恋の季節は…3《ところにより豪雨》

2017年06月26日08:31  恋の季節は…/スキビ!

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恋の季節は 3
《ところにより豪雨》


ーーー何だか、妙な視線を感じるわ。

キョーコはここ数日、今まで感じたことのない視線を感じて落ち着かなかった。

視線を感じて振り返っても、別に変わった様子はない。

ーーー???自意識過剰かしら??

キョーコは首を傾げながら、向き直る。

授業が終わったのでいつものように片付けをしていると、コロコロと消しゴムが転がってしまった。

今まで物を落とすと、踏んづけられたり、蹴飛ばされたりと色々あったキョーコは、内心溜息を吐きながら、落とした消しゴムに気づかぬふりをした。

ーーーわざわざ拾わなくても、新しい消しゴム出せばいいかなぁ。

そんなことを考えていたら、急に男の子から名指しで声を掛けられ、キョーコは心臓が跳ね上がるくらい驚いた。

「最上さん、消しゴム 落としたよ?」

途端に、教室からザワッとした気配が上がる。

「え?!あ、す、すみません!!ありがとうございます!!」

拾ってくれたのは、今一番学校内で人気のある話題の男の子。

入学式から目立っていた蓮を、松太郎が毛嫌いしており、ここ数日、家で蓮のあることないこと悪口を聞かされてたキョーコは、松太郎の機嫌を悪くする蓮にあまり関わりたくなくて、急いで消しゴムを受け取ると、すぐに前を向き直り消しゴムを筆箱にしまった。

しかし、落とした物を拾ってもらうなんてことが初めてだったキョーコは、蓮の手が触れそうなった時、内心ちょっぴりドキドキしたことは、松太郎には絶対に口が裂けても言えないだろう。

休み時間に、松太郎が昨日出された宿題を取りに来た。
キョーコは松太郎が学校では他人の振りしろよ!と言いつつも、自分から会いに来てくれたことに、嬉しさを感じていた。

ーーーショーちゃんわざわざ私の教室まで取りに来てくれたんだ!!

キョーコは嬉しくて堪らずに、えへへと緩む顔を松太郎が去った後も、抑えられなかった。

自分を批難する会話も聞こえてくるが、キョーコは全くそんなことを気にも止めていなかった。



それから数日後、また教室に突然松太郎が現れた。

「おい、キョーコ!ちょっといいか?」

松太郎の突然の訪問にざわめく教室。
キョーコが嬉しそうに松太郎に駆け寄る。

「今日、帰らねぇからお袋達にそう伝えとけ。」

「え?何で?」

「部活の奴の家に泊まりに行く事になったんだよ。だから、俺晩御飯いらねぇから。」

「うん。わかった。誰のお家に行くの?」

「はぁ?何でそんな事までお前に言わなきゃいけねぇわけ?とりあえずそれだけお前はお袋に伝えてくれればいいんだよ。じゃあな!」

松太郎はそう言って、自分の教室へと戻って行った。


次の日、本当に帰って来なかった松太郎の為にお弁当を用意してきたキョーコが、昼休みになり松太郎のクラスに向かう。
教室を覗けば数人の女の子に囲まれてる松太郎の姿があった。

