なくした記憶 25

2016年01月11日23:04  なくした記憶/スキビ!《完結》

なくした記憶 25



「く、久遠…」

愛しい人に呼ばれる名前。

小さな声で、恥ずかしそうに頬を染め、目を不安気に揺らしながらもしっかりと上目遣いで俺の目を見つめて呼ぶ君。


愛しくて、愛しくて、大切で守りたくて…。

ずっと側にいて欲しくて…。

誰よりも、その瞳に俺を映したい。


「キョーコ…」

蓮はそっとキョーコの頬を片手で包み込むと、吸い込まれるように唇を重ねた。

甘くて、優しくて、幸せなキスーーー

蓮がキョーコに唇を重ねれば、甘い痺れと言い表せない程の喜びが蓮の全身を駆け巡った。

もう、このまま死んでも構わない。そう思えてしまう程、幸せで堪らない。

愛しくて愛しくて堪らない。

可愛くて、誰よりも魅力的で、健気で、何事にも一生懸命で、一緒にいると暖かくて、明るい笑顔と、柔らかくて甘い声を独り占めにしたくて、この腕の中の温もりをいつまでも感じていたい。

この甘い唇も、誰にも渡せない。

蓮は優しく、優しく…と理性を総動員させながらも、段々とキスを深めていく。

甘く、蕩けるようなキスを繰り返す。

まるで極楽浄土にいるのではないかと錯覚してしまう程の幸せを蓮は感じていた。


キョーコも、蓮の優しいキスに湧き上がる恋しさと狂おしいほどの愛おしさを感じたが、それと同時に切なさと、後ろめたさ、自分自身の身勝手な浅ましさを感じていた。

愛おしい程に切なくて、苦しくて悲しい。

幸せのはずの優しいキスが苦しくてたまらない。



蓮が唇を離すとキョーコが目を閉じたまま、静かに涙を流していた。

「キョ、キョーコちゃん?」

驚いた蓮は思わずいつも通りの呼び名でキョーコを呼ぶ。
蓮が呼びかけてもキョーコの涙は止まらない。

「ごめん…。嫌、だった…?」

蓮はキョーコの反応を見て、今のキスが幸せだと感じてたのが自分だけだったのかと、悲しい気持ちで聞いたのだが、キョーコは涙を流しながらも、ブンブンと首を振った。

「ちがっ…違う…の!ごめ、ごめん…なさい!!」

キョーコがポロポロポロポロ涙を流すので、蓮はそっとキョーコを包み込む様に抱き締めた。

「じゃあ、どうして泣くの?」

「コーンは、悪くないの!私は…ずるいの…。自分が『キョーコちゃん』であることを利用して、コーンを、縛り付けてるの…私、私は…」

「キョーコ?」

「私は、知ってるのに…!知らないフリして…そしたら、コーンの一番側にいられるって思ったの。ごめ、なさい!…ずっと黙っててごめんなさい!騙しててごめんなさい!!…でも、ずっと言えなかったの…貴方のことが何時の間にか凄く好きになってて、嫌われるのが怖くて…突き放されるのが怖くて…コーンが離れて行くのが怖くて…ずっとずっと言えなかったの!!知ってたのに!!本当はずっと知ってたのに!!」

「キョーコ、落ち着いて。…何を知ってたの?そんな傷付いた顔で泣かないで…。」

蓮はキョーコの頭を包み込むと、胸に抱え込む様に抱き締めた。

「ごめんなさい!黙っててごめんなさい。」

「うん。大丈夫だから…怒らないから言って?何を黙ってたの…?」

「…貴方には、敦賀さんには、好きな人がいるんです!!記憶をなくす前の敦賀さんには、ずっとずっと、好きで堪らない人がいるんです。自分の気持ちを抑え込まなきゃいけないくらい好きな人がいるんです!!」

