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月夜の契り*6*

久々の通常記事でのアップです!
限定読まなくても、何となく繋げて読めるように書いたつもりです。
説明文ばかり入れても回りくどいかな?と結構端折ったので、わかりにくかったらごめんなさい〜!


*****


月夜の契り*6*


「クーオーンー!!お前〜!!説明してくれるよなぁぁぁ?!」

ヤシロは、怒りと焦りが混ざったような形容しがたい形相でクオンの胸ぐらを掴んでグラグラと揺らしていた。

「いや…これは…その…とにかく落ち着こう。ヤシロ。」

キョーコが怖がらないように、しっかりと手を繋いで背中に庇ったまま、クオンはヤシロから目を逸らす。

キョーコはオロオロと、クオンとヤシロを不安そうに見比べていた。

「求婚もしてないのにキョーコちゃ…いや、最上さんに手を出した挙句、大事なことは話してない!?何してんだよ!!話が違うだろう〜?!?!」

「いや、本当、悪い。ついウッカリしてた…」

クオンが本気で申し訳なさそうな顔をするので、ヤシロはまだ怒りが収まらないながらも、クオンの胸ぐらから手を離した。

「ったく…お兄ちゃんはガッカリだよ。」

昨夜クオンは、ヤシロやカナエと話し合いをして、キョーコに恐怖を思い出す時間をなるべく与えないようにするため、キョーコがレイノからかけられた呪いについては伏せることで話は纏まった。
なのでヤシロにとってクオンがそれを話していないことは特に問題ではない。

ヤシロが確認したいのは、その後の話し合いで決まったことをどこまでクオンがキョーコに話をしたのかということだった。

先ほどキョーコは、何故ここに社先生が?と心底困惑しながら聞いてきたため、ヤシロは何も話してないのではとクオンを問い詰めているのだ。

話し合いでは、キョーコが目覚めたらまず、己の正体がヴァンパイアであることと、教師の敦賀蓮としてキョーコをずっと見守っていたことを素直に打ち明け、ヤシロたちのことも仲間だと話をした上で、悪い奴らからキョーコが狙われているので、キョーコを保護するため、ここに暫く住んでもらうことになることを説明。その上で、キョーコにはちゃんと求婚をしてヴァンパイアの契りを交わし、キョーコを恐怖の呪いから救うために愛の呪いをかけるという約束だった。

「それで?最上さんには、どこからどこまで説明したんだ?!」

「………えぇっと…」

クオンがさっと目を逸らしたので、ヤシロはしばらくジト目でクオンを睨みつけた後、追求の標的をキョーコに変えた。

「驚かせてごめんね〜!最上さん。ちょっと聞いておきたいんだけど、最上さんはこいつから何を説明されたのかな…?」

にこやかな微笑みを浮かべていつもの社先生を演じながら、生徒であるキョーコに問いかける。

「え…?えっと…。昔出逢ったコーンだってことと、時々夜に会いに来てくれてたことと、あとは…えっと…。あ、ワニのケチャップを飼ってることも…」

「…………」

ヤシロはにっこりと笑顔のまま次の言葉を待ったが、キョーコからはそれ以上ないようで困ったようにオロオロとしているだけだ。

「…それだけかな?この家のこととか、俺たちのこととかは…?」

「…えぇっと…あ!そういえば!ワニの他にも、蛇や虫がここに沢山住んでるってことも…聞き、ました…」

キョーコがなんとかクオンのために記憶を探って絞り出したが、出てきたのはそれだけだった。
キョーコの言葉を聞いて、ヤシロはよくわかったとばかりに、なるほどね。と頷くと、そのままの笑顔をクオンに向けたが背後にはどういうことかな?と問い詰めるような恐ろしいオーラを背負っている。