「あ!ショーちゃ…」

「ショーちゃぁん!!」

キョーコが松太郎を呼ぼうとすると、それを遮るかのように大きな声が割り込んだ。

「んだよ。ポチリ。大きな名前でそんな呼び方で呼ぶなよ。恥ずかしいだろ。」

「えへへー。今日はねぇ、美森…ジャジャーン!!ショーちゃんの為にお弁当作ってきましたぁ!!」

言いながら鞄から大きな包みを取り出すポチりと呼ばれた女の子。

「おぉ!でかしたポチリ!!今日は弁当なかったんだよー。」

「やーん!ずるーい美森!!」

「えー?ショーってばどうして弁当ないの?」

「いつも手作り弁当あるよね?あれお母さんが作ってくれてるの?」

「いんや、あれはウチのお抱えの家政婦が作ってんだよ。料理ぐらいしか取り柄がないトロイ奴何だけどな。」

「えぇー?そうなの?じゃあ、今度作ってきたら私のも食べてくれる?」

「あぁ、だけどいっぺんに持って来られても食べ切れねぇからな~。」

「あ、じゃあさ、作りたい人で順番に作ってきたらいいんじゃない?それならいいでしょ?ショー。」

「あぁ。毎回代わり映えしない弁当で飽き飽きしてたからな、ちょうどいいかもな。」

「やったぁ。じゃあ明日は私~。」

「えー?じゃあ私は木曜日ー」

「毎週?!毎週なの?!抜け駆けじゃーん!!」

松太郎を囲んできゃっきゃとはしゃぐ女の子の集団を見ながら、キョーコは某然と立ち尽くす。


ーーーウチのお抱えの家政婦…??


ーーー料理ぐらいしか取り柄がないトロイ奴…??

ーーー毎回…代わり映えしないベントウ……。

キョーコの瞳からポトリと涙が一粒落ちた。

目の前が真っ暗になり、キョーコはフラフラとその場を離れる。
その後、どういう道を歩いて来たのか覚えていない。

気が付いたらキョーコは学校の屋上に来ていた。

ただ某然として、屋上にペタリと座り込み、空を眺める。
ポロポロと溢れる涙が止まらない。
存在そのものを否定された様で、今の今まで心の支えだった松太郎からの心ない言葉に、キョーコは心臓をえぐられたようだった。


ーーー料理しか取り柄のない…家政婦。

松太郎にとって自分とはその程度の人間だったのだ。

ーーー私の存在って何なんだろう??

松太郎が心支えだった。一緒にいるのが当たり前で、一番側にいて誰よりも大切で特別で、理解できる相手。

それは言葉には出さなくても松太郎も同じだと思っていた。

憎らしい程の青空を眺めて、キョーコは静かに涙を流す。


「最上…さん?」

ひっそりと1人で誰にも気付かれないと思って泣いていた所に、第三者の声がかかりキョーコの肩が跳ね上がった。

ビクリと固まり、慌てて涙を引っ込める。
ゴシゴシと涙をぬぐって、キョーコは立ち上がって何食わぬ顔を蓮に向けた。

「あれ?敦賀君??ごめんなさい。…すぐ、消えますから。」

震える拳を握り締めて震えそうになる声を明るく保ち耐えるが、涙がまた溢れ出すまで10秒とかからないだろう。
早くここから抜け出さなければ…!

そう思ったキョーコは蓮の顔を見ようともせずに足早に通り抜けようとしたのだが、それは蓮に掴まれた腕によって阻止されてしまった。

「は、離して下さい!」

「嫌だ。離さない。」

「ど…して…ほっといて下さい。すぐに消えますから、今は放っておいて下さい。」

キョーコの言葉に、蓮はギリッと歯を噛みしめる。

「…俺は君をイジメに来たわけでも、馬鹿にしに来たわけでもない。」

蓮の静かな怒りの声に、キョーコの肩はフルリと震える。

「泣きたいなら、泣けばいいだろう?何でそんな無理に平気そうな笑顔を浮かべるんだ?」

「泣きたくなんて…なっ…い」

キョーコは最後までいう事が出来なかった。
気丈に振舞ってはいたが、涙が溢れて止まらなかったのだ。

「くっ…ふっ…」

必死に声を殺して涙を流すキョーコの姿に、蓮の胸がキリキリと痛む。
その場に泣き崩れたキョーコの頭からブレザーの上着をかぶせると、しゃがみこんで自分の胸にキョーコの顔を埋めさせた。

「こうすれば見えないから…。思いっきり泣いていいよ。」

蓮のキョーコを気遣う言葉に、キョーコの嗚咽は酷くなり、蓮の胸に縋り付くようにシャツを握り締め泣き出した。

蓮はただ黙ってキョーコの頭を強く抱きしめていた。


(続く)

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※Amebaで2012/01/17に投稿したものを加筆訂正したお話です。
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