年越しぼた餅

2016年01月02日09:55  短編(原作寄り)/スキビ!

年越しぼた餅


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ー0…

「年が明けましたよ?明けましておめでとうございます。敦賀さん…。」

心の中で一人カウントダウンをしていた最上キョーコは、小さな声で、ベッドに横たわっている蓮に呼びかけた。

握り締めた熱い手がギュッと握り返される。

「明け、まして…おめでとう。最上さん…」

蓮がカスカスに掠れた声で小さく囁き、そのまま咳き込んだ。

「うっ。ゴホッゴホッ…」

「あっ。大丈夫ですか?」

キョーコは慌てて蓮の背中をさする。

「ん…。ごめ…。」

「いえ、気になさらないでください。」

「でも、折角の年越しが…」

「いいんですよ。私がやりたくてしてるだけなんですから。それに、こんなことでもない限り、こんな風に敦賀さんと二人きりで年を越すことなんて出来なかったでしょうから、私にはとても贅沢な体験なんです。」

「そんなこと…折角君と…んっ。ゴホッゴホッ。」

「あ、無理にしゃべらなくていですから。はい、お水です。飲んでください。」

脇に置いていたペットボトルの蓋を取って手渡せば、蓮は少しだけ身体を起こそうとした。しかし、危なっかしいのでキョーコも少しだけ背中に手を回してサポートをする。
いつもより、近い距離、熱く汗ばんだ逞しい身体、パジャマの上からでも分かる骨付きと筋肉、汗に混じる蓮の香りに自覚した恋心はそんな一つ一つの欠片を拾い集めて勝手にドキドキしてしまう。

「はぁ、はぁ、はぁ…ごめん。」

身体半分、ベッドに乗り上げ、なけなしの胸に抱えるように蓮が身体を起こす補助をしたキョーコに、蓮は情けないよなというように目尻を下げて謝った。

「だから謝らないでくださいってば。敦賀さんはしっかり休んで、治すことに専念していただければいいんです。」

「ん…」

蓮がキョーコの言葉に赤くなりぼーっとした顔で頷きながら、キョーコに身を任せてゆっくりと目を閉じるのを確認して、キョーコはその場を離れるため、そっと蓮を横たわらせて立ち上がろうとしたのだが、その動きは蓮の長い腕に巻きつかれ封じられた。

「きゃ。」

「…どこ…行くの…?」

「あ、えっと、かた、片付けに…」

キョーコはどうしてもカウントダウンと年越しだけは蓮の側で迎えたくて、年越し蕎麦を食べたお腕を台所の流しに下げたまま蓮の寝室に来ていたのだ。
蓮を一人きりで新年を迎えさせたくないなんてのは建前で、本当はキョーコ自身が誰より蓮の側で新年を迎えたかっただけ。

贅沢な年越しを体験した後は、先ほどのお椀を洗って現実に戻らなければならない。

蓮はキョーコの身体に腕を回して巻きついたまま、少し迷うそぶりを見せながら、潤んだ瞳でキョーコを見つめた。

「もう少し、側にいて…」


ーーズッキューーーン!!!!


熱のため潤んだ瞳で、かなり間近で上目遣いにお願いしてくる蓮の可愛さにキョーコのときめきスイッチが押されてしまい、ハートを思い切り撃ち抜かれた。
『敦賀丸』と書かれたダンボールに収まった仔犬が三匹くらい蓮の背後に見えてしまったのだ。

「わ、わかりました。敦賀さんがお休みになるまで、不肖、最上キョーコ!お側にいます!!」

キョーコがこくこくこくと真っ赤な顔で頷いたので蓮はホッとした顔で甘く微笑んだ。

「ありがとう。…最上さん…。」

一瞬、キョーコは、はっ?!まさかこの大勢のまま?!なんて大それたことを思ってしまったが、蓮はキョーコが側にいるという言葉を聞くと、先ほどのように手を握るだけにとどめてくれたようで、身体を解放してくれた。

そのことを少しだけ残念に思っていると、蓮はキョーコを握った手を口元に持って行くと、キョーコの手の甲にちゅっと軽く口付けた。

「はわっ?!な?!ななななな?!」

キョーコの顔が真っ赤になり、頭の火山が爆発した。

「ん…側にいるって約束…」

そして安心したようにそのまま目を閉じて大人しくなった蓮だが、蓮の吐息が直接掛かる位置から手が動かせず、キョーコの赤くなった顔は全く治らない。

ーーーちょっとコレって噂に聞くカップル繋ぎって奴じゃ!!敦賀さんの手が!敦賀さんの唇がぁぁぁ!!私の心臓がぁぁぁぁぁ!!

