My HOME-6-

2015年10月20日13:59  My HOME/スキビ!《完結》

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

My HOME-6-


「もぅ、早いなら早いって言ってくださればいいのに…」

キョーコはテレビ局の廊下を歩きながら、そんなことをぼやいていた。

いつも通り目覚ましより少し早起きしたキョーコは、リビングのテーブルの上にメモを見つけた。

『最上さんへ。おはよう。今日はもう出かけるから弁当のことは気にしなくていいよ。たまにはゆっくり休んで。その代わり晩御飯を楽しみにしてるよ。蓮』

まだ携帯に表示されている時間を見ても5時になったばかりだ。
そんなに早くから撮影だとは聞いていなかったので、一言くらい言ってくれたらよかったのにと思ってしまう。
知っていたら昨夜は絶対に片付けまで手伝ってもらわなかっただろう。

朝早い呼び出しというのは、この業界では珍しいことではない。
キョーコとて、夜中の2時に現場入りしたことがあるくらいだ。
その時は流石にタクシーを使わせてもらったが、人が少ない時間帯は撮影には打って付けなのだ。
照明を当てれば深夜でも朝にも昼にもなる。
外だけでなくビルのロビーや駅の構内を借りて撮影することもあるので、出勤する人が出る前に撮影を終わらせるためだ。

急いで蓮のマネージャーである社に連絡をしてみれば、今日は1時から現場入りをしているということが分かった。
出番のない間は楽屋でちょこちょこ仮眠をとりながら撮影をこなしているらしい。
その後のスケジュールまで細かく聞き出して、お弁当の話をすればそんなに無理しなくていいよ。と言われたのだが、やはりこれはここに置いてもらうための条件なので!と譲らない。
本音は、蓮に朝に会えなかった分、少しでも会いたいという気持ちもあった。
なんとか食い下がることに成功したキョーコは、10時頃に蓮の楽屋へお弁当を持って行くという約束を取り付けたのだった。
ちょうど10時~13時に仮眠時間としてスケジュールを開けているらしいのでその時間に届ける予定となっている。
睡眠はキチンととって欲しいが、栄養も疎かにはして欲しくないため、なんとか社も説得できた。

「それにしても1時だなんて…。昨日帰り着いたのが早かったとはいえ、寝たの確か0時過ぎてたんじゃないかしら?」

蓮の楽屋へ向かいながら昨夜の蓮に思いを馳せる。
そうと知っていれば、ソファで寝ている蓮を起こしたりしなかったのにとも思う。もしかしたら、寝らずに現場に向かったのかもしれない。
そう考えると申し訳なさでいっぱいになった。


思っていたよりも早く着いてしまい、時間が出来てしまったキョーコが社に連絡を取ると、スタジオの場所を教えてもらえたので演技の勉強の為見学をさせてもらえることになった。

そっと中を覗き込めば、社が気付き手招きしてくれたのでいそいそと近付く。
丁度、蓮は本番中でスポットライトの当たる場所に立っていた。
役柄によって変わる衣装と髪型、そんな格好も素敵だわとキョーコはぽわんとした顔で見惚れる。

キョーコがそんな目でみつめているとは知らない蓮は、共演中の女優と何やら言い合いをしていた。恐らくそんなシーンの撮影中なのだろう、するとキョーコの目の前で蓮が徐に女優の手を引きギュッと抱き締めた。

それを見た瞬間、キョーコの心臓が大きく跳ねて凍りついた。

ーーードクンドクンドクン。

目の前の光景がキョーコの目に焼きつく。
愛おしそうに女性の頭に顔を埋める蓮、それを受けて女性の方も戸惑いがちに蓮の背中に手を伸ばし、ギュッとしがみついた。
目を見開いてその光景を見ていたキョーコが、何か言いたげに口を開きかけた時、カーーットという監督の声が響いた。

キョーコの意識がハッと覚醒した。

嫌な汗がキョーコの背中を伝う。
演技だとわかっていたはずなのに、キョーコの胸が苦しくてたまらなくなってしまった。

監督の声を受けて女優から離れようととした蓮だったが、女優がよろけたため、慌てて抱きとめる。
ふわりと舞う髪、細くてしなやかな手が、蓮の腕に添えられる。自分なんて足元にも及ばないくらい綺麗な女優さんだと思った。そしてそんな彼女と蓮がお似合いであるとも思えてしまう。
慌てて抱きとめた蓮と、それに対して素の様子の女優が頬を染めて恥ずかしがりながらも、楽しげに会話を交わすのを見て、キョーコの目が段々と冷えて行くのがわかった。

胸の中がムカムカする。
そんな気持ちで見つめていた時に蓮が不意にこちらを向いたのでキョーコと蓮の目が合った。
目を見開く蓮が口を開こうとした瞬間、女優に話しかけられたらしく、蓮の意識がそちらに向けられた。
キョーコは蓮が笑顔で返事を返している光景をこれ以上見たくなくて視線を逸らし、帰る為にバッグを引っ付かむと座っていたパイプ椅子から立ち上がった。

