なくした記憶 12

2015年12月01日14:01  なくした記憶/スキビ!《完結》

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なくした記憶 12


「いいのか?俺までご馳走になっちゃって…。」

「キョーコちゃんが良いって言ってるんだから、もちろん構いませんよ?なに遠慮してるんですか?」

社は居心地の悪そうに蓮に伺うが、蓮は心底わからないという顔で社をみた。
キョーコは只今料理中で、台所に消えている。

「いや、じゃあいいんだが…。蓮、お前さ…。キョーコちゃんが可愛くて仕方ないのはわかるが、外でキョーコちゃんに会っても、あの顔は絶対辞めろよ?」

「え?どんな顔ですか?」

「だから、世の中の女性が全て蕩けてしまいそうな顔だよ!!」

「どんなですか…それは…」

自覚のない蓮は本気で困ってしまった。

「はぁー。蓮…。しっかりしてくれよ?敦賀蓮のイメージってものがあるんだからな。」

「だから、今はそのイメージを掴もうとしてるとこじゃないですか…」

「まぁ、そうなんだが…。いくらキョーコちゃんが可愛いからって、同意もなく襲ったりするなよ?」

「は?何で俺がキョーコちゃんを襲うんですか?」

「…え?」

社は鳩が豆鉄砲食らったような顔で蓮をみつめた。

「キョーコちゃんは、可愛いから守りたいとは思いますけど、襲いたいとは思いませんよ?」

「お、おい、蓮君?…まさか…お前…!」

そこまで言って社は完全に固まってしまった。

ーーー信じられん!!まだ自覚前か?!自覚前であの顔か?!やっぱり恋愛音痴は健在かぁー?!

「??どうしたんですか?社さん…?」

「お、まえ…確認するが、キョーコちゃんのこと……好きだよな?」

「えぇ、もちろん好きですよ?それが何か?」

ニコニコと事も無げに答える蓮に、社は思いっきり脱力した。

「お前ぇぇー!…そんな悠長に構えてて、何処ぞの馬の骨にキョーコちゃんを掻っ攫われても、お兄ちゃんは知らないからなぁ~~!!!!」

社はガシッと蓮の肩を掴むと、ガタガタと揺すった。

「や、社さん?!」

蓮はそんな社の言葉と行動の意味が全く分からず、呆気に取られるしかなかった。




その日の夜、蓮はベッドの中で自分の記憶の事を考えながら横になっていた。

先ほどの、社との会話で聞いたキョーコとの過去の話を思い出す。

ーーー俺が忘れてる記憶の中にも、沢山今のキョーコちゃんとの思い出もあるんだろうな…。

ゴロンと寝返りを打つ。

ーーー思い出したい…な。

そう思いつつ目を閉じていたら、何時の間にか眠りについていた。


真っ暗の闇の中、一人佇む自分に、悲痛な叫びが突き刺さる。

『最っっ低!』

《人殺し!!》

ーーーえ?!違う!俺は…俺は…

『二度と……に近づかないで!』

《なんで?!なんでリックが…あんたのせいよ!!》

知らない女の批難する声と、過去に親友の彼女から投げつけられた女の恨みの篭った声が交互に響く。

段々と、リックの血が、俺の身体にまとわりついてくる。

ーーー汚れた、俺の手…。

ーーー動ケナイ…。

ーーー俺ノ居場所ナンテ…ココニハ…。

『敦賀さん?!止めて下さい!嫌だ!嫌ぁー』

何時の間にか目の前には、顔を真っ青にしたキョーコが立っている。強張った顔で、乱れた衣服のままで震えながら俺を見て叫んでいる。

ーーーイヤダ…。見ナイデ、ソンナ目デ俺ヲ見ナイデ…。助ケテ…怖イ…俺ヲ見捨テナイデ!!拒絶シナイデ!!

悲しそうに目を伏せたキョーコが、くるりと背中を向け歩き出す。

リックの血が手や足にまとわりついて動かすことも出来ない。

ーーー待って!行かないでくれ!キョーコちゃ…最上さん!!最上さん!!

「うぅわあぁぁぁぁあぁあ!!」

ガバッと飛び起きる。

ハァハァと肩で荒い息をして、辺りを見回す。

夢と同じ暗闇の中、自分の息遣いと、汗でぐっしょり濡れたパジャマ、首と背筋を伝う汗だけは感じることが出来た。

荒い呼吸は落ち着かず、シーツを強く握りしめ、頭を前に垂れる。
闇に引き込まれる。引きずられる。

ーーー助ケテ!!

その時、パタパタと慌てた足音が遠くの方から聞こえた気がした。

暗闇の中、蓮が自分の手をみると、汚れてるはずがないのに、血で黒く染まっているように思う。

ーーーコンナ汚レタ俺ナンテ、消エテシマエバイイ…。

そう思っていた時、不意に扉をノックする音が聞こえた。

「敦賀さん?!大丈夫ですか?コーン?開けるからね!!」

恐怖を感じながら、扉をじっと見つめる蓮。

ーーーその扉から覗くのは…あの俺を拒絶する目??

ーーゴクリ

唾を飲み込むが、喉がカラカラで声も出せない。

ガチャリとドアが開き、人が入ってくる。
キョーコは暗闇の中なので気をつけて歩いてるだけだったのだが、そろそろと近付く気配は、まるで自分を拒絶されてるようで…。

「嫌…だ。来ないで…。」

蓮は気付けばガタガタと震えてしまい、体温が下がって行くのを感じていた。

ピタリと足音が止まる。

ーーー何よりも怖いのは…拒絶…。

「来、ないで…怖い…嫌だ…。」

「っ!コーン!!!!」

蓮が震えてるのに気付いたキョーコは慌てて蓮に駆け寄った。

顔を覗き込むと、真っ青で、瞳は何処か虚ろで、別の所を見ているようだ。
まるで、魂だけ別の場所に行ってしまっているような…。

このゾクリとする表情は何度か見かけたことがあった。
カインの役を始めた頃に見せたカーアクションの時や、チンピラに絡まれた時などに見た表情だ。

過去の闇にとらわれた時の、蓮の顔…。
キョーコは恐る恐る蓮の頭に腕を回すと、自分の胸に蓮の顔を抱え込み、そっと抱き締めた。
蓮に必死に呼びかける。

「コーン!大丈夫だから、戻って来て!コーン!!」

「キョ、、コちゃ…。」

蓮はキョーコに頭を抱えられて、ゆっくりと覚醒してきた。

キョーコの体温が、蓮の冷えた身体と心に染み渡り、キョーコの鼓動が心地よく耳に届く。

震えも徐々に収まって、キョーコに縋るように抱きついた。

「キョーコちゃ…!うっ…お、れは…」

蓮は静かに涙を流していた。

「怖いよ…俺を、拒絶…しないで…」

「コーン。大丈夫!私は拒絶なんてしないよ。ちゃんとここにいる!ここにいるから!」

キョーコは蓮の心の傷が早く癒えることを願って、蓮の頭に回した腕に少しだけ力を込めた。

「大丈夫。貴方が望むなら、私はずっと側にいますよ…。」

キョーコは小さな声で囁いた。
蓮はホッとしたように息を吐いてゆっくりと瞳を閉じた。

蓮の耳には、心地いいキョーコの鼓動だけが響いた。


(続く)

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蓮君はまだまだ自覚前でした。
いつ自覚するのかな?
スキビ☆ランキング

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Amebaで2011/11/22に公開した話を若干訂正したものです。
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