恋心の涙・続

2016年05月28日10:54  短編(原作寄り)/スキビ!

恋心の涙・続


ーーガンッ!

尚はイライラに任せて思い切り椅子を蹴り飛ばした。

「ちょっと尚!なにしてるの!」

マネージャーの祥子が問いかけても、般若顏でぶつぶつと何かしら呟いていて聞いちゃいない。

ーーークソッ!キョーコのヤロウ…!人の気も知らねぇで!

尚は先ほどのことを思い出してムカムカしていた。

『私、好きな人が出来たの。』

バラエティ番組でたまたま一緒になったキョーコが突然楽屋に現れて、いきなり爆弾を投下した。

『…は?』

『だけど、躓いたわけじゃないわ。私は私の進む道の先にあの人を見てるの。だから、京都にも帰らない。仲居にもならない。私はここで、私を…最上キョーコを作るって決めたの。』

意思を宿した強い目が、尚を射抜いた。

『お前、バッカじゃねぇの。』

尚はそんなキョーコの言葉を認めたくなくて、精一杯の嫌味を込めて鼻で笑った。
そんなの認めるわけにはいかない。キョーコは俺のものだ。俺のものが俺の許可なくどっかいくなんて許せない。

『お前みてぇな地味で色気のねぇ女、あの男が振り向くはずねぇだろ!』

キョーコが誑かされた相手なんてわかってる。
あのいけ好かない男だ。

『なんならよぉ、お前の色気ってやつ、俺が今から引き出してやろうか?』

壁に追い詰め、耳元に内緒話をするように囁くと、キョーコは火事場の馬鹿力の如く力に任せて尚を突き飛ばすと、傷付いた顔をして走り去った。

その表情が尚の心にトゲのように刺さった。

「あんな顔…させたかったわけじゃねぇよ…。」



その頃、キョーコは蓮のマンションで死刑宣告を待っていた。

『抱いてください。』

勇気を振り絞って口にした言葉。
きっとこれが蓮との最後…そうなることがわかっても、口に出さずにはいられなかった。
もう抑えることができないくらいこの想いは膨らみきっていた。


キョーコは待った。覚悟を決めて待ちに待ったが、対する蓮からは何の反応も返ってこなくて、キョーコは恐る恐る蓮を見上げた。

蓮は驚きの表情を浮かべたまま、見事に固まっていた。
そんな蓮を見上げたキョーコの目がばっちり合った。

「「……え。」」

ばっちり合った瞬間、弾かれたように蓮が動きを取り戻した。

「あ、あぁっと…と、取り敢えず、中に入る?」

「え…あ、そ、そうですよね!」

ギクシャクギクシャク。
そんな擬音が聞こえてきそうなくらい二人は不自然な動きをしながら玄関を潜った。

「コーヒー…入れてくるから。最上さんは適当に寛いでて…。」

「あ、は、はい!わかりました!!」

何時もなら私がやります!と言うところだが、今回は言えなかった。否、それどころではなかった。
キョーコは絶賛大混乱セール中だったのだ。

ーーーえ?!何?!何?!どういうこと?!私、抱いてくださいって破廉恥極まりないこと言ったのよ?!なのに、何でそんな危ない女をホイホイ家に上げちゃうんですか?!しかも、ノーコメント?!ノーコメントなの?!

じわっとキョーコの目に再び涙が溜まった。

ーーーやっぱり…私、地味で色気もないから女として見られてないんだ…。

そんな風に思い込み始めた時、蓮がコーヒーカップを手に戻ってきた。

「はい。まず、これ飲んで落ち着こうか。」

「…はい。ありがとうございます。」

手渡されたカップを手にとって、キョーコはそれに視線を落とした。
何となく、コーヒーを手にしながら重苦しい空気が二人の間に流れていた。
時計の音と、ゴクリとコーヒーが喉を越す音だけがその場の空気を支配する。

その重い空気を一呼吸置いた蓮が打ち破った。

「何があったの?」

キョーコは突然響いた蓮の声に、来たわっ!!…とギュッとコーヒーカップを握りしめ、唇を噛み締めた。

「抱いてくださいってどういう意味?」

蓮から少し怒ったような僅かにピリピリした空気が漂っていた。

「…そのまま、の…意味です。」

呟くように答えたキョーコの言葉を聞いて、蓮はカツンとワザと音を立ててマグカップをテーブルに置いた。
キョーコの肩がビクンッと跳ねる。

「意味…わかって言ってるの?」

蓮は自分の膝に肘を乗せ、手の上に顎を乗せて、キョーコの顔をジッと試すように見つめた。

「…わかってます!わかってないと言えません!!」

「なら、どうして俺なの?」

「それは…」

キョーコは己の動悸が早くなっているのを感じながら、蓮を見習ってコーヒーカップをテーブルに置き、深く深呼吸をすると、蓮を見つめた。

「初めては…敦賀さんがいいからです。」

震えながらも口にしたキョーコの言葉はかなりの勇気を必要としたに違いない。

「そう…」

蓮はそう小さく呟くと、キョーコの腕をグイッと掴み、己の足の上に腰を攫って引き上げた。

「きゃっ!!」

真っ赤になったキョーコがわたわたと慌てるも、蓮は少しピリッとした空気を発しながら、キョーコを至近距離で見つめた。

常にない近さに、キョーコの心臓が早鐘を打つが、怨キョレーダーが反応していることにも驚かねばならず大忙しだ。

「あ、あの…敦賀さ…?きゃ!」

腰をグイッと引き寄せられ、身体が密着し、蓮がより近くに感じる。
ドコドコ鳴る心臓とキャイキャイはしゃぐ怨キョ達に、キョーコは死刑宣告ならこんな心臓に悪い体制やめてーーー!!!!と心の中で叫んだ。