「あれ?キョーコちゃん?」

「…ごめんなさい、社さん。私…帰ります。」

「え?もう?何で?どうしたの?」

「ごめんなさい。お疲れ様でした。」

ぺこりと頭を下げてくるりと背を向けて足早に立ち去ろうとした時、いつの間に近くに来たのか蓮に呼び止められた。

「最上さん?もう帰るの?」

突然呼び止められた為驚いたが、後輩としてキチンと挨拶だけは返そうと蓮の方を向いた。

「…はい。お疲れ様でした。敦賀さん、撮影頑張ってください。」

「え…でも、何で?」

「いえ、たまたま近くに用があったので少し寄ってみただけですから、気になさらないでください。では…」

「ちょっ!待ってくれ!最上さん!!」

目も合わさないキョーコを不審に思ったのか、蓮はガシッとキョーコの手を掴んだ。

「………離してくださいませんか?」

「…嫌だ。」

蓮の返答にキョーコはキュッと唇を引き結ぶ。
今はどうしても素直になれない。そんな気分だ。

「敦賀…さんは…」

「敦賀さん!」

キョーコが何か言いかけた時、蓮の後ろから先ほどの女優が弾んだ声で話しかけてきた。
キョーコがピクリと反応する。

「何…かな?麻沙子ちゃん。」

「あの、敦賀さん今から休憩ですよね?前に約束してたお弁当作ってきたんです!良かったら召し上がってください!」

「え…約束?」

「はい!!あ、覚えてませんか?」

「…ごめん。」

「いえいえ、まぁ普段からあまり食べられないと聞いていたので少なめに作ってきました!良ければ摘まむだけでも。」

「…それは、わざわざ…ありがとう。」

「はい!あ、じゃあ私は撮影の続きに戻りますので…あ、ここに置いて行きますね!」

「あぁ…うん。」

弁当を近くの台においた麻沙子と呼ばれた女優はそのまま行ってしまった。

残された蓮は恐る恐るキョーコを見た。何故かキョーコが密かに怒ってるように感じたのだ。

「あの…最上、さん?」

キョーコは一瞬ギンッとした目で蓮を睨んだあと、不自然なほどニッコリと微笑んだ。

「良かったですね?敦賀さん。」

「え…あの、最上さん?」

蓮はキョーコの様子にたじろいで腕を掴んでいた手を離していた。

「あぁー!そうでした!こちらに来た一番大事な用事を忘れてました!」

キョーコは今気付いたとばかりに大声を上げて蓮を無視して社の元へと向かった。

「社さん!!」

「え…?!俺?!」

突然矛先を向けられて驚いた社が声を上げる。

「私、今日は社さんの為に作ったお弁当をお届けに来たんでした!」

「へ?!」

「社さんにどうしても食べて欲しくって…」

「ええぇ?!いや、あの、キョーコちゃん…?」

キョーコの背後では闇の国の蓮さんが顔を出していたので社は恐れ慄いた。
キョーコは蓮の様子に気付かないのか、紙袋の中をガサゴソと漁ると、丁寧に風呂敷に包まれたお弁当箱を社に一つ差し出して微笑んだ。

「良かったら召し上がってくださいね?そして丁度良かったです。今日は敦賀さんの分のお弁当をついでに作るのを忘れてきてしまったのでどうお詫びしようかと思ってたんですが、ちゃんと作ってくれる方がいたんですね!」

「ええぇ?!キョ、キョーコちゃん?!」

ーーーこここここ困るよぉ~!!そんな態度とられたらぁぁぁぁ!!!!

社は内心で大絶叫を発していた。

「それじゃあ、私はこれで。」

有無を言わさぬニッコリ笑顔でキョーコはその場を後にした。
緊迫した空気がマネージャーと担当俳優の間に張り詰める。

手渡されたお弁当が社には時限爆弾だと勘違いしそうになるほどだった。

静かに背中に怒りを燻らせながら、暫く動けなかった蓮がニッコリと微笑んで社に向き直った。

「良かったですね?社…さん?」

「ひぇっ?!」

ーーー目ぇ!!目が笑ってないからぁぁぁぁ!!!!

