なくした記憶 29

2016年01月13日10:26  なくした記憶/スキビ!《完結》

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なくした記憶 29


キョーコが無事に本日最後となるバラエティ番組の収録を終え、帰り支度をしていると、同じ番組に出ていた幼なじみのショウタロウこと、不破尚が楽屋を訪ねてきた。
楽屋に迎え入れる気にもならず、廊下に出て対応していたのだが、相当しつこいのでキョーコも参っている。

「だから、飯に付き合えって言ってんだろ!どうせこの後から撮影なんてないだろうが!!」

「嫌だって言ってるでしょ?!何であんたなんかに付き合わなきゃなんないのよ!撮影はなくても、忙しいの!!」

「奢ってやるっつってんだろ!たまには付き合えよ!」

「しつこいわね!あんたも!!」

例のごとく一見、周りから痴話喧嘩に間違われてしまう言い合いになっていたのだが、そこに、今日は第三者の介入があった。

「最上さん、終わったの?そろそろ行こうか?」

にっこりと微笑んではいるのだが、怒りの波動がキョーコには伝わってきて慌ててしまう。

「あ!く、敦賀さんっ!!お待たせしてしまい、申し訳ありません!!」

「はっ!誰かと思えば、人気俳優の敦賀さんじゃありませんか?芸能界一いい男と言われてるあんたが、こんな新人タレントに何の用ですかね?」

皮肉たっぷりのショウタロウの言葉にキョーコは思わず睨みをきかせる。

「あんたね!それが先輩に対する…」

「最上さん?」

失礼極まりない幼馴染に食ってかかろうとしたところに蓮から遮られた。

言葉と同時に、両頬を掴まれ強制的に蓮の方に顔を向けられる。

「そんなに可愛い顔を他の奴に向けないで?」

「「な!!」」

キョーコと尚は、蓮の言葉に赤面して絶句する。

キョーコは困ったように上目遣いで蓮を見つめると、蓮はキョーコの肩を抱き寄せ、素晴らしい笑顔で尚に向き直った。

「悪いね?最上さんとは俺が先約なんだ。」

「はっ!先約だろうが関係あるかよ!!キョーコは俺のモンだ!離れろよ!!」

尚の言葉に周りがざわめきだつ、蓮の耳がピクリと動き、キョーコを掴む腕に力が篭る。
キョーコは敦賀蓮の仮面が剥がれるのではないかとハラハラするが、蓮はなんとか踏みとどまってくれた。

「俺のもの…か…。いいだろう。なんなら、君も一緒にくるか?」

「え?!敦賀さん?!!!」

キョーコは慌てて蓮を見るが、蓮は気にする風もなく、尚を真っ直ぐに見下ろす。

挑戦された気になった尚が、頬を引き攣らせながら、それに答える。

「ヘェ~。じゃあ邪魔させてもらおうかな。マネージャーの祥子さんも一緒にいいか?」

「あぁ、構わないよ。社さん、貴方も一緒にどうですか?」

蓮が後ろにいた社に目を向けると、真っ青な顔で蓮を見つめていた。

「え?!お、俺?!あ、あぁそうだな。じゃ、じゃあ行こうかな?いいのか?」

「えぇ、もちろん構いませんよ?最上さんも、いいよね?」

「はわぁ!は、はい!敦賀さんが良いのなら構いません!!」

「じゃあ不破君、君達は車があるのかい?目的地は最初から決まってるからそこに行くけど、その前に寄りたい所があるんだ。君達は降りなくて車で待っててくれて構わないよ。」

そう言うと、キョーコを促して駐車場に向かった。



駐車場で蓮の車をみた尚が、盛大に顔を引き攣らせる。

ーーーなんて高級車に乗ってやがるんだよ!!しかも、外車かよっ!!

なんの戸惑いもなく、マネージャーを差し置いて助手席に収まったキョーコを見て、尚はまたもや激しく突っ込む。

ーーーキョーコ!!何でお前は、そんな涼しい顔でその席に収まってんだよ!!