「クーオーンー!!」

「…い、いや、ちゃんと話すつもりだったんだけど、ちょっと、話すタイミングと時間が…」

笑顔のまま責められて、クオンはいつもと違う様子のヤシロにタジタジだった。

「タイミングも時間もいくらでもあっただろうが?!今何時だよ!!もう10時半だぞ!!カナエが起こしに行ったのが7時だ!!一体その間何してたんだ?!」

「…はい。すみません。」

クオンはヤシロの剣幕に負けて、思わず敬語になった。
たしかに、色々とテンパり過ぎた上に、キョーコに受け入れられたことで初めて触れるキョーコの肌の甘さに浮かれてしまい夢中になった挙句、脳内お花畑で色々と説明しなければいけなかったことを全部すっ飛ばしてここに至った自覚はある。

三人のやりとりをしっかり聞いていたカナエは、呆れながらも温め直した料理を食卓に並べていた。

「とりあえず、さっさと食べて下さい。話は後からです。」

カナエから冷たい視線を投げかけられて、クオンは肩身が狭そうにキョーコを席に誘導した。

「ゴメンね。後からちゃんと説明するから。とりあえずご飯にしよう。」

キョーコは少し不安そうにクオンを見上げた。

「…あの。」

「うん?」

「名前、コーンじゃ…。」

一緒にいるのはコーンだと思っていたが、ヤシロはクオンと呼んでいるので、別人だったと言うことだろうか?とキョーコは不安になってしまったようだ。
クオンはキョーコに微笑みかけ、安心させるように頭をポンポンと撫でながら言った。

「あぁ。うん。俺の名前、本当はクオンなんだ。初めてキョーコに会って自己紹介した時、キョーコはまだ小さかったから、クオンって発音できなくて、ずっと俺のことをコーンって呼んでたんだよ。」

「ええぇ?!そ、そうだったの?!ごめんなさいっ!!」

「気にしないで。キョーコにコーンって呼ばれるのは嬉しかったから。」

そう言って、甘く顔を崩したクオンは、キョーコの椅子を引いて座らせると、自分もそこから少しだけ離れた自分の席に収まった。

そしてクオンが離れて1分も経たないうちに、再びキョーコの背中にゾクリと悪寒が走った。
先ほどクオンから離れた時も同じことが起こったのだが、じわじわと湧き上がってくる得体の知れない恐怖の気配に息を飲む。

心臓が凍り付きそうな感覚に、キョーコの手がカタカタと不自然に震え始め、顔色もどんどん真っ青になっていく。
その顔を見て、ヤシロとカナエはすぐにレイノにかけられた恐怖の呪いの力だとわかりクオンに目配せをしたが、クオンはそれよりもいち早く気付いていたようで、サッと素早い動きでキョーコの元へ行くと、キョーコの手を取った。

「あ…こ、コーン…何だか…わた、わたし…。」

キョーコは急に襲ってきた恐怖にガクガクと体を揺らしている。
これで三度目だ。恐らく偶然ではない。
クオンと触れ合っていないと途端に恐ろしい恐怖が何故か湧き上がってきて、身体がすくみあがってしまうのだ。

「キョーコ。やっぱり俺は君から片時も離れたくないみたいだ。一緒に食べてくれる?」

クオンはキョーコが気を遣ったりしないように、自分のわがままとしてキョーコの震える手を握りこんで呼びかけたが、まだキョーコの身体の震えは治らない。
それどころか酷くなっていた。

キョーコの目には最早、クオンの姿などまるで見えていないように辺りをキョロキョロと怯えながら見渡している。

「いや…いやぁ…!」

そして、キョーコは突然取り乱し、クオンの手を振り払った。
キョーコの頭の中には、あのレイノと呼ばれていた男の笑みが浮かんで迫ってくる。

「あぁぁぁ!!いや、いやぁ…!!来ないで!!来ないでぇぇぇぇ!!!!」

キョーコが椅子から転げ落ち、自分の身体を抱きしめて怯え始めたのを見て、クオンは一瞬、過去のトラウマが蘇り、自分がまた拒絶されたのかと思ったが、先程お風呂の中でキョーコからずっと好きだった。会いにきてくれる日をいつも待っていたと告白され、心が通じ合ったことを思い出した。

