雨に流されて… 5

2016年05月06日08:14  雨に流されて…/スキビ!《完結》

雨に流されて… 5


ーーー危なかった…!!

蓮は後ろ手で戸を閉めると、その場にズルズルとしゃがみ込み、赤くなった顔を片手で隠した。

全てを話した後、キョーコが見せた花のような笑顔に思考を全部持って行かれた。

ダメだと思っていたのに手が伸びた。
思わず抱きしめていた。

「ハァァァァァァ〜」

ーーーアレでよく我慢したよ、俺…ッ!

蓮はキョーコを後ろから抱きしめた時、跡が付くほど強く己の腕を掴んで、イタズラを仕掛けたがる手を何とか留めてキョーコを抱き締めるだけで耐え抜いたのだ。

闇へと沈め封印していた素性を明かして、それでもキョーコはそんな蓮を受け入れてくれた。

ーーー折角、信頼を失わずに済んだんだ。…もし、気持ちをぶつけて暴走して嫌われでもしたら本末転倒だろう…。

「ふぅぅぅ〜…」

髪をかきあげつつ、先程抱きしめたキョーコの温もりを無表情のまましばらく反芻し、ハッとした。

ーーーダメだ…ここにいたら最上さんが出てくるかもしれない…。

ずっとその場にしゃがみこんでおくわけにはいかないと気づいた蓮は、先ほどから存在を主張している己を鎮めるべく、目的地をトイレに定めた。

ーーーそれにしても…電気消えてて助かった…。こんな状態のを見られた時にはあの純情乙女な最上さんのことだから全力で逃げ出すか、何かの病気と勘違いするか、気を失うかしそうだ…。

そして無意識に、トイレの電気のスイッチを手で探し、スイッチを入れたところで、停電していたことに気付いたのだがーー。

ーーーあ…れ…?

使用出来ないと思っていた電気が、何故かパチっと音を立て明々とついたのだ。
脱衣場だけでなく、浴槽にも電気が回復していた。

ーーーえ?!何でだ?停電してたんじゃ…。

そして、蓮はハッとして脱衣籠を慌てて覗き込んだ。
そこには入る時にはなかった着替えらしき浴衣が用意されており、濡れた衣服は片付けられていた。

ーーーもしかして…。

蓮の顔が引きつった。
老婆はお風呂に入ってる間に、着替えを用意しておくと言っていた。
つまり、こういうことだろうか?
着替えを用意した老婆は着替えを置いて満足して、雷が落ちた絶妙なタイミングで電気を消して出ていってしまったのだ。

「おばあさん……」

蓮はガクウッと思わず、その場で脱力してしまった。

ーーー嘘だろ?アレで俺がどれだけテンパったと…。

そして、蓮は停電中に想像してしまったあれやこれやを思い出してしまって顔を覆った。

ーーゴホッ。

蓮は一瞬、固まったのち、咳払いで顔の赤みを誤魔化しながら、タオルと着替えを手にすごすごとトイレに籠るのだった。



蓮がいないのを確かめてキョーコが脱衣所に戻ってきた。

「ふぁぁ〜。気持ちよかったぁ〜〜!!」

久しぶりの温泉に心も体もホコホコと温まったキョーコは満足げに言いながら、脱衣所へ場所を移した。

「それにしても、停電した時は驚いたけど、復旧してよかったぁ。」

水分を吸って重くなったバスタオルを体から取ると、新しいタオルを手に取り体の水滴を拭っていく。

そうしながら、先ほど置いたはずの自分の衣服がないことに気付いた。

「あれ…私の服と…下着は…?!」

置いていたはずの場所にはキチンと畳まれたピンクの優しい色の浴衣。

「わ。綺麗…そっか、おばあちゃんが用意するって言ってた着替えってこれのことね。」

それを胸にかかえて籠を覗き込むも、浴衣と帯しか見つけられなかった。
周りを見回しても洗濯機は見当たらない。
恐らく居住スペースにあるのだろう。

「えっと…下着…ドライヤーで乾かせばなんとかなるかもって思ってたけど、おばあさん持って行っちゃったのかしら…?」

キョーコはしばしの間どうしたらいいのかと思案していたが、ないものは仕方がない。

「うぅ…恥ずかしいけど、これをこのまま着るしかないわよね…。」

キョーコは頬を染めながら素肌の上に直接薄手の浴衣を羽織ったのだった。

蓮が脱衣所の外で待っていると言っていたので、急いで衣服を整えて簡単にドライヤーをかけて飛び出した。

「コーン!お待たせッ!!」

「クス。慌てなくても良かったのに…。ちゃんと温まってきた?」

「はい!」

蓮の浴衣は紺色で、その滴るような色気にドキリと心臓が跳ねた。

蓮も湯上りのキョーコに見惚れ、気がつけば無意識のままキョーコの髪に手を伸ばし、その手がつぃっとキョーコの髪を一房を持ち上げていた。

キョーコの心臓がまたもや大きくドキンと跳ねる。

「こ、コーン?」

ーーーハッ?!俺は…何を?!

