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なくした記憶 1

初の長編チャレンジ作です。
ちゃんと最後まで続けられるか暖かく見守ってて下さい。


*****

なくした記憶 1


「好きな人が、出来たんです…」

そう呟いた私の顔はどんな顔をしていただろうか…。

ずっとずっと封印しようとした想い。気付いた時にはどうしようもなく膨らんで、私の胸を締め付けた。
会えると凄く嬉しくて、声を聞くと切なくて、一緒にいると何故だか苦しくなる。

知ってるから…貴方には好きな人がいるってことを。貴方にいつまでも想い焦がれても叶わないって事を。

だから、私は進む事にしたの。
貴方を忘れる為に、新しい恋をしようと決めた。
そんな時にタイミングよく告白された。ずっとお世話になってるタレントグループ、ブリッジロックの光さんから…。

彼なら好きになれるんじゃないかと思った。
貴方への想いには負けるかもしれないけど、光さんの真っ直ぐな想いを知ったから、光さんとなら傷付く事はないって思った。

だから告げたの。貴方に。

必要ないってわかってはいるけど、貴方に伝えたところで貴方には何の意味もないだろうけど、私の中での勝手なけじめ。

これ以上貴方への気持ちを膨らませるわけにはいかないの。だから私はもう食事を作りに行く事も出来ません。
そんな想いをこめて、私は言葉を口にした。

「…そう。」

返ってきたのは、あっさりした返事。
でも、何も感情が乗ってないような不思議な声。
自分とは関係ない話を持ちかけられて返事に詰まったのかもしれない。

顔は見れない。見たらきっと私は駄目になっちゃうから。だから、貴方は好きな人と、どうか幸せに。

私は貴方の側にはいれないの。
私が側にいるうちはきっと貴方は好きな人にアプローチ出来ないから。

たまに見せる無表情だとか、静かな怒りだとか、毒を含んだ似非紳士な笑顔が、私を遠ざけようとしていると感じる。それでも優しい貴方は、無意識に神々しいまでの笑顔を、こんな私にさえも向けてくれる。それは駄目なの。
そんな顔は好きな人にだけ見せてあげて。
そしてどうか、どうか幸せに。

「…相手は、、、誰なの?」

「あ…敦賀さんはご存知ないと思います。同じ事務所の先輩なのですが、デビューする前からお世話になってる方で…。」

一瞬空気がピリッとした気がした。
こんな関係ない話、聞きたくもないよね。

「…俺もしらない…事務所の先輩…?」

ずんっと空気が何故だか一気に重くなる。

「あ、えっと…この間、ずっと好きだったって告白されまして…」

「…告白されたから好きになったの?」

地を這うような低い声…。

キョーコが恐る恐る顔をあげても、その視線が重なることは無かった。蓮はそっぽをむいたまま、俯いてる。

「…そう。ですね。」

ーーーどうして貴方がそんな辛そうな顔をしてるんですか?

私も堪らず顔を俯せる。

カタン。と椅子を立ち上がり、こちらに近付く気配に気付いた。
強引にグイッと腕を引かれ、強制的に立たされると、そのまま乱暴に顎を上向けられ、唇に唇を押し付けられた。

ーーーっ?!!!

驚いて目を見開いた。
背中はしっかりとホールドされて、逃れることが出来ない。
強引に押し付けられた唇から逃してくれず、舌が入り込んで来る。

ーーー酷い!酷いっ!人の気も知らないで!!

私は涙をいっぱいに目に溜めて、必死に体を押し返す。

「んっ!!…や!!」

苦しい…。息ではなく胸が!張り裂けそうなほど苦しい!
嫌だ!こんなことする人じゃないのに!

やっと唇が離れた時、強引に押し返して腕から逃れると、私は涙をポロポロと流して彼を見つめた。

「…ど…して…?」

彼は相変わらずこっちを見ない。

「…付き合うの?」

「な…に、言って…」

「俺じゃ…駄目なのか?」

どくん。と、心臓が大きく跳ねた。

ーーー酷い…酷い!そんな冗談を言うなんて…!!