今のキョーコの状態は呪いによるものだ。
クオンは恐怖の呪いに苦しんでいるキョーコを救うため、キョーコを丸ごと包み込むようにして後ろから力一杯抱きしめた。

「キョーコ…キョーコ!大丈夫だ。大丈夫だよ。俺がついてる。」

「ッ…!!」

最初は抱きしめられても驚いて暴れていたキョーコだが、クオンの体温と優しい声を聞いて段々と落ち着きを取り戻し始めた。
キョーコの荒い息使いが、その恐怖の凄まじさを物語っていた。

「キョーコ、大丈夫。大丈夫だよ。」

小さな身体はまだガタガタと震えているが、その目は漸く光を取り戻し始めていた。

「……コ、コー、ン…?」

「そうだよ。君には俺がついてる。だから大丈夫。大丈夫だ。」

「あ、あ…たし、わたし…」

まだ恐怖が完全に収まっていないのかガタガタと震え続けているキョーコが痛々しくて、クオンも胸が苦しくなった。
カナエとヤシロも禁じられた闇の呪いの力を目の当たりにして、呆然と立ち尽くしている。

「キョーコ…俺を見て。」

クオンはキョーコに己に注意を向けさせると、キョーコは恐る恐るクオンを見上げた。キョーコの頭の中から恐怖を追い出すため、クオンはキョーコの唇に想いを全て注ぎ込むかのように熱い口付けをした。

「ん…ッ。」

対するキョーコもクオンに助けを求めるように縋り付いて必死でキスに応じる。
想いをぶつけ合い求め合うような激しい口付けを交わし合って、熱い吐息と共に唇を解放した時には、キョーコの身体の震えも殆ど収まっていた。
キョーコの身体をクオンの手が優しく抱きしめる。

「キョーコ、もう離れないからね。一緒に食べよう。」

「ん…コーン。」

キョーコもクオンの首にしっかりと抱きついた。
そしてクオンはキョーコを抱え、先程までキョーコが座っていた席に腰を下ろすと、キョーコを横抱きにして膝の上に座らせた。

ヤシロとカナエは、燃えるような2人の口付けを目にして、真っ赤な顔で固まっていたが、2人が一緒に席に着いたのを見届けると、ハッと我を取り戻し、慌てて料理の皿を2人の前に並べ直した。

キョーコへの配慮だろう、皆の前に並べられた料理は普通の人間が口にするようなものばかりだった。
カナエは元人間でヤシロに見初められパートナーになるためヴァンパイアとなったため、人間の食べ物がよくわかっているのだ。



