なくした記憶 17

2015年12月13日19:52  なくした記憶/スキビ!《完結》

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なくした記憶 17


随分と長いこと非常階段に座っていたキョーコは、ようやく気持ちを落ち着けることが出来た。

「そういえば今何時だろう?」

視線を時計に移したキョーコは思わず絶句した。

「え?!もうこんな時間?!!大変!!」

慌てて立ち上がり、隣に置いていた鞄を引っ付かむと、急いでその場を駆け出した。

昨夜、蓮には今日の帰宅時間が17時頃になるはずだと言っていたのに、今の時間は間もなく20時を指そうとしていた。

自転車を猛スピードで漕ぎながら、冷蔵庫の中身を思い出す。
今日の献立と足りないものを瞬時に計算し、店に突っ込む勢いで、スーパーの駐輪場に停車。
あっと言う間に買い物を済ませると、またまた尋常じゃないスピードで蓮の待つ家へと向かう。

蓮のマンションの駐輪場に自転車を止めると、荷物を持って、急いで蓮の部屋に向かった。

部屋が近付くにつれて、段々とキョーコの足取りが重くなり、ついには玄関の入口で立ち止まってしまった。

ーーーどどど、どうしよう!朝あんなことがあったから気まずいよー!まだコーン怒ってたらどうしよう?怒るどころから追い出されたりしたら?

過去のトラウマがキョーコの思考をどんどんと悪い方向に動かす。

ーーー迷惑だって、面と向かって言われたら…どうしたらいいんだろう。

キョーコは玄関を見つめたまま、この場所から逃げ出したくなった。

ーーー今日は…だるま屋に置いてもらおうかな…。

そんなことを考えつつ、キョーコがジリジリと少しだけ後ろに下がると、いきなり目の前で玄関がバァァン!と勢いよく開いて、真っ青な顔をした蓮が慌てて飛び出して来た。
手には携帯電話と上着を持っている。

いきなり飛び出してきてそのままエレベーターまで一気に駆け出した蓮に、キョーコは心臓が止まるかと思うくらい驚き、声も出すことが出来ぬままその場に固まってしまった。

そして、蓮は慌てすぎて玄関の前で固まっていたキョーコに気付かずにエレベーターに向かったのだが、途中で視界をかすめたキョーコの存在に気付いて、体に急ブレーキをかけ振り返った。

「…え?キョーコ…ちゃん?」

呆然とキョーコを見つめる蓮に、キョーコは困惑しながら声をかけた。

「コ、コーン?えっと…どうしたの?そんなに慌てて…こんな時間からどこかにお出掛け??」

キョーコに言葉をかけられて、蓮は安心したようにヘナヘナヘナと、その場に崩れ落ちた。

「え?!つる…コーン?!大丈夫?!」

キョーコは慌てて蓮に駆け寄って顔を覗き込もうとその身を屈めた。
すると蓮はグイッとキョーコを自分の胸に引き込んだ。

「きゃっ!」

可愛い控えめな悲鳴と、暖かい肌の温もりをその腕に抱きしめた蓮は、ほっと息をついて、呟くように言った。

「良かった…。無事だった。」

「え?」

驚いて蓮を見上げるキョーコをジッと見つめ返し、蓮は真剣な眼差しで続けた。

「心配したんだよ?昨日言ってた時間に帰ってこないし、電話もメールもしたのに出ないし返事も来ないから、何かあったんじゃないかって…。キョーコちゃんが心配で、居ても立ってもいられなくなって、探しに行こうと思って飛び出したんだ。」

一言一言、噛みしめるように言う蓮の言葉を聞きながら、キョーコは目を閉じ暖かい蓮の温もりに知らずに身を任せていた。

心臓はトクントクンと大きく跳ねる。

ーーー"キョーコちゃん"としてなら、例え敦賀さんに好きな人がいたとしても、側にいられるのかもしれない…。だったら、それでいい。多くは望まないから…だから、今だけでも側にいさせて…。

キョーコは蓮の胸に涙を隠すように顔を埋めると、そっと瞳を閉じ、蓮の服を握りしめた。

「ごめんなさい…。」

ポツリと叱られた子供のように言うキョーコが愛しくて堪らず、蓮もギュッと力を込めてキョーコを抱きしめたのだった。


朝の気まずい空気はすっかり無くなり、二人の関係は朝までとはまた少しだけ変わっていた。

蓮は前以上にスキンシップが増え、キョーコも、そんな蓮に嬉しそうに応じるようになっていた。

キョーコちゃんが心配だったという蓮に、子供扱いしかされないんだわ。と少しだけ寂しく思ったキョーコだが、それでも、蓮が必要としてくれるならどんな形でも側にいたい…と、キョーコも精一杯蓮の優しさに甘えるようにしたのだ。