またもや理性のブレーキをかけ忘れそうになっていたことに気づいたが、内心の動揺を見せず、それらしいことを口にした。

「髪…まだ濡れてる。」

「そ、それは…コーンだって。」

「俺はいいの。男だから。」

「えぇ?!」

「おいで。ちゃんと乾かしていこう。」

「わっ。もう…コーン!って、きゃ!」

蓮に手を引かれ、脱衣所へ回れ右をしたキョーコは足がもつれて、蓮の腕にぶつかってしまった。

ーームニュ…

「…ッ?!」

「わっ!ご、ごめんなさいっ!!」

胸を押し付けるような形になってしまったキョーコは真っ赤になりながら慌てて離れようとしたのだが、蓮に強く掴まれた手はそのまま離されなかった。

「…あの?」

固まっていた蓮がキョーコに声をかけられてハッとする。

「……いや…。俺も急に引っ張ってごめん…」

「いえっ、そんな…っ!!」

蓮もキョーコもお互い心臓の動きがドクドクと激しくなっていた。

「………」

「………」

蓮に掴まれた腕が熱くて、居た堪れなくなったキョーコが声を掛ける。

「コーン…?」

「…あ、あぁ…ごめん。行こうか…。」

蓮はそう言うと、キョーコを促して脱衣所へ再び入った。

キョーコが髪を乾かす間、蓮はジッとドアに背を預け、ガッチリと腕組みをして無表情で立っている。

ーーー怒ってる…訳では、ないわよね?

キョーコはそんな蓮の様子をチラリと窺い見ながら、ドライヤーをかけていた。
蓮が何か怒っていればいつもニョキっと喜び勇んで出てくるはずの怨キョレーダーが今は反応していない。

ーーーそういえば、さっきお風呂の中でもあんな顔してたような…。

蓮の素性を聞く前に蓮が何か思い悩んでいるかのように心ここに在らずだった時のことを思い出して、キョーコは心配になった。

ーーーもしかして何かあったのかな?…大丈夫かしら…?

「コーン?」

ドライヤーをかけ終わり、スイッチを切って呼びかければ、蓮はハッとして顔を上げると、一瞬キョーコを見て、直ぐに目を逸らした。

「あ、あぁ、終わった?」

「はい。あの、コーンも…」

「俺はいいから…」

「良くないです!いいからここに座ってください。」

蓮は一つ大きなため息を吐くと、諦めたようにキョーコが示した椅子に腰掛けた。

「自分で…」

「いえ、やらせてください!」

スイッチを入れるとブォーっという音とともに、暖かい風が蓮の髪を弄ぶ、キョーコの細い指がそんな蓮の髪を優しく梳く。

鏡の中のキョーコをチラッと見た蓮はまた一つ深く息を吐き出し、ぐっと堪えるように目を瞑り、唇を噛み締めると、固く腕組みをした。

ーーーわっ。やっぱり敦賀さんの髪の毛ってサラサラ…。

キョーコは蓮の心情など知らぬまま、ドキドキしながら、蓮の髪を乾かす。

ーーーふふ。何だか和むのよねぇ。この感触。

そんなことを思いながら、キョーコは蓮に問いかけた。

「何かあったんですか?」

「…何が?」

「いえ、さっきから凄く深刻そうな顔をしてるので…。」

「…?!…いや…」

キョーコ相手に不埒な妄想をして己の感情を抑え込むのに必死だったなど口が裂けても言えるはずがなく、蓮は平常心を装い否定した。
でも、キョーコは納得出来なかったようで尚も食いさがる。

「まだ何か言い残したことがあるんじゃないですか?」

「…別に、大したことじゃ…」

「何ですか?言ってください。何でも言いたいことがあったら遠慮なく言ってくださいっていったじゃないですか!」

「………」

蓮はそれでもだんまりを決め込むので、キョーコは先ほど言われた二人の時はコーンへの口調でいいと言われたことを思い出して言い方を改めた。

「コーン?言って?」

「ッ?!」

蓮はそのキョーコの言い方に、ドキリとする。

「ねぇ、コーンってば!」

顔を後ろから覗き込まれて、蓮は観念して諦めたようにボソリと呟いた。

「…つけてないの?」

「…え?」

キョーコが不思議そうに首をかしげる。

「だから、その…ゴホッ…あー、下着…?」

蓮に言われてキョーコはカァッと真っ赤になって、ドライヤーを持っていない方の手で慌てて前を掻き合わせた。

「だ、だって!おばあさんが持ってっちゃったみたいで…下着が無くなってて…」

「……やっぱり…」

「…って、もしかして…敦賀さんも…?」

「……うん。」

「じゃあ、あの、浴衣の下は…」

「うん。君と一緒…かな?」

キョーコは思わず、蓮の浴衣の下を想像してしまい、ボンッと真っ赤になった。
互いにぎこちない空気が何となく流れる。

「そ、そろそろ行きましょうか!」

「あぁ…。」

ドライヤーをかけ終えたので、ドライヤーを仕舞い、二人で脱衣所を出る。

蓮からあからさまに距離を空けて前をズンズン進んでいくキョーコを後ろから見ながら、蓮はこっそりため息を吐いた。

ーーーやっぱり…そうなるよな。

引き離される距離を見て、それがキョーコとの想いの距離に感じた。

ーーーもしここで好きだなんて言ったら、絶対に避けられて逃げられて、もう二度と手に入らない場所に行ってしまいそうだ…。

蓮は後ろからキョーコを見つめた。

ーーー本当は気持ちを伝えて抱き締めて…最上さんの全てを手に入れて、俺だけのものに出来たらって思うけど…

蓮はふるふると首を振って頭の中に湧き上がる思考を振り払う。
ラブミー部員のキョーコには、一緒にお風呂に入っても何もされない安全な先輩だと認識されてるのだ。
恋や愛など語ってもバッサリ切られてしまうことは目に見えている。

ーーー全く。危なっかしい。相手が俺じゃなければ、とっくの昔に襲われてるぞ。

そう思って見つめれば、キョーコの浴衣の中身をぼんやり想像してしまって、蓮は慌てて頭を振る。

ーーーとにかく、この場を乗り切れれば、後はご飯を食べて寝るだけだ。

蓮は、己の理性を信じてこれ以上何も起こらないことを祈るのだった。


(続く)

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中々進んでくれない…!(>_<)
何故まだここなんだ…。
迷走気味になってしまいました。
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