「キョーコ、今度はこれね。はい、アーン。」

キョーコはクオンから口元に運ばれたものを恥ずかしそうに頬を染めながらも、素直に口に入れていた。

「…美味しい?」

咀嚼している顔を近くから覗き込もうとするクオンを避けて、首に抱き付いて赤くなった顔を必死で隠すキョーコが可愛くて、クオンの顔がこれ以上ないほど甘く崩れる。

「ん…。もう、続きは自分で食べるからっ!」

キョーコはしっかりと口の中の物を飲み込んでから、抗議の声をあげるのだがクオンは全く聞き入れてくれない。

「ダーメ。俺がしたいの。俺にさせて?ほら、次はこれ、さぁキョーコ、アーン。」

「あぐ。」

またもや口に入れられて、キョーコは再びクオンの首にしがみ付いて顔を隠す。
そんなキョーコにクオンはもうメロメロだった。

「ちょっと、陛下ッ!!」

とっくにカナエとヤシロは食べ終わっていると言うのに、まだ半分も食べ終わっていない2人を見て、我慢できなくなったカナエは、真っ赤な顔で注意をした。

「もーーーー!遊んでないで、さっさと食べちゃってください!!」

ヤシロは目のやり場に困って、真っ赤な顔のまま必要もないのに、何度もメガネの位置を整えていた。

「片付かないでしょ!!もーーーー!!」

「失礼な。遊んだりしてないだろう。」

クオンは心底心外だと言う顔をするので、カナエはキッとキョーコを睨みつけた。

「もーーーーー!!貴女もっ!!陛下をあまり喜ばせないでください!!!!」

「ふぇえ?!ご、ごめんなさい!!モー子さん!!」

「ッ?!ちょっとぉ!!変なあだ名をつけないでちょうだい!!もーーーー!!」

「ブハッ!」

「キョーコ、も、モー子さんって…クッククハハハハッ…」

キョーコのモー子さん呼びが、ツボに入ったらしいヤシロと、クオンは腹を抱えて暫く笑っていたのだった。

そうして甘くも楽しい食事タイムを終えた頃には11時近くなっていて、これでは朝食か昼食かわからないほどだった。


食事の時のクオンとキョーコのやり取りを見ていて、絶対に2人きりにしたら話が進まないであろうということをはっきり理解したヤシロは、クオンとキョーコと共にリビングのソファへ移動していた。

キョーコはやはりクオンに抱えられての移動だったのだが、リビングも他の部屋同様真っ暗で何も見えない。
ぼんやりと灯る蝋燭の明かりだけが頼りのはずなのに、クオンもヤシロもまるで見えているかのようにスイスイと進むのでキョーコは不思議でならなかった。

相変わらず、キョーコの指定席はクオンの膝の上のようだ。

ヤシロはチラリと正面に座るクオンとキョーコを見た。
クオンをキョーコから引き離してはキョーコがまた恐怖に支配される可能性もあるため、クオンと呪いについての話をするときはキョーコが寝てからと言うことになるだろう。

「さてと。クオン、まず何から話す?」

「そうだな…。」

そうして、少し思案した後、クオンはチラリとキョーコを伺った。

「キョーコはまず何から聞きたい?」

クオンに聞かれて、キョーコは少し考えて、テーブルに置かれた蝋燭で辛うじて姿が見えるヤシロとクオンを見比べ口を開いた。

「じゃあ、あの、伺っても宜しければ、先生とコーンの関係を…」

「あぁ、そうだね。うん。それにはまず、俺の秘密も話さなくちゃならないね。」

キョーコはクオンを見上げた。
どんな秘密なんだろうと密かにドキドキしてしまう。
クオンはくすりと笑いながら、キョーコの目を間近で覗き込んだ。

「多分、びっくりさせてしまうと思うけど、俺もヤシロと同じく、キョーコの通う高校で教師をしてるんだ。」

「…え?ええええ?!ええええええええ?!」

キョーコはあまりの出来事に仰天してしまった。
金髪碧目の先生なんていただろうかと頭をフル回転させるが記憶にない。
そして近くにあった蝋燭を借りて顔の高さに掲げると、クオンの顔を改めてマジマジと覗き込んだ。

ぼんやりと照らされた灯りの中で、漸くクオンの顔をちゃんと見ることが出来た。
その顔の造形の美しさにキョーコは一瞬見惚れてしまう。
しかし、慌てて我を取り戻すと、目や口などの一つ一つのパーツを確かめた。
目の色や髪の色は記憶しているものと違うが、そのパーツパーツには確かに見覚えがある。
パズルのピースが埋まるように一致するその教師の姿を頭の中で思い描いて、キョーコは目を見開いた。

「う…え…ぁ…え?!ええええええ?!ももももももしかして、え?!えぇ?!つ、つつつつる、つるっ敦賀先生ぇぇぇえ?!?!」

あまりにビックリしすぎて、クオンの足からずり落ちそうになってしまったキョーコをクオンは慌てて支えた。

「おっと。うん。正解。」

ついでに危ないので蝋燭もキョーコの手から取り上げて、テーブルに戻した。

「じゃ、じゃじゃじゃじゃあ、まさか!!わた、わた、わたし!え?!うそ!!まさか、そんな!!先生と?!?!あ、あんなことや…こ、こんなことをッ!!!?」

キョーコは先程までベッドで素肌を合わせて絡み合っていたことや、一緒にお風呂にまで浸かったことを思い出して、真っ青になったかと思うと、ボボボボボッと真っ赤になった。