「な…んで、き、キスなんて…」

「君にとって、俺だってデビュー前から知ってる先輩のはずだけど…?」

じりじりとまた蓮が近づいてくる。

「何で、俺じゃないの?」

ぐいっと、乱暴に腕を取られる。

「いたっ!」

ーーーやだ!怖い!!どうしちゃったの?!敦賀さん!

「は、離してください…離して下さい!!!!やめて下さい!敦賀さん!!」

腕を掴んでいる反対の手が、服の中に侵入して背中を撫でられる。

そして、プチんとブラが外された感じがして、一気に血の気が引いて行く。

「や、やだ!!止めて下さい!
敦賀さん!!」

「…俺じゃなくて、他のやつに触られたいってこと?でも、やめてあげない。俺は…」

「あ、やめ…いや、いやーーー!!」

敦賀さんの手が私の背中から胸に届く直前、思わず叫んでしまった私の耳に、勢いよく扉が開く音が響いた。

「キョーコ!!」

「も、モー子さん!!」

親友の奏江が現れたことで、蓮の動きもキョーコの動きも思考もピタリと固まった。

「え?…敦賀、さん?」

奏江もそんな二人の姿に、目を張ったがそれはほんの一瞬だった。

ツカツカと二人に歩み寄ると、キョーコを引き寄せ、抱きしめると、蓮を睨み付けて、吐き捨てるように「最っっ低っ!!」と言葉を叩きつけた。

蓮は顔面蒼白で、キョーコを見つめていたが、言葉が出てこないようだった。

「そんなとこに突っ立ってないで、とっとと出てって下さい!早く!!二度とキョーコに近付かないで!!」


蓮は何か言いた気に苦しい表情を見せたが、ふらふらと後ずさり、グッと唇を噛み締めると、小さな声で呟いた。

「…ごめん。最上さん…。もう、二度と俺は君の前に現れない…。」

蓮はフラフラと出口に近付くと、扉を出る直前に、背を向けたまま、もう一度、ごめん。と呟いて扉を後にした。



奏江は、蓮が扉を出て行くのを睨みつけたまま見送ると、親友のキョーコに目を向けた。

キョーコもまた顔面蒼白になっていた。

カタカタと僅かに肩を震わせている。

「大丈夫??安心しなさい。もう二度とあんな男、あんたには近付けないから。」

キョーコを気遣って声を掛けたのだが、キョーコの思いは奏江の考えとは違っていたようだ。

「…ど、しよ…。敦賀さん物凄く傷ついた顔してた…。どうしよう!本当に嫌われたかも!!二度と現れないって…そんなの嫌!後輩としてならずっと側にいられると思ってたのに!!どうして…」

キョーコはハラハラと泣き出した。
それに慌てたのは奏江だ。

「ちょ、ちょっと!!あんた、あんなこと無理矢理されそうになってなに言ってるのよ!」

突然泣き出したキョーコを前にして、奏江は困惑してしまうのだった。



世界から色がなくなったような、そんな気がした。

周りから何度か声をかけられた気がしたが、何も答えられず、ただひたすらにフラフラと進んでいた蓮。

頭の中ではさっき起こしてしまった自分の失態が渦巻いていた。

『最っっ低っ!!』

奏江に言われた一言が胸に突き刺さる。

ーーー本当二最低ダ。


ーーー俺ナンテ消エテシマエバイイ。


ーーーコンナ気持チニナルクライナラ、イッソ出会ワナケレバ良カッタノニ…。


遠くから誰かが俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。
顔を上げると横から大きな光が全身を包んだ。


ーーーあぁ、コレで、忘レテシマエル。


ーーーモシ、生マレ変ワルコトガ出来タナラ、今度コソ…。


蓮は自嘲気味に薄っすらと笑みを浮かべていた。


「れーーーん!!!!」

社が叫ぶのとほぼ同時に、駐車場内に急ブレーキの音とドンと言う鈍い衝突音が木霊した。


(続く)

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*****

Amebaで2011/11/07日にアップしたお話。
若干訂正しました。

4年前かぁぁ〜!!本当放置しててすみません。
今思えば、これは1話というよりプロローグだった気がします(笑)
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