なくした記憶 27

2016年01月13日08:39  なくした記憶/スキビ!《完結》

お待たせしました♪なくした記憶UPです♪


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なくした記憶 27



ーーー嫌ワレル…


ーーー記憶カラ抹消サレル…?



暗闇の中で、キョーコの後ろ姿を見つけ、蓮が呼びかけると、振り向いたキョーコの顔は、恐怖で凍りついていた。
何か叫んでいるのだが、蓮の耳には何も聞こえない。

そんな時、耳元で二人の女の声が響いた。
日本語と英語の声が交互に響く。

『最低!!』

《人殺し!!》

『二度とーーーに、近付かないで』

《何で…リックが!!あんたが轢かれればよかったのよ!!》


そう言われてキョーコを見れば、キョーコは蓮を怖がるように涙をポロポロと流し蓮を傷ついた表情で見つつ、後ずさる。

『最低!!』

《人殺し!!》

繰り返す二つの声。

ーーー待って!行かないで!嫌だ!!最上さん!!もが…キョーコ!!!!キョーコちゃん!!!!

蓮がコーンとしてキョーコを呼ぶと、キョーコの表情がクルンと一瞬にして変わった。

花が咲いた様な明るい笑顔で話しかけてくる。

『コーン!コーン!』

キョーコの弾むような声に蓮はホッと安堵した。

ーーーまだ彼女を失いたくない…俺は…コーンだ。敦賀蓮じゃない…。キョーコちゃんを遠ざけるお前の記憶なんていらない。キョーコさえ側にいてくれるなら、俺は自分が何者であったっていいんだ。

目の前でくるくる回る彼女の姿を蓮は見つめる。

胸の奥が苦しくなる。


ーーー手に入れたい。でも、手に入らない。


『キョーコ…』

俺はただ苦しくて切ない胸の内を名前に込める。

「ーーん!ーーがさん!!…コーン!!コーン、しっかりして!!久遠!!!!」

暖かい温もりが手を包み込み、暗闇の世界の中で光を発する。

蓮はキョーコに久遠と呼ばれて、ピクリと動き、ゆっくりと目を開けた。

「キョー…コちゃ…」

夢と現実の区別がつかず蓮が顔をしかめていると、キョーコの声が隣から聞こえた。

「久遠?!」

ぱちぱちと目を瞬いて、手にキョーコの温もりを感じてようやく現実だと知る。

涙目で、見つめてくるキョーコの顔、その瞳に拒絶の色はない。


そのことに安堵の溜息を吐いた蓮。
キョーコも蓮が目覚めたことに安心して笑顔を浮かべた。

「俺…撮影は…?ここ、家?」

キョーコによると、蓮の撮影も急遽予定を変更してもらい、家に運び医者を部屋に呼んだということだった。

さっきまで医者も社もローリィもいたのだが、キョーコが看病をかって出てみんなを家に帰して様子を見ていたのだ。
ずっと目覚めない蓮を心配して側についていたら、突然蓮が苦しそうにうなされだしたので、手を握って様子を見ていたということだった。


「ずっとそばにいてくれたんだ。」

「うん。あ!ご飯出来てるよ!!食べられそう??」

「じゃあ、頂くよ。」

蓮がベッドから降りようとすると、キョーコがそれを押しとどめるように、手で止めた。

「ここにいて。運んでくるから。」

「…え?」

そう言って立ち去ろうとするキョーコの腕を、蓮は無意識に引き留めると、不安気にキョーコを見上げて悲痛な声を上げた。

「待って!一人に…しないで…。俺は、キョーコがいないと苦しくて、生きていけない…。キョーコ…行かないで…」

蓮の表情と縋るような言葉に、キョーコは胸が締め付けられる。

今にも消えてしまいそうな表情をしてるのは蓮の方なのに、縋るように自分を求める蓮が堪らなく愛しくて、キョーコは不安気に見つめる蓮を安心させる為に、己の胸に蓮の頭を引き寄せ抱き締めた。

