、蓮!何処まで明らかにするかはお前に任せる。チャンスは一回だけ俺が用意してやる。それが俺からお前への激励の愛の試練だ。だが、そのチャンスを逃したら覚悟しろよ?掴めるもん掴めなかったらそれなりのペナルティも用意しとくからな。』

ローリィから決定事項として言い渡され、蓮は返す言葉も見つけられず、ただ息を呑むしかなかった。

**


回想を終え、視線をキョーコに戻した蓮は、キョーコの横に腰掛けると、そっとキョーコの肩に腕を回して、己の方へ引き寄せた。

「久遠?」

一体どんな形でローリィからそのチャンスを作られるのかわからない。
だけど、この一ヶ月で蓮自身の覚悟も出来たし、キョーコの左手の薬指に贈る為の指輪も出来た。

確実にその時は近付いてる。
そんな確信が蓮にはあった。

「大丈夫だよ。あの人の考えあってのことだと思うから。」

「そう…でしょうか?」

まだ不安そうな様子のキョーコに蓮は優しく問いかけた。

「ねぇ、キョーコ。」

「はい?」

「俺のこと好き?」

「ふぇあ?!は、はい!!それは勿論!!」

「ずっと一緒にいてくれる?」

「…久遠が、そう望んでくれるなら…。」

「ありがとう…。」

甘い空気が二人の間に満ち始めた。

「…ん…」

優しい口付けから始まり、徐々にそれを深めて、二人は燃えるような想いをその身体で重ねていく。


そして世は更け、ベッドへ移動し仲睦まじく過ごすうちに時計の針が0時を指した。

そして二人の運命の1日は、電子音とともに始まった。


(続く)

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気分転換で他のお話書いたおかげでやっと書けました♪
さてさて、ここから頑張るぞー!
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