自由な方の蓮の手が、キョーコの頰をそっと優しく包む。
ビクッと体を跳ねさせ目を強く閉じたキョーコの頰を、蓮の指が優しく滑った。

「初めて…“は”…?」

「???」

「それってどういう意味?」

「ふぇ?」

「俺は初めての為だけの男?」

「敦賀さん?」

「俺に抱かれたら、君は俺の元を去って誰か別の男の元へ行くのか?!」

蓮のピリピリした怒りを直接感じながらも、言われた言葉の意味がわからず、キョーコは戸惑った。

「え…?」

「俺は…」

蓮のキョーコを抱きしめる腕にギュッと力が篭り、そして、その顔を苦しげに歪めた。

「敦賀さん?」

「俺は…君を一度抱いてしまったら、手放せない。もし、君が俺を捨て別の男の元へ行ってしまったら、俺は嫉妬に狂って、その男を…君をどうするかわからない。わからなくて怖い…。」

キョーコが目を見開いた。言葉が出てこない。
騒ぎまくっていた怨キョも蓮の様子に戸惑い始めた。
覗き込まれた蓮の目に心のすべてを絡めとられる。

「俺は最上さんを心から愛してる。」

強い眼差しを向け至近距離で告げられた言葉に、キョーコの息がヒュッと音を立てて止まった。

目を見開き固まるキョーコに、蓮は顔を近付けた。

ーーーちゅっ

そう優しい音を落としたのは、キョーコの柔らかい頬。
そしてそのままキョーコを強く強く抱きしめ、耳元で小さく「キョーコ…」と熱っぽく囁いた。

キョーコの全身が一気に茹で蛸のように真っ赤になった。

ドコドコドコドコと激しくなる心臓の音は先ほどの比ではない。

「つ、がさ…」

「ん?」

さわっと蓮の熱い手がキョーコの背中を意志を持って動いているのが服を介してもわかる。

「あの…」

「くす。心臓の音…凄いね?」

「そ、それはだって敦賀さんが…あんな意味がわからないことを言うから…!」

「わからない?本当に?君は凄いな。随分、ストレートに伝えたと思ったけど?」

「いえ、だからそのっ…」

「言っとくけど、俺は本気だから。最上さんを手に入れたら、手放す気はない。手放すなんて出来ない。」

蓮の高い体温から湧き上がる香りが、キョーコの胸を締め付ける。
蓮がキョーコをソファーへ押し倒した。

「俺はもう君以外、愛せない。」

キョーコの頰を手で包み込み、目を見てハッキリと告げられた言葉はキョーコの胸に深くつき刺さった。

心をガードしていた自分を否定する言葉が次々と溶けていく。

目を見開いたキョーコの目からポロリポロリと涙が溢れた。

蓮の優しい唇が、その一つ一つを宝物のように大切に舐めとっていく。

「敦賀さん…」

「ん?」

キョーコが名を呼べば、優しく微笑んでくれる蓮が愛おしくて堪らない。

「信じて…いいですか?」

「うん?」

「その言葉に嘘はないって。」

蓮はその言葉を聞くと、キョーコの手を取り己の頰を包み込ませた。
冷たい手の感触が蓮の頰に触れる。

「勿論。信じてほしい。俺が心から愛してるのは最上キョーコさん、君だけだ。」

そう言って、頰に当てさせていた手を取り、恭しく指先に口付けた。
キョーコは頰を桃色に染め、蓮を見つめる。

「私も好き…貴方が好き。だから、あなたが欲しい。」

蓮はそれを聞いて目を見開き、そしてクシャリと顔を崩して嬉しそうに微笑んだ。
そんな蓮の笑顔に、キョーコも驚いて目を見開く。

そしてふと、真剣な表情になった蓮が、キョーコの頰に手を当て、顔を近付けてきた。
キョーコは蓮を受け入れるように、そっと目を閉じた。

優しい口付けが二人の想いを繋ぐ。
恐る恐る確かめるようだったキスは段々と深まり、やがて溺れるようなものに変わっていく。
舌を絡め、無我夢中で互いを求めあうキスは二人の欲求を高め合う。

やがて、蓮はキョーコをお姫様抱っこで抱え上げると、時折キスを送りながら、寝室へ姿を消した。

二人の甘い甘い夜はそうして始まったのだった。




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最近、恋心の涙に拍手がついたのを見て、そう言えば何だか続きっぽいものの書きかけたのがあったなーと発掘して優しい仕上がりで書き上げてみました♪
味付けは皆様のお好みでどうぞ(笑)


お楽しみいただけたら幸いでございました。

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