雨に流されて… 2

2016年04月29日19:06  雨に流されて…/スキビ!《完結》

雨に流されて… 2



雨の中、当てもなく獣道を下山していると、二時間ほど歩いて漸く奇跡的に人が住めそうな建物を見つけることができた。
びしょ濡れの二人は、そこへ助けを求めて近づいた。

「あの、すみません!どなたかいらっしゃいませんか?!」

近づいてみれば、年季の入った民宿で、天候のせいだろうか、人がいるのかも怪しいほど、おどろおどろしい雰囲気に見えた。

「すみません!入れていただけないでしょうか?」

どんどんと扉を叩くが返答はない。

二人は顔を見合わせ、蓮が扉に手をかけた。
鍵が開いていたのか、スススと抵抗なく開いた引き戸に驚きつつ、二人は「すみませーん」と声を掛けながら中へ入った。

すると薄暗いフロントような場所に老婆が一人椅子に座って編み物をしながら船を漕いでいた。

「あの、申し訳ありません。」

恐る恐る近づいて声を掛けると、老婆は目を醒ましゆっくりと顔を上げ、不思議そうに蓮とキョーコを老いた澄んだ瞳に映した。

「…おや、びしょ濡れだねぇ…」

「すみません。今晩一晩、泊めていただけないでしょうか?」

「えぇ、えぇ、うちは民宿ですからねぇ。構いませんよ。」

「本当ですか!!ありがとうございます。助かります。」

「迷ってしまって困ってたんです。ありがとうございます。」

「よっこらせ。」

老婆は椅子から立ち上がった。
背は低く、大きく曲がり、重たそうに足をひきづっている。

「そんなにずぶ濡れだと部屋より先にお風呂に入ったほうがよさそうだねぇ。ついておいで…。」

ゆっくり歩く老婆の歩調に合わせて二人も続いた。
キョーコがクシャミをしたので、蓮はキョーコを気遣いその肩を抱き寄せた。
抱き寄せた肩は雨で冷えてしまったのか、カタカタと小さく揺れていて、蓮は少しでもキョーコの寒さが和らぐようにグッと抱きよせる腕に力を込めた。

「ウチには天然の温泉があるのが自慢でねぇ。露天風呂があるけど、この雨だからねぇ…。狭い貸切風呂ぐらいしかないけどいいかねぇ?」

「はい。有難いです。」

「本当にありがとうございます。」

「あぁ、ここ、ここ。ここが脱衣所であっちが風呂の入り口さね。タオルはあの棚にあるのを自由に使っていいからねぇ。着替えは二人が入ってる間に用意しておくから早く入って温まっておいで。」

暖かい包み込むような笑顔を向けられても二人は戸惑ってしまう。

「「はぁ…」」

詰めたら6人ぐらい入れそうなそこには仕切りもなく、トイレへ続く扉が一つだけ。
シンプルな区切りの棚にそれぞれ6つの脱衣籠が置かれており、その脇の棚に大中小のタオルが積んであるだけだった。

「え、あ、あの…ここ…」

「あぁ、すまないねぇ。私がここにいちゃ服も脱げないねぇ。じゃあ二人が湯につかってる間に、ご飯の支度でもしてこようかね。」

「え…いや、あの、男女別々じゃ…」

「美肌効果も疲労回復の効能もあるからねぇ。ゆっくり寛いで、よく温まって出てくるんだよぉ。上がったら教えとくれ。」

困惑する二人を残して、聞こえてなかったのか老婆は二人の戸惑いに気付かぬままニコニコと嬉しそうに去ってしまった。

「「………」」

老婆が姿を消すと、蓮とキョーコの間に何とも言い難い気まずい空気が流れた。

「あ、あの…お風呂!つ、敦賀さんからどうぞ!」

「いや、最上さんが先。クシャミも出てるし…」

「え?!何言ってるんですか!私は風邪引いても何とかなりますけど、敦賀さんは秒単位で仕事が入ってるんですから、敦賀さんが優先で…」

「秒単位なんて大袈裟な…。震えてる女の子を残して一人で入れるはずないだろう。俺は、君の後でいい。その間に俺は社さんに電話を…」

引き返して老婆に電話を借りようとした蓮の腕をむんずと掴んでキョーコは引き止めた。

「だ、ダメです!!風邪引いちゃいます!!」

「ダメって…どっちかが先に入るしかないなら、君が先だ。俺は後で…」

「ダメです!させられません!!だったら…だったら、一緒に入りましょう!!」

「………え?」

蓮はキョーコの提案にピシリと固まった。

「そんなびしょ濡れの体でウロウロしてたらいくら体を鍛えてても体調崩しちゃうのは明白です。私のせいで敦賀さんを巻き込んで川に落ちてしまったのに私一人先に入るなんて出来ません。」

