なくした記憶 24

2015年12月23日08:32  なくした記憶/スキビ!《完結》


<このお話は、リクエスト・フリー作品にある、なくした記憶の番外編☆1、2を読んでから読むことをオススメします。>


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なくした記憶 24



「何であんたがここにいるのよ!」

「はぁ?仕事だからに決まってんだろ?!」

キョーコがゲスト出演する番組に向かうと、集合場所に幼馴染の姿があった。

「げ!!ってことは、もしかして、あんたが相手なの?!」

キョーコは心底嫌そうな顔をして尚を見た。

「はっ!有り難く思えよな!天下の不破尚とデート出来るんだからよ!!」

ニヤニヤとした顔の幼馴染に、ため息をこぼす。

「自分で天下のとかつけてるあたり本当にバカよね。」

キョーコはため息を漏らして尚に応えつつ、自分の尚に対する態度に疑問を持っていた。

ーーーあれ??私、ショータローが目の前にいるのに、いつもみたいな憎悪が湧いてこない?何でだろ??

「何だと?!キョーコのくせに馬鹿にすんなよな。」

ーーーまぁ、どーでもいいわ。こんな奴…。

「何でもいいけど、私に迷惑だけはかけないでよね。」

キョーコは尚に興味なさ気な視線を送ると、背を向けてスタッフに挨拶する為にスタスタと歩き出した。
それを慌てた尚が呼び止める。

「おい!待てよ!!」

「何よ?」

うんざりした顔で振り返れば、怪訝な顔をした尚に睨まれた。

「…それだけか?」

「…は??」

「それだけか?って言ってんだよ!!忘れたのかよ?バレンタインのこと…」

キョーコは疑問符を頭に浮かべて、しばらくバレンタインという単語で考えると、ようやく思い出した。

「あぁー…。」

キョーコが思い出してポツリと呟くと、尚はこの後にキョーコが怒り狂う姿を想像して、ニヤリと口角を上げる。

「あれね?すっかり忘れてたわ。あんたも何、くだらないこといつまでも覚えてんのよ?馬鹿じゃないの?」

「は??」

予想外のキョーコの反応に尚は戸惑った。

ーーーえ?何だ?こいつの反応…まるで興味ないみたいな、どうでもいいみたいな反応はよ!!

尚は面白くないという顔でキョーコを見るが、キョーコは、そんな尚にそっけなく背を向けて今度こそスタッフに向かって歩き出した。

番組で決められたデートコースは有名なテーマパーク。

誰もが一度は言ってみたい夢の国。

ーーー何で、こんな奴と来なきゃいけないのよ!!

ーーー何で俺様がこんなところに来なきゃいけないんだよ!!イメージが崩れるだろうが!!

