なくした記憶 21

2015年12月18日09:33  なくした記憶/スキビ!《完結》

なくした記憶 21



蓮が敦賀蓮として俳優の活動を再開して数日が過ぎた。

敦賀蓮の仮面を被るのも慣れたが、やはり無理をしてるようで、自宅であるマンションに着くと、帰宅早々ソファにぐでんともたれかかっていることが多い。

敦賀蓮なら絶対に見せないであろうその姿は、キョーコだけが見ることができる。

キョーコはそんなトップ俳優敦賀蓮の姿にくすくすと笑みを漏らした。

「コーン。もぅ~そうな格好してたら、敦賀蓮のファンが泣くわよ。」

「だって…疲れたんだもん。」

少年のようなふて腐れた顔もキョーコにはお馴染みだ。

「はいはい、お疲れ様です。よく出来ました。」

キョーコはクスクス笑いを零しながらお茶を差し出した。

「ありがとう。キョーコちゃん。」

蓮はキョーコに礼を言ってお茶を啜る。

キョーコはそんな蓮に微笑むと食事の支度を始めた。

料理が並ぶと蓮は嬉しそうに席に着き、ニコニコとキョーコを待っている。
すっかり定着してしまった食事のスタイル。

それは蓮が、キョーコを足に座らせて食べるというスタイルだが、蓮もキョーコもこの食事の時間が、一日の中で一番の楽しみになっていた。

どんなに疲れた日でも、キョーコが腕の中にいると、疲れが吹っ飛ぶと蓮は思っていたし、実際そうだった。

キョーコも蓮の腕の中は暖かくて、何処にいるよりも安心感を得られると思っていた。

だから、2人のこの食事のスタイルは何時の間にか普通になっていったのだった。

たまにキョーコが蓮に食べさせたり、蓮がキョーコに食べさせたりしながら、楽しい食事の時間はあっという間に過ぎてしまう。

2人で片付けを済ませると、蓮はまだ見終わっていない自分の過去の作品を観る。
キョーコもたまに一緒にみたり、蓮の側で学校の勉強をするのが、ここ最近の日課となっていた。


「Dark Moonか…。」

蓮が今日観るDVDを手に取りタイトルを呟いた。
キョーコは一瞬ぴくりと反応したが、何も声には出さなかった。

蓮がDVDを見る姿をジッと見つめるキョーコ。

恐れていた日がきてしまった…。

蓮は逸美をみてどんな反応をするんだろうか…。
もしも、蓮の心がまた逸美に戻ったら自分はどうしたら良いのだろうか…。

キョーコは不安な気持ちで見つめることしか出来なかった。

切なくて、苦しくてたまらない。


「…あれ?これってキョーコちゃんじゃない?!」

蓮が突然声を上げた。

キョーコが画面をみると、美緒が嘉月に名前を呼ばれてるシーンだった。

「え?あ…うん。そうだね。」

「何で言ってくれなかったの?わぁ!キョーコちゃんと共演してたのかぁ!…にしても、随分印象が違うね!」

蓮は苦笑しながら言っている。

「私、これが始めてのドラマの仕事だったんだ。役作りがピンチになった時に敦賀さんが助けてくれたの。」

「そうなんだ。」

蓮はそう言って、キョーコの頭を撫でると、真剣にテレビの画面を見つめた。




「コーン?そろそろ寝なくていいの?」

全く寝る気配のない蓮に、キョーコは痺れを切らして声をかける。

「ん…もうちょっと…。あと一話分見たら寝るから、キョーコちゃんは先に寝てていいよ。」

時刻は既に1時を指しており、キョーコも眠い目をこすり始めていた。

「んー。だってコーン、いっつもここで何時の間にか寝てるんだもん。ベッドじゃないと疲れ取れないよ?」

キョーコはいい終わると欠伸をした。

「うん。今日はベッドで寝るから…。」

「むぅ。とか言って~またここで寝るんでしょ?」

「信用ないね。」

蓮はクスクスと笑う。
キョーコはそんな蓮が座ってるソファに腰掛けた。
何となく蓮を一人で観せたくなかった。

「もうっ。あと一話くらいなら私もお付き合いします!ちゃんとベッドに行くとこ見届けるんだからね。」

「キョーコちゃん。無理しないで…。」

「いいえ!お世話係を命じられてるんですから!放って置けません。」

蓮はキョーコを気遣うがこういったキョーコはなかなか応じない。

お世話係を命じられてるんですから。というキョーコの言葉が蓮にはちょっぴり引っかかった。

ーーーお世話係を命じられてるから、一緒にいてくれるのかな?義務だからってこと?