「…うん。まぁ、そう…なるね?」

クオンの照れたような声を聞きながら、キョーコの気が遠くなる。

敦賀蓮と言えば、高校三年間キョーコのクラスの担当教師で、確か年齢は27才。

「あーーー…年齢については、仕事をするためにサバ読んでるかな。本当は22だよ。」

学校のみならず市内…いや、もしかしたらもっと広範囲かもしれないが、知らぬ者はいないと言うくらいの有名人だ。
教師をさせているのが国家の損失ではないかと囁かれる程の最強のルックスのイケメン美男子。

「…なんだか照れるな。」

長身のその身体を支える筋肉も骨格も完璧なバランスで、その顔は神の寵児と言っても過言ではないほどの造形、腰から砕ける低音ボイスに、甘い微笑み。

「骨格?神の寵児って…」

罪なマスクで虜にした女性は数知れず、常に女性に優しく、大人でスマート、校内にはファンクラブまで存在しているきっと影の遊び人プレイボーイな化学教師だ。

最後の方はキョーコの偏見が大いにプラスされていたが、キョーコにとっての蓮のイメージはそれだった。

「む。影の遊び人プレイボーイは聞き捨てならないな。」

ーーーな、なんで敦賀先生みたいな完璧な人が、私に?!からかわれて…いいえ。違うわ、敦賀先生じゃなくてコーンなのよ!え?でも、コーンが敦賀先生で…?えええ?!な、なんで?!どういうこと?!コーンが敦賀先生だったの?!え?!でも、そう言えば、昨日…先生に指導室でキスされて!?

「キョーコ、とりあえず順番に説明を…」

ーーーちょっと待って!!夜な夜な会いに来てたのは先生ってこと?!じゃあ、私がお嫁さんになりたかったのって、先生?!違っ!!そ、そそそそそんな大それたこと考えたつもりは…!!

「ーー…えっと、キョーコ?聞いてる?」

ーーーえ?!でも待って、私さっき、もっと破廉恥なことを…あの先生と?!うそ…やだ!!コーンだと思ってたのに、先生だったなんて!!ど、どどどどうしよう!!どうしたら?!た、退学?!逮捕?!もしかして、取材が来るんじゃ…ファンクラブの人たちに襲われて…

「ーーーちょ、ヤシロ!そんな目で見るな!」

キョーコの頭の中ではグルグルと色々な情報が混ざりに混ざってめちゃくちゃだ。

とにかく教師と生徒なんて完全にタブーな組み合わせだと、真面目なキョーコは動揺してしまっていた。

「キョーコ、とにかく落ち着こう。全部説明するからね。」

自分の頭の中で処理が追いつかず、目を回し、アップアップしながら自分の世界で完全に迷子になっているキョーコの意識を戻すため、クオンはキョーコを抱きしめた。

しかし、それは逆効果になった。いまだ混乱中のキョーコは慌てて“先生”から離れようと暴れ始めた。

「ひゃぁぁぁ!!いやぁ、待って!!ダメダメダメ、ダメです!先生!!それだけは、ダメェェェ!!破廉恥です!!!!」

「キョ、キョーコっ!」

「キョーコちゃん!落ち着ついて!」

ヤシロも慌てて宥めようと呼びかけるが、キョーコの混乱は収まらなかった。

「いやぁぁ!!は、離してくださいっ!!」

「ちょ、キョーコ!!うわっ!」

混乱して暴れて足から落ちそうになったキョーコを支えようとしてクオンはバランスを崩した。

キョーコを抱えたまま辛うじてソファに押し倒す形で倒れこむと、キョーコが真っ赤な顔のまま固まった。

クオンの顔が、キョーコの胸に埋まったのだ。
キョーコの心臓の音がうるさいくらいに早くなる。

「ちょ、あの…」

その瞬間、クオンの理性がプッツンと切れた。

教師と知った途端、離れようとしたキョーコ。もう絶対に手離すことなんて出来ないのに、ここで逃してなるものか…!