キョーコと尚は互いに心の内で悪態を尽きながら、顔を引き攣らせつつ、何とか無事に撮影を終えた。



番組の収録から数日後、キョーコが夕食を作ってる間、たまたま早く仕事を上がれた蓮は、手持ち無沙汰でテレビを付けていた。

そして、その画面に釘付けになる。

「コーン!お待たせ。ご飯出来たからもう少し待って…て…?!?!」

キョーコは夕食を運びながら蓮に声をかけ、蓮に大魔王が降臨してるのに気付き、慌ててテレビ画面に目を向け絶句した。

そこには、あの日のキョーコと尚のデート番組が映っていたのだ。

リビングの中途半端な位置でテレビを見ながら固まったキョーコ。
画面を睨み付けるように歯を食いしばって見ている蓮。

『おい!キョーコ!もたもたしてんなよ!!早く行くぞ!!』

『ちょっと!!気安く呼ばないでよね!!そんな風に言うなら私もあんたの本名で呼ぶわよ?!不破松…ぷぐぁ!!』

本名を言おうとするキョーコの口を慌てて両手で塞ぐ尚。

本人達にとってみれば、幼馴染との只のけなしあいなのだが、画面を通して見るとどうみても仲良しカップルのじゃれ合いにしか見えない。

『呼ばれたくないなら、ちゃんと番組のルールを守んなさいよね!名前をちゃん付けで呼ぶってことになってんでしょうが!!しっかりしなさいよ!"ショーちゃん"!!』

画面の中のキョーコが噛み付くと、尚は面倒くさそうに呟く。

『だぁってよ!気持ち悪いだろうが!俺がお前を"京子ちゃん"なんざ呼ぶのはよ!』

途端にキョーコの背筋が寒くなる。

『あぁーー!!怖っ!!気持ち悪いわね!!金輪際私の名前を呼ばないで頂戴!!』

二人の息の合った掛け合いに、番組は大盛り上がりである。


「これは…どういうこと…?」

画面の中の和やかな雰囲気とは真逆のおどろおどろしい空気がリビングに広がっていた。

室温が氷点下になるのではないかと思わせる空気を作り出してるのは、蓮である。

「あ、あの…そういう番組…でして…。」

「あいつが相手だったなんて聞いてない…。」

「それは…あの、あいつの名前を出すと、コーンの機嫌が悪くなりそうだからで…。」

蓮の雰囲気に怯えながら、懸命に言葉を絞り出すキョーコ。

蓮がゆっくりと振り返ってのそりと立ち上がるとキョーコに近づく。
キョーコは、そんな蓮の雰囲気に本気で泣きそうになりながら、尚に悪態をつく。

ーーーそれもこれもあんたのせいよ!!ショータロー!!!!あんたは私にとって只の疫病神よー!!!!

キョーコの持ってるトレーがカタカタと音をたてるので、蓮はそっと、キョーコのトレーを手に取りテーブルに乗せた。

「あ…ありがとう…」

「…他に…運ぶ物ある?」

蓮がキョーコから顔を反らして聞くと、キョーコは頷いて、キッチンに小走りで向かう。

蓮も後に続き、夕食を並べると、二人は頂きます。と手を合わせ、重い空気の中、黙々と食べ始めた。

いつもの楽しい夕食が嘘のように重い空気になり、キョーコは寂しくて泣きそうになっていた。


まるで通夜のような夕食を終えて、片付けを終えると、蓮が何も言わずに、手を拭いているキョーコを後ろから抱き締めた。

ギュッと抱きつかれた腕の中で、キョーコの胸は切なさで締め付けられそうだった。

ーーーあぁ、コーンが好き…。ショータローの頃とは比べ物にならないくらい、好きで好きで堪らない。

キョーコも、そっと抱きしめる蓮の腕に手を添える。

キョーコの心が愛しさと切なさで震え、キョーコはポロポロと涙を流した。

蓮はキョーコを抱き締めたまま、腕に力を込めると、絞り出すように言葉を出した。

「ごめん…俺…ヤキモチ妬いた…。」

「え…?」

キョーコは泣きながら蓮の言葉に耳を傾けた。

「キョーコちゃんに怒った訳じゃないよ。只の番組のやらせだってわかってる…だけど、あいつは昔、キョーコちゃんの大好きな王子様だったから…。」

蓮に苦しいくらいに抱きしめられ、キョーコは蓮の様子を気遣った。

「コーン…??」

「嫌だったんだ。キョーコちゃんをまたあいつに取られるんじゃないかって、怖くて…。あいつのキョーコちゃんを見る目が、気に入らない。キョーコって、何の戸惑いもなく呼べるあいつが憎くて堪らない。」

