恋の季節は…1《晴れ時々曇り》

2017年06月16日16:26  恋の季節は…/スキビ!

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

恋の季節は… 1
《晴れ時々曇り》


最上キョーコ15歳。今日から憧れの高校生活。

小さい頃から大好きな幼なじみのショーちゃんこと、不破松太郎とも同じ高校に進学することが出来た。

ーーー 一生懸命ショーちゃんにもわかりやすいようにノートを取った甲斐あったわ。

キョーコは新しい高校のブレザーに着替えた松太郎を前にしてうっとりと見惚れていた。

松太郎はブスッと剥れて母親である旅館の女将に文句を垂れる。

「ガキじゃあるめーし!何でキョーコと一緒に登校しねぇといけねぇんだよ。」

女将は松太郎のブレザーのネクタイを整えながらそれをなだめる。

「そんなこと言ったって、女の子一人で行かせるのは心配やろ?もしものことがあってみい。キョーコちゃんのお母さんに顔向け出来へんくなるわ。」

「あーもう!しょうがねぇな。今日だけだからな!明日から俺は一人で行く!おい、キョーコ。あんまりくっついて歩くんじゃねぇぞ!離れて歩け!他人の振りしろよな。」

「うん!ショーちゃんと同じ学校なんて嬉しいな。一緒のクラスになれたらいいね~。」

目つきと口の悪い松太郎とは対象的に、キョーコはほわほわとした天然丸出しの顔で笑う。

昔から自分というものを持っておらず金魚のフンでしかないキョーコを松太郎は疎ましく思っていた。

松太郎はイラつきをアピールするかのようにわざと大きなため息をついて決意を新たにする。

ーーーこんな奴が俺の婚約者とかマジありえねぇ!高校で絶対に良い女捕まえて、お袋に紹介しねぇとな。このままじゃマジでこんな地味で色気のない女とくっつけられる!!そんな将来は御免だぜ!

松太郎はゾゾゾっと背筋を震わせた。

「じゃあ、いくぞ!キョーコ!!」

松太郎は嫌な気分を振り払うために、足早に家を出て歩き出した。

「あ!ショーちゃん待ってよぉ!早いよぉー!!」

キョーコの言葉も無視して足を早める松太郎をキョーコは慌てて追いかける。
空は快晴。キョーコは自分のペースでどんどんと歩いて行く松太郎に、嬉しそうに小走りでついて行くのだった。



「私、2組だったよ!ショーちゃんは??」

キョーコが松太郎を探すが、その姿は見えない。キョロキョロと周りを見回すと、すぐ後ろに女の子達に囲まれた松太郎の姿があった。

キャーキャーと黄色い声で群がる可愛い女の子達に囲まれて、松太郎はとてもご機嫌だ。

その中の会話で松太郎とはクラスが離れたことを知り、キョーコはそっとクラス表を見直し松太郎の名前を確認する。

「ショーちゃんは6組か…」

キョーコは残念そうに小さくため息をついて、松太郎を見つめた。

いつも面倒臭そうな顔しか見せない松太郎が楽しそうに女の子達と会話をしている。
松太郎の笑顔を向ける相手が自分じゃなくても、松太郎の笑顔が見れることが何よりの幸せだと思っているキョーコは、松太郎が同じクラスになった女の子と楽しそうに会話をするのを、若干の寂しさを感じながらも、嬉しそうに見てしまうのだった。