がっちり押さえられた手はビクともしない。

「ちょ、つ、敦賀さん?!そのまま寝られても…あの…」

「ん…最上さんが側にいると思うと、凄く落ち着く…」

蓮の言葉に深い意味がないことぐらいわかっていても、蓮の唇が時々キョーコの手を掠ることで、キョーコの心臓は煩いくらい暴れていた。

胸がキューンと甘く締め付けられる。

ーーーか、勘違いしたらダメよキョーコ!敦賀さんは風邪ひいてるんだから!風邪ひいてる時は誰だって人恋しいもの!!私だから落ち着くわけじゃないわ!!たまたま!そう!たまたま側にいるのが私だから!!そうよ!!

ドッドッドッと暴れる心臓を押さえつけて、キョーコは自身の勘違いしそうになる思考を無理やり引き剥がす。

そうこうしているうちに、いつもより呼吸の早い蓮が苦しそうに眉を寄せて、眠りについたようだった。
そんな蓮を見て、キョーコは一人呟く。

「敦賀さん、苦しそう…。早く、敦賀さんが元気になれますように。」

蓮の口元に引き寄せられた己の手、簡単に外すことが困難なほどがっちり掴まれたその手の反対側には蓮の手の甲があった。
キョーコはそっと、先ほどの蓮の行動を真似るようにその蓮の手の甲に顔を近付け、蓮の回復への願いを込めながら控え目にちゅっと口付けた。

手越に蓮とキスをしてるようなその状態にキョーコは一瞬真っ赤になったが、すぐに申し訳なさそうに顔を曇らせた。

「謝るのは、私の方です。ズルくてごめんなさい。敦賀さんが早く良くなることを願いながら、この時間が少しでも長く続くことを願ってしまう。貴方が苦しんでるのがわかっていながら、こんな風に一緒に新年を迎えることが出来たことに、喜びを感じてるんです。あの時、楽屋の側を通りかかったのが私で良かったって、偶然居合わせることが出来た自分の幸運に心の中でガッツポーズまでしちゃったんですから…」

年末にかけて詰め込まれるように忙しさに拍車が掛かった人気俳優の敦賀蓮。
抱かれたい男ナンバー1なんて世間で騒がれている彼をテレビの画面越しに見ていた時は、ただの顔だけ俳優だと馬鹿にしていた。
顔じゃなくて頭が小さいのだと、脳みそなんてサイコロ大などと今思えば大変失礼なことさえ平気で言ってのけていた。

だけど、蓮と出会い、共に過ごす時間が増え、様々な出来事を経験して、蓮の演技に賭ける思いや、情熱。自分自身に一切の妥協を許さない姿に、心が奪われた。
自分自身を律し、誰にも頼らず、己の恋心すら自ら封じて、大切な人は作れないと自ら孤独を選んで戦う蓮。
きっと蓮には深い深い誰にも手の届かない闇がある。それがわかっていながらも自分にできることがあれば…なんておこがましくも思ってしまう。

だから、年末最後の仕事を終えた蓮が楽屋で倒れて、蓮のマネージャーである社の慌てた声を楽屋の外で聞いた時、キョーコは蓮の楽屋に自ら飛び込んだ。

社に申し訳なさそうに、頭を下げられても、申し訳ないなんてとんでもなく、寧ろ自分にはもったいないことなんだと、棚から牡丹餅状態なんだと心の中で思いながら、蓮の看病の一切を請け負いマンションに乗り込んだのだ。

年越しを一緒に過ごす予定だった下宿先であるだるま屋の大将と女将さんに事情を話し、そして一緒に過ごせるはずじゃなかった蓮と過ごす。

なんて贅沢。
きっとこんなことは一生に一度きり。
来年も再来年もなんて、そんな大それたことは思えないけど、せめて今だけ…。
今だけ側にいさせてほしい。
蓮が元気になるまでで構わないから…。

