なくした記憶 2

2015年11月23日12:28  なくした記憶/スキビ!《完結》

なくした記憶 2


「あ!京子ちゃん!!」

「ひ、光さん!おはようございます。珍しいですね?事務所でお会いするなんて…」

様子の変わった敦賀さんから迫られて約二時間後、ようやく落ち着いたキョーコは、タレント部に向かうためラブミー部を後に歩き出していた。

「良かった。大丈夫みたいだね。」

ーーーギク!!

光が知るわけないのに、つい警戒して緊張した。

「え?何が…ですか?」

「いや…ほら、敦賀さんの噂を聞いてね…。京子ちゃんショック受けてるんじゃないかと思って…」

「え…?!」

キョーコは内心物凄く狼狽えた。

ーー噂って…もしかして誰かに見られてたとか?!どうしよう!!敦賀さんのイメージダウンに繋がっちゃう!!

「まぁ、京子ちゃんがいつも通りだから、ただの噂かな?仲がいいって聞いてたから、ちょっと心配しちゃったよ。」

「はい!!ただの噂です!!敦賀さんは大丈夫です!!何でもありません!!」

キョーコはこの時は、その噂と言うのが、先程の蓮の意味不明な行動だと思っていた。

「うん。良かったよ。なんて言ったって敦賀さんはうちの看板俳優だもんね!」

ーーそうよ。敦賀さんは看板俳優。あんな風に私みたいなペーペー新人タレントになんて本気で迫ってくるはずなんてない。

きっといつものただの教育指導だったんだ。
でもあの時の敦賀さんの目が本気で怖かった…。

「そうですよ!敦賀さんに限って心配いりません。」

敦賀さんの汚名を返上する為に、私は精一杯自信満々と言う風に言い切った。

「はは、京子ちゃんは本当に敦賀さんを信頼してるんだね。」

「勿論です!!」

私が言い切ると光さんは苦笑しながら言った。

「…ちょっと妬けちゃうな。」

「は?」

「こないだの告白の返事、考えてくれた?」

光さんは立ち止まって、真剣な目をしていきなり問いかけてきた。

「…あ。…あ、の…。」

正直、怖かった。

敦賀さんに話をする前は受けるつもりでいた。
光さんと付き合えば、敦賀さんへの想いを忘れられるんじゃないかって思ってたから。
敦賀さんはきっと付き合うとどう言う事になるのか教えてくれようとしたんだ。
私は敦賀さん以外の人にあんな風に迫られたり、キスされたりするのは、嫌だな。
敦賀さん以外の人に触れられたくない。

私は先程の敦賀さんの行為に拒絶の言葉を吐きながらも、どこかで喜んでる自分がいたのがわかっていた。

敦賀さんに触られた部分が、熱い…。
他の人には、触らせたくない。

「光さん…ごめんなさい…私…」

そう言った所で、タレント部の方から上着を着ながら飛び出してきたタレント部主任の椹を見つけた。

携帯片手に深刻な表情で話をしながら向かってくる。

「俺だ。椹だ。それで容体はどうなんだ??…ああ、だろうな。目立つ外傷がないのがせめてもの救いだな。…おい社!!あんまり気落ちするな!お前のせいじゃないだろ!しっかりしろ!!」

椹の通話相手が、蓮のマネージャーである社との電話だとわかり、キョーコに嫌な予感が広がる。
椹はキョーコ達には気付かずに近くまで来ていた。

「とにかく、俺も今から事務処理済ませたらすぐにそっちに行くから、蓮が目覚めたらすぐに連絡くれ!…ああ、社長は既に向かったはずだ。俳優部の松島も事務処理済ませたら一緒に行くから心配するな。全くどこから嗅ぎつけてくるんだか…。とにかく、お前は蓮についてろ!!こっちのことは心配するな。」

キョーコは呆然と話を聞いていた。間違いない。蓮に何かがあったんだ!

そうすると、隣からポツリと声が聞こえた。

「やっぱり、あの噂は本当だったんだ…。」

その言葉を聞いて、キョーコは血の気の引いた顔で、光に尋ねた。

「光さん…光さんの聞いた噂って?!」

「え?ああ、15時ごろに、ここの駐車場で事故があって、一人救急車で運ばれたって。事故に遭ったのが誰かと言うのは、周りで見てた人がいなかったから確認されてないらしいんだけど、敦賀さんのマネージャーさんが、救急車に乗り込んでるのをみてた人がいて、敦賀さんが事故にあったんじゃないか?って噂になってて…って、京子ちゃん?大丈夫??」

ーーー15時ごろという事は、二時間前!あの直後だ!敦賀さんは凄く傷付いた顔で、出て行った。あの後ってことになる!!

キョーコは真っ青な顔で震えながら光に問いかけた。

「光さん!!敦賀さんが運ばれた病院は?!!」

知らずに大声で光さんに詰め寄っていた。

「ご、ごめん。それは知らないよ。」

「わかりました!ありがとうございます!!」

キョーコはそう言い捨てると、光さんの顔も見ずに会釈も忘れて駆け出していた。

椹さんに聞けばどこの病院かわかるかも!!

