なくした記憶 19

2015年12月17日09:21  なくした記憶/スキビ!《完結》

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なくした記憶 19


ーー朝…?

蓮は昨夜なかなか寝付けず、気付けばソファでうたた寝していたらしい。

キョーコの様子も気になったが、それと同じくらい今日が来ることを期待と不安な気持ちで迎えていた。

今日から敦賀蓮として活動を再開する。

再開と言っても、その前の活動は全く覚えていないのだから、いよいよデビューという気分だ。

身を起こすと、体には何時の間にか毛布がかけられていた。
時計を確認するがまだ朝方の5時半を回ったところだ。
寝る前に観ていたDVDも止められて電源が落ちている。

ーーーキョーコちゃんは早くに寝たはずなのに、いつの間に毛布を掛けたり、テレビの電源を落としたりしてくれたのだろう?

蓮は毛布とキョーコの気遣いに、キョーコの優しさを感じることが出来、緊張していた気持ちが少しだけ和らいだ。

再び寝る気にはならず、蓮は身体を起こす為、シャワーを浴びに向かった。



僅かな物音が聞こえて、キョーコも目を冷ました。

「…ん?んん…」

軽く伸びをして時計を確かめる。
時刻は間もなく6時を指そうとしていた。

ーーー目覚ましより前に目覚めるって清々しい気分〜。

そう思いながらキョーコは再び大きく伸びをすると、ベッドから降りて洗面所へと向かった。

洗面所の扉を開く直前、キョーコがドアノブに手をかけるより前に目の前でいきなり洗面所のドアが開いた。

開くとは思ってなかったドアがいきなり開いてキョーコは心臓が飛び出そうなほど驚き、その場にそのまま固まってしまった。

「あれ?キョーコちゃん?」

頭上から降ってきた声に、ハッと覚醒して見上げると、目の前には肌色の鍛えられた腹筋と胸筋。
首から下げたタオルで、濡れた髪を拭きながら立つ美貌の男がいた。

バスタオル一枚を腰に巻いて立つその姿に、キョーコは見てはいけない物を見てしまった気分になった。
タオルで受けれなかった雫が、髪から蓮の肩に落ち、胸元を伝った。妙に色気のあるその姿にキョーコが再び固まり、ふよふよとゆっくり口が開いた。

