なくした記憶 26

2016年01月12日23:45  なくした記憶/スキビ!《完結》

なくした記憶 26



お互いの想いを知った日から、蓮とキョーコは何となくギクシャクした関係になっていた。

今の蓮とキョーコが両想いなのはわかったのだが、肝心の記憶を失う前の蓮の好きな人がわからないのだ。

だから、二人はお互いにどう接したら良いのかわからなくなっていた。

例え、今想い合っていたとしても、記憶が戻った時にキョーコ以外に好きな人がいるということになったら、蓮はキョーコを深く傷付けてしまうことになるだろう。
それが、どうしても今の蓮には許せないのだ。

キョーコはキョーコで、蓮の本当に好きな人へ遠慮をしている節があり、今自分が蓮の側にいることで、その相手と蓮との関係を崩してるのではないかということに不安を抱いていた。

蓮の想い人と蓮が両想いだった場合に、自分という存在が蓮にとって邪魔になってしまうのではないかと言うことがキョーコにはとても怖かったのだ。


撮影の待ち時間、台本に目を通しつつも、キョーコのことを考えていた蓮が、楽屋で大きなため息を付くと同時に、社が電話を終えて戻ってきた。

「ん?どうしたんだ?蓮…何か悩み事か?」

「社さん…。はぁ…まぁ。」

「何だよ?歯切れ悪いな。言えないことか?」

「いぇ、あの、社さん…社さんはその…知ってますか?俺が…誰を好きだったか、とか…。」

「はぁ?!どういうことだ?」

「俺の好きな人は……誰だったんですかね?」

蓮の深刻そうな言葉に、社は戸惑うが、思い付く蓮の好きな人は、どう頭を捻っても一人しか出てこない。

「キョーコちゃん…だろ?」

何当たり前の事聞いてるんだ?という気持ちで答えたのだが…。

「いえ、そうではなくて…」

蓮からの返答は、それを否定する。

「は??」

訳がわからず混乱する社だが、蓮は深くため息を吐いて、「何でもないです。気にしないで下さい。」と、その話を終わらせた。

ーーーやっぱり、社さんにも言ってないんだ。キョーコちゃんだからこそ、心を開いて相談が出来たのかな?

蓮は記憶をなくす前の自分の行動を思い浮かべ、どうしても苛立ちを抑えられなかった。

ーーーどうして、キョーコちゃんに相談なんかしたんだ!!自分の中でだけ留めておけば、こんなことにはならなかったのにっ!!

蓮は、唇をグッと噛み締めると、また大きく溜息を吐きながらその考えに首を振って否定した。

ーーーまぁ、どっちみちキョーコちゃん以外の好きな人がいたことに変わりはないんだ。相談してたお陰で、キョーコちゃんを傷付けずに済んだ。と、思うべきなんだろうか…。

そんな風に、一人百面相を始めた蓮を見て、社は驚き固まっていた。

ーーーキョーコちゃんと、蓮って、もしかして同類?!キョーコちゃんも見てて飽きない面白い子だと思ってたけど、蓮も実は同じタイプなのか?!全然違うようにみえて、根本的な部分で似たところがあるのかな?

真剣に悩んでいる蓮を眺めて、社は一人、にやけてしまう。

ーーーぷぷ。蓮も見てて充分面白いやつだったんだな。キョーコちゃんを見てるみたいだ。一緒にいる時間が長いから似てくるのか??

社がニヤニヤしながらみてると、バッチリと蓮と目が合った。


見つめあった二人は、一瞬時が止まったように固まる。

社が、『あ…』と思う頃には、二人の表情は、全く真逆の表情を浮かべていた。

蓮には大魔王が降臨し、それに恐れおののき、震える社。

「社さん?何笑ってるんですか?人が真剣に考えてる時に!!!!」

「ひぃーー!!蓮!!落ち着けぇ!!落ち着いてくれぇ!!」

社が絶体絶命と言う時に、部屋に軽快なノックの音が響き渡った。

「は、はぃい!!」

社がひっくりかえったような声で返事をすると、ドアの向こうから返ってきた声は、まさにこの場に天の助けとなる人物のものだった。

「おはようございます!最上です。」

「キョ!キョーコちゃぁぁぁん!!!!」

ーーー助かった!!助かったよぉぉぉ!!