運転席に乗り込む為に扉を開けた状態で蓮は、固まってる尚とそのマネージャーの祥子に目を向けた。

「君たちの車は?」

蓮の言葉に祥子が慌てて、車に近寄り準備をする。

祥子達が発進できる状態なのを確認して蓮は、車を発進させた。

その後をついて行く二人は、一体これからどんな高級レストランに連れていかれるのかと、顔を引き攣らせていた。

「はっ!あいつ、馬鹿としか言いようがないぜ!!あんな所帯臭いキョーコが高級レストランなんてものに連れて行かれて喜ぶはずねーだろ?!」

「で、でも尚!女の子は一度は憧れるものよ。素敵な夜景の見えるレストランでのデート…」

祥子が言うので、尚はイライラと舌打ちした。
祥子は落ち着かないながらも、少しだけレストランの雰囲気を想像して、そわそわしていた。

蓮の車が最初に止まったのは高級デパートの駐車場だった。
蓮は二人の車に近寄ると、「このまま待ってて下さい。」と言って、キョーコと共に、デパートに向かった。

しばらくすると、荷物を持った蓮と、その蓮の後ろを小走りで駆けて来るキョーコの姿があった。

「もう!!荷物くらい持つって言ってるのに!」

「駄ぁ目!女の子に重たい荷物持たせられないよ。」

「そんなに、重くないわよ!もう!!」

少しだけ開いた窓の隙間から二人の会話が漏れ聞こえて、尚は目を見張った。

キョーコの口調も蓮の口調も、現場にいた時よりも砕けてるのだ。

エコバッグに入っている為、何を買って来たのかは尚達からは見えなかったが、明らかにただの先輩後輩という関係には見えず、困惑する尚は眉間に深く皺を寄せた。

イライラとしつつも、どうせフリだろ!!そうだ!仲良い振りに違いない!と決めつける。

ーーーふん!ちょっと突けばボロが出るだろ!


再び走り出した車を尚が乗った車が追いかけると、何時の間にか高級住宅街に入ってることに気付いた。

セレブの多そうな所で、尚と、祥子は走らせながら不安気に目配せする。

明らかに超高級マンションの駐車場に入る目の前の高級車に、とうとう祥子は口を開いた。

「ねぇ、尚…もしかして、今日食べる所って…。」

「んな!そんな訳ねぇだろ!!ここも何か荷物取りに寄っただけじゃねぇの?!」

恐る恐る車を駐車場に近付けると、先に降りていた社がゲスト用の駐車場に誘導した。


祥子と尚の二人は駐車場に車を止めると、社に言われたまま車から降りた。
キョーコが乗っていた蓮の車に近寄ると、ちょうど蓮がキョーコの言葉を無視してニコニコと荷物を手に持っているところだった。

「もう!ーーーの、わからずや!」

「いいの。こういうのは男の仕事なんだから。」

蓮は自分の荷物に加え、先程デパートで購入した荷物も手に持っているようだ。

食い下がるキョーコに、じゃあこれ持ってと蓮が渡したのは、一番軽そうな荷物だ。

キョーコが頬を膨らませて蓮を見ると、蓮はたまらなく愛しそうにキョーコを見つめた。

「蓮!キョーコちゃん!」

社が声をかけると、二人はハッとして振り返った。

「あ、社さん、早かったんですね。」

「今、最上さんから小言を食らってたとこですよ。」

二人は瞬時に今までの仲良さ気な空気を消し去り、いつもの敦賀蓮と、その後輩の京子を演じた。

それに気付いた尚は面白くなく不貞腐れる。
一気に不機嫌になった尚を祥子はこっそり肘で突き小声で嗜めた。

「もう!尚。そんな顔しないの。」

キョーコは荷物をさり気無くいつも持ってくれる蓮に感謝をしながら、目の前にいる尚を見つめた。

ーーーそういえば、こいつは私の荷物を持ってくれたことなんてあったっけ?思えば、逆に荷物持ちばっかりされてた気がするわ。

キョーコは、そう考えて改めて蓮を見る。

「ん?何?」

柔らかく微笑む蓮に、キョーコはニッコリと微笑んで言った。

「ううん。いつもありがとう。」

キョーコはこっそりと、蓮に感謝の言葉を述べた。


「あ、ごめんね。最上さん、俺、今両手が塞がってるから開けてくれる?」

蓮の言葉に、尚はハン!と、鼻で笑う。

ーーーなぁにが、開けてくれる?だ!!カッコつけて荷物なんて持つからだよ!!