「ショーちゃんカッコ良いもん。モテるのは当たり前よね!ショーちゃんが嬉しそうだから私も嬉しいな。」

結局、松太郎はキョーコには一切見向きもせず、クラスの子たちと教室に向かってしまった。
それを見送ったキョーコも、自分の教室に足を向ける。



「ここが、私の新しい教室か〜!」

キョーコはドキドキとしながら扉を空けた。

すると教室の中には、松太郎の時とは比べ物にならないくらいはしゃいでいる女の子達の集団があった。

「敦賀くんって言うんだ!!よろしくね!私、立花美樹!みきちゃんって呼んでね!!」

「敦賀くん、私は大曽根南!南って呼び捨てでいいわよ!」

「あ!ずるい!じゃあ私もミキで呼び捨てがいいな!」

「私!私はね!…」

キャーキャー騒ぐ女の子に埋れて、男の子の姿は見えないが、松太郎以上にカッコ良い男の子はこの世にいないと思いこんでいるキョーコは、全く興味を持たなかった。
皆の視線が集まる方を見向きもせずに、黒板に書かれた席の表から自分の席を探すのだが、その席は騒がれてる席のちょうど斜め前の席で、人集りが出来ているため近付ける状態ではない。


担任の先生が現れて、皆が席に着きはじめたので、キョーコも漸く自分の席にたどり着くことが出来た。
キョーコの席は窓際で、グラウンドが一望出来る。

キョーコはテキパキと机を真っ直ぐに整えると、松太郎の旅館で身に付けた姿勢の良さで、ピシリと背筋を伸ばして席についた。


新しい高校、新しい教室、新しいクラスメート。

だが、どこにいっても対応は同じだろう。

人気者の松太郎と幼なじみで一緒に暮らしているという事実は変わらない。

どこにいても疎まれるこの事実は、今までキョーコに女友達が出来ない原因にもなっていた。
キョーコにだけ馴れ馴れしく心許した態度を取る松太郎を見て、嫉妬する女の子達からキョーコは昔から迫害にあっていたのだ。

無視、拒絶、イジメは日常茶飯事。
そのうち、男子も面白がって皆でキョーコをイジメだしたが、松太郎はそれを普通のことだと思ってるのか、特に庇いもせず、面倒臭い仕事をキョーコに押し付ける為に話しかける。

でも、それでもキョーコは良かった。
キョーコがいつも辛いことがあってもニコニコと笑顔でいることが出来たのは、松太郎という存在が近くにいるからだった。
キョーコにとって松太郎は心支えで、生きる理由のすべてなのだ。

昔から親の愛情に恵まれなかったキョーコにとっては、幼馴染の松太郎が世界の全てだった。

泣いたりしたらうっとおしがられる。
縋り付いたら振り払われる。
旅館の仲居としても、どんなに辛いことがあっても笑顔でさえいれば大丈夫と教え込まれた。
だからキョーコは笑う以外に自分を守る術を知らないのだ。

たまに顔を見る程度の母親から拒絶されても、キョーコはいつからか笑顔を浮かべる様になっていた。
それを見た母親から気味悪がられても、キョーコには笑うという選択肢以外なかった。

誰からも必要とされない中で、松太郎だけが、キョーコを必要としてくれた。

「キョーコ、ノート見せろよ!」
「キョーコ!それ俺にくれよ!」
「おい、キョーコちんたらしてたら置いてくぞ!そんくらいの荷物どうってことないだろ?早く持ってこいよ。」
「キョーコ!弁当早く詰めろよ!遅刻すんだろ?!」

ーーーショーちゃんさえいてくれれば、他には何にもいらないもの。イジメだって痛くもかゆくもないんだから。ふふ。それに女将さんからも高校卒業したら、ショーちゃんのお嫁さんになるようにいわれてるもんね。

キョーコは松太郎も同じように、自分のことを必要としてくれていのだと信じて疑わなかった。

例えクラスが違っても松太郎と自分は切れない赤い糸で繋がってる。
そんな風に思えるからキョーコはとても幸せだった。

ふふふ。と顔を幸せそうに綻ばせていたキョーコだが、すぐに、ハッとしていけないいけないと背筋を正す。

高校を卒業したら女将になるんだもん。しっかりしなきゃ!

そしてキョーコが気合を入れ直して前を向いた時、窓から見える遠くの空には雨雲が現れていた。

姿勢良くピシリと伸びているキョーコの背中を、見つめる一対の目がある事に、この日キョーコが気づく事はなかったのだった。


(続く)

スキビ☆ランキング

Amebaで2012/1/16に投稿した話に訂正を加えた話です。
関連記事
前の記事 次の記事