なくした記憶 52

2016年04月04日10:34  なくした記憶/スキビ!《完結》

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※関西弁は似非関西弁です。関西は旅行で1、2回行った程度なので、間違ってる部分多いと思います。深く考えずニュアンスで読んでくださいませ。


ラストまであともう少し、お付き合い頂けたら光栄です。


*****


なくした記憶 52


「みつけた。キョーコ。まさか君が彼だったなんてね…。」

蓮がそう言った瞬間、30秒をカウントしていた音が止み、カンカンカーンと時間を締めくくる音がなった。
鶏の図体の上にチョコンと乗った汗だくの女の子の顔が画面いっぱいに映しだされる。

「誰?あの女…」

「蓮の彼女?!アレが?」

「あれって、京子じゃない?」

「え?京子ってダークムーンの美緒様?えぇ?!違うでしょ?」

「いや、絶対そうだって…」

「何で美緒が着ぐるみに入ってんの?」

「同棲って…一緒に住んでるってことよね?」

「蓮と京子が?!全然釣り合わないし!」

「あの女ー!私の蓮をー!!どんな手を使ったのよぉ?!」

騒がしくなる客席の囁き声もキョーコの耳まで届いた。

ーーーイヤァァァ!私の人生、もうここで終わりよぉぉぉぉぉ!!!!

「京子、ちゃんが…敦賀さんと同棲…?」

ブリッジロックのリーダーである光はその事実を知って青ざめた。

「ってかどうするん?!」

「物凄い騒ぎになるんやない?!」

二人と同じ事務所に所属するブリッジロックのメンバーも気が気じゃない。
敦賀蓮の交際発覚なんて今までなかったし、恐らく大スキャンダルになるだろう。
メディアも放っておくはずがなく、キョーコも追いかけ回されることになるだろう。

誰もが固唾を飲んで見守る中、蓮は鶏の腰を引き寄せ、ピタリと横にならぶと、カメラを向いてスッと頭を下げた。

「まず、皆様を驚かせてしまい申し訳ありません。」

蓮が頭を下げたことで、客席からのザワメキが大きくなるが、蓮が顔を上げるとピタッとその声が止んだ。
すっと真剣な目でカメラを見据えた蓮の表情に皆が息を飲む。

「ご紹介します。私敦賀蓮と同じ事務所に所属する後輩のタレント京子です。実は先月から真剣に交際しております。」

ザワザワと客席のザワメキが再び大きくなる。

「どんな彼女なのか一言で紹介すると…ゴホン。えー、そうですね…まず彼女はーー」

ーーーまず?!まずってなんなの…?一言のはずよね?!

キョーコは心の中で嫌な予感を覚えた。

「笑顔が凄く可愛い。」

蓮の照れたような神々しい笑顔に客席の女性達が唾を飲み込み釘付けになった。

「それに素直で純粋でまっすぐで、何事にも一生懸命な頑張り屋さんで、やるならとことんやらなきゃ気が済まない。負けん気が強くて、人知れず努力して、逆境に強いかと思えば弱くもあって、時々思考に嵌って謎の言動も多いから驚かされることも多いけど、なんでも一人で溜め込んで、甘え下手で、恥ずかしがり屋だけど、そんなところも可愛くて…あとは、役に入るととことんスイッチを入れて走り出しちゃうところも次はどんな演技で返してくれるのかと思うし、あぁ、そうだ!あと料理の腕もピカイチで、彩り、味付け、香りはまさに高級料亭顔負けで、料理のレシピも創作料理も豊富で、食に興味のなかった俺が食べ物を口にして美味しいと感動できたのも彼女の料理が初めてで、それに手先が器用で裁縫も得意で、ペンダントトップだって手作りできて、この間なんてーー」