そんな風に思いながら、浅ましい恋心を戒める。叶うはずのない恋だと、雲の上の人なのだということは重々承知だ。

だけど、たまに食の細い蓮のために料理を作りに来たり、演技の練習に付き合ってもらったり、演技のアドバイスをもらったり、カインとセツカ兄妹として社長命令でホテルで一緒に寝泊まりしたりと、そんなことが重なっているので少しだけ勘違いしてしまってるだけなのだ。
この先輩と後輩としての距離の近さに。

一年以上前になるが、誕生日になった瞬間に蓮から手渡された薔薇一輪だって、深い意味なんてない。
バレンタインにされたほっぺにチューだって…。
だって蓮は優しい人だから。後輩を蔑ろに出来ないだけ。
それがわかっていながら、強く拒否されるはずがないこともわかった上で後輩であることを盾にして、こんな風に看病することを自ら立候補した自分はとてもズルくて滑稽だ。

それでも…

「貴方が…好きです…。」

自覚した恋心は繋がれた手のぬくもりから、直接手の甲に掛かる温かい吐息に呼応するようにキョーコの体を駆け抜けて、発するはずのなかった言葉がうっかり口から溢れ出ていた。

「とっても…好き…大好き。」

口にするだけで、禁断の媚薬のように胸がドキドキして張り裂けそうになる魔法の言葉。
幼馴染だった男に何度も口にした言葉だったはずなのに、あの時と今では、その言葉に込めた気持ちは月とスッポン以上の差があった。

「敦賀さんと一緒に居られる時間が今年も少しでも長くありますように…。」

口から出てくる思いは、決して本人には知られてはいけない思いばかり。
手を隔てただけのこの距離で顔を見つめることだって普段であればそうそう無い。


「貴方とこうして手を繋いで年を越せたのが私であることが、なにより幸せです。」

恋人でもないくせになんて笑われたって構わない。
この今の時間は夢ではなく事実起こってることなのだ。きっとこれからの私の人生の宝物で心の支えになるのだから。

墓まで持っていくと誓った思いを込めて…

「今年も、どうか…」

続く言葉はキョーコから紡がれることはなく、そのままスゥッと眠りに落ちた。

キョーコの瞼が落ち、手から力が抜けるのと同時に、蓮の目がゆっくりと開いた。

目の前のキョーコを霞んだ目でボーッと見つめる。
今聞いた言葉は全て真実なのだろうか…?

「うっ…」

ゴホッ…と出そうになる咳を必死で留めた。
目の前で眠るただ一人焦がれる少女を起こしたくなかったから。
きっと咳一つで簡単に飛び起きて後輩としての看病のためにせっせと動き出すだろう。

ボーッと間近で目を閉じるキョーコを眺める。

昨年は一年で色んなことがあった。
キョーコとの時間は全てが輝いていて幸せに満ちていた。
先ほどの言葉は聞き違いや夢でなければ、キョーコは確かに己のことを好きだと言ったはずだ。

今、風邪など引いてなければ…。キョーコを抱きしめ、キスすることだって出来だだろう。

そんな風に思いながらも、風邪を引いたおかげで年末年始のこの時期に恋人でも無いキョーコを捕まえることが出来たのだという自覚はあるので贅沢な想いだとわかる。
風邪を理由に、キョーコに伸ばし触れた手。幸運にも振りはらわれることなく繋いだまま一緒に迎えることが出来た新年。
幸せだと微笑みながら言いたかった言葉も、甘い言葉も咳に邪魔され、いうことは叶わなかったけれど、今こうしてキョーコの時間を独り占めして過ごすことが出来ているという現実。
それだけでも十分すぎるくらい幸せなのに、先ほど勝手に耳に入ってきたキョーコの想い。

きっと聞いてるだろうと思ってなかったであろう言葉達。

「さて…どうしたものか…」

ジワジワと胸に広がる温かい気持ち。
甘く苦しいほどの愛おしさが溢れてくる。

手越にあるキョーコの顔、この手を下げてしまえば、あの可愛い言葉を紡いだ唇も現れるだろう。
そしてキスをすることだって容易に違いない。
だけど、愛しい少女にこの風邪を移してしまうのは本意では無いから…。