社は感激の涙を流してすぐさまドアを開けてキョーコを出迎えた。

「や、社さん??どうされたんですか?」

社のあまりの勢いに押されたキョーコが、声をかけるが、それにふんわりと優しい蓮の声が答えた。

「何でもないよ。最上さん、どうぞ入って?一体どうしたの?」

泣いてる社を無視して、蓮はキョーコだけを楽屋の中に迎え入れようとした。

「おい!蓮!!悪かったから!!許してくれぇ!!俺が悪かったからぁぁぁぁ!!」

そんな蓮の対応に、社は泣き付いて許しを乞うた。

「え?!社さん?!どうされたんですか?!ちょっと、敦賀さん?!」

「…社さん、もう良いですから。顔をあげて下さい。」

床に這いつくばる社に、キョーコが驚き蓮をみると、蓮は困った様な顔を見せて、社に声をかける。
蓮の顔は、さっきの怒りが嘘の様に、とても穏やかなものになっており、その腕にはキョーコをひっしとしっかり抱きしめていた。



「キョーコちゃん、お弁当持ってきてくれたんだ!!良かったぁ!助かったよ!!こいつ今日の昼も、弁当出たくせに全然食べなくてさぁ!」

「やっぱり!…最近、局から出るお弁当もらっても食べないって社さんから伺ってたから、今日もそうなんじゃないかと思って朝から作ってたんです。でも、今日いつもより敦賀さん早く出られたので、気付いたらいなくなってて渡せなかったんですよね。」

「え?!そうだったんだ!」

「それでわざわざ持ってきてくれたんだ。ありがとう、最上さん。」

「いぇ、このくらい対したことじゃありませんから。」

キョーコはカァッと頬を赤らめて蓮から顔を背ける。

先日キスをしてしまってからと言うもの、蓮を見るのが恥ずかしくてしょうがないのだ。

それも、二人がギクシャクしている原因の一つだった。

「ところで、キョーコちゃんも蓮も、最近苗字で呼び合ってるのは何で?」

「あ、それは…やっぱりここはテレビ局の中ですし、誰が聞いてるかわからないので、念の為、今まで通りお互いに苗字で呼び合うことにしたんです。」

キョーコの返答に、蓮も頷いて同意を示す。

「そうなんです。最上さんがどうしてもって言うんで、俺も頑張ってるんですよ?」

そう不本意そうに答える蓮をみながら、キョーコは心の中でこっそり溜息をつきながら考える。

ーーーだって、もし敦賀さんの好きな人に、名前を呼んでるのを聞かれて誤解されてこじらせちゃうのは困るもの。敦賀さんの足枷にはなりたくない。

キョーコは苦しい胸を誤魔化すように笑った。

「まぁ、呼び名のことはいいとして、敦賀さん、ちゃんと残さず食べて下さいね!」

「うん!勿論だよ。最上さんの手料理を残すなんてあり得ないからね。」

蓮は嬉しそうに微笑み、キョーコもそれを見ながら無理して笑うのだった。



「なぁ、蓮。お前とキョーコちゃん…何かあったのか?」

「え?突然どうしたんですか?社さん。」

キョーコが楽屋から出ていってからというもの、キョーコに会えたと言うのに複雑そうな顔で溜息を吐く蓮と先ほどのキョーコの様子に違和感を感じた社が声をかけた。

蓮はギクリとなりながらも、それを綺麗に隠す。

「いや、キョーコちゃんと会えた後、いつものお前なら上機嫌になってるだろう?なのに、今日はキョーコちゃんにせっかく会えたというのに、いなくなった途端溜息なんて…お前らしくもない。」

社の言葉に、蓮は苦笑するが何も答えようとはしなかった。


蓮には少し頑固なところがあるため、こうなったら口を割らないと言うことを社は心得ているので、ふぅーと溜息を着くと蓮に忠告した。

「ま、いいけどな。キョーコちゃんが今時珍しい純情さんだってことを忘れるなよ。いきなり襲ったりなんかしたら、絶対に嫌われるぞ。嫌われるだけならいいけど、記憶から抹消されたりするかもしれないんだからな!理性だけは手放すなよ!」

社の言葉に、蓮は目を見開いて固まる。

一瞬にして、蓮の失っていた記憶に何かが掠った。
記憶が渦を巻く感覚に飲み込まれそうになったかと思ったら、蓮の頭が急に痛み出した。

「うっ…うぁぁぁぁ…!」

蓮は頭を庇うように抱えるとその場にうずくまり、うめき声を上げた。

「え?!おい!!蓮?!どうした?!」

「うっ!嫌だ!!ダメだ!!思い出したくない!!思い出すな!!まだ…ダメだ!!うぅ…!!キョーコ!嫌だ!!キョーコ!!!!」

慌てた社が話しかけるが、蓮は頭を抑えて苦しそうに呻く。
そしてそのままフッと糸が切れたように倒れた。

社は何度も蓮に声をかけるが、その声は気を失って倒れた蓮には届かなかった。


(続く)

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※Amebaで2012/01/08に公開した話を若干訂正したものです。
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