「ん?どうしたの?」

何か言いたげなキョーコに、首を傾げた蓮は少しだけ屈んで顔を近付けた。

ますます近付く美貌に、キョーコは真っ赤になり、魂の底から思いっきり叫んだ。

「いぃやぁぁぁあぁあぁああぁあぁ~~!!!!」

キョーコは叫びながら、顔を手で抑え、ゲストルームに飛び込もうとしていたのだが、それは蓮によって阻止されてしまった。

キョーコの腕を掴んだ蓮の手はまだしっとりと濡れていた。
蓮は、キョーコの腕をぐいっと引っ張ると自分の胸の内に収めた。

背後から抱き締められて、キョーコの心臓は大騒ぎだ。

直接感じる蓮の体温。
濡れた髪から滴る水滴が、キョーコのパジャマをジワリと濡らす。

「何で逃げるの?」

蓮が眉を潜めて怒ったように口を尖らせて言う。
まさかのキョーコの叫び声に耳が馬鹿になってしまいそうだ。

キョーコは暴れる度にギュウギュゥと抱き締められて、もう目を回すしかなく、力一杯叫んだ。

「服!!!!!服を着てくださぁぁぁぁぉぁぁぁい!!!!」

「…え?」

「ふくですよ!!服ーー!お願いしますぅ~!」

真っ赤になって必死に、服を着てと、繰り返すキョーコを見て、疑問符を頭に浮かべる蓮。

「ちゃんと、下隠してるよ??」

「隠すだけじゃなくて、ちゃんと上も下も着てくださぁ~~~い!!!」

涙ながらに訴えるキョーコをみて、心底不思議そうな顔をする蓮。

「わかった。…服を着たら逃げない?」

「はい!逃げません!!」

「ちゃんと顔見て話してくれる?」

「はい!!ちゃんと顔見て話します!!」

「キョーコって呼んでも良い?」

「はい!構いませ…ふへ?!」

キョーコは突然言われた言葉に思わず返事をしながら奇声を発してしまった。

「な、ななななななんでですか?!」

「ぷふ。冗談だよ。キョーコちゃんをキョーコって呼び捨てにしていいのは、キョーコちゃんの王子様だけだもんね。」

蓮はくすくすと楽しそうに笑うと、キョーコを開放した。

「部屋に寄らずにシャワー浴びに来たから、着替え持って来てなかったんだ。キョーコちゃんは顔を洗いに来たんでしょ?空いたから使っていいよ。」

蓮はキョーコの頭を大きな手で優しく撫でると、タオルで頭を拭きながら寝室へ向かった。

キョーコは、静かに洗面所のドアを閉めると、壁に背を預けたまま、ズルズルとその場に座り込んだ。

全身が真っ赤に染まっているのがわかる。

抱き締められた体が熱い。

「貴方になら、何て呼ばれても構いません…」

キョーコは小さな声で呟いた。

自分で自分を抱き締めると、頭を膝に乗せて丸くなった。

ーーー好き…。貴方が好き…。こんなにも…貴方が好きで堪らない…。

次々と溢れる想いが止まらない涙となって頬を伝う。

ーーー私もう、敦賀さんから離れられない…。どうしたらいいの?こんなに好きなのに…。こんなに近くにいるのに…。私は、コーンである敦賀さんも、敦賀さんであるコーンも好きで好きで堪らない…。分からない…恋ってこんなに苦しいものなの??こんな気持ち知らない…。ショータローの時はこんな気持ちになったことないもの。近くにいれることが、ただ幸せだったのに…。

「苦しいよ…コーン…。ずっと側にいたいの…貴方に側にいて欲しい。貴方の側にいたいの…。貴方さえいれば、他には何もいらないの…。」

ーーー貴方の温もりを感じることが出来る唯一の人になりたい。

「恥ずかしがってばかりいるからダメなの?子供だって思われてるの?」

ーーー敦賀さんからいつもあんな風にからかわれていたのは、私の反応が子供過ぎるからなの?

「どうしたら、貴方は私を見てくれるようになるの??」

キョーコは一人、静かに涙を流し続けた。


一時間経っても、洗面所から出てくる気配のないキョーコに、蓮は心配になり、洗面所の扉をノックしようと手を伸ばした。

しかし、ノックするより先にドアがガラリと開き、先程とは逆のパターンで、今度は蓮が固まった。

キョーコも、蓮がドアの前にいたことに驚き、一瞬目を見開いたが、次の瞬間キョーコから蓮に抱き付いていた。

「コーン。ごめんね。お腹空いたでしょ?何か食べたいものある?」

キョーコから突然抱き付かれたことは最初にコーンだとわかった時以来だったので、蓮には喜びよりも驚きの方が大きかった。

下からニッコリ微笑まれ、蓮の鼓動が大きく跳ねる。

「え?キョーコちゃん?あの、どうしたの??」

「ふふ、いつもコーンから抱きつかれてばっかりだから、お返しだよ?」

キョーコがニッコリイタズラっぽく微笑むのを見て、蓮は堪らずにキョーコを抱きしめ返した。

「その可愛さは…反則だ。」

記憶を失う前に聞いていた低い大人びた蓮の声がキョーコの耳に響いた。
ギュウっといつもより少し強めに抱き締められたキョーコは内心アワアワしながらも、必死に平静を保つ努力をした。

ーーーこ、子供に見られないようにするんだもん!!

発想こそが既に子供なのだが、キョーコは必死だった。

激しく動く心臓と闘い、自分からもアクションを起こすことを、先程涙を流しながら心に決めたのだった。


(続く)

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※Amebaで2011/12/04に公開した話を若干訂正したものです。
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