まるで昔の"キョーコちゃんとコーン"に戻ったみたいな関係に…。

まるであの頃のピュアな自分に戻ったみたいに。

あの頃と唯一違うことと言えば自分の好きな相手が、"幼馴染のショーちゃん"ではなく、目の前にいるコーンだということくらいだろう。

キョーコにとって今目の前にいるのは、事務所の尊敬する大先輩敦賀蓮とも違う、大好きなコーンという認識に変わっていた。


「はい!召し上がれ。」

キョーコは満面の笑顔で蓮の前に出来上がった料理を並べる。

「うわぁ!凄く美味しそうだね!!」

並べられた料理を見て、ニコニコとご機嫌に蓮は言う。
自分の席を蓮の正面に作ろうと料理を並べていたキョーコに、蓮はご機嫌なまま声をかけた。

「キョーコちゃん、そんなとこに座らないで、こっちにおいでよ。」

蓮が叩いた席は、蓮の足の上だった。

「え?!」

キョーコは頬を朱に染めると恥ずかしそうにモジモジと下を向いて少しだけ考え、おずおずと蓮を見た。

「いいの?」

赤い顔のまま小首を傾げて聞いてくるキョーコの瞳が少しだけ潤んでいて、その強烈な可愛さに蓮は知らぬ間に無表情になってしまった。

それに、気付いたキョーコはサッと顔を青褪めて、蓮が止める間もなく、ごめんなさい!!と言いながら、キッチンに戻って行った。

キョーコの青褪めた顔と、ごめんなさいと言って逃げるようにキッチンに向かった姿を見た蓮は、キョーコを誤解させたことに瞬時に気付いた。

慌てて誤解を解きに行かなければと腰を浮かしかけたが、キッチンではお茶の準備をしているような音が聞こえて来てたので、すぐ戻ってくることを察することが出来て、いそいそとテーブルの上のキョーコのご飯の位置を移動し始めた。


お茶を用意して戻ってきたキョーコはテーブルの上の料理が蓮の方に全て集められてることにすぐに気付いた。

驚いてパッと蓮をみると、ニコニコとキョーコがくるのを待っている。

「コーン??」

てっきり蓮が、冗談を間に受けて、図々しくも足の上に座っていいのか尋ねたキョーコに怒っている。と思っていたのだが、そうではないらしい。
キョーコが蓮を不思議そうにみていると蓮が口を開いた。

「さっきはごめんね?怒ったんじゃないんだよ。キョーコちゃんが可愛くて、どういう顔したら良いのかわからなかっただけなんだ。」

申し訳なさそうに言う蓮を見つめて、ポカンとした顔で意味を考えたキョーコは、意味が分かった瞬間、驚いて少しだけ照れながらも嬉しそうに微笑んだ。

その花が舞う様な笑顔を見た蓮が、途端にまた無表情になるのを見て、キョーコはビックリして、目を見開いたが、すぐに可笑しくなって思わず噴き出して笑っていた。

キョーコが笑い出したのに気付いた蓮は、言った側から無表情になってしまった自分に気付き、バツが悪そうな顔をしたまま、頬を少しだけ赤らめプイッと視線を反らした。

その表情と仕草をみたキョーコが益々可笑しそうに笑うと、蓮は耐えられずに、キョーコに近付き後ろからガバッと抱き付いた。

二人して勢いよく床に転がる。
キョーコは軽く悲鳴を上げたが、暖かい蓮の腕に捉えられて「笑い過ぎ…」と、困ったよな、拗ねたような声で呟く蓮の声が聞こえたので思わず振り向いた。
すると、物凄く至近距離に蓮の顔があり、キョーコの鼓動が大きく跳ねる。

蓮の顔から目が離せず、思わず見つめていると、蓮もキョーコの視線に気付き、視線が絡まった。

後ろから抱きつかれたままのキョーコの心臓は早鐘のように鳴り響く。

キョーコは蓮の顔を見つめたまま、「コーン…大好き。」と思わずポロリと言ってしまった。

蓮は驚いたように目を開くと、嬉しそうにニッコリと微笑み、「俺もキョーコちゃんが大好きだよ!」と返して、更にぎゅっと抱きしめてきた。

キョーコは自分の好きと、蓮の好きという言葉の意味が違うことに気付き、切なくて少しだけ泣きそうな顔になったが、そんな気持ちを蓮に気付かれないように一瞬だけ前を向いて、唇を噛み締めると、また笑顔に戻してクスクスと笑い出した。

「ありがとう。…も~そろそろ離してー!またご飯冷えちゃうよ?」

キョーコが起き上がろうとするのを蓮は引き止めると、キョーコを抱えたまま、ゴロゴロとラグの上を転がりだした。

「ちょっとコーン!!」

キョーコが慌てたように言うと、今度は蓮がクスクスと笑い出した。

「さっき笑ったお返しだよ。」

楽しそうに笑う蓮をみて、キョーコはぷうっと頬を膨らませた。

「もう!コーンの馬鹿!」

「あはは!ごめんごめん。怒らないで?」

蓮が可笑しそうにキョーコの膨らんだほっぺたを指で突くと、ブボッと空気の漏れる音がした。

顔を赤らめたキョーコを満足気に見た蓮は、ようやくキョーコを開放すると起き上がった。

そしてまだ横になったままちょっと拗ねてるキョーコを助け起こして、嬉しそうに微笑みながら、自分の足の上にキョーコを座らせて、ご飯を食べ始めたのだった。


(続く)

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※Amebaで2011/11/29に公開した話を若干訂正したものです。
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