蓮は頭を鈍器で思いっきり殴られた様な衝撃を受けた。

「え?…好きな、人…?キョーコちゃん…以外に?」

キョーコは力強くブンブンと頷いた。

「はい…。知ってるんです!敦賀さんがどれ程その子のことを大切に想っていたのかも、その子のことでとっても悩んでいたことも…。知ってたのにっ…!」

キョーコはその場に泣き崩れた。

蓮は己の足元に崩れ落ちて泣き続けるキョーコを、ただ茫然と見つめることしか出来なかった。

*
*
*

「少しは落ち着いた?」

キョーコはソファで蓮の入れたココアを飲んでいた。

蓮はキョーコの隣に腰掛けると、キョーコの肩を抱き寄せた。
キョーコはそんな蓮の肩に頭を預けるようにしながら答える。

「うん。ありがとうコーン…。」

2人は寄り添うようにソファに座った。

「キョーコ…ちゃんは、敦賀蓮に好きな人がいるなんて、誰から聞いたの?」

蓮が心底不思議そうに尋ねた。

「敦賀さん本人の口から…。私は貴方から恋愛相談受けてたんです。」

「俺の好きな相手は…誰?」

「そこまでは…ごめんなさい。聞いてないの。」

キョーコはしゅんとしながら答えた。

「そっか…」

いくらなんでも本人相手に恋愛相談したりはしないだろうから、キョーコの言うように自分には、人に相談せずにはいられないくらいキョーコではない好きな人がいたのだろうということは理解できた。

ーーーだけど…俺に好きな人…?キョーコちゃん以外に????

コーンである蓮はどうしてもそれが信じらず、歯を食いしばった。

押し黙ったままの蓮を見て、キョーコは口を開いた。

「ごめんね…コーン。ずっと…黙ってて…。」

そんなこと言うキョーコに、蓮は寂しそうに微笑んだ。

「ずっと、何も知らないフリして黙ってくれてても良かったのに…。」

蓮は複雑な思いを呟く。

「そんな…!…でも、最初はそうしようと思ったの…。けど、耐えられなかった。騙してるみたいで…私…。ズルいことしてるって思ったの。」

「本当に、キョーコは変なところまで素直なんだから…。」

蓮は愛おしそうにキョーコの頭を撫でた。

「コーン…。嫌いに…ならないで…。」

キョーコが潤んだ瞳で蓮を見つめ、蓮はキョーコを抱き締めた。

「嫌いになんて…なれるわけない。…あいつが…記憶をなくす前の俺が、誰を好きだったかなんて知らないけど、今の俺が好きなのは、誰がなんと言おうとキョーコだよ。」

そういいながら、蓮はキョーコの髪にキスをした。

「ありがとう。ありがとうコーン!…私も…く、久遠がすき…。好きなの…。」

キョーコは蓮の胸に身を任せ、静かに瞳を閉じた。

「ずっと、記憶を取り戻さないとって焦ってた。記憶を取り戻したいとも思ってた…。だけど、もし本当に記憶をなくす前にキョーコ以外の好きな人がいたのが本当なら…。俺はそんな気持ちいらない。ずっと、キョーコと一緒にいたい…。」

「…コーン!ありがとう。だけど、ダメだよそんなの…。私は、久遠にも敦賀さんにも幸せになってもらいたいの。敦賀さんの足枷になりたいわけじゃない。」

「そんな…それじゃあ俺はどうしたら…」

ーー記憶なんていらない。

ーーキョーコちゃんを好きではない記憶なんていらない。

もしも、記憶が戻ったら今のキョーコへの想いは何処に行くのだろうか?

キョーコだけは傷つけたくない。

だけど、記憶を取り戻したらきっと傷つけることになる。

キョーコは優しいから、自分の傷は隠して、好きな相手がわかったら、平気なフリをして身を引くだろう。

もう既にこの温もりから手が離せないと思ってるのに…?

蓮はキョーコを抱きしめる腕に力を込めた。

どうしようもない愛しさと切なさが2人の胸を焦がす。

2人はただ報われない想いを胸に、途方に暮れて、ただ互いの温もりを感じていた。


(続く)

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途中呼び方がコロコロ変わってるのは、お互いに呼び慣れてないので、たまに無意識で今まで通り呼んでるのです。

一応意図して変えてるので、間違いではありませんよー(=´∀`)人(´∀`=)
突っ込まれそうだったので、先にいってみました(笑)

こんな状態になっても、蓮の好きな人を誤解したままのキョーコ。
これからどうなるやら…。


※Amebaで2011/12/24に公開した話を若干訂正したものです。
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