ーーー絶対ニ…逃ガサナイ…。

キョーコの動きを封じ込むため、キョーコの首の後ろに回した手でガッチリと、逃げないように首を掴む。
のそりと妖しい動きで身体を起こしたクオンは、夜の帝王のような顔でキョーコを覗き込むと、ワンピースのスカートから覗くキョーコの足をもう片方の手でいやらしい手つきで撫でた。
そしてそのまま、じわじわとキョーコを追い詰めるように身体を近付ける。

クオンの色気に当てられて、真っ赤な顔で身動きが取れないキョーコの顔を覗き込み、唇を避けるようにして顔中にキスを落とすと、ゆっくりとその首に口付けて、舌を這わせた。

「あ…ゃ…」

濃厚な夜の空気にキョーコが蜘蛛の糸に絡められた蝶のように戦慄き、吐息が溢れる。

そしてクオンは、キョーコの服が邪魔になったのか、歯でワンピースのボタンを一つ、二つと嚙みちぎり始めた。

ーーーガジッ、プツッ…プッ、カン。ガジップツッ…プッ、カララン。

服の間に鼻の頭を擦り込んで襟元を寛げる。
そのキョーコの柔らかな肌の匂いに酔ったまま、三つ目のボタンに歯を立てたその時、その壮絶なまでのクオンの色気に当てられていた男の横で、大袈裟な咳払いが一つ聞こえた。

その咳払いでハッとして、我を取り戻したクオンは、目の前のキョーコの姿を見て唖然とした。
引き千切られたボタン、肌蹴けられた襟元、ギリギリまでめくり上がったスカート、頰を赤く染め喘ぐ姿。

「何をしているかと思えば、お戯れですか?陛下。そういう過激な行いは部外者のいない部屋で2人きりの時だけにして下さい!」

冷たいカナエの声がクオンに注意を促し、カナエの足は、ヤシロの足の甲を思い切り踏んづけていたため、ヤシロは声にならない声を上げて悶絶していた。

クオンは慌ててキョーコの衣服を整えると、キョーコをソファに押し倒したまま抱き込んだ。
そしてそのままジロリと険しい顔でヤシロを睨む。

とばっちりを受けたヤシロは、お前が話の途中で突然理性を飛ばしたからだろー!!と叫びたかったが、言葉にできなかった。
ヤシロの横には怒りのオーラを纏ったカナエがお茶を用意して立っているのだ。
下手なことを言うと薮蛇だろう。

「カ、カナエ!お茶の用意をありがとう。クオン、お茶でも飲んで落ち着こう。まだ話は終わってないぞ。いちゃつくのはカナエのいうとおり後にしてくれ。」

そう言われて、クオンは漸く話の途中だったことを思い出した。

「あぁ、そうだったな…。」

そしてバツが悪そうに、キョーコを抱きしめたまま、身を起こすと座り直した。

キョーコはクオンの色気に未だに当てられたままで心臓のバクバクが収まらず、思考の小部屋からも締め出されたので、真っ赤な顔で固まっていた。

そんなキョーコを逃がさないとばかりに抱きしめたままクオンは、なんの話の途中だったかと思案し始めた。

「俺が敦賀蓮だってことまでは話したんだったな。」

「あぁ。まだそれだけだ。」

「キョーコ。」

「ひぁい?!」

抱きしめたまま、耳元に囁けば、面白いほど身体が大きく跳ねた。

「逃げないで聞いてくれ。もう後には引けないんだ。君が逃げたら、俺は…」

クオンはそこで一度言葉を飲み込んだ。
キョーコを抱きしめる腕に力を込める。
言葉にすることを躊躇しながらも、クオンは意を決して口を開いた。

「もし君が逃げ出したら俺は、君の命を奪わなければいけなくなる。」

「……え?」

キョーコは言われた言葉に驚いて、目を見開いた。
クオンの声は真剣だった。

「でも俺はそんなことしたくない。君を傷付けるなんて…ましてや命を奪うなんて…!だからお願いだ。逃げないで聞いてくれ。」

「こ、コーン?」

キョーコはクオンの身体が僅かに震えていることに気付いた。
キョーコは戸惑いながらも、そっとクオンの背中に手を伸ばした。

「キョーコ。俺は君に初めて出会った頃からずっと君が好きだ。君の笑顔も、コロコロと変わる顔も、思ってることが全て顔に出たり、口から出たりするところも、君の寝顔も。君の声も、優しさも、何もかも好きだ。」