蓮はキョーコに涙目で見上げられて、必死に云い募られて、眉を寄せた。
何処までも先輩としてしか見られていない自分がもどかしい。
少しばかりイラつきながら蓮は言った。

「最上さん、君、自分が何を言ってるのかわかってるのか?」

ピリッとした蓮の怒りの波動に、キョーコはビクッと体を跳ねさせながらも、引くわけにはいけないと躍起になった。

「わかってます!わかってますけど…あのっせ、背中っ!!背中合わせで入ればお互い見えないし大丈夫です!!ね!そうしましょう!!」

真っ赤な顔ででも頑として譲らないという必死なキョーコの姿に、蓮はこちらこそ譲れないと反発する。

「いや、ダメだろう。君は忘れてるかもしれないが、俺も男なんだよ?」

「そんなの承知の上です!」

「いや、ダメだ。おかしいだろう。男の俺が女の君と一緒になんて…!」

ーークシュ

「ほら、またクシャミをした。こんな無意味な言い争いしてる暇があったら君から入るべきだ。」

「ダメです!敦賀さんも一緒です!!」

「だから、それは出来ないと言ってる!」

蓮はイライラして声を荒らげた。
キョーコが涙目で蓮を見上げた。

「何でわかってくれないんですか?!私は敦賀さんに風邪引いてほしくないんです!」

「だから、俺だって君に風邪引いてほしくないんだ。」

「だったら一緒に入るしかないじゃないですかっ!!」

「…だから、何でそうなるんだ…!!君は…君は、他の男が相手でも同じ状況になったらそんな提案をするのか?!」

「んな?!そんなこと絶対にしません!!」

「……じゃあなんで…」

「敦賀さんだから…」

「は?」

「敦賀さんだから…敦賀さんのことは…誰よりも、信用…してますから…」

真っ赤な顔で、ギュッと強く袖を掴むキョーコの手は震えていた。
よっぽどの勇気と覚悟で、提案していることが蓮にも見て取れた。
それを見下ろし、蓮もグッと拳を握る。

「…本当に…良いんだね?」

キョーコがパッと顔を上げた。
視線が合うと、キョーコはその目に覚悟を決めた様子で唇を引き結んだ。

「女に二言はありません!」

フンッと鼻息荒く言い切るそのキョーコの姿に、はぁぁ〜…と蓮は深く溜息を吐いた。

「後悔しても知らないから…。」

「しませんから!!」

再び、溜息を吐き出してボソリと呟く。

「人の気も知らないで…。」

「え…?何か言いましたか?」

「…いや、わかったよ。じゃあ俺が先に入るから、君も準備できたら入ってきたら良いよ。」

蓮はそう言いながらレインコートと服をさっさと脱ぎ始めた。
張り付いた服はいつもより脱ぎにくく、少し苦戦してしまう。
冷たくなった衣服は体温を奪うばかりで何の役にも立たない。
チラッと横目でキョーコを伺えば、蓮に背中を向けて、いそいそとレインコートを脱いでるところだった。

ーーー………無防備すぎるだろう…。手…出さずにいられるのか…俺…?

遠い目をしながら、こうなってしまった以上何とか理性を保てるようにしなければと、何度も何度も蓮は己に言い聞かせるのだった。
先輩としての意地とプライドと理性の天秤が危う気にゆらゆら揺れるのを感じながら、蓮は気合いを入れ直すため、キョーコに気付かれないよう深呼吸を繰り返す。
キョーコが隣で服を脱ぐ気配に心臓の音はドッドッドッドと強く速くなるばかりで深呼吸の意味はあまり果たせないのだった。


(続く)

スキビ☆ランキング



*****


………あれ?何だか思ってもみなかった方向に進んでますことよ?

成立前で二人でお泊りさせて二人が……(←ネタバレかもなので伏せました。)ってなるにはどうしたらいいかって無理のない設定で考えて書いてたはずなのにいつの間にかこんなことに…(笑)

実は、蓮様のコンタクトが片方外れちゃうのも、老婆も、一緒にお風呂も…書いてていつの間にか勝手に生まれてしまったので最初に設定考えた時には全く浮かんでなかったので、実は一話目も二話目も考えていたのと全然違う展開になっております。
全くの想定外です。


ちゃんと書きたかった話まで無事行き着けるのかしら…(不安)

書きたかった展開と全く別物になりそうな予感ですが、これはこれで…有りなのかな?(笑)

ま、なるようになるさで気楽に書いて行きます( *´艸`)
しばしお付き合い下さいませ。

そして多分、次回は限定です。
関連記事
前の記事 次の記事