蓮は少し面白くなかったが、キョーコが無理をしてるのを見て、不安にもなった。

ーーー仕事だったらキョーコちゃんは、他の男ともこういう風に一緒に過すのかな?2人っきりで…?

蓮がキョーコを不安そうに見つめると、キョーコはうつらうつらと船を漕ぎはじめていた。
相当眠いのを我慢していたのだろう。
それもそのはずだ。タレントの京子も最近は番組に引っ張りだこになっている。
蓮に劣りはしても、それなりに忙しい新人なのだ。

蓮はキョーコの身体をそっと横たわらせると、自分の足にキョーコの頭を乗せた。身体にブランケットを掛けて、髪を撫でる。自然と蓮の表情も甘やかな顔に変わっていった。

蓮の胸に甘い感情が渦巻く。それが何か気付かないまま、蓮は視線を画面に戻した。

画面に視線を戻した蓮は衝撃を受ける事となる。
画面には美月に恋心を自覚し始めた嘉月の表情が映し出されていたのだ。

蓮は食い入るように画面を見つめた。

ーーーこれが、俺????

俄かには信じられない表情だが、目の前の美月相手に本気で惚れているようだ。

ーーー相手の女優に引きづられてるのか?…いや…。違う…これは…。

蓮は足の上で静かに寝息を立てているキョーコを見つめた。
嘉月の気持ちとリンクする。

ーー愛しくて、切ない…。何時の間にか惹かれている…。

過去に囚われ、大切な人を作らないと決めた自分と、秘めるしかない想いを胸に抱いたまま過去に囚われ復讐に生きようとする嘉月。

美月への想いに、キョーコへの想いが重なる。


ドキン ドキン ドキン


蓮はキョーコの顔をジッと見つめる。
愛しくて堪らない。大切で堪らない。
もしかして、この気持ちを人は恋と呼ぶのだろうか?

蓮はほんのりと頬を染めてキョーコの寝顔を見つめていた。




「キョーコちゃん、キョーコちゃん起きて?」

Dark Moonを見終わった蓮が軽くキョーコの肩を揺する。

「んー?…コーン…?」

キョーコはトロンとした目を開けて蓮を見る。

「キョーコちゃん、ここじゃ風邪引くからベッドに…」

言いかけた蓮の首にキョーコが腕を伸ばして、突然抱き着いてきた。

女の子特有の甘い匂いと、柔らかい身体の感触が不意に与えられ蓮は狼狽える。

「んー。コーン。会いたかったよぉ~。」

「…キョーコちゃん…?寝ぼけてる?」

蓮は急にうるさくなった心臓を無視して、平静を装う。

それに構わずすりすりゴロゴロと甘えてくるキョーコに、蓮は抑えが効かなくなり、ソファに組み敷く状態になってしまった。

キョーコの顔を覗き込み、唇をなぞる。
キョーコはスヤスヤとあどけない寝顔を見せている。

今まで沢山女の子達とキスして来たが、こんなに緊張してるのは初めてだった。

心臓が壊れるのではないかと思う程大きな音を立てている。

蓮の喉がゴクリとなる。

ゆっくり顔を近付ける。

すると不意に頭の中にキョーコの姿が浮かんだ。

明るい笑顔、くるくる変わる表情、傷付いた顔、涙をいっぱい瞳に溜めた姿…。

そのどれもが愛おしくて、愛おしくて堪らない。

キョーコだけは傷付けたくない。悲しませたくない。

蓮はギュッとキョーコを力一杯抱き締めた。

キスをするとキョーコを傷付けそうで怖かった。
何故か浮かぶのだ。頭の中にキスをしてしまった後に、キョーコから拒絶された姿が…。

ーーーキョーコちゃんにだけは、嫌われたくない。

蓮は唇の変わりに、キョーコの両方の瞼にキスを落として、抱き締めた。

起きる気配のないキョーコをそっと抱き上げ、寝室に運ぶと蓮は腕にキョーコを抱いたまま静かに目を閉じた。

柔らかい温もりが心地良くて、甘い香りが切なくて、愛しくて…。

蓮はゆっくりと温かな温もりを抱き締めて幸せな眠りについていった。


(続く)

スキビ☆ランキング

*****

※Amebaで2011/12/14に公開した話を若干訂正したものです。
関連記事
前の記事 次の記事