なくした記憶 9

2015年11月28日14:03  なくした記憶/スキビ!《完結》

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なくした記憶 9


キョーコが焦がしてしまった料理も、蓮はニコニコと美味しそうに完食してくれた。
それを見たキョーコは自分の幼なじみを思い浮かべてしまい、ふと呟いていた。

「コーンが、幼なじみだったら良かったのに…」

キョーコの突然の呟きに蓮は小首を傾げた。

「どうしたの?」

「いえ、ただそう思っただけ。気にしないで下さい。」

キョーコが慌てて答えたのを見て、蓮は思い当たったことを口に出す。

「幼なじみって、ショーちゃん?何かあったの?」

向かい合って座っていたはずの蓮は、何時の間にかキョーコの隣にきて顔を覗き込んでいた。

「あ、あの…」

「話して?」

キョーコは蓮が隣に来てドギマギと意識している自分に気付いたが、心底心配してくれてるのがわかる蓮の目を見て、話すことを決意した。

「その前に、あの…怒らないと約束して頂けますか?」

キョーコは蓮が大魔王化してしまうことを恐れて、その言葉を口に出した。

「?うん。わかった。努力するよ。」

蓮は何に怒るのかわからないままではあったが、しっかりと頷いた。

そしてキョーコは、全てを話した。

信じていたショウタロウに、ゴミ屑同然のように捨てられてしまったこと、自分をただの便利なお金を稼ぐ道具としてしか見られてなかったこと、ただの家政婦のように思われてたこと、地味で色気のない女だと陰で罵られていたこと、復讐を誓って芸能界に入ったこと等、キョーコは一言では語り尽くせない内容の話をしながら思い出し、悔しくて涙が出そうになるのを堪えながら努めて淡々と話して聞かせた。

一通り話し終えた所で、チラリと横を見ると、想像通り大魔王が降臨した蓮が座っていた。

ーーひぃーー!やっぱりー!

ピリピリと来る怒りの波動に、キョーコはビクビクと震えていると、蓮が口を開いた。

「許せないな…」

地の底を這うような低い声に、自分に対して蓮が怒ってると捉えたキョーコは、震え上がると、蓮の前に慌てて土下座をしようとした。

「も、申し訳…」

「ストップ!!…どうしてキョーコちゃんが謝るの?」

「え?…だって復讐なんてふざけた動機で芸能界に足を踏み込んでしまって…」

「うん。まぁ、それは確かにどうかと思うけど、…俺はそれ以上に、そのショウタロウって奴が許せないよ。」

「え?」

「キョーコちゃんに、そんな仕打ちをするなんて…」

蓮は言いながら、段々と目で人が殺せそうな顔になっていく。

ーーひぃー!BJーー!!

キョーコは内心震えながらも、蓮を宥める。

「お、落ち着いて!コーン!!」

「俺はそいつを一発ぶん殴らないと気が済まないよ!」

キョーコは蓮の口からぶん殴るという物騒な発言を聞いて血の気が引いた。

「ま、待って下さい!!貴方は敦賀蓮なんです!!暴力なんて、敦賀蓮のカラーじゃありません!!」

「そんなこと関係ない!!一発ぶん殴る!!」

「ダメ!!コーンやめて!」

「なんで庇うんだ?!キョーコちゃんはそいつに傷付けられたんだろ?!」

「違う!あいつなんて、どうでもいいんです!そんなことしたら、敦賀さんの名前に傷が!!貴方の名前に傷が付くのが嫌なんです!!」

キョーコは必死に訴えた。
これを話すことで自分が怒られることは想定していたが、まさかショウタロウに対してここまで怒りを露わにするとは想定外だ。

「私は、あんな奴の為に敦賀さんの名前が傷付くのは見たくありません!」

キョーコが涙ながらに訴えてくるのを聞いて、蓮は少しだけ頭が冷えて来た。

「ごめん。怒らないって約束したのに…」

蓮は申し訳なさそうに、キョーコに頭を下げた。

「いえ、そんな…。びっくりしましたけど、でも…、嬉しかったです。」

キョーコは頬を少しだけ染めて、てへへとはにかんだ。

「嬉しい?…なんで?」

「あの、上手く言えないんですけど、なんて言うか、自分の為に怒ってくれる人って今までほとんどいなかったから…。なんか、くすぐったいなって…」

もじもじと下を向いたまま言うキョーコを見て、蓮は大きな手をキョーコの頭に乗せて、よしよしと優しく撫でた。

「キョーコちゃんには、俺がいるからね?」

蓮の手の温もりと、言葉の優しさにキョーコは堪らずに涙を流していた。

何故急に涙が出たのかはわからないが、その涙は過去の全てを洗い流すように次々とこぼれて来たのだ。

蓮はそんなキョーコを黙って引き寄せると、横抱きにして膝の上に乗せて、キョーコの顔を自分の胸に納め、優しく包み込むように抱きしめ、背中をあやすようにポンポンと叩いた。

キョーコはそんな蓮の流れるように自然な行動に身を任せ、子供の頃に人前で泣けなかった分まで、思いっきり泣いた。

ーーキョーコちゃんには、俺がいるからね?

蓮の言葉が、キョーコの壊れた心を優しく包み込んでくれたような、そんな気がした。

ひとしきり泣いた後、キョーコは、蓮の暖かさと香りに酔いしれて、そのまま眠りに落ちてしまった。

蓮は泣き止んだキョーコが、大人しく寝息を立て始めたのを見ると、優しく微笑んで起こさないようにゆっくりとゲストルームに運んだ。

ベッドに寝かせて寝顔を覗き込んだ蓮は、涙の後をそっと指で拭うと、その額にキスを一つ落とした。

「おやすみ。キョーコちゃん、いい夢を。」

そう言って、頭を一なでした蓮は、満足そうに微笑むと、リビングへと足を運んだ。


(続く)

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Amebaで2011/11/19に公開した話を若干訂正したものです。
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