恋の季節は…4《快晴》

2017年06月29日08:17  恋の季節は…/スキビ!

恋の季節は 4
《快晴》


「ごめんなさい。」

真っ赤になりながら、キョーコは蓮に深々と頭を下げた。
蓮のシャツはキョーコの涙と鼻水でグッショリと濡れていたのだ。

「何で謝るの?」

「だって、気持ち悪いよね。私なんかの涙で濡れて…。こんなのバレたら敦賀君もイジメにあっちゃう。そうならないようにちゃんと誰とも関わらないようにしてたのに…。」

キョーコは目と鼻を泣き腫らして真っ赤にしたまま、シュンと顔を曇らせた。

「別に。俺は平気だよ。」

蓮の優しい声に、キョーコはおずおずと顔を上げる。

「気持ち悪く…ない?」

「また泣きたくなったらいつでも言って?俺の胸で良かったらいつでも貸すから。」

蓮の柔らかい表情と優しい言葉に、キョーコは胸を詰まらせる。

「でも…」

ーーきゅるきゅるきゅるきゅるきゅるるるりるり~

「え?何だ?何かの楽器??」

突然キョーコの言葉を遮るように聞こえた大きな音に反応して、蓮は不思議そうに周りを見回す。
すると、すぐ近くから再び同じ音が響いた。

ーーきゅるきゅるきゅるきゅるぎゅるるるる~

「うっひゃぁぁぁぁーー!!!」

キョーコが真っ赤になって、お腹を抑える仕草を見て、蓮はワンテンポ遅れて、キョーコのお腹の音だったことに気付く。

「ぷっ。」

そんなキョーコの姿に思わず笑いがこみ上げ、蓮は体をフルフルと震わせながら耐えようとしたのだが、我慢出来ずに思いっきり吹き出した。

「あっはははは!最っ上…さんっ!!最高!!はっははははは!!」

「ちょ、ちょっと笑わないでよっ!!」

蓮を恥ずかしそうに真っ赤な顔で睨むキョーコに、蓮は必死で笑いを食い止める。

「ぷっ。ごめんごめん。そりゃあんだけ泣けば、お腹も空くよね。お昼は食べなかったの?」

「あ…そういえば…。」

「今持ってる?」

キョーコは蓮の質問に、コクンと頷いて答える。
蓮はそんなキョーコにふんわりと微笑んだ。

「じゃあ今食べたら良いよ。」

「でも、授業が…」

「平気平気。最上さん優秀だし、一時間くらい休んだって大丈夫だよ。」

「優秀?…私は馬鹿だよ。」

「?それ、誰からの評価?最上さんは優秀だよ。小テストだっていつも高得点じゃないか。」

キョーコはフルフルと首を振った。

「でも、満点はどんなに頑張っても取れないもの…。」

キョーコの表情と言葉の重みに、蓮は昔を思い出した。

100点取れない馬鹿な子だと母親にけなされていた少女。

蓮は、そんなキョーコにポツリと言った。

「別に、100点が全てじゃないと思うけど。そりゃ、点数は大事かもしれないけど、どれだけ知識として身に着いてるかが重要なんじゃないのかな?全教科100点取らなきゃいけないなんて思ってると変に力が入って、冷静になれば解ける問題も解けなくなるんじゃない?」

蓮の言葉に、キョーコの目から鱗がポロリと落ちる。

それを実際に見た蓮はギョッとした。

「そう…だよね?…そうだわ。敦賀君の言うとおりだわ。私、いつの間にか、100点しかとったらダメなんだって思い込んでた。」

キョーコの言葉に蓮が笑う。

「あまり煮詰めると後が大変だよ。たまには休息をとるというのも大事な勉強だ。」

「うん!敦賀君って凄いね。今初めて尊敬した!!同じ年とは思えない!!」

「初めて尊敬って…。君…何気に酷いね。まぁ別にいいけど。」

キョーコの天然発言に苦笑しながら、蓮はキョーコの隣に寝転がった。

「あれ?敦賀君も戻らないの?授業始まっちゃうよ?」

「んー。そんな気分じゃなくなったし。ここ気持ちいいから、ちょっと日向ぼっこでもして行きたいなって。」

「ふふ。そうだね。本当にやんなっちゃうくらい良い天気。」

キョーコは不思議な気持ちになりながら空を眺めた。蓮といると、先程までの悲しみが嘘のように穏やかな気持ちになれたからだ。
こんなに短時間で清々しい気持ちになれたのは久しぶりだった。

「敦賀君は…?お弁当食べたの?」

キョーコは自分のお弁当を広げながら、何気なく蓮に問いかけた。

「んー。まぁ、食べた…かな?」

「??何でそんなに曖昧なの?足りなかったとか?」

「まぁ、俺は基本的に食べないからね。朝しっかりカロリーインゼリーで栄養補給して来たし、大丈夫…」

「ええぇえぇ?!ゼリー?!ゼリーはご飯じゃないよ!!そんなの、何も食べてないに等しいじゃない!!」

「え?あ、いや…あんまりお腹空かなくて。何も食べないより良いかなって。…それにしてもそんなに驚くことかな?」

「驚くよ!良くそんなので育ち盛りのその大きな体が持つね。…あの、良かったら…ショーちゃんの為に作ったお弁当だけど、食べる?」

「え?いいの?」

「うん。残ってても捨てるだけだし…あの、敦賀君にはいっぱい迷惑掛けちゃったし、こんなの御礼にも何にもなんないかもしれないけど…。」

「とんでもない。じゃあお言葉に甘えて頂くよ。」

蓮が起き上がり、ふんわりと笑いながら言うので、キョーコの胸がトクンと高鳴った。

ーーーわっ!神々スマイルだ!!