ペラペラペラと一言のはずがキョーコ自慢が止まらなくなってしまった蓮に、会場の客もどよどよと若干引き気味だ。
キョーコも、「ちょ、ちょっと…敦賀さん?恥ずかしいのでそのくらいに…」と止めようとしてみるが、オンステージに立ってしまった蓮は止められない。

「役によって別人になりきるその姿も目を奪われるし、時々メルヘンなところも全部ひっくるめてすごく可愛い。それにーーー」

うっとりと酔いしれるように幸せそうな顔でペラペラと語る蓮を見て、雄生と慎一は額を突き合わせた。

「な、なぁ…敦賀さんって…こんなキャラだっけ?」

「な、なんか…いつもと違う気が…」

ひそひそと、雄生と慎一が言葉をかわす。その間のリーダーはポカンと蓮を眺めていた。
キョーコは真っ赤な顔で口をパクパクさせている。

「はにかんだ時の笑顔なんて本当に可愛くて、所構わず抱きしめたくなるし、可愛い反応をされるともっといろんな表情が見たくなる。記憶をなくしてた間も、最初はあんなにひどい態度取っちゃったのに、それでも近くにいてくれて…」

キョーコは不意に蓮が事故に遭ったと聞きつけて病院に駆けつけ、目を覚ました蓮から「君……誰?」と言われた時の蓮の表情と声の調子を思い出した。
警戒するような冷たい視線を投げかけられて、本当にショックで思わず泣いてしまったっけ…
それでも、思い出さなくてもいいから近くにいて力になりたいと思った。

「慣れない言動して疲れてた時も、ずっと側にいて癒してくれた…。記憶が混乱して暴走していた時も抱き締めて俺の気持ちごと全部包んでくれた…」

キョーコは話を聞きながらハッと何かに気付いて顔を上げた。
蓮がしている話は、自分が蓮に話したことのない蓮の記憶をなくしていた間の記憶と重なっている。

「彼女がいたから、俺の心は壊れなくて済んだ。キョーコちゃんが側にいてくれたから、俺は俺でいられた…。」

蓮の優しい眼差しの中に、懐かしい色を見つけた気がした。
もしかして…とキョーコの心臓がトクトクと音を立てる。
もしかしてと思いながらも、確信の方がどちらかといえば大きかった。

震える唇で恐る恐るその名を呼んだ。

「…コーン?」

蓮が記憶をなくしていた間、長いこと呼んでいた呼び名で疑問符を付けながら呼びかけると、その呼びかけに、ふわりと申し訳なさそうな笑顔が答えた。

「キョーコちゃん…。」

キョーコの目からポロリと涙が溢れる。

「うそ…じゃあ…」

「やっと今、全部思い出したよ。」

「全部?」

「君とLMEの事務所で再会してからのこと。事故に遭って目覚めた後の事も含めて、あの時差し出されたリンゴの味も、全部。」

キョーコの涙が決壊して涙がボロボロと流れた。

「コォォォン!!」

ーーボヨーン

「うわっ!」

泣きながら両手を広げて抱きつこうとしたキョーコだったが、着ぐるみを着ていたことを失念していて、蓮を押し倒してしまっていた。

「わっ!ご、ごめんなさいっ!わたしったら!」

着ぐるみなのでなかなか起き上がることが出来ず、バタバタしてると、蓮はクスリと笑い、押し倒されたままの体勢で上半身だけ起こし、キョーコの頬にそっと右手を伸ばして、溢れていたキョーコの涙を愛おしむように拭った。