「あ!ごめんね。ちょっと待ってて。」

キョーコがガサゴソと漁り始めたのは、蓮の鞄ではなく、自分の鞄。その中からカードキーを取り出して、何の迷い無くその鍵穴に突っ込んで、これまた何の迷いも無く暗証番号を入力した。

当たり前のようにロックが解除され開いた扉に尚の目が点となり、開いた口が塞がらない。

呆然と言葉もなく促されるまま後に続き、マンションに足を踏み入れるとエントランスの余りのゴージャスさに驚いて、尚は目をキョロキョロと落ち着きなく動かした。
スタスタと先を行くキョーコが信じられず、尚は嘘だろ…と小さく呟いた。

乗り込んだエスカレーターのボタンが当たり前のように示しているのは最上階でそこにも暗証番号を打ち込むキョーコを見て、尚は段々と帰りたくなってきた。
祥子もソワソワとエレベーターの中で落ち着きなくキョーコと蓮の様子を見ている。
そんな尚と祥子を無視して、三人はいつも通りだ。

ポーン。

エレベーターが最上階に到着し、ベルを鳴らしながら扉が開いた。
その途端、尚が堪らずに大声を上げた。

「んな!!!!!なんじゃこりゃーーーーーー!!」

尚の叫びは、長い廊下を突き抜け、一つしかない玄関までも到達した。

ーーーワンフロアー丸ごとかよ?!

尚は顎が外れるのではないかと言うほど驚いていた。

祥子も、あまりのことに目を回しそうになっている。

「なによ?騒々しいわね。」

キョーコは心底嫌そうな顔を尚に向けると、スタスタと一つしかない扉に向かった。

「お、お前は驚かねぇのかよ?!」

尚が声を裏返らせながら聞いたが、キョーコは片眉を上げるだけだ。

「はぁ?!最初はそりゃあ驚いたけどね。今は慣れたわよ。」

「慣れるほど…来てるって言うのかよ。」

尚は絞り出すように苦々し気な声を出した。


玄関の扉もキョーコが解錠し、ドアを開ける。

チラリと蓮の顔色を伺って、キョーコは入らない尚と、祥子に声をかけた。

「どうぞ?」

蓮ではなくキョーコが声をかけたことで、尚がイライラしながら、荒々しく入り込む。

キョーコが並べたスリッパに履き替えて、長くて広い廊下を進むと、一体何畳あるんだ?!と叫びたくなるくらい広いリビングがあり、尚はもうこれは夢ではないかと思い始めていた。

ーーークソ!どこまで嫌味な奴なんだよ!!敦賀蓮!!

荷物を置いて何時の間にか着替えて戻ってきた蓮に、これまた何時の間にかお茶を入れて戻ってきたキョーコが微笑みかけ、全員にお茶を差し出した。

格の違いをまざまざと見せつけられて、尚のプライドは既にズタズタだ。

そんな時、尚の目の前で信じられないことが起こった。
お茶を置き終えたキョーコを見計らって、蓮がいきなりキョーコを引き寄せ、その体に抱き着いたのだ。
キョーコは小さな悲鳴を上げて、蓮に抗議した。

「ちょ!ちょっと!!皆見てるでしょ?!」

「んー。ただいま、キョーコ。」

尚の口があんぐりと開き、固まる。

抱きつかれたキョーコも赤くなってはいるが、全く嫌がる様子もなく答える。

「もー。お帰りなさい。く…、れ、蓮、さん!!」

いつも通り、久遠と言おうとして慌てたキョーコは、咄嗟に蓮の芸名の名前で呼び直した。

真っ赤になるキョーコが可愛くて、蓮はキョーコの頬にキスを贈った。

キョーコはせめてもの抵抗で蓮の腕の中で真っ赤になって蓮を可愛く睨み付ける。

「キョーコ、いつものお帰りなさいのキスは??ないの?」

蓮に寂しそうに強請られてしまったので、キョーコの胸はキューンと甘く疼き、恥ずかしさを捨てて、蓮の頬にキスをした。

途端に破顔する蓮に、社は頭を抱える。

ーーー確実に確信犯だよな。見せつけたいんだろうな…。未だに、キョーコちゃんを俺のモノ扱いする不破君に…。

社は、ここにいる間中、この二人の付き合ってもいない癖に甘々な雰囲気を発する姿を終始見せつけられることになるのであろうと覚悟を決めた。

既に真っ白になってる尚が少しだけ可哀想になった社は、同情の目を尚に向ける。
すると、そのマネージャーと目が合った。

「あ、あの…あの二人って?」

「あぁ、まぁ、見ての通りです。」

ここは敢えて否定すまい。
下手に付き合っていないとか言ったら不破が変に絡んで来そうだし、そういう勘違いでもしてくれた方が今後は助かる。
社はそんなことを考えていた。