キョーコも蓮に釣られるように、自然と笑顔になりながら、テキパキとお弁当を並べて行った。



「ウマッ!!」

「え?!」

「あ、ごめん!思わず…。凄く美味しいよ!!感動した!!初めてこんなに美味しいご飯食べたよ!!」

弁当を食べながら、蓮が感動を露わに口に運ぶのを見て、キョーコは真ん丸に目を見開き戸惑いがちに問いかける。

「え?あの…褒めてくれてるの?」

「褒めるも何も、凄いよ!!本当の事言っただけだし。最上さん料理上手なんだね!」

蓮の口から返って来たのは称賛だった。

キョーコは生まれて初めて自分が手を掛けた物が褒められて、嬉しさと恥ずかしさが一気に込み上げて、ほにゃんとはにかんだ。

蓮はそんなキョーコの表情を見て無表情で固まる。

ーーー俺、何考えてんだ?!思わず抱きしめたいなんて…。

蓮は、自分の中に生まれた初めての感情に戸惑った。

今まで付き合ってきた女の子とは、彼女達の雰囲気を察して、今抱きしめた方が良いのかな?とタイミングを読みながら抱きしめたことはあったのだが、自分から抱きしめたいなんて衝動的に思うのは、初めての感情だったのだ。

「あの、褒めてもらえるなんて思ってなかったから…嬉しいな。」

キョーコの幸せそうに頬を染めて言う言葉に思わず見惚れる蓮。

「…こんなに美味しいのに、誰も褒めてくれないの?」

蓮はそんな自分の気持ちをごまかす為に、思いついたことを口にした。
キョーコは淋しそうに微笑みながら、コクンと頷いた。

「勿体無いな。美味しいものを美味しいって言いながら食べないなんて。こんな弁当なら俺は毎日でも食べた…あ!いや…ごめん。何でもないよ。」

蓮は自分が思わず口に出しそうになった本音の言葉を慌てて引っ込めた。

毎日でも食べたいなんて言って、キョーコに無理させるわけにはいかない。しかも自分から進んで何かを食べたいなんて口にするのは初めてのことだったのだ。

キョーコは蓮が毎日でも食べたいと言ってくれたことに再びほにゃんと顔を緩める。

「ふふ。ありがとう。お世辞でも凄く嬉しいよ。」

キョーコの言葉に、蓮は驚き目を見張る。
キョーコは蓮の本音をお世辞だと思ってるのだ。

蓮はお世辞じゃないよ。と言いかけたが止めた。

期待をさせるような言葉をサラリと言うことをいつも社に注意をされていたのを思い出したからだ。

二人で他愛ない話をしながら、食事を終えると、キョーコはすっくと立ち上がり、空に向かって思いっきり伸びをした。

清々しい無邪気な笑顔を浮かべて、蓮に向き直る。

「敦賀君!今日はどうもありがとう!!また頑張れそうだわ!!」

キョーコの笑顔が蓮の心をくすぐる。

「うん。元気出たみたいで良かった。」

「ふふ。敦賀君って不思議ね。もしかして魔法使い?」

相変わらずメルヘン思考な彼女に笑みが零れる。

ーーーやっぱり彼女があの時のキョーコちゃんだ。

蓮の心の中でキョーコを守りたい。この笑顔をずっと守っていたい。という思いが広がる。

眩しそうに目を細めて、蓮はキョーコの顔を見上げた。

「さぁ、どうかな?」

「やっぱり!否定しないってことはそうなんだ!」

「…魔法使いが好きなの?」

「うん!だって魔法使いは、シンデレラに魔法を掛けて綺麗にしてあげるのよ。」

キョーコの満面の笑顔で言う言葉に、蓮はくすくすと笑う。

「じゃあ、最上さんを綺麗にするのは、俺の役目なのかな?」

「え?!綺麗にしてくれるの?」

「うん。いつでもどうぞ。シンデレラ。なんなりとお申し付け下さい。」

蓮が立ち上がって仰々しく頭を下げるのを見て、キョーコは目を見開き、クスクスと笑う。

「ふふ。敦賀君って見掛けによらず結構お茶目なのね。知らなかったわ。」

「そうかな?お茶目は初めて言われたよ。」

蓮も一緒になってクスクスと笑う。

「あ!チャイム!!」

5限目の終了を知らせるチャイムが聞こえて、キョーコは顔をあげる。

「本当だね。最上さん、先に教室戻りなよ。俺はもう少しここでゆっくりしてから戻るから。」

「うん!ありがとう。敦賀君、またね!!」

「うん。気をつけてね。」

蓮は、キョーコに手を振り、キョーコの姿が校舎に入るまで見送ると、柵に寄りかかり、空を見上げ、大きく息を吐き出した。

「魔法使い…か…。君の王子様はやっぱりまだ"ショーちゃん"なのかな?」

蓮はもう一度空に向かってため息をつくと、目を閉じて、風を感じた。
優しい風が蓮の頬を撫でる。

ーーーそれでも、彼女の笑顔を守れるのなら。俺は別に魔法使いでも…。

蓮はそう思う自分に苦笑しながら、自身も教室へと向かうのだった。


(続く)

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ようやく蓮様とキョーコちゃんの回です!
でもまだまだキョーコは松太郎と決別は出来ていないようですね。

ここから先はまだしばらく悶々タイムあるかもですが、一緒に悶々としながらお楽しみ頂けたらと思います!

※Amebaで2012/01/18に投稿した内容を加筆訂正したものです。
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