「椹さん!!」

「あ、最上くん!」

椹は、まだ電話中だったらしく、相手に断りを入れてキョーコに向かって言った。

「最上くん、悪いけど、今取り込み中でね。今日のラブミー部の依頼は取り敢えず事務所で他の人に…」

「椹さん!!敦賀さんの運ばれた病院はどこなんですか?!」

「え?!あぁ、聞いたのか。…悪いが、蓮の情報を君に言うことは出来な…ん?なんだ?すまん、最上くん少し待ってくれ!」

そう言って、電話の向こうの相手と話しだした。

「どうした?社?…え??キョーコちゃん??キョーコちゃんって、最上くんのことか?…あぁ、そうだが??…は?最上くんに?わかった。あぁ。ちょっと待ってろ。」

そう言うと、椹が携帯をキョーコに渡して来た。

「蓮のマネージャーの社だ。最上くんに代わってくれって。」

キョーコは椹から奪うように電話に出た。

「もしもし!!もしもし、代わりました!最上です!!」

『キョーコちゃん!!』

「敦賀さんは?!敦賀さんは大丈夫なんですか?!」

『それが…』

口ごもった社の声が少し震えているのに気付いた。
キョーコに不安が募り、キョーコの体がガクガクと震えた。

社はキョーコをなるべく不安にさせないように深呼吸すると、明るい声を出す努力をした。

『大丈夫だよ!蓮は!!ちょっと事故に巻き込まれただけで、直ぐに元気になるからさ!駐車場だったのが幸いしたのか、相手の車もスピード出てなかったお陰で、かすり傷があるくらいで、目立った外傷はないんだ…ただ…』

それから先をキョーコに言うべきか社は迷っていた。

でもやはり目覚めた時にキョーコが側に居た方が蓮にとっては一番いいだろうと社は考えた。

「ただ…なんですか?」

キョーコは不安に震える体を抱き締めながら、社の言葉を待った。

『キョーコちゃん、落ち着いて聞いてくれるかな?…蓮が、蓮が目を開けないんだ!目を、醒さないんだ…!』

社の苦痛に満ちた顔が受話器越しから聞こえてきた。


キョーコは社から病院の場所を聞き出すと、タクシーを使って大急ぎで病院へと向かった。

蓮の病室のある廊下に辿り着くと、社長のローリィが病室から出てくるのが見えた。

「社長!!」

キョーコは呼びかけながら駆け寄った。

「最上君か…。社から聞いたの
か?」

「はい。…すみません。私みたいな新人が…ご迷惑かと思ったのですが、どうしても心配で居ても立ってもいられず…」

蓮は大人気のトップ俳優故に、見舞いに来れるのは事務所内でも限られた人数だけだった。
病院の場所を知らされてるのは、各部署の主任クラスより上の者。
その中でも蓮と交流がある限られた人間だけなので、数は相当絞られていた。

本来ならキョーコの様なペーペータレントが、病院の場所を知らされるはずがないのだ。

「いや…構わんよ。社が教えたんだろう?もし、可能であれば、蓮の側についててやってくれ。」

「はい!ありがとうございます!!」

キョーコは綺麗なお辞儀をした。

「それで、あの…敦賀さんは…?」

キョーコは目が醒めたか聞きたかったが、社長は目を伏せると、残念そうにふるふると首を横に振った。

「俺はちょっと電話してくるから、君は蓮の側についててくれ。」

「はい!わかりました。ありがとうございます!」

キョーコは社長にもう一度お礼を述べると、去って行く社長を見送り、病室に向かった。深呼吸をするとノックをして扉を開けた。

そこにはベッドに横になって眠る蓮と、そのベッドサイドの椅子に腰掛けた社がいた。社は座ったままキョーコを振り返っている。

「キョーコちゃん…。」

社は、弱々しくキョーコに声をかけると、席を立って椅子を勧めた。

キョーコはそろそろと蓮に近付き、身体全体を見回し、最後に蓮の顔を見つめた。

本当にかすり傷程度で、あまり目立った外傷はないようだった。呼吸をしているのは、胸が上下しているので確認する事が出来た。

「良かったぁ!」

キョーコはとりあえず、外傷がない事に安堵して、蓮に縋り付くようにベッドに突っ伏した。

「キョーコちゃん、とりあえず椅子使って?」

社が椅子を差し出すと、キョーコは恐縮しながらも、その椅子に腰掛けた。

改めて蓮を見るが、顔色は青白い。そっと大きな手を布団から出して掴むと、かなり冷えているのが分かった。

キョーコはその手を温めるように両手で包んだ。

「まだ、目覚めないんですか?」

「あぁ、かれこれ事故に遭ってから3時間は眠りっぱなしだね。」

「社さんは…事故に遭った時は…」

「…うん。近くにいたんだ。まさか、目の前で轢かれるなんて…」

社はげっそりと疲れ切っていた。よく見れば社の顔色も悪い。

「そう、ですか…」

キョーコはまた蓮を見つめた。

「じゃあ。キョーコちゃんはここにいてくれるかな?俺は…ちょっと飲み物買ってくるよ。何が良い?」

「そんな!飲み物なら私が…!気が利かなくてすみません!」

社にそう聞かれ、キョーコは慌てて立ち上がろうとしたが、社に止められた。

「いいから、キョーコちゃんは、蓮の側にいてあげて?」

「…わかりました。」

キョーコはまた座り直すと、蓮の手を握り直した。
社が出て行き病室の扉が閉まる音がした時に、キョーコの握っている蓮の手がピクリと動いた。

「敦賀、さん?」

ハッとしてキョーコが呼びかけたが、返事はなかった。

大きな手をボーっと見つめる。

ーーさっき、この手が私の身体に…

そう思うと急に恥ずかしくなり、視線を蓮の顔に移した。

今度は形の良い唇が目に入る。

「……。綺麗な顔…。」

すると先程のキスが頭を過り、ハッとする。

ーーは、破廉恥よ!キョーコ!

キョーコは真っ赤な顔で自分を叱責した。

ーー敦賀さんは教育指導して下さっただけなんだから!!勘違いしちゃダメよ、キョーコ!!


(続く)

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アメブロで2011/11/10日に公開した話を若干訂正してアップしてます。
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