社は一人真っ青な顔でガタガタと震えていたのだった。




「はぁぁ…」

キョーコは一人トボトボと帰り道を歩いていた。渡し損ねたお弁当箱にため息が漏れる。

「なんで、あんな態度取っちゃったんだろ…。」

衝動的な自分の行動に嫌気が差す。

「敦賀さんがモテるのは今に始まったことじゃないのに…。」

そう思いながら先ほどの出来事を思い出すとまたもや込み上げてくるジリジリとした胸が妬けるような痛み。
キョーコは唇を噛んで胸の苦しくなった部分でぎゅっと握り拳を作る。
明らかにお似合いの二人の抱き合う姿が胸の奥に突っかかる。

「バカみたい…私なんて…敵うはずないのに…。」

一緒に暮らしているからと、自分が特別になれたような気がしていた。
そんなはずあるわけがなかったんだと、じわっとキョーコの目に涙が浮かぶ。

「うぅ…ひっく。うぅぅー。」

キョーコの目から涙がポロリと零れそうになった瞬間、携帯電話が音を立てて震え始めた。
ビックリしたキョーコが慌てて涙を拭い、発信者も見らずに通話ボタンを押す。

「は、はいっ!最上です!」

『…俺…だけど…』

「っ?!つ、敦賀さんっ?!」

キョーコは電話機の向こうから聞こえた美声にビックリし過ぎて、携帯電話を取り落としそうになった。

『ゴメン…。どうしても最上さんがなんであんなに怒ったのかわからなくって…』

「え…?」

『俺が何か怒らせることしたんだよね?だったら謝りたくて…だけど原因がわからないから教えて欲しいんだ。』

「………それ…で、電話してきたんですか?」

『あ、ごめん。本当は自分で気付くべきことなんだろうけど、でも、どうしてもわからなくて…』

狼狽えている蓮の声に、キョーコの沈んでいた心が嘘のように浮上した。
何だか、くすぐったくて暖かい感情が芽生えてくる。

「怒ってなんて…ないですよ。」

『え…?』

「怒ったんじゃ…ないんです。」

『なら…何で?』

「敦賀さん、今どこですか?」

『え?楽屋…だけど…』

「今から行っても…いいですか?」

『え?うん…まぁ、いいけど…。』

「じゃあ、今から伺いますね!」

『うん。わかった。じゃあ待ってる。』

ホッとしたような蓮の声に、柔らかな気持ちになる。
キョーコは今度こそちゃんと素直にお弁当を渡そうと、蓮の楽屋へ向かって一直線に駆け出したのだった。



ーーーコンコン。

キョーコがノックをすると、内側から扉が開いて社が出迎えてくれた。

「キョーコちゃん!!戻ってきてくれたんだねぇぇ!!」

社はキョーコの姿をその目にとめて、エグエグと涙を流した。
お弁当を食べていた蓮が箸を置いてキョーコに笑顔を見せた。

「最上さん。おかえり。」

「それ…。」

蓮が食べている弁当が、キョーコが社に渡したものだったことにキョーコはすぐに気付いた。
そして、麻沙子が作ってきた弁当も中途半端に食べかけの状態で蓮の正面の席にあることから、社が代わりに食べていたことにも気付いた。

「え?あ、あぁ…。やっぱり、最上さんの料理の方が好きだなって…。」

蓮はポリポリと頬を掻きながら罰が悪そうに言った。

「ごめん。これ、君が社さんの為に作ったものなのに…。」

「麻沙子さんのは、召し上がらなかったんですか?」

「いや、少しは食べたよ?一応ね。だけど、なんか物足りないというか、味付けが…ちょっと…やっぱり最上さんのが食べたくなって…。」

「それで、社さんのと?」

「うん…。」

「…………。」

キョーコが返事を返さなかったので、蓮はチラリとキョーコを盗み見た。
呆然とこちらを見てるキョーコに冷や汗をかく。

ーーーやはり、まずかっただろうか?自分の為に女性が作ってくれた料理を食べないというのは…。

と、蓮が思いかけた時、キョーコはカァァと顔を赤らめて、ポロリと涙を零した。

「え?!最上さん?!」

蓮が驚いて声をかけると、キョーコはハッとして慌てて蓮に背を向けた。

ポロポロと零れる涙を隠すように手で顔を覆う。

蓮が立ち上がり、キョーコに近付くと後ろからキョーコの顔を覗き込んだ。

「最上さん?どうした?」

キョーコはブンブンと顔を振る。
嗚咽を抑えて静かに涙を流すキョーコの手を引き蓮はたまらずに抱きしめていた。

「ごめん。どうしたの?俺が社さんのお弁当を食べてたのが嫌だった?」

キョーコは首を振って否定した。

「じゃあ、嬉しかった?」

キョーコはコクンと頷いた。
共演女優の作ったものよりも、自分の作ったものを選んでくれたことが嬉しくてたまらなかったのだ。

「良かった。」

蓮はそう言って、安心したように息を吐くと、キョーコを抱き締める腕に力を込めた。
先ほどのシーンのように蓮が愛おしそうにキョーコの髪に顔を埋めた。
頭に優しく長いキスを落として、キョーコが泣き止むまで、背中をぽんぽんとあやすように叩く。

社が入り口でザラザラと砂を吐いていることにも気付かない二人はそのままの体制でキョーコが落ち着くまで佇んでいるのだった。


(続く)


スキビ☆ランキング
↑↑↑
参加してます☆ポチッと応援よろしくお願いします♪

*****


キョーコちゃん、ヤキモチ妬くの巻き~♪
関連記事
前の記事 次の記事