「じゃあ、蓮さん私、ご飯作ってくるから…」

「うん。俺も手伝うよ。社さん、お二人をお願いしますね。」

蓮が社に声をかけて、二人でキッチンに姿を消すのを、社は頷きながら、祥子は信じられないようなものでも見る目で見ながら、尚は般若の形相で見送る。

シーンとした沈黙が続き、冷え切った室内の体感温度。
気まずい沈黙を更に気まずくするのは、キッチンから微かに聞こえる二人の楽し気なじゃれ合う声と、それを聞きながらますます般若の形相で怒りに歪んでいく尚の存在だった。

話す内容も見つからず、社は尚の表情をチラチラと観察しながら、静かにお茶を啜る。

祥子は真っ青な顔で何とか尚を宥めようとするのだが、その度にキッチンから楽し気な笑い声が上がり、尚の怒りは益々と深まった。

「もー。離してくれないと、料理出来ないでしょ?!」

困ってるようで全然困ってるように聞こえないキョーコの声。

「だってキョーコ、今日はキョーコの料理を楽しみに一日仕事頑張ったんだよ?なのに、あんな奴にもキョーコの手料理を食べさせるなんて…やっぱり嫌だ。」

そんなキョーコにベタベタに甘えまくってる蓮の声。

「もう!蓮さんが呼んだくせに。私も一番食べてもらいたいのは蓮さんですよ。」

「キョーコ。そんなこと言ったら、可愛過ぎて益々離したくないよ。」

「蓮さん、後でいっぱい抱き締めていいですから、今は離して下さい。」

「はぁー。キョーコの可愛さは既に犯罪だよ。…あ、今日一日、そのネックレスつけてくれてたの?」

「うん。蓮さんだと思ってずっと肌身離さず付けてましたよ。」

「…ちょっとネックレスが羨ましいよ。」

「ふふ。蓮さんがくれたネックレスですもの。」

ーーーお二人さ~ん!!会話!!ここまで聞こえてますからぁ!!蓮!!頼むから早くキョーコちゃんを解放して、料理を作らせて、とっととご飯を食べさせて俺を家に帰してくれぇ!!

「じゃあ、プレゼントのお礼ちょうだい。そしたら、開放してあげる。」

社の思いが通じたのか、蓮がようやく、キョーコを解放する条件を出し始めた。

「お礼?」

「うん。抱き締め返してここにちゅってキスしてくれたらいいよ。」

「もぅ!皆すぐそこにいるんですよ!」

「大丈夫だよ。社さんが見張ってくれてるから。」

「もう。ワガママなんだから。」

そういうキョーコの声は若干嬉しそうで、社は内心深いため息をついていた。
そうして、社が少し目を離したその隙に、尚が般若の形相で立ち上がり、ズカズカとキョーコと蓮のいるキッチンに近付く。

「しょ、尚!!」

祥子の声で尚の動きに気付いた社は、慌てて尚を追った。

「ふ、不破君!!ちょっと!今はやめた方が…!!」

社が丁度追いついた時に、尚の動きがビシリと音を立てて固まった。

嫌な予感を抱えつつ、ギシギシと音を立てながら中を覗くと、そこには、蓮の頭を胸に抱き締め、頬を真っ赤に染めた顔で、今正に、蓮の頭にキスをしようとしているキョーコの姿と、そのキョーコの腕の中で、キョーコの胸に擦り寄り、満足そうな今まで見てきた顔とは比べようもない程蕩けきった顔をした担当俳優の姿があった。

ーーー悪夢だ…。

担当俳優のそんな姿を俄かには信じ難い社は、現実逃避という形をとったのだが、その口からは止めどなく砂が流れ落ち、目からも涙の変わりに砂が流れ出て来る。

ーーーこれは、悪夢だ。…うん。悪夢に違いない。起きたまま悪夢をみるなんて働き過ぎなのかもしれないな。うん。

自分で自分にそう言い聞かせ、こちらに気付いてない二人に気付かれないように、社は、尋常じゃない力を発揮して尚の腕を引き、何とかリビングへ連れ戻した。
魂の抜け殻のようになってしまった尚を祥子の前に連れて行くと、祥子が慌てた様子で、事情を聞こうとしたのだが、社も尚も何も話すことが出来なかった。


(続く)
スキビ☆ランキング

*****


蓮の家に尚が来たら、きっとこんな感じになるはず!(笑)

尚の完全敗北です!!♪( ´▽`)

※Amebaで2012/01/31に公開した話を若干訂正したものです。

あー。この回は書いててめちゃくちゃ楽しかったなー♪
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