縋るように身体に抱き着く蓮の手、胸に摺り寄せられる蓮の頬全てが愛しくて、抱きしめる腕に力を込める。

「大丈夫。絶対に久遠から離れないから、ちゃんと戻ってくるから、ここにいて。」

キョーコが優しく言い聞かせると、腕の中で弱々しくコクンと頷く蓮。キョーコは蓮の髪をサラサラと撫でて、もう一度強く抱きしめるとそっと離れてキッチンに向かった。



キョーコはキッチンで食事を運ぶ準備をしながら、蓮の意識が戻って、自分を覚えていたことにホッと胸を撫で下ろしていた。

倒れたと聞き、すぐに駆けつけ、何時間も意識を戻さない蓮に、キョーコは事故に遭って目覚めた時のように、また自分のことを全て忘れしまってるのではないかと不安になっていたのだ。

また目覚めた時に忘れられてたらどうしよう。そんな不安が消えることなく渦巻いていた。

医者に見てもらってる間に簡単に料理を済ませ、医者が帰ってからは、キョーコは不安から蓮の側を離れることが出来なかった。

蓮の手を握り締める自分の手が震える。

そんな時に微かに動いた蓮の口が何かを告げている。それから急にうなされ出し、身体をガタガタと揺らしだしたのだ。

キョーコは必死で蓮を呼んだ。最初は、「敦賀さん」と呼ぶが目覚める気配はない。「コーン」と呼ぶと少しだけ反応し、「久遠」と呼ぶことで目を開けた蓮は、キョーコの顔をみて弱々しくではあったが、確かに「キョーコちゃん」と呼んだのだ。

まだキョーコちゃんとしてなら側にいられる!!
覚えてくれていた。忘れられてなかった!!

そのことに心の底から安堵して涙がこぼれそうになるのを必死で堪えた。

そしてさっきの蓮の様子で、蓮も自分と同じように不安だったことを知った。

抱き締めて胸に感じる温もり。縋り付くような腕に、キョーコはほぅっと安堵の息を吐けた。

ここに蓮がいる。

それだけで、キョーコの心は満たされた。
蓮も同じだったのか、キッチンに向かう前にそっと離れて顔を見れば、蓮の目からは不安の色は薄らいでいるように見えた。

蓮が自分を求めてくれていることに、キョーコはくすぐったい気持ちになりながらも、とても嬉しく思っていた。

今だけでも、自分を求めてくれている蓮。それに本気で応えたいと思ってしまう。

キョーコは顔をほにゃっと緩ませながら、手際良く支度を整え、蓮の待つ寝室へと向かった。



「久遠!お待たせ!」

美味しそうな湯気が立ち上るトレーを持って弾むように明るい笑顔で現れたキョーコに、蓮は嬉しそうに微笑みかけた。

キョーコが側にいて、目の前で笑っている。

その事実が今不安定な蓮の、心の支えとなっていた。

「キョーコ、ここに座って。」

蓮が示したのは、ベッドに身を起こして胡座をかいている足の上。
キョーコは少しだけ戸惑いながらも、言われるままにおずおずと蓮の足に腰掛けた。

蓮の腕に包まれると、とても安心する。暖かくて、気持ち良くて自然とキョーコの頬は緩む。

それは蓮も同じだった。
可愛らしい笑顔を浮かべて腕の中に収まるキョーコが愛しくて堪らない。


二人の中で何時の間にか出来ていた暗黙のルール。
それは、唇へのキスはしないことだった。
それは蓮にとっては、キョーコを傷つけないため。
キョーコにとっては、蓮にこれ以上惹かれてしまわない為だった。

蓮は、愛しい想いを込めて、はにかむキョーコのこめかみにそっと口付け、抱きしめる。


「キョーコ、食べさせて。」

キョーコを抱き締めたまま、蓮が言うので、キョーコは困ったように笑いながら、蓮に言った。

「じゃあ、離してください。こんなに強く抱き締められてたら食べさせられません。」

蓮はキョーコの頭に口付けて、そっと腕の力を緩めた。

真っ赤になりながらも、キョーコは前に習慣付けられた食べさせ方で、蓮の口に食事を運ぶ。

今の蓮と両想いだと気付いたあのキスの日から10日ほど経っていたのだが、あの日からお互いを意識し過ぎて、こんな食べ方をするのは久しぶりだった。


二人だけの穏やかな夕食。
幸せな時間。


蓮もキョーコも、お互いから口に運ばれる料理をいつも以上に大切そうに味わってゆっくり食べる。

二人とも、少しでもこの穏やかで幸せな時間が長くつづくようにーー
ご飯を噛み締めながら、そんな願いを込めるのだった。



(続く)

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※Amebaで2012/01/15に公開した話を若干訂正したものです。
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