蓮はギリギリと歯ぎしりをした。
吐き出すように言う言葉に、キョーコは蓮の真意を伺う。

「あいつは、キョーコちゃんを今も自分のものだって思ってる。自分からキョーコちゃんを傷付けて捨てた癖にっ!!」

「コーン…私の為に…ショーちゃんに怒ってくれるんだ…。」

「…ショー…ちゃん?何で…?君は、今もその名で呼んでるのか?」

蓮は目を光らせてキョーコから離れて目を覗き込む為にキョーコの身体を自分の方に向けた。

「あいつに…キョーコって呼ばせて、ショーちゃんって呼んでるのか?!」

「え?!こ、コーン?」

「答えて!!あのデートしてから、君の中で憎くて堪らなかったあいつの存在が何か変わったの?!あいつがまた好きになったの?!」

「え?!こ、コーン!!落ち着いて!!そんな訳ない!!私は、あんな奴もう好きになんてならない!!だけど…」

「だけど…何?!」

「私…あいつを見ても、あの撮影の時何も感じなかったの…。憎しみも、恨みも、それどころか、なんの感情も持たなかった。…まるで、只の赤の他人みたいな…。興味が全くなかったの…」

「え…?興味が…?全く?」

蓮が某然と言うと、キョーコも頷いて、蓮をまだ涙の名残のある潤んだ瞳で見上げた。

「私、そんな自分に困惑しながら、どうしてなのかデートの間考えたわ。そして…わかったことがあったの…。私、コーンの前でショーちゃんの話をして思いっきり泣いたことあったでしょ?」

「…うん。俺が記憶をなくして、君とここで暮らすようになってからすぐぐらいだったよね?」

蓮の質問に、キョーコは嬉しそうに微笑んで、蓮に自分から抱き付いた。

「私、あの時の涙はコーンが傷を癒す薬に変えてくれたんだと思ったの。私、あの後から凄くすっきりした気分で過ごせるようになって、ずっと不思議に思ってた。そしてあの撮影の時やっとわかったんだ。きっとあの時、話を聞いて涙を受け止めてくれたコーンのお陰で、私、ショーちゃんへの過去の思いから開放されたんだって。」

ーーー胸に感じる暖かな感情はすべてが、コーンに向かってる。

キョーコが蓮の大きな胸板に顔を埋めて強く抱き締めた。

蓮は、腕の中にある温もりに込み上がる愛しさを抑えることが出来なかった。

蓮もギュッとキョーコを抱き締める。

ーーー愛しくて、愛しくて、堪らない。

二人は抱き締めあったまま、それぞれの胸の中で愛しさの炎を焦がす。

「俺も…キョーコって呼びたい…。」

蓮が緊張して声を震わせながら言葉にする。

キョーコは驚いた目をコーンに向けた。

「…ダメ?」

蓮の強請るような表情にキョーコは真っ赤になりながら、クビを振った。

「嬉しい。ずっと、キョーコって呼びたかったんだ!キョーコ!!キョーコ!!」

蓮が破顔して、何度も何度もキョーコを名前で呼んだ。

キョーコの胸に喜びが広がり、それと同時に恥ずかしくもなって、顔が一気に真っ赤になる。

「私も、コーンに名前を呼ばれるの…嬉しい。…でも、そんなに何度も呼ばれると、恥ずかしいよ。」

キョーコの言葉に蓮はますます破顔する。
愛しさが次から次へと溢れてくる。

「キョーコも、俺を久遠って呼んでくれる??」

「え?コーン…じゃ、なくて??」

「うん。キョーコに呼ばれたいんだ。」

キョーコはモジモジと顔を伏せて何度も言おうと口を開くが、恥ずかしさからか、なかなか呼ぶことが出来ない。

そんなキョーコを蓮が急かす。

「キョーコ。」

甘い甘い声で囁くと、顔を真っ赤にしたキョーコが上目遣いで蓮を見上げた。

可愛い唇がゆっくりと動き、ようやく待ち望んだ音を発した。

「く、久遠…。」

小さくて小さくて、消え入りそうな声だったが、蓮の耳にはしっかりと届いた。

ーーーあぁ、もう止まらない!!好きで堪らない。愛しくて堪らない…。もう、君なしでは生きて行くことさえ難しい…。

蓮の中でキョーコへの想いが爆発寸前まで膨れ上がっていた。


(続く)

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※Amebaで2011/12/23に公開した話を若干訂正したものです。

ちょうど4年前の投稿を追いかけてるような感じになってきました(笑)
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