だけど、ちょっとだけ抱きしめたいもう少しだけぬくもりを感じたいという欲求も抑えられないくらい膨らんでいた。

「も、がみさ、最上さん…?」

小さな掠れ声でこっそりと呼びかけながら少しだけ握った手に力を加えれば、夢の世界を漂っていたキョーコがボーッと目を開けた。

「ん…。」

「そんなところで、寝たら風邪引いちゃうから…」

布団をそっと捲り、完全に目覚めてはいない少女を呼び寄せる。

「ほら、おいで…」

ちょっとした賭けだった。
これで彼女が覚醒するか、それとも…

もぞりと動いた彼女が寝ぼけたままよじよじとベッドに登ってきた。

蓮は目を見開いた。
今年はついてる。おみくじを引けばきっと大吉と出るだろう。
賭けに勝ったのだ。
新年早々、こんな幸福が訪れるとは…。

「うん…あったかい。」

その身体を宝物のようにそっと抱きしめて目を閉じる。
キョーコの温もりが特効薬とでもいうように、風邪の苦しさが嘘みたいになくなっていく気がするから不思議だ。
蓮の首元あたりに、キョーコの寝息が吹きかかる。愛しさが込み上げ、つい抱きしめる腕にも力がこもる。
キョーコの頭を己の腕に乗せて抱きしめ、胸いっぱいにキョーコの匂いを吸い込み、キョーコのつむじにキスを落とした。


朝の目覚ましは、最上さんの大絶叫かな?
そんな風に思いながら、蓮は愛しい少女のぬくもりを胸に抱いてキョーコのいる夢の世界へ飛び立った。

ーーー昨年は、色々ありがとう。今年も色々とよろしくね…?最上さん。

心の中で言葉にできなかった新年の挨拶を贈りながら…。


END

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*****


…ということで、いきなりお話書いちゃいましたが、改めまして…

あけましておめでとうございます!!

いやー。実はこの蓮様と同じく風月も、年越しを風邪っぴきで迎えてしまいまして、蓮様ほど重症ではないですが、喉と鼻がやられました…!
皆様もお気をつけください。

そして同じように風邪っぴきの方がいたら、早く良くなりますように♪
風月も早く治します!
なんて言いながら今日は昼過ぎからお仕事復帰です!声出るかなぁ〜?なんて思いつつ頑張ります!
3日間、あっという間のお休みでした(笑)



さてさて、そんな雑談は置いといて、昨年は色々とありがとうございました!!
10月頃から突然の復帰を迎えることが出来たのは広く温かい心でコメントや拍手、メッセージで出迎えて下さった皆さんのお陰です。
心から感謝申し上げます。

そして怒涛のアップをしたり、更新しなかったりとなんとも計画性がない当ブログではありますが、お越しいただき本当にありがとうございます。
楽しんでます!という言葉を頂けるのが何よりのご褒美でございます!

今年も相変わらずの不定期更新になると思っている風月ですが、今年も変わらずどうぞよろしくお願いします。
勿論、ピグでも♪

なくした記憶は今年中に完結目標です。

そしてそのあと、恋の季節はに取り掛かろうと思います。
↑多分、移行作業は孤独との戦いなので、エネルギー切れで飽きたときは途中に短編がちょいちょい生まれる予想です。
そんなときは温かいメッセージ頂けたらまた頑張れると思います(笑)
↑コメントないと頑張れないとかどんだけ(笑)…本当、ここまでやってこれてるのも皆さんのお陰だとつくづく感じます。
応援の力は偉大です!!感謝!!

※5話以上の長編は、せめてなくした記憶完結までは我慢する予定です。
出来れば恋の季節は完結まで保ちこたえたいけど、そこはどうなるかわかりません(笑)
たまーに、今年もぶっ飛んだ頭壊れたようなお話が生まれるかもしれませんが、基本的には甘〜いお話が書けるよう頑張ります!

それでは、今年一年が皆様にとってハッピーな年になりますように♪


風月
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