「寂しい思いをさせてゴメンね。キョーコちゃん。」

「こぉん…」

キョーコの口から嗚咽が漏れる。
その二人のやりとりを呆然と見ていた客とブリッジロックだったが、蓮の言葉とキョーコの涙に首を傾げて雄生が口を開いた。

「え?思い出したって…」

それに続き慎一も口を開く。

「もしかして、さっき言ってた記憶を失ってた間の記憶ってことかいな?忘れてたっていう…」

蓮は雄生と慎一に向かって照れくさそうに頷いた。それは今までテレビで見たことのある蓮のどの表情とも違っていた。

「えぇ、今、キョーコちゃんへの想いを口にしていたら不思議なことに全ての記憶が次々と蘇ってきまして…」

そう言いながら、蓮は立ち上がり、キョーコの手を取りそっと立たせた。

その二人を見ながら、感心したように慎一が口を開く。

「はぁーー。なんか、凄いな…愛の力ってやつか?」

そして助け起こしたキョーコの隣に並び蓮が語り始めた。

「彼女との最初の出会いは実は幼少期なんです。俺が10歳、彼女が6歳。数日間だけだったけど、俺にとっても、そして彼女にとっても、かけがえのない宝物のような思い出だったので、二人ともその時のことは覚えてました。ただ、互いが変わりすぎて、芸能界という舞台で再会しても最初は彼女だと気付きませんでした。俺が気付いてからも敢えて彼女にその時の話は持ち出さなかったので、彼女は俺が記憶を無くすまで、その事実を知りませんでした。」

観客もブリッジロックも二人の出会いが幼少期だったことに驚きを隠せなかった。

「え?でも変わってて気づかなかったのに、なんでその時の子やってわかったん?」

雄生が当然の疑問を口に出せば、蓮は答えた。

「10年前に別れ際に俺があげた石を、彼女は宝物にして今もずっと大切に持っててくれたんです。」

「へぇー。その石をたまたま見て?」

「ええ、最初は彼女が落とした石を俺が拾ったときに。そして記憶をなくしてた時は、記憶がなくなって不安定になってた俺の力になれるようにってその石を渡してくれて…。記憶をなくしてたのはここ5年分だけだったので、すぐにあの時の石をあげたキョーコちゃんだってわかって、感動して…その時、彼女もそれで俺があの時の少年だと気付いたんです。」

「石が二人を繋いでくれたんや…それってもう運命やん!」

「えらいロマンチックな話やでっ!そんなことが現実にあるん?!」

二人の出会いの話に観客は興味津々に惹きつけられていた。

「再会してからも、俺は彼女を誤解していて、随分意地悪な態度をとったりしました。それでも彼女はめげずにしっかりと己の芯を持って立ち向かってきました。誤解していたことに気付いてから、段々彼女から目が離せなくなり、気付けば愛おしく思うようになってました。演技に行き詰まって、スランプになり身動きできなくなった時も、この鶏が現れ、いつも助けてくれました。まさか、その鶏まで彼女だったなんて…今の今まで知りませんでしたけど…それにしてもこんなずんぐりむっくりな姿も似合うね?」

「ほっといてください!」

キョーコが真っ赤になって答えるので、蓮がクスクス笑うと、つられたように会場からも笑いが起こった。

そして不意に蓮は真剣な表情を作ると、その場に跪き、鶏の羽を掴んだ。

「君がいてくれたから今の俺がいる。こうして記憶を取り戻して敦賀蓮としてここに再び立つことができた。…ということで、突然ですが最上キョーコさん。」

その体制はもしや?と会場が一気にざわめき、キョーコも蓮の突然の行動とフルネームを言われたことに驚いて固まっていた。

「俺には、君が必要だ。きっとこれから先も様々なトラブルが起こるだろう。だけど、君がそばにいてくれたら、君と二人なら俺はどんなトラブルも乗り越えられる。そう確信してる。君と歩む未来を俺は望んでる。そして君を世界一幸せにするって誓うよ。だから、俺と…俺とどうか結婚してください。」

シンッと会場中が水を打ったように静かになった。
蓮の声は緊張に震え、真剣だった。手の平にはポケットから取り出した小箱が掲げられ、パカリと開いたところに煌めく指輪が乗っていた。