キョーコはクオンから自分のことを言われてると思うととてもむず痒い気持ちになった。

「だけど俺は、君に正体を知られて怯えられるのが怖かった。だからずっと君の目を避けて、君が寝静まってからこっそり会いに行ってた。でもそれだけでは足りなくなって、俺は敦賀蓮として君が入学する高校に教師として入ったんだ。」

キョーコは今度はおとなしく耳を傾けることにした。
懺悔するように絞り出されるクオンの言葉を聞きながら、怯えている子犬を宥めるように背中を撫でる。

「それだけで満足だった。君のそばにいて、君の笑顔が見れて、君と言葉を交わせる時間が俺に取っては宝物だった。それ以上を望むつもりはなかった。君のその笑顔を守るために志望の大学があるのなら、俺はまた名前を変えてその大学にも行くつもりだった。」

「へ?!だ、大学にも?!」

「うん。…だけど君の進路希望はお嫁さんだった。」

「あ…」

キョーコはドキッとした。そのお嫁さんは夜中にいつも会いにきてくれる人、つまりコーンへの想いから書いたものだ。

「…現実を突きつけられたよ。このままだと君は誰かわからない男の物になってしまうんだって。だからあの時焦ってしまって、自分の気持ちが抑えられなくて進路指導室で思わずキスをしてしまったんだ。本当にごめん。」

「先生…。あの、私もあのときは本当にびっくりして…。逃げたりしてごめんなさい。」

「いや、だから君は悪くない。悪いのは全部俺。自分の正体を明かす勇気もないくせに、君への想いだけが育ち過ぎた。自分でも気付かない内に君に俺の印を刻んでしまうほどに。」

クオンは無意識につけてしまっていたマーキングのことを言っていた。それが原因で、キョーコはレイノに目をつけられてしまったのだ。
クオンの想いが滲み出ているのか身体がとても熱くて、キョーコは恥ずかしくなって身をよじろうとするがビクともしない。
さらに強く抱きしめられ、キョーコの心臓はドコドコと益々速くなる。

「俺は…俺は、普通の人間じゃない。俺はーーー…」

クオンは言葉に詰まった。
言葉にしたらたら嫌われるのではないか、拒絶されるのではないかという気持ちがその先の言葉を奪う。

キョーコはギュッとクオンの背中を握りしめた。クオンが無理して伝えようとしている言葉を聞きたいような、聞きたくないような複雑な気持ちだ。

「コーン…。無理しないで…。」

僅かに震える体を気遣い優しい言葉をかけてくれるキョーコへの愛しさが募る。
今言わなければ、また言えなくなるかもしれない。
そう考えたクオンはなんとか勇気を振り絞った。

「俺は…俺たちは、ヴァンパイアなんだ。」

クオンの言葉にキョーコは目を見開いた。


(続く)

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いつも読みに来てくださる皆様ありがとうございます!
楽しんで頂ける方が1人でもいたら嬉しいです( *´艸`)
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非公開コメント

動揺しまくりなキョコさん

ちゃんと話が聞けるようになってよかったです。

そして、モー子さんの愛称も決まってよかった、よかった。(笑)

謎だらけの館とそこのいる人々の謎。

当初の予定通りにはスムーズに話せませんでしたが、まずは教師だったわけは理解してもらえてよかったですね〜。

お次はヴァンパイアですけれど。

キョコさんは幼いころから「化け物に見えたコーン」をどんな風に理解してたんでしょうね。

続きも楽しみにしてます!!( ̄▽+ ̄*)

Re: 動揺しまくりなキョコさん

まじーん様

コメントありがとうございます♪
モー子さんの愛称は早めに決めてあげないとですよね!笑

こんな屋敷に連れさられ、そして俺たちはヴァンパイアだなんて取り囲まれて言われてた日には、にぎゃーーー!って気分です。笑

ほんと、キョーコちゃんにはどう見えてるんでしょうね( *´艸`)
続きも楽しんで頂けたら嬉しいです☆
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