なくした記憶 10

2015年11月28日14:22  なくした記憶/スキビ!《完結》

なくした記憶 10


爽やかな朝の光が差し込み、キョーコは目を覚ました。
いつもよりもスッキリした気分で目覚めたキョーコは、自分の格好を見て驚いた。

何故なら、寝巻きに着替えていなかったからである。

ーー私ったら昨日、そのまま寝ちゃったの??

キョーコはそう思って、昨夜のことを思い出そうとしていた。

蓮に縋り付くように泣いたことを思い出した時には、思わず赤面してしまったのだが、蓮の膝の上でそのまま気持ち良過ぎて眠ってしまったことを思い出すと、一気に青褪めた。

ーーわ、私は、なんてことを!!呆れたわよね?嫌われたりしてないかしら?あんなにみっともなく泣きじゃくった挙句にそのまま寝てしまうなんて!!ど、どうしよう!!

キョーコは不安を抱えつつも、朝食の支度をしなければと思いつき、恐る恐る部屋を出た。

正直、どんな顔して会えばいいのかわからなかった。

ーーーはっ!顔!洗わなきゃ!!

キョーコはまず洗面所に向かった。

「あー。やっぱりむくんでるー」

キョーコは急いで顔を洗い、身支度を済ませると、キッチンへと向かった。

いつもより心が軽くなった気がするのは、昨日泣いたお陰だろうか?キョーコは鼻歌混じりに朝食を作り始めた。


蓮は美味しそうな料理の匂いに目を覚ました。
匂いに誘われるようにキッチンへと足を運ぶと、鼻歌交じりに楽しそうに朝食を作っているキョーコの姿があった。

その姿を見て蓮は、悪戯を思い付いた子供のような顔をして、そっとキョーコの背後に近付くと、後ろからキョーコをぎゅっと抱き締めた。

「きゃあ!!!」

当然キョーコは何が起こったのか一瞬わからずに狼狽えるが、頭上から聞こえた声に若干パニックになってしまった。

「おはよう。キョーコちゃん。よく眠れた??」

「な、ななな!!つ、敦賀さん?!!」

「コーンだよ?キョーコちゃん。」

「コ、ココ、コーン?!ど、どどどどど…」

「ん?何となく、両親がこうやってたのを思い出してね。一度やってみたかったんだ。」

蓮は何も悪びれることなく、ニコニコと邪気のない笑顔を浮かべて、楽しそうに抱きついている。

「は、離れてください!!」

キョーコは全身真っ赤にして叫んだ。心臓が壊れそうなくらいドコドコ言っている。

「こんな体制じゃ料理ができませーん!!」

「んー。もうちょっと…」

蓮はそう言うと、ゴロゴロと猫のようにキョーコに甘えてきた。
キョーコの肩に頭を埋める蓮、もちろん、キョーコには、たまったものではない。

「こうやってると、新婚さんみたいだよね?」

「し、ししし、新婚さん?!って!!コ、ココ、コココココ、コーン!!」

キョーコの目は完全に回ってしまい気を失う寸前で、声も思いっきりひっくり返っている。

「ぷっ」

「…ぷ?」

その時、蓮の方から不意に、空気の漏れる音が聞こえてきた。
訝しんでキョーコが見ると、肩に乗ってる蓮の頭が小刻みに震えている。

ーーーまさか…

と、キョーコが思った時には、蓮は思いっきり吹き出して、大爆笑を始めてしまった。

「あーはっはっはっはっ!も、もーだめだ!!キョーコちゃん!可愛過ぎ!!はっはっはっ!ココココココーンって!!に、ニワトリ?!!」

いつまでも笑い続けている蓮をみて、今度は別の意味でカァッと頭に血が登ると、ふるふると震えながら、キョーコは蓮に向かって思いっきり叫んでいた。

「コーンの!!コーンの、いじめっ子ぉーーーー!!」

キョーコの鍛えられた発声は容赦がなく、リビングの窓がビリビリと震えるほどだった。


朝食を終えた蓮とキョーコは、キッチンに二人で並んで後片付けをしていた。

「ごめんね?キョーコちゃん。まだ怒ってる??」

キョーコは終始無言で、ぷりぷりと怒りながら、ずっと蓮を警戒していた。

「………」

「あんまり、怒ってると、可愛い顔が台無しだよ?まぁ、キョーコちゃんは怒ってても可愛いけど。」

さらりとそんなことを言い、にっこりと笑った蓮を見て、キョーコは持っている食器を思わず落としそうになってしまった。

顔が一気に赤くなり、口をパクパクとさせて、蓮を見た。

「??ん?どうしたの?」

「どうしたの?じゃありません!!もう!そんなことを誰にでも言ってたら、誤解されるんだからね!!気をつけてください!!」

キョーコはそう言って、蓮を睨んだ。

蓮はそんな睨む姿のキョーコも可愛いなと思いながら、微笑んでキョーコの頭に手を置き、ポンポンと撫でながら答えた。

「こんなこと、誰にでも言わないよ?キョーコちゃんだから言ったんだよ。」

「…え?………も、もー!コーンったら冗談ばっかり!!あ!!お昼ご飯は冷蔵庫にいれてるから、チンして食べてね。じゃあ、私、今日は学校と撮影あるから!帰りは20時くらいになると思う!!」

キョーコは、慌ててまくし立てると、逃げるようにキッチンを飛び出した。

ゲストルームに飛び込むと、胸を抑えて、ズルズルとしゃがみこむ。

ーーー私、多分、今のあの敦賀さんの前にいたら心臓がいくつあっても足りないわ!!

ドキドキとする心臓。

ーーーあぁ、私もう敦賀さんのこと…好きって自覚したばかりなのに、昨日と今日だけで、かなりこの気持ちが育ってしまった気がする…。なんで、コーンはあんなにスキンシップが多いのよ!!誤解させるようなことばかり言って!!…期待…しちゃうじゃないの…!!

…でも、今の敦賀さんはやっぱり敦賀さんじゃないんだ…。

そう、敦賀さんにはちゃんと想い人がいるんだから…。

そう思うと胸が苦しい位に締め付けられる感じを覚えた。

ーーー今なら…私をみてくれるかな?は?!何を言ってるのよ!キョーコ!!ダメ!ダメよ!そんなズルいこと考えちゃ!!…それにしても、コーンは敦賀さんとは別人ね…。あれが、本当の敦賀さんの姿…なのかな?

キョーコは複雑な思いを胸に、昨日だるま屋から届けられた荷物から、学校の鞄を掴んで必要なものを入れると、深呼吸して立ち上がった。

ーーー今の敦賀さんも前の敦賀さんも、私にとっては大切な存在であることに変わりはない。

思い出して欲しいけど、最後の日の辛そうな蓮を思うと、今の幸せそうな蓮をもっと見ておきたいと思う。

ズルい考えなのかもしれない。…だけど、敦賀さんがコーンの間だけは、自分が1番近くにいられる。そんな気がした。

「学校まで送ろうか?」

蓮はニコニコと申し出てくれたが、今の蓮を外に出すわけにはいかないと、丁寧に断ると、行ってきますと笑顔を残して、学校に向かった。

部屋に一人残された蓮は、リビングに戻ると、自分の過去の出演作品に目を通し始めた。


(続く)

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Amebaで2011/11/20に公開した話を若干訂正したものです。
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