ゴクリと会場中が、キョーコの返事を生唾を飲んで見守った。

蓮の言葉と真剣な目を見て、再びキョーコの目から涙が溢れる。
それは煌めく指輪よりも美しく蓮の目には映った。

「はい…私でよければ…喜んで。」

コクンと小さく頷きふわりと笑顔になったキョーコに、蓮はパァァっと明るい笑顔を見せた。
それは、蓮が記憶を取り戻す前によくキョーコに見せていた無邪気に喜んだ時の表情だ。

「ありがとう…キョーコ…。絶対、絶対に幸せにするから…」

蓮はずんぐりした鶏の身体を抱きしめた。
指輪は着ぐるみを着ている今、嵌めることは叶わないが、幸せいっぱいの気持ちでキョーコを抱きしめて、その頬に愛おしげにチュッチュッとキスを送った。

二人の様子を見守っていた会場から、パラパラといつの間にか疎らな拍手が起こり始め、やがてその音は大きくなり、二人はスタンディングオベーションを受けていた。

蓮の本気が伝わったのか、客席のそこかしこから「おめでとうー!蓮!」「幸せになってー!!」「京子おめでとうー!!」「坊可愛い〜!!」という温かい歓声も沸き起こった。


そして一緒に「良かったなぁー!敦賀さんも京子ちゃんもっ!」と感動しながら一緒に拍手をしていた雄生は何かを思い出した。

「はっ!リーダーは?!」

慌てて、光を振り返った雄生につられて、慎一も振り返ると、そこにはショックを受けるでもなく妙に納得したような表情の光がいた。
不思議そうに二人が近づくと光は二人にだけ聞こえるようにポツリと呟いた。

「敵うはずなかったんやな…。」

「「リーダー…?」」

二人にはたくさんの拍手とピューピューという口笛が降り注いでいて、その中で、キョーコは驚いて赤くなりながらも、蓮と顔を見合わせて幸せそうに笑っていた。

「京子ちゃん、幸せそうに笑っとる。敦賀さん見ても京子ちゃん見ても、お互いを想いあってるのがヒシヒシと伝わってくるわ。俺が入り込める隙間なんて何処にもあらへん。」

「あぁ…」

「まぁそうやな。何より敦賀さんの方がベタ惚れみたいやからなぁ〜。」

「会場だって最初は二人を認めてなかったのに、いつの間にか味方にしてしもうた。」

「せやな。」

「あぁ、びっくりやで。」

「認めるしかあらへん。二人はお似合いの至上最高のカップルや。そんなカップルの婚約成立…俺らが盛大に盛り上げてやらなな。」

「リーダー…」

「あぁ、あぁそうや!リーダーの言う通り!これは俺たちの番組やで!いっちょ盛り上げてやろか?!」

三人は頷き合うと、拍手をしながら舞台中央の二人の元に近付いた。

「いやぁー、まさか二人がそんな関係やったやなんてな!」

「ビックリしたで!ホンマに!」

「婚約おめでとう!京子ちゃん!敦賀さん!!」

「光さん、雄生さん、慎一さん、ありがとうございます!お騒がせしてすみません。」

ぺこぺこと頭を下げるキョーコと蓮に、三人はいーっていーって!水臭いな〜と手を振りながら、和やかな雰囲気を作って番組を進行しようとしたのだが、振り返って確認したカンペには「舞台中央を空けるように」と書かれていた。
その指示に不思議に思いながらも従い、中央を空けるため脇へ下がったブリッジロックのメンバー達。

すると会場に派手な謎の音楽が響いたかと思えば、照明が切り替わり、まるでどこぞのディスコかというような赤黄緑青の光の線が動き回り、スモークが焚かれ、数十人の女性の腰振りダンサーズが雪崩れ込んできた。

「「「ルルルルルル〜リフォ〜」」」

突然の乱入者達にあっけに取られた会場内で、あの人の声が低く響くのだった。


(続く)

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うう…予想以上に長くなってしまいました。
多分、うまくまとめられれば次がラストになる…はずっ!!
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