なくした記憶 28

2016年01月13日09:10  なくした記憶/スキビ!《完結》

なくした記憶 28

蓮が倒れた日から、キョーコと蓮の間に前のようなギクシャクとした空気はなくなっていた。

その理由は二人を見ると明らかで、蓮もキョーコも互いを失うのではないかという恐怖を味わってから、少しでも長く一緒にいる時間を作りたがったのだ。

「ねぇ、久遠…。今日も一緒に寝てもいい?」

「うん。おいで、キョーコ。」

蓮の返事を受けて、キョーコは嬉しそうな笑顔を浮かべて、トテトテと、蓮のベッドに駆け寄る。

蓮がキョーコをギュッと抱き締めて、ベッドに入ると、二人は嬉しそうにはにかみ合う。

「キョーコ…また足が冷えてるよ。」

「ふふ。何で久遠の足はそんなに暖かいの?」

「それは、キョーコの足を温める為だよ。」

蓮の足がキョーコの足を絡め取り、キョーコのおでこにそっとキスを落とす。

二人は笑い合いながら、その日の出来事や、他愛ない話をして、眠りに付くのが日課となっていた。

キョーコも蓮も、互いの温もりが側にあることに安心感を覚えていたのだ。

蓮の腕を枕にキョーコが寝息を立て始めると、蓮はキョーコの瞼にキスを送り、そっと寝顔を見つめ、蓮も眠りにつくのだ。

そんな二人の穏やかな生活は二人の心を満たしていた。


でも、きっとこんな風に過ごせるのは、蓮の記憶が戻るまでの間だろう。

それは明日なのか、一ヶ月後なのか、一年後なのかはわからない。

だけど、キョーコも、蓮も、お互いが近くにいることが許されている今というこの時間を大切にしようと思っていた。

記憶が戻ることの恐怖を覚えるたび、二人は強く互いの存在を確かめるように抱き締め合うようになっていたのだ。



「おはよう。キョーコ。」

朝から蕩けるような神々スマイルを浮かべて、腕の中のキョーコを見つめる蓮。

「お、はようございます。」

ハニカミながら、頬を染めてもじもじと言うキョーコの顔中にキスを降らせる蓮。だけど、口だけにはキスをしない。

蓮は口にしてしまわないよう自分自身をセーブするのに大変だが、キョーコは口にキスのない事が何故か寂しいと思うようになっていた。
それが、蓮の自分に対する思いやりだとしても、変わるかもしれない思いだとしても、今、キスしてもらえないことが寂しいと感じてしまうのだ。

蓮は、キョーコの口に吐息が掛かるほどおでこをくっつけて、苦しそうに目を閉じる。
そんな蓮をキョーコも苦しそうな目で見つめるのだが、自分からキスを贈れる勇気などキョーコにはない。

キョーコも蓮に気付かれない様に、そっと視線を蓮から外して、蓮の身体を抱き締めるのだった。


「今日、確か最後の収録が終わる予定の時間も場所も、結構近かったよね?」

蓮の確認に、キョーコは朝食を準備しながら答える。

「うん。私も今日は19時半までの予定よ。久遠も今日は珍しく早いんだもんね。」

「うん。早いんだ。今日も一緒に晩御飯が食べられるね。」

嬉しそうに笑う蓮に、キョーコも釣られるように笑顔になって答える。

「うん。今日も張り切って作るね。」

「じゃあ、今日は終わったら楽屋に迎えに行くから、帰り支度を始める前に連絡頂戴。」

「うん。そうするね。」

キョーコは今日の最後の収録が少しだけ憂鬱だった。
理由は同じゲストに幼馴染の名前があったこと。
前回のデート番組で息の合う二人の掛け合いが受けていたので、バラエティ番組に二人セットで決まったのだ。

既に椹がホクホク顔でその仕事の話を受けており、断る事が出来ない状態になっていた。

キョーコはこれを知ったら蓮の機嫌が悪くなるのを知ってるため、なるべく言う気はなく、仕事終わって会えるまで頑張って乗り切ろうとこの時は思っていた。


「そうだ。キョーコ!こっちに来て。」

「ん?なぁに?」

蓮に呼ばれたので近付けば、蓮に急に身体を腕で囲まれたので、ドキンと胸が高まった。

抱きつかれそうで抱きつかれないその距離にキョーコが首を傾げていると、首元に冷たい金属の感触と、首の裏でかチャリと金属の立てる音が小さく響いた。

そっと離れた蓮が、キョーコを優しい目で見つめる。

「うん。良く似合ってる。」

満足そうに蓮が微笑む。
キョーコはその蓮の目を追って、自分の胸元に目を向けた。

キラリと控えめに光るシンプルなデザインのアクセサリーが、手に当たる。

鏡の前に移動して見ると、キラキラと可愛らしいハートを天使が守っている形のものだった。

「可愛い…。でも、貰えないわ。結構高いんじゃない?」

「もらって欲しいんだ。君に…今の俺からのプレゼントとして…。」

「今の、貴方からのプレゼント…」

蓮の言葉にを噛みしめるようにキョーコがそっと呟く。
それは記憶をなくした状態の今の蓮からの贈り物。
他の誰かではなく、キョーコを愛してくれている今の蓮からの贈り物。

キョーコはそれを宝物のようにギュッと握り締めて、涙を流した。

「キョーコ…ダメだった?」

蓮が遠慮気味にキョーコの肩に手を掛けながら聞いた。

キョーコはふるふると首を振り蓮の言葉を否定するのだが、何故かますます涙が溢れてくる。

側でどうしていいか分からずオロオロしてる蓮に必死で言葉を出す。

「ち、が…うの。うれ…うっ、うれっしくって…久遠のきっもちっが、嬉しくって…ひっく。うぐ」

必死で言葉にしたキョーコに、蓮は安心したように微笑んで、宝物のように、キョーコをギュッと抱き締めた。

「キョーコを…俺が、愛してることを忘れないで…」

キョーコはコクコクと涙を流しながら頷くと、蓮を抱き締め返した。

「私もっ!私も久遠が好きなの!!」

「うん。知ってる。」

蓮はキョーコの頭にキスを落とす。

「ねぇ、一度だけ…いい?」

蓮は言葉には主語が抜けていたが、キョーコには蓮の言いたいことがわかった。
涙を指で拭って、コクンと頷くと、顔を蓮の方に向け、ゆっくりと目を閉じた。
蓮の唇がキョーコの唇に重なる。
蓮の唇は緊張していたのか微かに震えていた。

二人は、今だけの幸せを噛みしめるように、互いの唇を啄ばみ合うだけの優しいキスをした。


(続く)
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何気に皆さん続きを気にして下さってるなくした記憶。
アメンバー申請のメッセージになくした記憶の続きが早く読みたいと言ってくださる方も多いのに、なかなか書けてませんでした☆

そろそろラストスパートに向けて書いて行きますねー♪

※Amebaで2012/01/26に公開した話を若干訂正したものです。
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